いろいろありすぎて、本来の目的を忘れそうになっていました。
頭陀袋に入っていた物は、”プレゼント”だと言われた物以外で、同じ素材が複数個ある物は質が悪そうな物を受け取ります。主殿が、悪い物で、値段を算出して欲しいと言っていたからですが、良い物でも悪い物でも、大きくは違わないように思えます。
委託販売の件では、値段は気にしないと主殿は言っています。
気にしないと言われても・・・。他のギルドメンバーに知られたら、ギルドが叩かれてしまいます。
そうならない為にも、しっかりとした値付けが必要になってきます。
受け取ったリストを見ても、値付けができるとは思えない。
円香さんに殺されてしまうかも・・・。
さて、主殿に時間を貰った。
メモで残しているが、記憶が残っている間にしっかりと確認をしておきたい。
主殿に縁側を使わせてもらうことにした。
クロトとラキシは、庭で主殿の家族と遊んでいる。主殿とライは、ライの身元に繋がりそうな情報を書き出してくれている。
まずは、海の魔物だ。
海底火山は完全に盲点だ。
今まで、議論に上がっていないと思う。海の魔物に関しては、議論されていたのだが、実際に発見されたわけではない。そして、火山から海までの距離から、世界中でも数か所にしか存在しないのではないかと言われている。
しかし、主殿の家族には、”タコ”や”ウツボ”が居る。確実に、海洋生物だ。
そして、3,000メートルを越える火山は存在している(はず)。
この情報は、このまま流しても問題はない。ワイズマンに情報を提供すれば、各国のギルドで検証を行ってくれるだろう。
次は・・・。
そうだ!蜂蜜だ。完全に忘れていた。蜂の魔物が花の蜜を集めていた。花も、季節感を無視したような物が多かったが気にしない事にしている。
あの蜂蜜が食べられるのか?
美味しかったけど・・・。大丈夫なのか?売れるのか?価値は?
蜂蜜に関しては、食品衛生法の関係もあるかもしれない。孔明さんに丸投げでいいだろう。
アイテムボックスの話は、報告だけを行えば大丈夫だ。大丈夫だといいな。
魔石の合体と変形は、私でもできるようになったから、実践して見せれば・・・。
あとは、円香さんが処理をしてくれるはずだ。多分。
技術的には、主殿は公開してもいいと言っているので、やり方を公開して、あとは、ギルドの上層部に任せる方法もある。問題があるとしたら、ギルドの上層部が日本に来て、主殿の所に突撃してしまうことくらいだ。
主殿の言い方では、招かれざる客は、主殿の家に辿り着けないだろうから、問題はない。問題がないから、ギルド日本支部への風当たりが強くなりそうで怖い。やはり、判断は円香さんにお願いするのがいいだろう。
魔力の放出は、クロトとラキシがアトスに教えられたら、私と千明で試してみる。
その後に、蒼さんができるのか試してもらって、出来たら、ワイズマンに登録しても大丈夫だろう。スキルに頼らない攻撃方法になれば、ギルド員の生存率があがる。他にも、研究が進む可能性がある。
スキルと属性は、主殿がまとめてくれた物があるから、これを円香さんに渡して終わりにしよう。
スキルの融合とか・・・。私が抱えるには重すぎる。話が大きくなりすぎる。
魔石を漬けた水で植物が急成長する問題は、聞かなかったことにしたいけど、蜂蜜の話をするので、ダメです。
秘匿しても意味がありません。
害虫を寄せ付けないとか、植物が”意思”を持つことに繋がる情報です。
追試が必要な情報ですが、まずはギルド内で試してみてから考えればいいので、他の情報に比べたら気が楽です。
私が帰った後で、主殿が新しい発見をしなければ・・・。ですが、何か”怖い”ことを言っていたような・・・。
聖樹は、報告だけで何ができるのか解っていないので、問題は無いでしょう。
魔石水?を与えたら、おかしな方向に成長した木があると報告すれば・・・。ごまかしは難しいでしょう。正直が一番ですね。
スキルを付与した杖の問題もありました。
これも、追試が必要です。これは、蒼さんと千明を巻き込めればいいと思っています。
魔石にスキルを付与する方法も確立しないと、クロトとラキシが魔石にスキルを付与し続ける状況になってしまいます。それは、不本意ですので、主殿が言っていた方法を試してみようと思います。
委託販売は、ギルドに訪問してきてからなので、今は保留です。棚上げ案件です。円香さんと千明に丸投げです。あと、孔明さんも巻き込まれてください。
私を一人で主殿の所に送り出したことを後悔させましょう。
私が担当するのは、ライの身元調査です。
どこまで遡ればいいのか解らないのですが、私の責任でライの身元を探します。行方不明者から探していけばいいとは思いますが、戦中とかだともう不可能でしょう。主殿も、難しければ諦めると言ってくれていますが、出来る限りのことをしようと思う。今の姿は、主殿に引っ張られていると言っているので、元に近い姿を主殿が撮影して送ってくれることになっています。
「茜さん」
主殿が飲み物を持ってきてくれました。
日本茶だと思いますが、落ち着きます。
「はい」
「ライの情報をまとめました」
「わかりました。お預かりします」
「お願いします。でも、無理はしないで下さい。白骨でしたし、着ていた服もかなり昔のデザインだと思うので・・・」
「大丈夫です。ギルドなら、ある程度の情報にアクセスができます」
「あっ!忘れていました!」
あっ・・・。
ダメな感じです。
主殿のこの感じは、爆弾の可能性が高い。
「?」
「ライ。彼女を連れてきて!あと、クロトちゃんとラキシちゃんも!」
「わかった!」
ライは可愛いです。
連れて帰りたい。
中学生くらいの制服を着せたら可愛いだろうな。
学生服よりは、ブレザーかな?でも、学生服で袖が長い感じも可愛い。似合いそうだ。女顔なのは、主殿に引っ張られているからだと言っていたけど、そのおかげで、姉弟に見えます。
並んでいても違和感がない。
やっぱり、ダメな感じがします。
梟?
静岡に梟が居るの?
「茜さん」
聞きたくないけど、聞かないとダメなのでしょう。
「はい」
「この子たちは、少しだけ事情がありまして・・・」
「え?”たち”」
「あっ。今は、この子だけなのですが、もうすぐ、帰ってくると思うのですが・・・。話を進めますね」
「はい」
「私の家族には迎えられないので、茜さんの家族にしてもらえないでしょうか?」
やっぱり・・・。
でも、主殿の家族に迎えられない?
「理由をお聞きしても?」
「はい。この子たちは、天使湖の近くに居た子たちなのです。あの時に、魔物になってしまって、身を委ねてはくれていますが、自分たちは捕虜だと・・・」
「え?」
「クロトちゃんとラキシちゃんとの相性から、茜さんになら任せられると・・・。それに、私たちとの連絡の方法が、この子たちを使えば広がります」
メリットはあるのか・・・。
「それに、クロトとラキシが持っていない属性を持っているから、魔石の付与の追試には役立つと思うよ」
ライからの助言が的確過ぎて怖いです。
確かに、ギルドのメンバーが持っているスキルよりも、豊富な属性を持っているのでしょう。
全属性が揃えば、できることが増えます。
「わかりました。名前は・・・」
「無いので、茜さんが付けてください」
「え?あっ。もう一人は?」
「そうでした。ここに居るのが、メスです。もう一人は、オスです」
「うーん。メスは、クシナ。オスは、スサノ」
私の前に来ていた梟が光りだします。
契約が結ばれたようです。
私も、人外になってきた。
オスも帰ってきて、同じように私の前で頭を下げます。
もう一度、名前を呼んであげたら契約が結ばれました。
よかった。よかった。
スサノとクシナから感謝の気持ちが伝わってきます。
クロトとラキシも喜んでいます。
夫婦だと思って名付けをしたら、本当に夫婦だったので良かったです。
千明に押し付けるのは無理そうです。
食事代を稼ぐために仕事を頑張ろう。
梟(オオコノハズク)も可愛いです。モフモフは正義です。主殿の家族に居るコノハズクよりも少しだけ大きいサイズですが、小型の部類でしょうか?
帰ったら、生活環境を整えないと・・・。
電車に乗らないで、飛んでギルドまで来てくれるようなので、良かったです。
帰路は、いろいろ考えながら歩いている。主殿は・・・。
クロトとラキシを、主殿が送ってくれることに決まった。
スサノとクシナのスキルを調整したいと言われてしまった。
その都合で、クロトとラキシのスキルが必要になってくるらしい。怖くて、それ以上は聞けなかった。聞いた方が、ギルドとしては正しいけど、聞くのが怖かった。
私の表情を読んで、主殿が簡単に教えてくれた。
簡単に言えば、クロトとラキシが持っている”眷属”の繋がりを、”横に広げる”らしい。
今までは、私が中心になって、クロトとラキシとスサノとタシナに繋がっていた。これを、眷属同士でも繋がるようにしてくれるらしい。
スキル”念話”を、付与して眷属同士でも会話が成立するようにしてくれるようだ。
私では、数十メートルが限界だけど、スサノとタシナを経由すれば、数キロの会話が可能になる(らしい)。
あとは、クロトとラキシが持っているギルドの情報を、スサノとタシナにも共有しないと、”問題になってしまう可能性がある”と言われてしまった。
どうやって送ってくれるのか聞いたら、主殿の眷属がクロトとラキシを背中に乗せて飛ぶようだ。ライの分体が、クロトとラキシを落ちないように固定してくれるらしい。見なければ問題にはならない。そう、知らなければ、知られなければ、見られなければ、大丈夫だ。
ギルドに帰還の連絡を入れたら、誰も居なかった。
ギルドが空になって大丈夫なのか?
大丈夫だから誰も居なくなっているのだろう。
もしかしたら、アトスが居るから大丈夫だと判断を下したのかもしれないけど・・・。千明まで、出ているとは思わなかった。
何か、問題でも発生したのか?
主殿にも心配されてしまった。
まず、主殿の家は、スマホの電波が届かない(場所が多い)。
玄関か主殿の部屋でしか電波が届かない不思議な状態だ。深く考えない事にした。考えたらダメだ。電波を遮断する方法が構築されている。そんなことは・・・。多分、出来ている。盗聴も盗撮も不可能な状況で、主殿と一緒でなければ、あの家には辿り着けない。
主殿が常識的で善良な心を持っていてよかった。
復讐を考えているようだけど、”人”全体ではなく、主殿の将来を奪った人とそのスキルを与えた魔物に、矛先が向いている。
だから、主殿を刺激しないほうがいい。
私は、円香さんにも、ワイズマンにも、それこそギルド全体にしっかりと説明をしなければならない。
主殿は”アンタッチャブル”だ。
好奇心がマナーや常識を上回っているような人たちや、全体のために個が犠牲になるのは当然だというような人たちには、主殿を引き合わせないほうがいい。絶対に問題になる。
それだけなら、その個人が対象になるだけだけど、”人”に矛先が向いてしまったら・・・。主殿が許しても、眷属たちが・・・。人類が滅んでも、私は不思議だとは思わない。
日本を滅ぼすつもりで、核を打ち込んでも、主殿たちだけは生き残る未来が訪れても驚かない。
帰り道は、パロットが案内してくれた。途中までだけど・・・。私が解る場所で、別れた。
普段は、部屋の中で丸くなっているらしいけど、主殿もライも他の眷属も家に居たことから、久しぶりに外に出ると教えてくれた。
どうやら、クロトとラキシにいろいろ教えてくれるのは、パロットの様だ。
別れ際に、クロトとラキシをお願いしたら、可愛く鳴いて答えてくれた。
人里を歩いていると不思議な気持ちになってくる。
主殿の家は、不思議に満ちていたけど、あの光景が”あるべき姿”ではないのか?
魔物が地球に現れてから、いろいろ変わってしまった。
スキルを得た人は、得られていない人を蔑む。反対に、スキルを得ていない人は、スキルを得た人を野蛮人だと蔑む。
もしかしたら、魔物たちを地球に放った者は、地球人の分裂を狙ったのか?
主殿の存在は、光にも闇にもなる。
魔物になってしまった少女。
本名も教えてもらったが、主殿と呼ぶことにしている。
主殿は、『復讐は”殺す”ことではない』と明言してくれた。
世間に公表したい。それで、主殿を魔物にした者が”人”だとしたら、罪に問えるか考えて欲しい(らしい)。それで、罪に問えないのなら、自分が、その者を始末する。
主殿は、人ではない。しかし、煩い政治家や偉そうに文句を言うだけの専門家や情報を寄越せとだけ言うマスコミの担当者よりも、人だ。だから、魔物にした者を人が捌けないのなら、魔物になってしまった主殿が始末する。魔物の世界は、弱肉強食だ。殺されても文句を言わせない。人がそれで文句を言ってくるのなら戦うまでとはっきりと宣言をしている。
私は、主殿たちと人類が戦う未来は見たくない。
出来れば、主殿を魔物にした人物を見つけて、人が裁かなければならない。主殿の手を汚させてはダメだ。
人の正義を主殿に押し付けてはダメだ。
主殿の事を考えていると、駅に到着した。
改札を抜けて、ホームで電車を待つ。
古い椅子に腰を降ろす。
主殿は、この駅から学校に通っていたのだろう。そして・・・。これからも通うはずだった。些細な日常を、主殿の日常を、奪った愚か者が存在する。
電車がホームに滑り込んでくる。
誰も降りない車両に乗り込む。
席は空いているが、なんとなく窓際に立っていたい気分だ。
ドアが閉まり、電車が走り出す。
ゆっくりとした速度から、徐々に速度があがる。
窓からは、海が見える。
主殿もこの景色を見ていたのだろうか?
静岡駅まで約30分。景色を見ながら電車に揺られるのはちょっとだけ長く感じる。
静岡駅に到着した。
改札を出て、地下道に向かう。
地下道を通り抜けて、呉服町交差点を目指す。そこから、呉服町通りを通って、七軒町通りを駿府城の方向に向かう。御幸通りを中町交差点に向けて歩く。大鳥居をくぐって浅間通りを通り、浅間神社に向かう。ギルドに行く前に、クロトとラキシとスサノとクシナと合流する。
前に主殿と会った場所だ。
主殿もライも覚えていたので、場所の説明は不要だ。それに、クロトとラキシなら迷わないだろう。私を探しながら来るらしいから、スサノもクシナも大丈夫だと言っていた。
長い長い急な階段を上がって・・・。
スサノとクシナを眷属にしたからなのか、しんどかった階段が楽に上がれるようになっている。走って上がるのは無理でも、上に辿り着いても息が切れない。今なら、蒼さんは無理でも、孔明さんには勝てそうだ。階段を上がる速度だけだけど・・・。
ベンチに座ろうと思ったら、ライが既に到着していた。
上を指さしたので、上を見たら、スサノとクシナが枝にとまっていた。
クロトとラキシは、ベンチの下に居るようだ。
「茜さん」
「なんでしょうか?」
ライが話しかけてきた。
「本日は、ありがとうございます」
予想外の言葉です。
お礼を言うのは、私たちです。
「いえ。私。私たちこと、主殿にはお礼を言わなければ・・・」
「違います。茜さんが来てくれて、マスターは、本当に楽しそうでした。私たちは、マスターの家族にはなれますが、”友”にはなれません」
ライの伝えたいことが・・・。わかってしまいました。
主殿には”友”と呼べる存在がいなくなってしまった。
「私も、主殿といろいろ話せて楽しかったです。これからの事を考えると、頭が痛いのですが・・・」
「それは、スキルの事ですか?それとも、眷属の事ですか?」
「それも・・・。含まれていますが、いろいろです。ライは、主殿が持つ情報が、世間からどう見えるのか知ったほうがいいかもしれないですね」
「え?」
「ライは、分体ですよね?」
「そうです」
「それなら、帰らなくても、大きな問題はないですよね?」
「そうですね。数日くらいなら大丈夫です」
「それなら、今日と明日。ギルドに来ませんか?私が皆に今日の報告をします。ライも、主殿に報告をする為にも、聞いておいた方がいいと思いませんか?帰りは、スサノかクシナに送らせます」
「・・・。そうですね。マスターに確認をしますが、スライムになってしまいますが、問題がなければ、お邪魔いたします」
「良かったです!」
偶然ですが、説明要員を確保できました。
主殿に筒抜けとなってしまいますが、些細な問題です。これで、謝って伝わってしまうことも、主殿たちが持っている情報や知識が世間とどれほどずれているのか伝わると思います。
ライが、カーディナルに乗って帰っていくのを見送ってから、階段ではない方から帰ることにした。
クロトとラキシは、おとなしいけど、さすがに外を歩かせるのには、リードがない?
”ニャウ!”
え?
リードがある?主殿から貰った?
アイテム袋の中に入っている?
はぁ・・・。
確かにリードだ。リードだけど、これは・・・。
私は騙されない。
これは、魔物の素材を使ったリードだ。手に持った事ではっきりとわかった。
でも、確かに見た目はリードだ。
手に持つ場所に魔石が埋まっていたとしても、これはリードだ。武器ではない。
通常は、リードだと紐がリールに巻かれている。このリードには、紐がまとまっている場所がない。それなのに、紐が伸び縮みする。
どうやら、紐は魔力で作られているようだ。
クロトとラキシが遊んでいた時に出していた魔力の紐だ。
うん。楽になったと考えよう。
そうだ、深く考えても無駄だ。
クロトとラキシにハーネス状になっている部分を取り付ける。
すんなりと受け入れてくれるのは嬉しい。
キャリーバッグは、アイテム袋にしまえば問題はない。そう、何も問題はない。楽になるのだ、問題なんてない。
ラキシは、歩くのが嫌なのか、私の肩に乗っている。
上空を見ると、スサノとクシナが飛んでいる。護衛をしてくれているようだ。主が貧弱なのでもうしわけない。
え?
「クロト!今、影に潜らなかった?」
”にゃにゃ!”
できるよ?
じゃないよ。
影に潜って、私の影に出てきた。
「影から影に移動できるの?」
”にゃ!”
条件はあるようだが・・・。
影移動ができるようになったようだ。
もしかして・・・
”ふにゃ?にゃにゃ”
やっぱり、私も影に潜れるようだ。遂に人間を辞めてしまったようだ。影に潜れる人間が居るとは思えない。
主殿の所で、いろいろな眷属から話を聞いて、クロトとラキシはレベルアップを果たしたようだ。その恩恵は私にもフィードバックされている。
考えないようにしていたけど、しっかりと把握しないとダメだろう。
ギルドに向かいながら、クロトとラキシから聞き取りを行った。
思考加速というとんでもない能力が備わっているようだ。
それから、危険察知が個人的には凄く嬉しい。
スキルは、私とクロトとラキシとスサノとクシナで共有される。
もちろん、種族的なスキルは共有されない。スサノとクシナの空を飛ぶという能力は、私やクロトやラキシには備わっていない。
しかし、危険察知のような汎用的なスキルは、共有できるようだ。
この危険察知はパッシブのようで、危険が迫るとアラームが頭の中で鳴り響く。
思考加速も同時に発動するので、周りを確認して、停止しているような状況の中で私やクロトやラキシやスサノとクシナだけいつもと同じように動ける。
とんでもないスキルだ。
私がこれを持っているのなら、主殿たちも持っているのだろう。
だから、あれだけの魔物を狩っても怪我もしないのだろう。他にも、何か特殊なスキルを持っているように思えるけど、この二つだけでも・・・。意識して、思考加速が使えれば・・・。私には、出来そうにない。スキルを認識することから始めなければ・・・。
だめだ。
この状況に慣れてしまっている。
ギルドが見えてきた。
ギルドが見えてきた。
大事なことなので、2回ほど考えたが、ギルドで間違いない。
2台ある車は・・・。ない。
ギルドは、シャッターで入口が塞がれている。
誰も居ない。帰ってきていない。
部屋の入口は別だ。
部屋に入ると、なんとなくだけど、主殿の所での出来事が、夢だったのだと思えて来るから不思議だ。リビングに置いてあるソファーに身体を委ねる。
”にゃ!”
”ニャウ!”
解っている。
夢ではない。その証拠に、ベランダの手すりに梟が・・・。
はい。はい。
解っている。
窓を開けると、スサノとクシナが嬉しそうに鳴き声を上げて部屋の中に入ってきた。
「スサノ。クシナ。止まり木は、あとで注文するからね。今日は、どこか適当に使って」
スサノとクシナの寝床やら休憩する場所を作らなくては・・・。
”にゃにゃ!”
はい。はい。
そうでしょう。そうでしょう。ライが、忘れるわけがないよね。
止まり木が、アイテム袋に入っている。
うん。
解っていた。
多分、ダメな奴でしょ?
やっぱり・・・。
聖樹の枝でしょ?
スサノとクシナの止まり木には・・・。ちょっと小さいかな?
え?
幼い字で、説明が書かれていた。
これ?
本気?
ここまで来たら、指示に従った方がよさそうだね。
円香さんや蒼さんや孔明さんや千明に見せれば、説明しなければならない事がどれだけ”大事”なのかわかってくれるだろう。
丁寧にプランターまで入っていた。
私は、荷物が増えた時に使おうと思っていた・・・。アイテム袋があるから、荷物が増えても大丈夫だ。服が増えても・・・。増える予定はないけど・・・。
玄関から近い部屋を空けておいてよかった。
部屋の端にプランターを置いた。
下には、指示に従ってブルーシートを敷いた。水は必要ないと書かれている。土も必要な分は作り出すから大丈夫だと書かれている。何が、大丈夫なのか説明して欲しい。
指示に従って、聖樹をプランターに寝かせるように置いた。そして、入っていた(主殿たち基準で)小さい魔石を入れる。全部入れる必要はないとは書かれているが、持っていても怖いので、全部入れてしまおう。そのあとで、なんの素材か解らないけど、魔物の素材でプランタを隠すように覆う。
次は・・・。
このまま放置で大丈夫?
それじゃ報告書を書く為に、リビングに戻ろう。
「クロト。ラキシ。スサノ。クシナ。この部屋は、君たちの部屋になるからね。壁や床や天井に傷をあまりつけないようにしてね。絨毯なら汚しても大丈夫だけど、あまり汚さないでくれると嬉しいかな?水場は、クロトとラキシは知っているよね?スサノとクシナに教えてあげて!」
皆から了承の意思が流れ込んでくる。
これは便利だ。
「リビング。最初に座った場所に居るから、問題があったら教えて!」
眷属たちの部屋は・・・。
こっちの部屋を選んでおいてよかった。眷属たちの部屋の窓から外に出ると、浅間神社方面で公園があるから、眷属たちが散歩に出かけるのにも適している。円香さんが使っている部屋だと、道路側になってしまうから、梟が窓から出入りしたら目立ってしまう。
スサノとクシナなら認識阻害を持っているから、目立たないだろうけど・・・。主殿の家と違って完全に防ぐことができない。これから、魔物を狩って、スキルを育てれば、可能性はあると言っていたけど、この辺りに魔物ができる場所はない(はずだ)。
余計なことを考えていないで、報告書にまとめないと・・・。
ワイズマンに提供した方がいい情報と、提供しても大丈夫(じゃないけど)な情報。
ギルド内だけで留めておいた方がいい情報。
報告はするけど、私の頭が疑われる情報。
あとは、是非皆と共有したい情報だ。
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ふぅ・・・。
報告書が大作現代ファンタジーになってしまった。
事実は小説より奇なり。
この言葉をタイトルにして、それぞれの報告書を別々にして・・・。
27枚?報告書で?
これでも、アイテム袋の中身の説明や、売買契約・・・。あぁぁぁ思い出してしまった。
売買契約の雛形を用意しないと、委託販売契約は、ギルドでも数例だけど行っている。日本では、実例はないけど・・・。
千明に丸投げしよう。経緯の説明を追加しておけばいいよね?
時計を確認すると、22時を回っていた。
集中してしまった。前は、こんなことは無かったのに・・・。スキルのおかげ?それとも・・・。
ギルドのサーバに接続して、状況を確認すると、業務は終了しているようだ。
当然です。円香さんも、孔明さんも、蒼さんも、千明も今日はギルドには居ないようだ。明日は、朝から皆が揃う。報告を行う予定になっている。
私も、お風呂に入って、ひと眠りしよう。
その前に・・・。
見ておいた方がいいと”感”が告げている。
眷属の部屋のドアは開いていたはずだ。
珍しく引き戸なのが気に入っている。
嫌な予感がします。
でも・・・。
あぁ・・・。やっぱり・・・。
部屋の状況を確認して、膝から崩れ落ちました。
大きな声を上げなかった自分を褒めてあげたいです。
ふふふ。明日が・・・。もう、今日ですね。今日の会議が楽しみです。
部屋の前で跪いている私の足下に、クロトとラキシが、やってきて見上げてくる。
スサノとクシナは、私の肩に乗ってくる。
クロトの頭を撫でながら、大丈夫だと伝える。
壁沿いに”わさわさ”動いている樹木が目に入る。意思があるように動いている。
あれ、意思があるよね?
ファンタジー的に言えば、エントかな?
個人的には、可愛いからドリュアスの方が良かったけど、考えない方がいいだろう。なんとなく、私の意思を汲み取っているように思える。
問題ではない。
部屋にまだ入っていないから、幻の可能性がある。幻であって欲しい。
壁一面に蔦が張っている。なぜ?蔦?木がプランターから生えている?
物理的に不可能だよね?
部屋の中央は空いている。
そう、座れるようになっていて、テーブルがあるけど、気のせいだと思う。樹木だよね?プランターから枝が伸びて、椅子やテーブルになっている?
椅子は7脚だ。
私と円香さんと千明と蒼さんと孔明さんと主殿とライが座れる数だ。狙った?それとも偶然?
絨毯の上に広がっているのは芝生だよね?
これも、プランターから生えた?
あと、枝が不自然(自然な部分を見つけるのが難しいけど・・・)に、キャットタワーの様になっているのは、クロトとラキシが欲しがったのかな?
”ニャウ?”
ラキシが可愛く鳴いてから、私のズボンの裾を噛んで、部屋に引っ張っていこうとする。部屋の中を見ろと言っているのが解る。他の3人(主殿を見習って、私も家族と呼ぶことにしようかな?人格があるし、人でもいいよね?)も期待している雰囲気がある。
流石に、体格差があるから無理だろう。絶対に、私が重いわけではない。体重は、平均以下だ。声を大にしていいたい。私の体重は平均以下だ。一部の装甲は並以下しかないのだが・・・。ジュニアがつける物でも足りてしまうくらいだけど、これから成長予定だ。諦めていない。諦めてはいけない。
ラキシの頭を撫でると、クロトが先導するように部屋に入る。
ん?肩への負担が少なくなっている。
スサノとクシナのサイズが小さくなっていない?
「スサノとクシナ。サイズがこう、可愛くなっていない?」
”クォ!”
”クフォ!”
スサノとクシナの鳴き声、初めて聞いた!
小さくなれば、私と一緒に居られる?
なんて可愛い子たちだ。雀よりは、少しだけ大きいサイズだけど、このサイズなら肩に乗せて移動ができる。届け出が必要な”特定動物リスト”にも乗っていなかった。行政への届け出は必要ないようだし、気にしない事にした。スサノとクシナの為に、太陽パネルとバッテリーと紫外線ライトを購入した。魔物になっているから、必要がないか可能性も高いけど、紫外線は聖樹にも必要だと思っている。それに、有っても困らないだろう。
”にゃぁにゃ”
はぁ?
”ニャウニャウ”
ラキシが追い打ちをかける。大丈夫。聞こえているよ。
聖樹への名付け?
絶対に、ダメな感じがするけど・・・。
8個の瞳から注がれる期待が・・・。凄い。期待されている。私には、期待を裏切る事ができない。
アズエかモドンかユグドかイロコか迷う。ユグドがいいのだけど、なんとなくダメな気がする。そうなると、イロコかな?でも、イロコは聖樹というのは・・・。うーん。
やはり・・・。
「君は、ユグド」
やっぱり・・・。
聖樹が光りだした。
進化するのね。
もう驚かない。
期待通りだ!
そう思わないと、心の平穏が保てない。
光が収まると、聖樹は変わらない姿で・・・。
”わさわさ”が収まっている。
想像と違っていた。進化して、動き出すのかと思った。
良かった。
良かった。
目の前に、小学生くらいの4対の綺麗な羽が生えて、緑を貴重とした服を身に着けた、可愛い可愛い可愛い可愛いが暴走している女の子が居ても、何の問題はない。腕や足に蔦が絡むようになっていて、可愛いピンクや白の花が咲いていても、何の問題・・・。
ダメだ。
目を閉じて、もう一度、目を開けたら、女の子が消えているようなことはなかった。
天井を見ると、スサノとクシナが聖樹の枝と戯れている。意味が解らないけど、見たままを表現すると”戯れている”が正しい。
ふぅ・・・。
小さな女の子。多分、ユグドだろうけど、私の手を握ってきている。
小さな手が可愛い。体温があるのか、温かい。
「えぇーと。ユグド?」
「はい!」
あっ。日本語が話せるのね。よかった。よかった。
「日本語がわかるの?」
ユグドが首を傾げる。
すごく可愛い。
”にゃにゃ”
”ニャニャウ”
そうなの?
クロトとラキシが教えてくれた。
ユグドには意思疎通のスキルが備わっているから、相手に意思が、言葉が伝わる(らしい)。
「それは、私以外でも大丈夫なの?」
”にゃ!”
大丈夫なようだ。
その能力、私も欲しい。
そうだ。
ユグドは、私の眷属だから、私にも・・・。これは、嬉しい。海外からの・・・。ダメだ。円香さんに知られたら、海外から来るVIPの相手をさせられてしまう。
「ユグドは、聖樹から産まれたの?」
「うん!お姉ちゃんに仕えるため。クロトやラキシやクシナやスサノのお世話をして欲しいとお願いされた」
いろいろ突っ込みたいけど、突っ込んだら負けかな?
多分、お姉ちゃんは、私の事だろう。
聖樹を植える時に、確かにクロトやラキシやクシナやスサノが過ごしやすいようになってくれるように”祈った”。そして、さっき、エントよりは、ドリュアスの方が良くて、アニメで出てくるような可愛い妖精を思い浮かべた。そして、妹が欲しいと願った。
うん。私が原因だな。
それなら、ユグドを可愛がらないと・・・。その前に、いろいろ聞かないと・・・。報告書に追加は・・・。いいかな。もう。今日の打ち合わせは、家でやればいいかな?
この部屋を見せた方が、いろいろ説明が楽に思える。
それに、ギルドはクリアとは思えない。
無理だと思うけど、聞いてみよう。
「ユグドは、何ができるの?」
首を傾げる。
質問の意味が解らないようだ。
そうだよね。”何ができるのか”と聞かれても困るよね。
「例えば、この部屋に結界を作って、外に音が漏れないようにできる?」
「うん!」
「結界の範囲を、部屋の壁から5cmだけ内側とかできる?」
「できるよ?」
「電波って解る?結界の内側から外側に電波が流れないようにできる?」
「うーん。お姉ちゃんが持っているスマホが外に繋がらないようにはできるよ?」
おぉぉ!
優秀な子だ。流石、私の妹!
「あと、ユグドは羽を消せる?蔦も消して、私と同じような格好になれる?」
「うん!でも、本体からあんまり離れられない」
「そう?どのくらい?」
「うーん。解らないけど、お姉ちゃんの知識で言えば、1,500キロくらい?」
うん。問題はない。
「そうか、例えば、ユグドの本体の一部を持っていけば、そこに移動ができる?」
ファンタジーもので読んだことがある能力だ。
これがあれば、ユグドの分体を私が持ち歩けば、ユグドをいつでも呼び出せる。それに、主殿の所に預けることもできる。
「できるよ!お姉ちゃんたちと一緒に移動することができるよ」
ん?
「それは、私とクロトとラキシとクシナとスサノが、ユグドと一緒に移動するの?」
「うん」
便利!
完全に人間を辞めることになるが、気にしたら負けだ。
これは、報告書には書かない。ユグドたちにも、私以外には内緒にしておくようにお願いする。主殿には・・・。まぁ知られても困らないかな。
ユグドからの聞き取りは、順調に進んだ。
私の新しいスキルも判明した。
移動系のスキル以外は、極々普通?のスキルだった。私にも移動系や結界系のスキルが・・・。と、期待したが、クロトがいうには、ユグドの固有スキルだと言われてしまった。
まだ人を半分・・・。いや、7割くらい辞めた程度で終わってくれている。
保有するスキルの数も、主殿を除けば世界チャンピオンかもしれない。嬉しくない事実だが、気にしないようにしている。黙っていれば解らないだろう。
戦闘系のスキルが無いのが救いだ。主殿のように使い方次第では戦闘でも有効なスキルは多いけど、所謂”魔法”だと思われるようなスキルが”少ない”のが救いだ。戦闘スキルを持っていると、自衛隊に組み込まれてしまう可能性が高い。
多分だけど・・・。
持っているスキルを公開したら、国とギルドが取り合う未来が見える。
その前に、報告書の段階で・・・。考えない方がいいだろう。なるようにしかならない。
素晴らしいスキルが芽生えていた。
どうやら、ユグドではなく、クシナかスサノのまたは両方からの恩恵の様です。
スキル名は「隠蔽」と「偽装」です。もう一つは、あまり使わない気がします。アクティブスキルなのですが・・・。該当しそうな状況にはならないと・・・。思う。と、いいな。
使い方は、なんとなく理解が出来ます。でも、”偽装”に関しては、秘密にしておく必要がありそうです。実験で確認をした所、電子データには使えませんが、紙になっている情報の書き換えが出来てしまいました。書き換えは、私の筆跡になるのであまり使いどころはなさそうです。しかし、押した判子が消せてしまいました。このスキルは問題になりやすい。ギルドでは、電子データが基本なので、問題にはならないとは思いますが、日本ではいまだに”紙”のデータを信用する人は多くいます。上級国民様には電子データを信頼していない人たちが一定数居ます。特に、役所とか、官僚とか、役所とか、官僚とか・・・。あの人たちは、本当に前例にないことを嫌がります。
”隠蔽”は言葉通りです。スキルを隠す事が出来ます。私が取得したスキルの多くは未発見のスキルです。隠しておく必要があります。面倒ごとは避けたいです。同じように、クロトとラキシとクシナとスサノとユグドのスキルの多くは隠します。隠せてしまいました。スキルの適用範囲は、眷属までの様です。残念です。千明とアトスのスキルは隠せません。二人には、うまく立ち回ってもらいましょう。
ギルドに知られてしまっているスキルは残して、他のスキルを”隠蔽”しておきます。”隠蔽”の隠蔽は出来ないので、”偽装”で”隠蔽”を偽装しておきます。既に知られているスキルに偽装しておけば、知られても問題は無いでしょう。
主殿から預かっている”鑑定”で自分を見ても、問題になりそうなスキルはない状況です。
これで、まだ”人”として生活が出来ます。攻撃系のスキルが無いのが救いに思う時が来るとは思いませんでした。
明りをつけていませんが、明るい状況です。
電気代が浮いたと喜びましょう。
「お姉ちゃん?」
「ん?部屋が明るいと思っただけだよ?」
「そう?皆が快適に過ごせる状況を維持するのも、私の仕事だよね?」
「そうね?」
ユグドは嬉しそうに微笑んでから、何かのスキルを発動しました。
部屋の温度が、下がった気がします。
”ニャウ!”
ラキシが苦情を伝えたら、今度は室温が上がった気がします。
ユグドが調整を行って、室温と湿度が納得できる状態になったようです。体感的には、20度くらいかな?肌寒くはないので、丁度いいのかもしれない。エアコンも必要が無くなってしまいました。風が欲しければ、風が発生しますし、水が欲しければ・・・。どうやら、ユグドの本体を奥プランターの中に魔石を大量に入れたのが原因だったようです。全ての属性が使える聖樹が産まれてしまったのです。
過ぎたことなので、もう忘れましょう。
そうです。もう過ぎたことです。
ユグドがいろいろできるので、私は楽になったと思うことにします。
”にゃ!”
クロトが私の足を可愛い手でテシテシしてくる。
「お姉ちゃん。時間は大丈夫?ギルドに行くのだよね?」
ユグドの指摘で、時計を探すが、腕時計は普段からしていない。
この部屋には時計はない。でも、出勤の時間が近い。はずだ。
「みんなは待っていて!」
皆から了承の返事が帰ってくる。
連れて行っても良かったのだけど、どうせ戻ってくるし、その時にインパクトが大きい方が私の苦労がわかるだろう。
部屋に戻って着替えます。
ギルドには服装の規定はありません。受付に出るのなら、制服があるのですが、現状受付は開店休業中です。千明が形だけですが、受付に座る事はあるのですが、それだけです。
今度は、わかりません。
主殿の情報が炸裂したら、ギルドに人が集まる可能性があります。
私としては、今の雰囲気が好きなので、受付を作るのなら、別の場所に設置してバイトでも雇って欲しいと思います。それに、主殿が訪ねて来る事を考えれば、受付は別の場所にしたほうがいいでしょう。
ギルドには、まだ誰も来ていないようです。
先に、送れる情報だけでも・・・。
辞めておきました。
絶対に、面倒なことになるのは解っています。
ギルドのネットワークは、監視・・・。盗聴が疑われます。
どこの組織とは言いませんが、可能性は高いと思っています。
さて、ギルドに出勤といっても、玄関から出て、50歩も歩けばギルドの正面です。裏口なら半分以下で到着します。
玄関を出てみると、雨が降り出しています。濡れたくないので、正面玄関に向かいます。屋根伝いに移動できます。10歩ほど歩数は増えますが、誤差の範疇です。
正面玄関が空いています。
確認した時には、誰も出勤していなかったのですが・・・。
「おはようございます」
「おはよう。早いな」
「孔明さんも、早いですね。何か、問題でも?」
「違う。そうだ!スライムの所に行ってきたのだろう?報告を聞きたい。出来る範囲で構わないから教えてくれないか?」
「孔明さん。スライムではありません。主殿です。本名もお聞きしましたが、主殿と呼称してください。お願いします。私は、まだ死にたくありません」
「ん?死にたくない?どういう事だ?」
「それは、皆が揃ってから・・・。あぁ千明と蒼さんが来ました。円香さんが来たら、報告をします。あと少しだと思うので、待っていてください」
「わかった。それにしても、茜嬢。雰囲気が変わったな」
「え?」
雰囲気?
「なんというか・・・。うーん。よくわからないから、雰囲気という言葉を使ったが、強者とは違うけど、変った」
「そうですか?自分では解らないです」
蒼さんと千明がギルドに到着しました。
同時では無いのですが、同時になってしまったようです。千明が、お茶の準備を始めるので、少しだけ待ってもらいました。
「皆。揃っているのか?」
円香さんの登場です。
役者が揃ったのですが、最初に、円香さんと蒼さんから、主殿がギルドに齎した情報の検証結果の報告を聞きます。
先に報告を聞くことにしました。千明も一緒に聞くように言われてお茶はなしになりました。冷蔵庫から、ペットボトルを取り出して好きに飲むことにしました。
私の報告は、時間が必要です。絶対に必要です。円香さんに力説して認めてもらいました。もう一つの理由もありますが、それは別で考えましょう。円香さんに丸投げ出来れば・・・。
「魔石を持って、スキルを使うと、回数が増えた」
今まで、使い道が少なかった魔石に使い道が産まれた瞬間でした。
また、鑑定の魔石も一部だけ情報を解禁した。結果、各国からの問い合わせが増えているようです。本部に、魔石を送って解析とレシピ化が可能なのか調べることになりました。鑑定石の件は、私たちの手が離れることになりました。よかったです。負担が減るのはいい事です。どうせ、すぐに増えます。倍では住まないくらいに増えます。
ひとまずは、ここまではギルドとして情報を公開することに決まりました。
登録者は日本支部ですが、発見者は匿名の人物となりました。煩わしさを避けるために、匿名の登録はよくあります。主殿も同じように匿名での登録になりました。銀行口座も、私たちが用意した口座になりました。
「茜。報告を頼む」
「円香さん。この場所は、クリアですか?」
円香さんは、首を横に振ります。
やはり、盗聴が行われているのでしょう。
「気分転換も必要でしょう。私の部屋に来ませんか?」
「え?」
「入口近くの部屋の模様替えをしました。皆に見て欲しいです」
「茜。何を言っている?模様替え?そんな時間があったのか?」
「そうですね。昨日はいろいろ大変でした。気分を変えたくなるくらいに大変でした」
私は、持っていたメモ帳に”私の部屋ならクリアです”と書いて円香さんに見せる。
「いいのか?」
「はい。報告書も部屋に置いて来てしまったので、都合がいいです」
円香さんが頷いてくれた。
千明は、何を言っているのかわからないのか”きょとん”としていますが、問題は無いでしょう。
「あっ!千明。アトスも連れてきて!ラキシとクロトが会いたがっていた」
「え?あっ。うん。わかった。先に出ますね」
千明が立ち上がって、ギルドを出ていくと、私も立ち上がって、円香さんにメモを見せます。
メモには”主は孔明さん”と書きました。
私が新しく得たスキルの一つ”看破”が事実として・・・。報告の前にやらなければならない事が増えてしまった。
憂鬱だな。
こう考えると、主殿の所は、心臓には良くないけど、楽しかったな。
円香さんの笑顔が固まった。
「茜!」
頷くしかないです。怖くはないのですが、圧が凄いのです。
私が手を出せば、円香さんが、手を乗せてきた。
これで念話が通じるはずです。
円香さんに伝わるようにイメージして、話しかければ通話ができるはずです。
孔明さんは、部屋を出て行こうとしていたので、後片付けを頼んでみた。笑いながら了承してくれた。盗聴器の回収にも丁度いいと思ったのでしょう。
『茜。どういうことだ!』
円香さんも、念話の使い方をマスターしてしまっている。これなら、スキルを持っている私でなくてもいいのでは?
『詳しい話は、後でしますが、私は新しいスキル”看破”が使えます。このスキルは・・・』
円香さんの表情が曇ります。私にも、意味が解らないので、簡単にしか説明ができません。
”看破”と聞いて、未知のスキルなのは解るのだろうけど、スキル名から効果が想像できたのでしょう。
でも、残念ながら多分・・・。
『円香さんが想像した権能ではありません』
『簡単に説明しろ』
そのつもりです。
あまり時間がかけられません。円香さんもわかっているのでしょう。孔明さんの動きを視線で負っています。残された時間は少なそうです。
『違和感があったのが、ギルドの入口で孔明さんに会ったときに、主殿を”スライム”と呼んだことです』
『それで?』
『”看破”は隠し事があれば解るスキルです。あと、動揺が判断できます』
『わかった。それで、孔明はどこまで絡んでいる?』
『それは解りません』
『蒼は?』
『反応はありませんでした。千明も同じです』
『わかった。孔明は、私が対処する』
『はい』
円香さんの手が離れた。
「孔明!お前、どこのスパイだ!」
直球でした。
もう少し、外堀を埋めるとか・・・。私が居なくなってからとか・・・。
いろいろあると思うのだけど、円香さんに、人間らしい対処を求めた私が愚かでした。
はぁ厄介ごとだけど、こうなったら、もう引けない状況です。
頭痛が痛いです。歯痛が痛くなってきます。あっ!そうだ。ユグドから採取できる水で、魔石を砕いて入れた水なら歯痛とか治らないかな?
孔明さんが私を睨んでいますが気のせいだと思います。
「はぁ・・・。茜嬢か?」
「そうだ!茜が新しく得たスキルで判明した」
全部、茜さんが暴露してしまいました。
幸いなのは、スキル名を口にしていない事だけど、本当に、本当に、本当に、些細な”幸い”です。本当に、この人には隠し事が向いていない。高度な盗聴器が仕掛けられている可能性が高いのに・・・。
本当に、知られてはダメな情報は隠してくれていますが、私が新しいスキルを得たのは公になってしまうのです。
困った人です。
勝算があるのかもしれないのですが・・・。
「どんなスキルですか?」
「教えると思うか?」
「円香なら、”ポロっ”と教えてくれると思ったのですが?ダメですか?」
私も、孔明さんと同じことを考えました。
「無理だ。茜から聞いたが、忘れた。それに、スキル名が解っても、説明が出来ない」
円香さんの言い切り方が清々しい。忘れたと言っているけど、5分も経っていないよ?
「そうか・・・。忘れたか・・・」
孔明さんが、円香さんを睨みつけています。
大きくため息を吐き出してから、私を見ますが、睨んでいる雰囲気はないです。円香さんを睨んでいる時のような雰囲気は無いのが不思議です。
円香さんの言葉を信じたの?
昨日、私が円香さんに報告をして、円香さんが忘れてしまったと・・・。無理があるけど、円香さんならありえそうだと思ったの?
流石に無理があるよね?
「聖賢塾だ」
簡単に名前を告げます。罠の可能性もあります。
孔明さんは、ポケットから手を出して、装置を円香さんに投げます。どうやら、盗聴器の一つの様です。電波式ではなく、録音式の様です。収音して、記憶するのでしょうか?電波式でないので、見つけるのが難しいのが難点です。録音時間も短いので、狙った盗聴ができるとは限らないのですが、その場にスパイが居るのなら簡単に条件を満たすことが出来ます。
「何故だ?」
そう、私も、それを聞きたい。
孔明さんが、聖賢塾に協力する意味はないように思います。だから、円香さんも疑問に思ったのでしょう。
「俺に、妹が居るのは知っているよな?」
まさか!
「茜嬢。大丈夫。攫われたとか、襲われたとか、そういうことではない。近いけど、違う」
私の表情から、孔明さんが何かを悟って否定をしてくれました。
それなら余計に意味が解りません。
聖賢塾は、官僚や政治家や経営者が、賢者(を名乗る成功者と言われる者たち)から話を聞く場所だ。
簡単に言えば、人脈作りの組織で、日本国の為という御旗を掲げながら自分たちの利益にしか興味がない人たちの集まりだ。円香さんの言葉を借りれば、”正義に酔っているクズ”の集まりだ。孔明さんがもっと嫌う人たちだ。税金や公金を自分たちの仲間で循環させて私腹を肥やすのに疑問を持たないような精神状態の人たちだ。孔明さんとは正反対の思考回路だと思う。
「円香は知っているよな?」
「あぁ」
孔明さんが簡単に説明してくれた。
真子さんというのが、孔明さんの妹さんの名前らしいのですが、高校の時に事故にあって、足と腕と手に大きな怪我をしてしまった。腕の怪我は治ったのだが、問題は手と足だ。手は、指が切断してしまって欠損。足も右足は膝から下の欠損。左足は、足首から先が動かない状況。好きだった部活にも行けない状況になってしまった。
孔明さんが自衛隊に入ったのも、真子さんの怪我を治すスキルを得るか、何か方法が無いか探る意味合いが強かった。特に、あると言われ続けているポーションの類が見つかった時に、素早く入手するためだ。既に、5年が経過している。見通しも何もない状況で、孔明さんは古巣だけではなく、怪しい情報にまで手を出し始めていた。日々すすり泣く声が聞こえる部屋に”大丈夫。俺が何とかする”と声をかける日々が続いて、孔明さんの心は疲れ切ってしまっていた。”大丈夫”を繰り返すしかない無力な自分を殺してしまいたいくらいに・・・。
聖賢塾は、そんな孔明さんの心の隙を見逃さなかった。
ポーションではないが、魔物の素材を使った新素材で、人の四肢を復活させるというよくある詐欺話を持ちかけてきた。真実味を出すために、認可の申請書類や政治家たちの名前が使われている。スポンサーとして企業体の名前が並んでいた。そして、実際に素材で、耳や指を復活させた事例を見せてきた。足を復活させるのには、今後の研究が必要になると言われていた。
聖賢塾の狙いは、ギルドの解体の様です。噂はありましたが・・・。愚かです。
少なくとも、日本においては、ギルドは政府の下部組織であるべきだというのが、聖賢塾の主張です。何度か、くだらない打ち合わせに呼ばれています。最近は円香さんが断っているので、気持ちは大分楽になっています。
ギルドがある為に、聖賢塾関連の企業や研究所に魔物の素材が回ってこない。回ってこないので、研究が進まない。これが、聖賢塾の主張だ。実際には、聖賢塾関連の企業や研究所が、申請してくれればギルドは”適正価格”で素材を降ろすのだが、聖賢塾は”正義の集まり”で、自分たちの正義を邪魔するとギルドを批判していた。ギルドが魔物の素材を降ろす条件は、”適正価格”での買い取りと、”研究結果の公開”が条件になっている。ギルドは全世界共通で提示されている条件で、条件を飲めない企業体や研究施設には素材を降ろさないと決まっている。
孔明さんも、詐欺だと気が付いていて・・・。
円香さんと孔明さんのやり取りを聞いています。
今まで流した情報は、問題になるようなレベルではありません。聖賢塾の人たちは、魔物や魔物の素材が金のなる木・・・。程度にしか・・・。
木?ん?魔物?
ん?
あっ!
聖樹。魔石。ノート。追試?
思い出してしまいました。
「あのぉ・・・。円香さん。孔明さん。孔明さんは、妹さん。真子さんが治る手段を探しているのですよね?もし、私・・・、じゃなくて、ギルドが提供できる情報の中にあるとしたら、どうしますか?それでも、聖賢塾側の人間のままですか?」
円香さんが私を睨んできます。わかりますが辞めてください。怖いです。
孔明さんは私を見てから驚いています。当然だと思いますが、呆れるのなら呆れてください。私も、情報を知らなければ、呆れてしまうでしょう。
「茜!」「茜嬢。それは!」
二人が怖いです。
でも、今じゃないと、孔明さんが、ギルドから出て行ってしまいます。それは困ります。円香さんを止められる人が居なくなってしまいます。それだけは、避けたい状況なのです。私は、私の事と、主殿の事だけで、お腹いっぱいで張り裂けてしまいそうなのです。千明では無理です。蒼さんは円香さん寄りの人です。従って、孔明さんしか居ないのです。
心に刺さっていた棘が抜けた。
まっすぐに俺を見ていた視線で、里見茜嬢が何かに気が付いたのだと思った。
そして、円香から直球を頭に投げられた。
気持ちが楽になった。
ギルドの情報を流す役割を持っていたからだ。
奴らの語っている”正義”には、どの角度から考えても共感が出来ない。しかし、真子を治すのには・・・。苦渋の選択ではない。俺は疲れてしまっていた。真子を殺して、俺も死ぬ事を考え始めた時に、奴らが俺に声をかけてきた。
最初は、眉唾以上の感想はなかった。
しかし、誘われるままに、奴らの会合に行くうちに、信じては居ないが縋ってみたい気持ちになってしまった。
そこからは、抜け出せない沼に嵌った感じだ。
本当に、重要な情報にはアタッチ出来なかったのは、円香が俺を疑っていたからだろう。
そして、今日の会合だ。
茜嬢が、あのスライムの所に行って素材を貰って来た。どうやらそれだけではないという話だ。奴らには、スライム嬢の話はしていない。話したとしても奴らは信じないだろう。悪い意味で奴らは”常識”を持っている。その常識から外れる事柄は、異端として糾弾するか排除するか・・・。
茜嬢のスキルは気になるが、それ以上に・・・。
「あのぉ・・・。円香さん。孔明さん。孔明さんは、妹さん。真子さんが治る手段を探しているのですよね?もし、私・・・、じゃなくて、ギルドが提供できる情報の中にあるとしたら、どうしますか?それでも、聖賢塾側の人間のままですか?」
意味が解らなかった。
真子が治る?
不可能だ。だから、俺は・・・。
---
私の発言で、円香さんが私を睨みつけています。
孔明さんは、私を可愛そうな子を見るような目で見ています。
「孔明さん!はっきりして下さい!真子さんが治る手段を私が提供できるのだとしたら、どうしますか?」
孔明さんの表情が歪みます。
「まて、茜!」
「いえ、待ちません。孔明さん。はっきり宣言してください」
”お姉ちゃん!”
え?ユグド?
このタイミングでユグドが私に話しかけてきた?
孔明さんを見れば動揺しているのが解る。
”お姉ちゃん。ギアスをかけられるよ?”
ギアス?
”うん。契約。聖樹の枝を埋め込む事で、約束を破ったら、聖樹が一気に成長する”
聖樹が成長?
ユグドの養分になるの?
その前に、私の考えがユグドに筒抜け?
”うん。お姉ちゃん。リンクを切らない状態だから、会話ができるよ?”
その当たり前だという様なレベルじゃないからね?
でも、今は助かった。
契約はわかった。約束は決められるの?
”うん”
そっちに行った時に教えて!
”うん”
「茜嬢」「茜!」
「あっごめんなさい。少し、眷属から連絡が入ったから・・・」
二人の表情が強張ります。
そうか、”遠隔での会話”の話はしていなかった。まぁ今更だよね。今更!
「茜。それは、スキルなのか?」
「あとで、まとめて説明します。今は、孔明さんです。孔明さん。答えてください!」
「茜嬢。俺が、ここで頷いたとして信じるのか?」
孔明さんはやはり筋を大事にしているのでしょう。
そんな事を確認しなくても良いのに、確認してきました。
「私には、解りません。でも、私たちには、仲間がいます。だから、孔明さんの言葉を信じます。それに、私の眷属のスキルを使えば・・・」
二人の顔が強張るのがわかります。
そうでしょう。そうでしょう。私も同じ気持ちです。既に、人間を辞めている可能性は忘れているので、”こいつ”何を言っているみたいな目で見るのは辞めてもらいたい。自覚はしていますが、認めていなければ大丈夫なのです。
「茜。そもそも、欠損を治せるのか?」
「どうでしょう?円香さん。孔明さんの話を聞きましょう。私の話は、孔明さんの覚悟が解ってからだと思いますが?」
円香さんの顔が歪むのが解る。
初めて、円香さんに勝てた気がします。これも、主殿の所でいろいろ見聞きした結果なので、主殿のおかげです。
「孔明!」
「円香。茜嬢。俺には・・・。縋るのなら、茜嬢の情報の方が・・・」
「そうですね。私の垂らしたいとは太いですよ」
「ははは。茜嬢に従う。俺はどうなってもかまわない。真子は、真子と家族を頼む」
心痛な表情を浮かべていますが、別に私は裁こうとか思っていません。
「わかりました。孔明さん。円香さんとバディーを組んでください。円香さん。孔明さんの監視をお願いします」
「は?」「え?」
「だって、私はこれから、凄く忙しくなります。これは確定です。レポートだけでも、数百件では済まない可能性があります。報告を聞いてくれたらわかりますが・・・。本当に、酷いですよ。聞いて後悔する内容が10件くらい。頭を抱える内容が5件ほど・・・。そして、報告した私を殴りたくなることが3件。あとは、聞かなければよかったと思う事が多数です」
ドヤ顔で二人を見ますが、信じてくれているとは思えません。
そうでしょう。ただ、素材を受け取りに行って話を聞いただけだと思っているのでしょう。
「茜」「茜嬢」
二人は可哀そうな子を見るような目で私を見ます。
その顔は忘れません。数時間後に、同じ目で二人を見てあげます。絶対です。
「どうですか?円香さん、孔明さん」
「孔明。二重スパイになるがかまわないか?」
「かまわない。そもそも、アイツらからの情報は、ギルドには必要ないぞ?」
「ある。アイツらの動きを知りたい。属している議員とか、敵対している議員や官僚がわかれば、情報の持っていき方が変るだろう?」
「そうだな。わかった。情報は、円香に流す。それでいいか?」
「茜。どうだ?」
「はい。大丈夫です。まずは、真子さんの復活を考えましょう」
「おいおい。いきなりだな」
呆れる円香さんを無視して、主殿メモを開きます。
主殿が書いたノートでは、報告の体裁が出来ていなかったことや、文字が”女子高校生”していたので、私が書き直した物です。
なので、全部ではありません。全部は無理です。そもそも、検証をしなければならない話が多すぎます。
ポーションの生成は、ギルドの目玉になると思って、報告書に書いてあります。
私の手書きなので恥ずかしいのですが・・・。ワイズマンに入力ができない様に、電子データにはしていません。
報告書の一部を円香さんと孔明さんに見せます。
「・・・」「・・・」
何か言って欲しい。
沈黙は怖いです。
「茜嬢。これは・・・」
「主殿から提供された情報の一部です」
「一部なのか?」
「はい。軽い、雑談で教えられた話です。縁側に座りながら、出されたお茶を飲みながら、”知っていますよね?”という雰囲気で教えられた内容です」
「・・・。おい。円香。・・・。円香!」
「孔明。すまん。茜。簡単に書かれているが、人での検証は?安全性は?」
「していると思いますか?」
「そうだな。最後の所が、問題になるか・・・」
主殿は、可能性の一つとして、”スキルを持っている必要がある”と書かれていました。スキルを得る為には、魔物を倒さなければならない。はずでした。
「あぁ。孔明さん。真子さんは?」
首を横に振る。
当然ですよね。スキルを持つ人は、全体の1%にも満たないはずです。
しかし、安心してください。
別の報告書を取り出します。
「これで、大丈夫だと思います。主殿が言うには、いくつかの方法で、スキルを得る事ができるようです。確実なのは・・・」
安全なのは、私や千明が行った方法です。
もう一つは、主殿も推奨はしないと言っていました。ただ、推奨しない方は、確実性が高い方法です。
私としては、安全を優先したいのですが・・・。
報告書を読んで、孔明さんが私を見ます。
私の考えが解ったのでしょうか?
「茜嬢。安全な方法は、確実では無いのだな」
「はい。可能性を上げる方法は、あります。主殿が行った方法なのですが・・・。私にできるか解らないので、主殿にお願いする必要が出て来るかもしれません」
「わかった。それは試してみてからだな。真子は、モモンガを部屋で飼い始めている」
「懐いていますか?」
「あぁいつも一緒に居る。片時も離れない」
「それなら可能性がありますね」
報告の前に、大きな問題が発生した。
問題の解決策は、報告に関連することだった。
主殿には感謝しなければ・・・。
方向性が決まった。
まずは、ポーションを用意しよう。それから、魔石を持っていってもらう。
ユグドに相談かな?
円香さんと孔明さんが、何かを話している。銀の名前が出ていることから、さっきの話なのだろう。私には解らない。そっちは、円香さんと孔明さんに任せてしまおう。
”ユグド”
”なぁに?”
”ポーションを作りたいのだけど、材料は揃っている?”
”うーん。お水が欲しい。出来れば、綺麗なお水がいい!”
”綺麗な水?”
”うん”
二人を見ると、まだ話をしているけど、報告を終わらせたい。
「円香さん!孔明さん!」
「なんだ?」
「綺麗な水が必要なのですが?」
「綺麗な水?」
「はい。蒸留水とかがいいのでしょうかね?」
「それなら、高純度精製水でいいか?エンチョーに行けば買えると思うぞ?」
「ポーションを作るのに必要なので、買いに行ってきます」
「茜!待て、まずは報告を先にしてくれ、頼む」
「え?そうですね。蒼さんと千明は?」
「そろそろ」
千明から、スマホに連絡が入った。
私の部屋に行ったけど、空いていなかったらしい。当たり前だけど、急いで行くと連絡を入れる。蒼さんも一緒にいるようだ。
円香さんと孔明さんに千明からのメッセージを伝えて、私の部屋に移動する。
ポーションの作成は、説明が終わってからに決まった。
「茜。本当に、大丈夫なのか?」
「大丈夫です。部屋の状態が、報告の1件です。ちなみに”頭を抱えたくなる”レベルです」
「・・・。まぁ、わかった」
部屋の前では、アトスを抱いた千明と蒼さんが待っていた。
蒼さんは、私と円香さんと孔明さんを見て何かを納得した感じがしたので、多分知っていたのでしょう。
玄関を開けて、部屋に案内します。
やっぱり、そうなりますよね?
「あ!お姉ちゃん。おかえり!」
「ただいま、ユグド。椅子とテーブルをお願い」
「うん!」
部屋の中央に、椅子とテーブルが現れます。もちろん、木と草で構成された物です。
円香さんが私を睨みます。
皆も、困惑している表情です。話が進みません。
「聞きたいことは理解しているつもりです。だから、お願いです。座ってください。ユグド。飲み物をお願い」
「うん!」
ユグドが、パタパタと部屋から出てキッチンに移動する。もう何でもありだな。珈琲メーカーの使い方を教えてある。それに、主殿とも繋がっているので、いろいろ知っている。
椅子に座って、テーブルの上に置かれた珈琲を飲んでから、円香さんが私を睨みます。わかりますよ。早く説明をしろと言いたいのでしょう。理解をしています。気持ちもわかります。
少しだけ待ってください。後ろで、クロトとラキシがアトスにいろいろ教えています。クシナとスサノも加わっています。ユグド。お願いですから、声に出して説明をしないでください。皆の視線が怖いです。
お!アトスが、糸が使えたようです。あとは、練習していれば、スキルが芽生えて、千明にもスキルが芽生えるでしょう。
よかった。よかった。
「茜?アトスが、忍者猫になったの?」
「えぇと、まずは、孔明さん。円香さん。買い取りとして預かった物ですが、どうしましょうか?これが、”頭を抱えたくなる件”の2件目と3件目です」
「茜。まずは、物を見せて欲しい」
「いいですよ。ユグド」
「うん!お姉ちゃん」
ユグドが、箱を持ってきた。
一つは、魔石が入っていた物で、半分くらいは、ユグドの本体に与えてしまった。これは、黙っているつもりだ。主殿から、私が貰った物だという判断にしてしまおうと思っています。
「うーん。蒼さん。箱を持って、中に手を入れてみてください」
「茜。中は、空・・・。ん?何か変だぞ?」
「大丈夫です。中に手を入れてください」
「あぁ・・・。お?おい!茜。これは、何だ?」
「何だと言われても、”頭を抱えたくなる報告”の一つです」
「これは、誰でも使えるのか?」
「スキルを持っている人なら使えるだろうと、主殿から言われています」
「茜さんや・・・。え?これよりも、酷い報告があるのか?」
「”酷い”?違いますよ。”すばらしい”です。ただ、どこまで報告するのか?どこまで公表するのか考える必要があるだけです」
「おい。蒼!茜!説明をしろ!」
円香さんは痺れを切らしました。蒼さんが、円香さんにアイテムボックスを渡します。手を入れると、円香さんの顔が変わります。私を睨んでも・・・。そのまま、黙って、孔明さんに渡します。孔明さんも、手を入れてから、首を横に振ります。そして、千明に渡します。千明は、手を入れてから、私を見ます。
「茜。これ・・・」
「うん。主殿は、”アイテムボックス”と呼んでいたよ」
それから質問の嵐です。
私が知っていることを、メモを見ながら答えます。
「茜。これは、どうした?」
「え?主殿に貰いました。荷物が多くて大変だからと・・・。ね。”頭を抱えたく”なるでしょ?この箱は6つですよ?6つ!それも、『”作れる”から持っていってください』ですよ。そして、箱の中に、箱が入るとか言っていましたよ?酷いと思いませんか?」
茜さんと、蒼さんと、孔明さんが、頭を抱えます。
「ねぇ茜。この箱の中身は?」
「主殿が”売却したい”ドロップ品です」
千明が当たり前のことを聞いてきます。
話の流れから、それ以外は無いでしょう?
「取り出しは・・・。出来た!」
千明が、箱からオーガの・・・。多分上位種のオーガの角を取り出しました。
大きさは、30cmくらいでしょうか?それが、たしか8本。箱の大きさを余裕で越えます。
「え?大きい!ねぇ茜。これってブルーオーガの角らしいけど、上位種?の角が8本もあるの?孔明さん!買い取り金額は?」
孔明さんが、首を横に振ります。
私の言っていた意味が解ってくれたようです。
凄く嬉しいです。”ざまぁ”です。私、一人に押し付けたのですから、これからは、皆で分かち合いましょう。
「茜。本当に、これは”買い取り”なのか?」
「はい。主殿からは、ギルドに預けるので、売れた場合の売却金額を下さいと言われました」
「受諾販売か?」
「はい。ギルドが預かって、売る形です。あっ!アイテムボックスの一つは、私が貰った物ですから、売りませんよ!」
「そうか・・・。孔明!」
「無理だ。売れるわけがない。買い取りも・・・。少しだけなら可能だろうけど、無理だな。これだけの物が出たら、市場が荒れる。ギルドが戦場になるぞ。それに、このアイテムボックス。一つでも、数億でも安いぞ。自衛隊なら喜んで買うぞ。20億くらいなら、5つ全部欲しいと言い出す。そして、資金力がある犯罪組織なら数百億、数千億の値段を付けるぞ」
「え?そんなに?」
「当然だ。まず、この箱の仕組みはわからないが、密輸に使えるだろう?X線とか無意味だろう?重さも無視している。そうなると、金塊の密輸やそれこそ武器が持ち込めない場所への持ち込みも可能だ」
皆が黙ってしまいます。
孔明さんの指摘はもっともだし、私も考えました。しかし、無意味なのです。
「孔明さん。千明。確かに、アイテムボックスは価値があるけど、売れませんよ?」
「え?なぜだ?」
「これには設定されていませんが、利用者設定が可能です。それに、スキルを持っていれば、解ってしまいます。あと、今のところ、作れるのは主殿だけです。多分」
皆が黙って、アイテムボックスを見つめます。
わかります。欲しいですよね。一人に一つずつあります。
「買い取りですが、不可能だとは伝えてあります。あと、主殿の家には、蔵があって、まだ沢山、アイテムが転がっていました」
「それは・・・」
「本当です。5つのアイテムボックスに入っている物は、一部です。全体の2割にも満たないと思います。大物もありました」
「大物?」
「はい。確認はしませんでしたが、高さ3メートル級の全身骨格です」
はい。また黙ってしまいました。
また、二つの報告しか終わっていません。
今日中に終わるのか不安になってきました。
話を聞いて後悔する件を先にすれば良かったのかもしれません。
「孔明!」
「なんだ?」
「受託販売は可能か?」
円香さんの目つきが厳しいです。
あの組織を使うのですね。確かに、このアイテム類なら、孔明さんが裏切ったとは思わないでしょう。横流しをしていると思うはずです。
「ん?あぁ可能だ」
孔明さんも、円香さんの狙いがわかったのでしょう。
「目玉は、オーガの角にして、ウルフ系やゴブリン系の素材を受諾販売に踏み切ろう。魔石はどうする?」
それは、天使湖に居たことが把握できている魔物たちです。そういうことですか・・・。
円香さんが、私に聞いてきます。
魔石は、今までなら使い道が有るので、取っておくべきでしたが・・・。
「売りましょう。スキルが付与されていない物ですし、ギルドが持っていても意味がありません」
皆が不思議そうな表情をします。
当然ですよね。魔石で、スキルが付与された魔石の回数が復活します。他にも、使い方があるのは解っているのです。
ふふふ。
次の報告は・・・。
「売りましょう。スキルが付与されていない物ですし、ギルドが持っていても意味がありません」
「茜。いいのか?魔石は、鑑定石で使うのではないのか?」
「そうですね。他にも、いろいろ使い道があるのは解っています。でも、アイテムボックスの中にあるものは売っても大丈夫です。数が多いので、全部売れるのか・・・。そちらの方が心配です」
「茜嬢。魔石は、有ればあるだけ売れる。売ってしまっていいのなら、日本国内だけではなく、海外にも欲しがる者は多い。でも、いいのか?残さなくて?」
「大丈夫です」
私は、両手をテーブルの上に置きます。
数回しか練習をしていませんが、できるはずです。私は、”やればできる子”なのです。
ほら、出来た!
手から、”コロン”と小さな魔石がテーブルに転がります。
よかった。よかった。無事に成功した。
「あ、あか、茜!な、な、何をした。お前は、い、いつから、手品が得意になった!」
蒼さんが動揺しています。それが欲しかった反応です。円香さんも、孔明さんも、怖いです。睨まないで欲しい。二人に反応してしまっている。クシナとスサノが怖いです。スキルの発動はしないように言っていますが、怖いです。
「ははは。そうですね。主殿の所で、魔石を産み出す手品を教えてもらいました」
冗談にしてしまおうかと思ったのですがダメですよね。
解っています。
「茜!」
円香さんが、テーブルを叩きます。
「魔石は、スキル持ちなら作ることが出来ます。ただ、コツが必要なので、簡単には出来ないと思います」
「え?」
ほら、”私を殴りたい”という表情になった。
「すまん。茜嬢。聞き直しで悪いが、今、”スキル持ちなら作れる”と聞こえたが?」
「はい。そういいました。主殿は、”私以外では試したことがない”と言っています。でも、スキルを持っていれば、できるというのは正しいと思います」
「そうか・・・。俺にもできるのか?」
「そうですね。まずは・・・」
私は、千明を見ます。
「え?私?」
「うん。千明。私の手を持って?」
「え?あっ。うん」
手を交差するようにして、手を繋ぎます。
そこから、主殿がしてくれたように、魔力を循環させます。千明の魔力は、主殿と違っています。でも、動けば大丈夫です。
「え?え?え?茜。なんか、動いているよ。気持ち悪い」
魔力を動かすなんて情報は、ワイズマンも持っていません。
でも、魔力を身体の中を循環させることは出来るのです。血液とは違うし、なんの物質なのか解りません。
でも、確かに存在はしているのです。
不思議な感覚です。
目に見えない。
匂いもしない。
触ることも出来ない。
でも、存在はしている。
そんな物質の様なのです。
「少しだけ、我慢して、動いている感覚を覚えて」
この感覚を掴むまでが難しいのです。
ふふふ。
これが出来れば、ほらアトスも千明を見ています。多分、アトスなら解るのでしょう。
糸を出しています。
魔力の放出ができています。
あの魔力の糸を調べれば、どんな部室なのか解るのでしょうか?
楽しみです。
そもそも、魔石を調べているのに、いまだに物質の特定ができないのが不思議でしたが、自分で魔石を産み出せるようになって解ってしまいました。
魔力や魔石は、私たちが知っている科学の埒外にあるのでしょう。
「うん」
「いくよ!」
一気に魔力を流し込む。
そうしたら、両手に異物が出来るのが把握できる。
「え?」
両手に魔石ができる。
「ほら、千明。今度は一人でやってみて!」
次の報告の為に、魔石があと一つ必要だ。
千明は素直に手を握って集中する。1分くらいの集中で、小さく「できちゃった」と呟いた。
「ね」
「”ね”じゃない!茜!これが、どれほどの事なのか解っているのか!」
「円香さん。座ってください。これが、”私を殴りたくなる”報告の一つです、ね。殴りたくなるでしょ?」
「なにを・・・。ふぅ・・・。それで?」
「それで?」
「この技術は公開していいのか?」
「あぁ主殿の思惑ですか?」
「そうだ」
「なにも・・・」
「え?」
「この程度の事は、『ギルドでは知っていますよね?』という雰囲気で雑談の中で出てきた話です。公開も何も、既知の情報だと思われています」
「はぁ?」
「あぁ次の報告をしますね」
「まて、まて、茜!」
「いえ、待ちません。魔石関連は、まとめて報告します」
テーブルの上に転がっている4つの魔石を集めます。
極小の魔石で、スライムの魔石程度の大きさです。
四つを手で覆います。
一つになるように念じます。
一つになった小さな魔石がテーブルに転がります。
上手くできた。
「ユグド」
「小を3つでいい?」
「うん」
ユグドが、小さな魔石を3つテーブルの上に出します。
もちろん、ユグドは動いていません。正確には、動いているのですが、テーブルが盛り上がって、魔石が産まれたように見えます。
同じように、魔石小を4つ持って、一つにします。
「ユグド?スキルがついている?」
「うん。あっ、ない方が良かった?それなら、こっち」
新しく、3つの魔石が出てきます。
先に出てきた魔石から、新しい魔石に切り替えます。これなら大丈夫だ。
大きめの魔石ができる。
オークの魔石くらいの大きさで、100万くらいの価値があるらしい。
皆の視線が魔石に注がれる。
「茜。お前、人間を辞めたのか?」
「円香さん。酷いですよ。人間ですよ。これも、スキルを持っていれば誰でもできる事ですよ。多分」
また、質問攻めです。
でも、まだ報告の続きです。
「ちょっと待ってください。この大きめの魔石ですが・・・。魔力を流しながら、形が変えられます。主殿は器用に指輪を作っていました。私は、まだ丸にすることしかできません」
「指輪?」
「はい」
「それは、スキルがついていてもできるのか?」
「出来ます。本命は、そちらですね」
円香さんが、大きく息を吐き出します。
わかります。聞かなければよかったと思っていることでしょう。この技術の取り扱いだけでも、かなりの爆弾です。でも、”まだまだ”です。まだ、序盤です。
「茜嬢。ちなみに、これは?」
「え?もちろん、知っていますよね?レベルです。聞いて後悔してください。取り扱いは、ギルドに一任されています」
ふふふ。
その顔が見たかった。
「俺は、疲れた。あとは、孔明と円香に任せていいか?」
「え?蒼さん。疲れたのですか?甘い物でも舐めますか?」
「ん?甘い物があるのか?」
「ありますよ。ユグド、出してあげて、クラッカーがあったから、一緒にだして」
「うん!」
ユグドが、パタパタと部屋から出ていく、別にキッチンに行く必要はないけど、キッチンに行くようです。
「茜。あの子は?いったい?」
「あぁ後で説明します。部屋の様子にも関係することで、本当に、本当に、本当に、聞いたことを後悔して、頭を抱えて、私を殴りたくなります。だから、最後に報告をおこないたいと思っています」
「はぁ・・・。わかった」
円香さんが納得してくれました。
丁度、ユグドが戻ってきました。
人数分の紅茶も持ってきました。
確かに、あの蜂蜜を使うのなら、紅茶がいいかもしれない。
クラッカーも持ってきてくれています。
皆の前に、新しく入れた紅茶と蜂蜜とクラッカーが置かれます。
「茜嬢。これは?」
「蜂蜜です。紅茶に入れてもいいですし、クラッカーに付けても美味しいと思います」
孔明さんが、小指に蜂蜜をつけて舐めます。
目を見開きます。わかります。美味しいですよね。
孔明さんの様子を見て、皆が舐めます。
「茜嬢。これは?なんだ?」
「なんだと言われても、主殿が売りたいと言ってきた”蜂蜜”です。審査を受けていないので、解らないのですが、食用です。それに、数値的な事はわかりませんが、魔力が回復します」
「茜。この蜂蜜は売るのか?」
「売れたら、売りたいと言っています。主殿の中では、この蜂蜜くらいしか売り物にならないと思っている様子でした。あっ!定期的に売れると思います」
「はぁ?」
「ミツバチ?の魔物が居て、蜂蜜を集めていました」
ほら、ほら、その顔です。
まだまだ続きますよ。
まだ、序の口です。