「こんなもんかな」
私は持っていたシャーペンを机の上に置く。

さっきまで真っ白だった紙には私の

"死ぬまでにやりたいこと"

が沢山メモ書きのようにして書き出されていた。

これを壁に貼ろうかと迷ったけれど、
お母さんが部屋にはいってきてこれを見たら
大慌で何か言ってくるに違いない。

私は自分の机の鍵付きの引き出しの中に入れる。
鍵を閉めて小さい頃お父さんから貰ったオルゴールの中に鍵をしまう。


私が5歳の時お父さんは病気で帰らぬ人となった。
お父さんは急に家で倒れて救急搬送された。
そして手術をしたが間に合わなかった。

今でも覚えている。
私と一緒に遊んでいたお父さんが急に倒れて
私は何が起こったのか分からなかった。
咄嗟にお母さんに声をかけたがダメだった。

小さい頃は何が起こったのか分からなかったが
後々、お父さんは病気で死んだという事実を知った。
お母さんから聞かされた時はどれだけ泣いたか分からない。私がもう少し早くお母さん呼んでいれば
もっと早くお父さんの体調の変化に気づけば。


「おとうさんだいじょうぶ?なんかげんきないよ?」
「あぁ、大丈夫だよ。もう少しでお月様が出てくるから、そしたらご飯できるからおしまいだよ?」
「はーい!」

あの時のお父さんは少し苦しそうな顔をしていたが
お父さんの「大丈夫」を信じて私は何もしなかった。
でもその「大丈夫」は全然大丈夫なんかじゃなかっった。

病気はだいぶ進んでいて、気づいた時は手術で直せるかもしれないけれどリスクが高すぎると医者に言われていたらしい。

でも、お父さんが残り少ないなら私と一緒に過ごしたいと医者に頼み込んだらしい。
私が心配しないように。最後までずっとそばに居てくれた。お父さんがいなくなってしまってから私は何も分からずお母さんを苦しめてしまっていた。


「ねえおかあさん、おとうさんはどうなるの?」
「お母さんにも分からないの。ごめんね紗南。」
「またいっしょにあそべる?こんどいこうってやくそくしてたあひるーらんどいける?」
「それは…お母さんと二人でもいい?お父さん忙しいし」
「えーおとうさんといっしょにいくってやくそくしたのに…」
「っ、ごめんね、紗南…」


今思えばなぜあのタイミングであんなことを言ったのだろう、と後悔している。
あんなことを言ったら、お父さんはもう居ないと
突きつけられるのに。