スキルが芽生えたので復讐したいと思います~ スライムにされてしまいました。意外と快適です。困らないので、困っています ~


 円香さんが、少女(主殿)から渡された魔石を見ている。

 円香さんやギルドの皆には伝えていないが、少女(主殿)が着ていたのは制服だ。市内の高校が”今年から採用した”制服だ。少女(主殿)が、高校に通っているのかは、判断ができない。でも、高校の制服を入手できる立場だった。

 いとこが、同じ高校に通っている。
 調べれば、解るかもしれない。でも、調べてどうするのか?あの少女(主殿)が何を望んでいるのか解らない。

”にゃ!”

「どうしたの?」

 クロトが、足下にやってくる。
 鳴き声で、クロトかラキシか判断ができる。

 二匹にも変化があった。アトスも同じような変化が発生したから、3匹に同じような変化だ。
 最初は解らなかった。少女(主殿)と会ってから、ギルドに戻ると3匹が明らかにスキルを使い始めた。蒼さんは”身体強化”と言っていたが、私と千明が確認したら、”身体強化”のスキルではない。単純に、基礎体力?能力?が上がったようだ。数値で示されないから判断は難しい。魔石が、身体に馴染んだから、魔石の力をうまく使えるようになったと、考えれば納得ができる。

 そして、目の色が変わった。
 猫らしい茶色だった目が、藍色に変わった。そして、ラキシだけが、スキルを使う時に栗色に変わる。
 どうやら、3匹の中で、ラキシだけが特別な存在のようだ。なんで、そうなったのか、ラキシたちにも解らないらしい。少女(主殿)やライ殿が”何か”を行ったわけではない。よね?

「茜!」

「はい?」

 円香さんに呼ばれてびっくりした。
 急に大きな声を出して、名前を呼ばれた。何もしていない。

「茜?気が付かない・・・。の?」

「え?なに?」

 今度は、千明だ。
 千明は、ハンドバッグから手鏡を取り出して、私に見せる。

「え?」

 私の目の色が、ラキシと同じになっている。

”ニャウ!!”

 膝の上に乗ってきたラキシを撫でると、ラキシの意思が伝わってきた。

「え?ラキシ!本当?」

”ニャウン”

 可愛く鳴くラキシを撫でる。

「円香さん」

「なんだ?」

「主殿から貰った。今、手に持っている(魔石)を貸してください!」

 扱いに困る魔石だ。
 ラキシの言葉が本当なら・・・。

/// 鑑定石(350/350)
/// 蟻のスライムから獲れた魔石を集めた物に、鑑定の力が付与された物
/// 持つことで、”鑑定”のスキルが発動できるようになる

 本当だ!
 机とか、鑑定しようとしてもダメだ。人も鑑定ができない。

「茜?」

「あっ。ごめんなさい。”鑑定”が使えるようです」

「え?本当か?」

「はい。でも、魔物由来の物だけです。人や机とか解りません」

 鑑定結果を紙に書きだす。

 少女(主殿)から貰った他の魔石も鑑定してみる

/// 魔石(480/500)
/// ウォー・ゴブリン・ソルジャーの魔石

/// 魔石(750/800)
/// ウォー・ゴブリン・メイジの魔石

/// 魔石(495/500)
/// ウォー・ゴブリン・ソルジャーの魔石

 残りの二つも、ソルジャーの魔石だ。
 数値の違いがある。数値も書き出して、円香さんに渡す。

 円香さんが、鑑定石を持って、”鑑定”と唱えている。

「茜。確認してくれ」

「はい」

 鑑定石を渡される。

「数値が変わっています。347」

「そうか・・・。鑑定、一回で魔力?が、”3”減るのか?」

「茜嬢。この魔石を鑑定して欲しい」

 孔明さんが、小さい魔石を持ってきた。

/// 魔石(7/20)
/// ゴブリンの魔石

 鑑定結果を書き出して、孔明さんに渡す。

「ありがとう。ゴブリンと出ましたか?」

「はい」

「これは?」

 渡された魔石は、少しだけ大きな魔石だ。少しだけ色が付いている。赤色?っぽく見える。

/// 魔石(11/30)
/// ゴブリン・ソルジャーの魔石

「孔明さん?」

 書き出した魔石のデータを渡す。
 難しそうな表情をする孔明さん。

「茜嬢。もう一つだけ鑑定を頼みたい」

「はい。いいですよ?」

「疲れませんか?」

「え?」

「円香の話では、1回の鑑定の実行で、魔力を”3”使うようです。茜嬢は、先ほどから連続で、10回近い鑑定をしています」

「そうですね?大丈夫だと思いますよ?」

 どうやら、私の魔力を心配してくれているようだけど、魔力の総量が解らない。疲れては居ないし、頭痛や倦怠感もないと伝える。

”ニャウ”
”にゃにゃにゃ!”

「え?本当?」

 膝の上に乗っていた、ラキシとクロトが同時に鳴いた。
 そして、”魔力”に関しての情報を私に伝えてきた。

「どうしました?」「なんだ?」

「クロトとラキシからの情報です。今は、調べるのが難しいのですが・・・」

「構わない」「教えてくれ」

 二人が、前のめりになっている。
 千明に助けを求めようと思うが、千明は蒼さんと一緒に少しだけ離れた所で、こちらを見ている。完全に、傍観者だ。アトスも退避している。千明の肩に乗っている。

「孔明!」

 蒼さんに目線を向けると、孔明さんの名前を呼んでくれた。
 助かったと思ったら・・・。甘かった。

「なんだ!」

「孔明から依頼された魔石を取って来たぞ?茜に渡せばいいのか?」

 ダメだ。使えない。

「孔明さん。次は、その魔石を鑑定すればいいのですか?」

「その前に、”魔力”に関して、知りえた情報を教えてくれ、もしかしてステータスがあるのか?」

”ニャニャウ”

「・・・」

 ラキシ。
 余計な事を・・・。

「茜!」

 はい。はい。
 無駄な努力ですね。解っています。

「魔力ですが、私の鑑定と鑑定石の鑑定は、違うようです。あっ理由は聞かないでください。そういう物だと思ってください」

 円香さんと孔明さんの反応を見ながら、クロトとラキシから聞いた話を伝える。

「私の鑑定は、私とクロトとラキシの魔力が使われるようです。鑑定程度なら、”まばたき”をする程度の疲労で、殆ど魔力を必要としないようです。鑑定レベルが上の場合には、人や魔物由来以外の鑑定ができるようですが、その時には、全力で走るくらいの疲労を感じる魔力が必要らしいです。あっ距離はわかりません。ただ、全力で走るのと同じくらいだと言っています」

 ふぅひとまず、魔力の説明ができた。
 忘れていたことがあった。

「魔石を鑑定した時に、鑑定石では数字が一つだと思います。私の鑑定では、二つです」

「そうだな」

 円香さんが、私の書いた鑑定結果をみながら頷いてくれた。

「私の鑑定結果の数値で、前の物が魔石に蓄えられている魔力の量で、後ろが魔石の限界値らしいです。魔物は、魔石の限界値で強さが決まるようです」

「・・・」「そうか・・・。茜嬢は、鑑定の負担はないのだな?」

「そうですね。ないようです。よくわかりません」

「わかった。それで、ステータスは?」

 忘れてくれていなかった。
 説明が面倒だ。

 ステータスは、あるけど・・・。ステータスとして、表示されることはない。

「はぁ・・・。ステータスは、あるようです。ただ、数値で表せるような物ではないようです。RPGの様に、HPやMPがあるわけではなく・・・。うまく説明ができませんが、戦闘力のように、全体的な強さを示す目安はあるようですが、二匹から聞いても、要領を得ない状況です」

「わかった。ステータスは、横に置いておこう。いいな。孔明。お前が気になるのはわかるが、大事なのはそこではない」

「あぁ・・・。解っている」

「茜。スキルを使うと、疲れる場合があるのだな?」

「そうみたいですね」

「蒼。お前は、スキルの使用回数を把握しているか?」

「俺か?もちろん、把握しているぞ?孔明も円香も、限界は解っているのだろう?」

”にゃにゃ!”
”ニャニャニャウ”

 え?
 はぁ・・・。そうなのね。

「茜?」「茜嬢!」

 もう・・・。もしかして、この情報は、魔物の中では常識なの?
 それとも、少女(主殿)だから知っていることなの?

 ワインズマンに聞いてみたいけど、絶対に藪蛇だよな?

 円香さんと孔明さんだけじゃなく、蒼さんの視線も怖い。

 膝の上に居る可愛い二匹を見れば、自分たちが悪い事をしたとは思っていない。そうだよね。確かに・・・。クロトとラキシは、自分たちが知っている”常識”を私に教えてくれただけ。二匹は、何も悪くない。悪くないけど、恨み言の一つも言いたくなってしまう。
 でも、可愛いから頭と背中を撫でてやろう。
 教えてくれて、”ありがとう”という気持ちを込めて・・・。恨み節は、あとで、千明にぶつけよう。これは決定事項だ。離れた場所で、アトスを確保して、こちらに気が付かれないように会話をしている。私にはよく聞こえている。

「・・・。”魔石を持って、スキルを使えば、疲れない”らしいです」

「もしかして・・・」

 円香さんが考えていることがわかってしまった。
 頷いて答える。

 魔石を持ちながら、限界までスキルを使えば、大凡の魔力量が解る。私と千明はダメだけど・・・。
 そして、スキルの必要になる魔力量が解れば、戦略を立てやすくなる。

”にゃ!”
”ニャウン!”

 ドヤ顔が可愛い。

 私が鑑定を得たように、千明もスキルを得ていた。

「それで、千明は、どんなスキルを得たの?」

「”水”スキル?」

「疑問形で言われても、解らないわよ」

”みゃみゃみゃぁ”

「え?アトス?本当?」

「千明?」

「あのね。茜に、見てもらえれば、”スキルが解る”だって」

「え?スキルは見えないよ?」

”にゃっにゃぁぁ”

「え?そうなの?千明。私の手を握ってくれる?それで、”ステータス・ディスクロージャー”と、私が言えばいいみたい?」

 孔明さんと蒼さんの視線が怖い。円香さんが、私の肩を触ろうとしているのを、孔明さんが抑えている。
 解っています。後で、しっかりと説明します。正直な話をしたら、怒られるけど、言わせてもらいたい。

 そうだ!その前に、確認しておきたいことがあった。

「クロト。ラキシ。アトス。今、いろいろ教えてくれているけど、”魔物”としては知っている事なの?それとも、主殿の関係だから、知っている事なの?」

「え?」「あっ!」「茜!」

”にゃ!”
”ニャニャニャァ”
”みぁみゃあ”

 やっぱり、よくわからないみたいだ。

「千明?」

「うん。アトスは、よく解らないみたい。でも、”教えてもらった”みたいだね」

「同じだね。そうなると、ライ殿?かな?」

”にゃ!”

「違うの?」

”にゃぁ!”

「え?ライ殿だけど、ライ殿じゃない?」

”にゃ”

「でも、教えてもらえる?」

 やっぱり、よく解らない。

「茜。クロトに、”ライ殿の本体ではなくて、主殿から教えてもらっている”のか、聞いてほしい」

”にゃにゃにゃ!”

「円香さん。クロトがいうには、”誰なのかわからないけど、教えてくれる”みたいです。あっ毎回、違う声らしいです」

「わかった。検証が不可能なことがわかった。ただ、魔物には知っていて当然の知識だと思って居た方がいいようだな」

「はい」

 千明のスキルの検証が途中だった。

「千明?」

 千明に向けて、手を差し出す。

 千明も待っていてくれたようで、握ってすぐに”ステータス・ディスクロージャー”と唱えた。

 その瞬間に、ステータスが先ほどとは違って詳細に表示される。
 ステータスは、”ある”とも”ない”とも言えない表示だ。読めるけど、意味が解らない。

「茜嬢。ステータスの変化は?」

「同じです。もっと、意味が解らない表示です」

「ふむ・・・。書き出してもらえないだろうか?」

「わかりました」

 書き出したら、英数字の羅列だ。ただ・・・。
 あっ多分。これ・・・。いや、後だ。今、考えると、確実に孔明さんは、ステータスの書き出しを頼みだす。でも・・・。

「茜。スキルが見えているよ。それでどうしたらいいの?」

 多分、これで、孔明さんや蒼さんは、自分たちのステータスを書き出せとは言わないはずだ。スキルを秘匿しておきたい気持ちが働くはずだ。円香さんは解らない。

”みゃっみゃぁあ”

「あのね。新しいスキルがあるでしょ?」

「新しい・・・。あっうん。あるよ。言っていい?」

「いいよ?」

「わかった。”スキル水”だね」

「そうそう。それで、”スキル水”に鑑定を使えば、詳細が解るみたい」

「え?うーん。やってみるね」

/// スキル(ウォータ)
/// [ボール][ランス][カッター][ウォール][シールド]
/// [ ][ ][ ][ ][ ]
/// [ ][ ][ ][ ][ ]
/// [ ][ ][ ][ ][ ]

 よくわからないけど、内容を書き出して千明に渡す。
 書き出している最中に、蒼さんが覗き込んできた。隠すほどの事ではないので、そのまま見せていた。

「茜。この空白は何?」

「うーん」

”ニャウ!ニャウ!フニャァ!”

「え?そうなの?」

”にゃ!”

「ラキシとクロトがいうには、”空きスロット”だって」

「”空きスロット”?ゲームとかでは聞くけど・・・」

”みっみゃぁみゃぁ”

「へぇ・・・。あっ・・・」

”二ッニャウゥニャウゥ”

「へぇ・・・。あっ・・・」

 千明と同じ反応をしてしまった。多分、千明もアトスから聞いたのだろう。私の顔を見ている。最初に説明を受けた千明が報告をすべきだと思うけど・・・。

「はぁ」

 円香さんだけじゃなくて、蒼さんも孔明さんも、目が怖いです。
 ”自分たちだけで納得しているな!”と言っているのが、視線からでも解る。もう一度、千明を見ると首を横に振っている。

「茜!」

「わかりました。空白は、スキルを保存できる個数らしいです」

「スキルの保存?」

「そうです。それで、スキルを保存して、次回から使えるようになるようです。あっスキルを作るのは、新しいスキルを使ってみれば解るようです」

 蒼さんが何かを思い出したようだ。
 何か、”ぶつぶつ”と言っている。そうしたら、蒼さんが覚悟を決めた表情で、手を差し出してきた。

「え?」

「俺のスキルを見てくれ」

「いいのですか?」

「あぁ考えてみれば、見られて困る事ではない。吹聴されたら困るが・・・」

「しませんよ」

 蒼さんの手を握ると、蒼さんは”ステータス・ディスクロージャー”ではなく、”スキル・ファイア・ディスクロージャー”と唱えた。

「え?」

「どうなった!?」

「あぁスキル(ファイア)だけが見られるようです」

「よし!千明嬢との話を聞いていて、”ステータス”は全部で、その部分を見せたいスキルに変えれば、開示される情報を絞れるのではないかと・・・。思った通りだ!」

 大興奮という感じだ。
 そうだ。私たちは、新しい事を調べたり、知ったり、珍しい物を取得したり、未知を減らすのが楽しくてギルドなんて組織に属していた。最前線ではないのが解ったけど、私たちは、人が知らなければならない情報を調べている。人類の最前線だ。

/// スキル(ファイア)
/// [ボール][ランス][ ][ウォール][シールド]
/// [ショット][ ][ ][ソード][ ]

 スキルの空きが少ない。
 それに、ショットとソードが追加されている?カッターが表示から消えている。

「ねぇクロト、ラキシ。段があるけど、何か意味があるの?それから、千明と空きスロットの数が違うけど、何か理由があるの?」

 私の質問に、クロトとラキシは、千明の膝の上で寛いでいたアトスを呼び寄せて、何やら話を始めた。
 猫の会議風景に和んでいたら、和んでいない者たちが私を睨んでいた。

 猫の会議が終わらない状況を利用して、私を睨んでいた者たちが、自分が持つスキルの鑑定を依頼してきた。

 孔明さんは、スキル力だ。今までの”魔法”と呼ばれる物とは違っていた。身体強化系らしい。これは、鑑定が教えてくれた。使い方も説明が出てきた。孔明さんに説明したら驚かれた。孔明さんでも知らないことが含まれていたようだ。少しだけ実験する必要があるとか言い出していた。

 問題の人が目の前に居る。
 私が、手をひっこめても、ダメだ。肩を凄い力で掴まれて、”スキル・ウィンドウ・ディスクロージャー”と”スキル・ストーン・ディスクロージャー”と”スキル・サーチ・ディスクロージャー”と連続で唱えた。

 円香さんは、ダブルではなく、最低でもトリプルなのか・・・。
 そういえば、私はフォースになるの?違うよね?

 円香さんのウィンドウは風系。ストーンは土系。
 問題は、サーチだった。

 円香さんのサーチで使えるスキルが、全部・・・。ダメだ。これは、ごまかせられない。

「円香さん」

「なんだ?」

「もしかして、サーチ系のスキルは、”日本語”で発動していませんか?」

「よくわかるな?」

「はい。スキルの表示が文字化け・・・。とは、少しだけ違いますが・・・。表示が、今までの様に表示されていません」

「ほぉ・・・。まずは、書き出してもらえるか?」

「・・・。わかりました」

 諦めた。
 この後、ステータスの調査が入るのが決定した。

 クロトとラキシとアトスの会議はまだ続いている。
 あの会議が終わったら、またスキルの調査が入るのだろうな。

 私のスキルの調査もしておこう。
 攻撃系のスキルは必要ないからいいけど、なんか私のスキルだけ調査系に偏っていない?

 よかった。
 本当に、良かった。少女・・・。主殿が連絡をしてきてくれた。

 円香さんが、私に”ステータス”の事を聞けと指示を出した。

『え?ステータス?』

「はい」

『ありませんよ?』

「え?」

『あるのですか?』

「鑑定で見た時に、何か訳が解らない文字列が並んでいて、ギルドで検証を行っていますが、これがステータスではないかと思って・・・。主殿が何か知っていたら教えてもらおうかと・・・」

『あ!鑑定で見た時の文字化けですか?』

「そうです!そうです!」

『あぁ・・・』

「何か?まずい情報ですか?」

『いえ、あまり・・・。残念な情報なので・・・。”がっかり”されてしまうのではないかと・・・』

「大丈夫です。私は、凄く助かります!」

『わかりました。あの・・・。ですね。スキルを持っていない人は、ギルドにいらっしゃいますか?』

「え?スキルを持っていない?」

 このギルドには、スキルを持っていない者は存在しない。

『はい。スキルを持っていると、情報が暗号化されます』

「え?でも、一部のスキルでは、内容が同じような文字化けになっていました」

 もう・・・。
 主殿を、ギルドに招いて、スキルや魔物に関しての、講義をお願いしたい。
 本当に、どうやって、これだけの情報を知ったのだろう?

『そのスキルを使う人は、”無詠唱”ではないでしょうか?』

 慌てて、円香さんを見る。
 確かに、私も千明もスキルを使う時には、命令だけは呟いている。ラノベ風に言えば、”詠唱短縮”?”短縮詠唱”だろう。
 蒼さんを見ると、肩をすくめている。何か、あるのだろう。後で詳しく教えてもらわないと・・・。まぁ私には攻撃に使えるようなスキルがないから、”短縮”で十分だけど、攻撃系のスキルだと”無詠唱”は必須なのだろう。

 円香さんは、肯定してくれた。違うと言われると困ってしまう。

「そうだと思います」

『それです。スキルは・・・。うまく説明ができませんが、逆位相をぶつけると打ち消します。ご存じですよね?』

 また、知らない情報だ。
 この手のことは、孔明さんだが、首を横に振っている。知らないようだ。そもそも、逆位相が解らない。

「はぁ・・・」

『この辺りは、説明が面倒なので、後で、試してください』

「解らないのですが、わかりました」

『ははは。”詠唱”や”短縮詠唱”をしていると、発動するスキルがわかりますよね?』

 今度は、蒼さんを見るが、頷いている。
 へぇ解るのか・・・。凄いな。

「はい」

『ボールならボールをぶつければ相殺ができます。属性も関係するので、水なら水。氷なら氷。同じスキルが必要です。サーチ系でも同じサーチ系で同じスキルをぶつければ相殺されます。同位相なら相殺されますが、逆位相をぶつけると、込めた力で結果が変わります』

「え?え?え?」

 皆がパニックになるのが解る。
 こんな情報は今までに存在しない。

 そして、主殿・・・。もう私も、主様と呼びたくなっているが、”氷”を例に上げている。

『どうしました?』

「主殿。スキルの属性は、火と水と風と土だけです。他は・・・」

『え?そうなのですか?家の子たちは、他に氷と炎と雷と鋼を持っていて・・・。そうなると、光と闇や聖と邪も?うーん。私が思っている以上に、スキルが見つかっていない?そんな事があるのでしょうか?』

「主殿。横から失礼します。茜の上司で、以前、話をした者だ。榑谷円香という」

『ご丁寧にありがとうございます。それで?』

「ぶしつけで申し訳ないが、”光”と”聖”は回復のスキルですか?」

『光はわかりません。聖は回復があります』

「それは、どの程度の効果があるのですか?」

『うーん。ごめんなさい。解らないです。そもそも、家の子たちは、軽い怪我ていどなので・・・。私は、スライムで、腕を切られても、再生してしまうので・・・。試すためだけに、家の子に大怪我をして来いとは言えないです』

「それは当然ですね。怪我は治るのですか?」

『はい。切り傷くらいならすぐに治ります。え?そうなの?』

「どうしました?」

『ごめんなさい。家の子。パロットといいますが・・・。”聖”のスキルを最初に取得した子ですが、”聖”のスキルは、対価が必要だけど、腕や足なら生やせる?らしいです。あと、例えばですが、目や耳の機能が・・・。それは無理?違う?あぁ切り落とされたら治せる?そうなのね。あっ聞こえていました?試したことは無いのですが、切り落とされた物ならくっつく様です。神経がどうなるかとか解らないので、治るか解りません。再生させることもできるようですが、対価が必要なようです』

「対価とは?」

『魔石で大丈夫らしいです。指なら、ゴブリンの魔石で・・・。え?ダメ?ゴブリンの指が生える?なら・・・。へぇそうなの。わかった。あっ。また、ごめんなさい。パロットがいうには、対価は魔石だけど、魔石を・・・。説明が難しいですね。私たちが使う言葉では、”磨く”ですが・・・。綺麗になった魔石が必要です。なので、ゴブリンの魔石では、磨いたら、残らないので、最低でもオークくらいの魔石が必要です。腕だと、その何倍も大きい魔石か、数が必要です』

「主殿。魔石を”磨く”とは、どういう行為なのですか?」

『スキルで”錬金”は、知られていますか?』

 また知らないスキルだ。
 主様に、スキルの取得方法を聞いたほうが早いような気がしてきた。

 孔明さんと蒼さんの顔色がどんどん悪くなっている。

 円香さんと主様の会話は続いている。
 千明は、表情を消して、会話を記憶している。文明の利器を使おうとして、録音を実行したことがあるが、主様の音声は録音されていなかった。なぜ?と思ったが、クロトたちが答えを教えてくれた。

 主様は、日本語で話をしているわけではない。スキルで会話をしているから、ラキシたちが”にゃ”と鳴いた声は録音ができるけど、私が聞いた”にゃ(ごはんまだ?)”は録音されない。

 円香さんがいろいろ聞いているけど、それ・・・。
 検証が不可能。ワイズマンに聞くのも憚れるような内容。主様に聞いて、どうするつもりなのだろう?たんなる暴走なら良くはないけど・・・。私に害がなければ・・・。いいのだけど・・・。

 孔明さんは、顔色は悪いけど、再起動に成功して、円香さんと主様の会話に参加している。
 蒼さんは、何かブツブツ言っている。スキルを得る方法を考えているのか?それも、不可能ですよ。ん?不可能ではないのか?いや、不可能か?よくわからない。私と千明が行ったように、眷属を作れば・・・。その、眷属を作るのが難しいのか?

 これは終わらない。
 円香さんと孔明さん。二人が問題だ。

 はぁ・・・。主様も人?がいい。

「円香さん。孔明(よしあき)さん。いい加減にして下さい。主殿。今日は、何か用事があったのですよね?」

『あっそうでした。その前に・・・』

 ステータスの事を教えてくれた。
 確かに、重要な事だけど・・・。ほら、また円香さんと孔明さんと、さっきまで気配を消していた、千明まで・・・。

 ステータス改め、個人(乙女の秘密)情報は、次の機会にして・・・。

「ありがとうございます。仮称個人情報は、こちらで検証します」

『お願いします。それでですね。今日、連絡をしたのは・・・』

 はぁ?
 主様・・・。主殿に格下げです。

 主殿も、円香さんサイドの人でした。

 でも、少しだけいい人でした。
 今日の質問は無料にしてくれるようです。次からは、お金を下さいという事だった。円香さんと孔明さんが、何か言いそうだったので、私が無理矢理に、主殿の話を了承した。すぐに、了承した。主殿は笑っていた。
 主殿のお願いが通るのなら、主殿が知っていることなら教えてくれるらしい。これは、もう円香さんや孔明さんだけではなく、蒼さんも、主殿の”お願い”を通すだろう。多少の無理でも大丈夫だ。

 3人がやる気になれば・・・。

 そう思っていたのだけど、なんで・・・?

 主殿の依頼は、いくつかあるのだが、ギルドは全部の依頼に応えることに決まった。

 一つ目の依頼は、スライムが大量に発生した場所のリストアップだ。リストアップは、私の仕事だ。主殿の話で、1年未満で大丈夫だと言われたが・・・。主殿から、いくつかの日付を教えられた。その中から、スライムや魔物の情報があった物をリストアップする。

「茜。どうだ?」

「芳しくないです。主殿が指摘した日付で、スライム発見の通報があったのは3回だけです。それも、数が多くても3体です」

「そうか・・・」

「円香さんは、どうですか?」

「孔明が、成功した。今、蒼が挑戦している。これだけで、歴史が変わるぞ!」

 成功したのは解っている。主殿の二つ目の依頼だ。主殿から教えられた魔石の利用方法が、ギルドで実現が可能になるのか確認を行うことだ。
 さっきから楽しそうな声が聞こえてくる。私も、円香さんと孔明さんと蒼さんがやっていることに参加したい。

 凄く楽しそうだ。

「ただいま、戻りました!」

”みゃぁ!”

 寂しかったのか、アトスが千明に駆け寄る。

「千明。おかえり!大丈夫だった?」

「うん!凄く、凄く、凄く、怪しまれた」

 主殿からの三つ目の依頼は、千明が担当していた。
 ギルドが保証人になって、海外に口座を開設する。そこに、今回の買い取り金額を振り込むことになった。主殿が日本の口座でも良いと言ったが、口座を作ることが難しかった。日本では、ギルドが保証で入っても、口座を開かせてくれる銀行が存在しなかった。

 主殿は、元日本人だ。だから、戸籍も持っているのだが、主殿に寿命があるのか解らないために、名前での口座開設は諦めた。
 そこで、主殿に法人を用意してもらって、法人の口座を作ることになった。税制上も、ギルド側としては楽になる。

 10年後、20年後に、ギルドや主殿がどうなっているのか解らないから、現状でできる限りの対策を行う事で一致した。

「振り込めた?」

「うん。次からは、ギルドの端末からでもできるようにしよう。もう嫌!」

 千明の悲鳴に近い言葉は、私にはよくわかる。
 小市民な私たちが、いきなり、2億円近い金額の振込をするのには、手が振るえるだろう。

 千明が、プリプリ怒っているのは、端末での操作を行って、振込を実行したら、いきなり、店員が現れて、奥の部屋に連れていかれて、事情の説明を求められた。

 ギルドに、主殿に振り込む資金はなかった。それを解決したのが、主殿から売り込まれた技術だ。

 魔石の効率の良い使い方だ。
 魔石をベースにして、濁りを除去する方法を、主殿が教えてくれた。

 最初に成功させたのは、クロトだ。それから、クロトのやり方を見ながら円香さんと孔明さんが実験を繰り返した。
 ギルドには、魔石のストックが無かった。それも、主殿から提供してもらった。

 その時に、天使湖の魔物を駆逐したのが、主殿たちだと教えてもらった。あの場所には、私たちギルドだけではなく、警察や消防や自衛隊がいたので、姿を見られないようにしていたのだと謝られた。
 円香さんの権限で、特A級の情報として秘匿することが決定した。特A級に指定されると、ワイズマンには登録されるが、閲覧は特A級指定を行ったギルドの許可が無ければ、閲覧ができない。

 主殿から、天使湖の実際の状況を聞いて、ワイズマンに登録するのが、私の仕事になった。これが、また大変だった。
 途中から、ワイズマンに主殿を繋げてしまおうかと本気で考えた。実行に移す前に、ワイズマンから注意されてしまった。その為に、私が主殿から聞いて、ワイズマンに登録する。ワイズマンからの質問や状況の確認指示を、主殿に質問する。

 驚いたことに、オークの変異種だけではなく、上位種や上位種の変異種まで存在していた。
 主殿からの疑問も、ワイズマンに聞いたが、答えが”不明”な質問が多かった。ワイズマンが興味を示したのが、主殿が話していた、行動限界の話だ。縄張りと表現してもいいかもしれないが、今まで、不思議に思われていた魔物の生態の一部だろうと判断された。
 私が間に入った事で、円香さんも協力してくれて、天使湖の事件に関連する問題以外は、ワイズマンに隠す事ができた。

 天使湖には、オーク種と思われる魔物だけで、100体以上が存在していた。
 魔石も、攻撃で割れてしまった物もあると言っていたが、79個がオークから摘出した状態で残っていた。

 忘れていたが、主殿は人類が欲してやまないスキルの一つを持っていた。
 ”アイテムボックス”それも、時間停止型だ。想像の産物のスキルだ。何気なく、主殿が取り出していたので、スライムの特性かと思っていた。

 主殿から提供されたオークの魔石の半分は、ワイズマンに提供する。実際には、ワイズマンが各ギルドに割り振られることになる。

 約40個の魔石を使って、主殿から提供された技術の実験を行ったのが、孔明さんだ。

 孔明さんは、最初は主殿から提供された魔石を利用して実験を行っていた。
 スキルの付与と、スキル発動時の補佐だ。

 魔石から、濁りを除去すれば、スキルの付与ができるようになる。
 スキルの発動時の補佐にも使えるようになる。もっと凄いのは、魔石を使った道具。魔道具の性能と稼働時間を飛躍的に伸ばすことができる事だ。主殿は、ゴブリンの魔石では、小さくて濁りの除去が難しいと言っていたが、円香さんの推測では、”主殿の力が強すぎるので、ゴブリンの魔石程度ではすぐに壊れてしまうのではないか?”だ。その為に、実験として、自衛隊からゴブリンの魔石を大量に融通してもらった。方法は、主殿から聞いた方法だ。

 実際には、クロトが成功してから、皆が試すようになった。

 私は、その間・・・。
 警察と消防とギルドと自衛隊に寄せられる魔物の発見状況をまとめていた。

 主殿が言っていることが本当なら、人を魔物に変える”犯罪行為”を行っている者が居る。
 行動範囲から、市内や近郊に潜伏している可能性が高い。人の可能性もあるが、魔物の可能性も捨てられない。人の可能性は、主殿が呼び出された方法は、魔物が使うとは思えないためだ。

「茜!」

「はい!」

「主殿に、振込が終了したと連絡を入れて、今後の話し合いがしたいと伝えてくれ」

「わかりました」

 買い取りの見積もりは、主殿に紙で提出している。金額の了承も貰っている。
 税金の処理もしなければならないので、住民税とかどうなっているのか解らないけど、ギルドが納める税だけは引かせてもらった。一応、こちらから買い取りの受領書を書かなければならないのも厄介です。

 主殿には、特例としてギルドのカードが発行された。カードを渡さなければならなかったが、皆が私を見て、円香さんが決定した。私の仕事となった。

 主殿が住まわれている場所は、通常では辿り着けない場所だった。寂れた港町の山間にある。
 以前の調査で空白地帯になっていた場所の一つだった。

 私と千明は、クロトかラキシかアトスが一緒なら主殿が展開している結界の中に入ることが出来た。
 普通の家でした。ただ、正直に言えば、近づきたくなかった。

 心が畏怖してしまって、怖かった。
 殺されるとか、そういうレベルでは無い。職場がギルドなので、いろいろな人と会った。所謂、反社会的な組織の人が怒鳴り込んできたこともありましたが、そういう怖さとは次元が違っていた。
 表現が難しいのですが、関わってはダメだと心が叫んでいた。目にいろいろと入っていたが、脳が判断を拒否していた。

 仕事なので、家に上がった。主殿にカードを渡して、物品の確認をして、預かり書を渡した。
 部屋に入ってからは、プレッシャーが弱まったのか、少しは落ち着いたのですが・・・。

 概算での金額を記入した見積もりを渡した時には、心臓がドキドキしてしまった。
 主様が驚いているのを見て、”安いか?”と思ったが、反応は反対だった。主殿は、二桁も下に思っていたようで、追加で何を渡そうか考えていたと聞いて、即座に止めてもらった。
 これ以上の買い取りは、主殿から聞いた技術の検証が終わって、買い取った物品の現金化が終わってからにして欲しいと懇願した。

 主殿は、見積もり金額で良いと言ってくれた。追加が必要なら連絡が欲しいとまで言われてしまった。

 そのうえで、ギルドまで連絡ができる魔道具を渡されてしまった。
 ネットでのやり取りは、楽だけど盗聴の可能性があるために、円香さんだけではなく、孔明さんや、蒼さんにも反対されていたから丁度良かった。

 しかし・・・。
 連絡の魔道具が、私にしか使えないのは・・・。少しだけ、面倒だと思ってしまった。

 最悪だ。
 今までにないくらい興奮もしている。しかし、緊張が、興奮を上回っている。吐きそうになってしまっている。

 最初は、円香さんも、蒼さんも、孔明さんも付いてくると言ってくれていたが、蒼さんは、私たちが(主殿から提供された情報を、検証してマイルドな物から)公表した件に関して、元の職場から呼び出しが掛かった。

 この時点で、主殿には約束をしていて、日時の変更を言い出しにくい状態になってしまっていた。主殿に都合がいい日をいくつか出してもらって、その中から選んだのはギルド側だ。

 でも、蒼さんが居なくても、孔明さんでも、円香さんでも、千明でも、キャンピングカーの運転はできる。

 日時を約束した後で、主殿の拠点に行くことが決定した。
 場所が確定して、キャンピングカーでの移動は不可能となった。主殿の拠点があんな場所にあるとは・・・。予想はしていた。でも・・・。

 主殿は、高校生だと言っていたけど、あの場所から学校に通っていたのか?

 今日は、主殿から依頼されていたことの、初めての報告を行う日だ。思っていた以上に問題が多い報告になってしまって、主殿にお願いして安全に報告が行える場所を用意して貰った。
 まさか、それが・・・。主殿の(拠点)に来て欲しいと言われるとは思わなかった。

 私は、絶望した。円香さんと孔明さんは喜んだ。蒼さんも、凄く喜んだ。千明は、フェードアウトを狙っていた。

 蒼さんはしょうがない。本人も、元の職場から頼られたら嫌とは言えない。
 でも、まだ円香さんと孔明さんが居たはず・・・。

 今、私はクロトとラキシをキャリーに入れて、電車に乗っている。
 ギルドからは新静岡の方が近いけど、目的の駅はJRだ。静岡駅まで、千明に送ってもらって、東海道本線の上りのホームから電車に乗った。

 電車がホームを出ていく、30分くらいかな・・・。

 なぜ一人になっているのか?
 ワイズマンからの明確な命令だ。主殿が信頼している。又は、信頼を寄せ始めている者だけで行くようにという事だ。皆が、私を一斉に見た。
 主殿と最初に会話したのは、円香さんだ。主殿との窓口は、私が担当した。主殿と話をして解ったのは、スライムになってしまっているが、本質は変わっていないということだ。人なのだ。そして、同情したりする必要はない。主殿は、スライムになってしまった事は、既に自分の中で折り合いを付けている。ただ、なぜこんな事をしたのか?そして、行った人物を知りたいという事だ。もし、主殿をスライムにした者が魔物なら、その魔物を捕えて始末したい。人なら、罪に問えるのなら、罪に問いたい。そして、自分と同じような者が産まれないようにしたいと考えている。

 外を見ると、目的の駅に近づいてきている。
 待ちまわせ時間の前に着くように電車に乗った。

 緊張で言葉がおかしくなりそう。主殿との会話で困らないように、丁寧に話さないと・・・。思考も切り替える必要がある。

 孔明さんが、蒼さんに呼ばれました。
 蒼さんだけでは、しっかりと説明が出来なかったようです。そのあとで、円香さんが本部に呼ばれました。ワイズマンからの情報を得て、本部が動いたようです。円香さんが、主殿から買い取った物を持って、本部に向かいます。買い取る予定になっている物で、まだマイルドな物を数点と、最高の危険物を持って本部に向かいました。渡米です。簡単に帰って来られないでしょう。でも、必要な儀式です。予定では、もっと後だったのですが、それだけ主殿から提供された情報のインパクトが強かったのです。

 私たちも、本部の反応を受けて、考えなおしました。
 主殿と話をして、検証ができる情報の検証を行って、ワイズマンに提供して公開情報にしたのですが、私たちは主殿の他の爆弾とも言える情報を知っています。特に、魔石を使って、動物を魔物化する方法は、私たちでは検証が成功していませんが、成功例が3匹います。他にも・・・。

 魔石の利用方法だけでも、円香さんの呼び出しがかかる位の情報だとは考えていませんでした。
 失敗でした。ギルドの予算を増やすために公開する必要があったのですが・・・。本部からの呼び出しとは・・・。

 それで、私が一人で主殿の拠点に向かっている理由です。
 千明は、ギルドに誰も居なくなると困るという理由で留守番です。出かける前に、留守番なら変わると言ったのですが、無駄でした。アトスと留守番しているから大丈夫だと言われました。

 たしかに、4-5人の強盗ならアトスだけで撃退してしまうでしょう。
 3匹の中で、アトスが武闘派になってしまって、蒼さんとの模擬戦でハンデを貰っても楽勝な状況になっています。

(ふぅ・・・)

 現実逃避をしていても、電車は予定通りに進んで、目的地の寂れた港町に到着してしまいました。

 ホームに降りたのは、私だけです。
 改札を出ると、なんと・・・。主殿が待ってくれていました。

 急いで、駆け寄る。

「お待たせして、もうしわけありません」

「いえ、私が早く来てしまっただけです」

 主殿の姿は、私服なのでしょうか?可愛い恰好です。こうして見ると、少しだけ小柄な女子高校生です。
 先日の制服姿ではない。ライ殿が一緒ではないのは、周りの人を気にされたのでしょう。

「・・・?どうしました?」

「クロトちゃんとラキシちゃんを連れてきたのですね?」

「え?ダメでしたか?」

「いえ・・・。ただ、駅などの公共施設には、魔物を感知する装置が設置されていると聞いていたので・・・」

 主殿の言葉を聞いて、主殿が駅のベンチで待っていなかった理由が解りました。

「あ・・・。それは、私たちも検証中なのですが、クロトもラキシもアトスも反応しないのです。本部から送られてきた最新の物でもダメでした」

「え?反応がしない?」

「はい」

 初めて、主殿に有益な情報を渡せた気がします。

「里見さん。試してみていいですか?」

「あっ。私の事は、茜と呼んでください。ギルドでは、”茜”が定着しているので・・・」

「わかりました。茜さん。駅には、魔物の感知を行う装置があるのですよね?」

「はい。設置の義務があります。主殿が、試されるのですか?」

「ダメですか?」

 少しだけ考えて、主殿の実験を許可しました。
 私も興味があります。それに、この駅は無人ではないのですが、ほぼ無人駅です。私のギルド証を出せば、警告音がなっても大丈夫でしょう。

「大丈夫だとは思いますが、アラームがなってしまった時には、小さなスライムを出して貰って、第三者に見つけてもらって、私が討伐したということに出来ますか?」

 私の提案を、主殿は了承してくれました。
 実際に、主殿が手の平を広げると、こぶし大のスライムが現れます。

 適当に動き回るだけのスライムらしいです。よくわからないので、スルーしました。

 主殿も緊張しているのでしょうか?
 少しだけ歩く速度が遅いように思えました。しかし、駅の券売機の前まで行って、入場券を購入して、改札を出ます。

 警告音がならない。
 装置が切られている可能性を考えて、私が持っている特殊なコードが組み込まれたスマホで確認します。

 装置の設置状況と稼働状況が解るようになっているので、確認をしますが、オールグリーンです。装置も稼働している。魔物も検知していない。
 監視カメラがあるので、死角になりそうな所で、スライムを出してみたのですが、装置は反応しません。

 欠陥品でなければ、困った情報です。
 魔物の一部は、装置に反応しないことになってしまいます。主殿に協力して貰わなければならない事柄が増えました。

 まずは、今の情報を千明に転送しておきます。
 千明から、円香さんと孔明さんと蒼さんに通達してもらいます。

(ははは)

 最初は、緊張していました。凄く凄く凄く緊張していました。
 この場所に来ることを、”嫌”だと思っていましたが、今は、来てよかったと思います。

 主殿が戻ってきた

「どうでしたか?警告音は鳴らなかったのですが?」

「なりませんでした。それに、装置が検知すると、ギルドに報告が上がるのですが、それもありません」

「装置が故障していたのですか?」

「ギルド側で調べられる状況では、オールグリーンです」

「問題がなかったという事ですか?」

「そうです」

「うーん。茜さん。後で、少しだけ実験に付き合ってください。あっ装置の仕組みとかは秘密ですか?」

 主殿の言葉が不穏当ですが、気にしません。
 面白そうなので、全面協力です。

「私の権限内なら提供します」

「ありがとうございます。他にも、いろいろお見せしたい物があるので、報告を聞いた後で相談に乗ってください」

 あっ
 ダメな奴だ。

 でも、覚悟を決めます。楽しそうなのは間違いない事です。

「わかりました」

「あ!」

 主殿が、急に困った顔をしました。

「どうしました?」

「茜さん。私たちの家の場所は把握されていますか?」

 言っている意味が解らない。解らないけど・・・。

「正確な場所はわかりません。大凡の場所は把握しています」

 これで合っているのか不安ですが、他に言いようがありません。主殿の家の位置は、把握していますが、正しいか解りません。

「そうですか・・・。それなら、家への道は解りますか?」

「はい?」

「かなりの坂道です。私は、慣れているので大丈夫ですが・・・」

 やっと、主殿が何を心配しているのか解りました。
 確かに、あの坂道を上るのは、一苦労です。しかし、大丈夫です。

「それは大丈夫です」

「そうですか?途中で疲れたら言ってください。奥の手を使います」

「奥の手?」

「はい。茜さんならお見せしても大丈夫だと思いますが、あまり褒められた方法では・・・。無いので・・・」

 怖いのですが、少しだけ・・・。本当に、少しだけ興味があります。
 主殿が”褒められた方法”では”無い”という方法です。

「ありがとうございます。疲れたら、素直に言いますね」

「はい!」

 こうして話していると、素直で可愛い女子高校生だとおもえるので不思議です。
 それに、魔物を検知するセンサーが反応を示さなかった。円香さんに報告したら、怒られそうですが・・・。来なかったことを、しっかりと後悔して下さい。

 主殿と並んで歩きます。
 駅を背にして、左側に進むのは、解っています。道順も解っているので大丈夫です。

 軽い上り坂になっている道を歩いて、古い歩道橋があるので、歩道橋で旧国道を渡ります。

 狭く古い感じの道を歩きます。
 主殿と雑談でも・・・。と、考えますが、主殿の周辺には、椋鳥や雀が寄っては離れていきます。凄く不思議な光景です。百舌鳥も居るようです。そういえば、百舌鳥は読みでは二文字なのに、漢字で書くと3文字なのは何故なのでしょう?
 関係ないことを考えないと、直視した状況を忘れられません。

 主殿の時に、寄ってきた雀が飛び立ったと思ったら、電撃を発して、草むらにいた蛇を撃退しました。
 雀が攻勢のスキル?

「主殿?」

 我慢できませんでした。聞いて、すっきりした方が良いでしょう。精神的にも・・・。ギルド的にも・・・。

「なんでしょうか?」

「先ほどの雀は?」

「あぁドーンですね。あっドーンというのは、雀たちの名前で種族名みたいな物でして・・・。家で、詳しく説明しますね。あっ!もしかして、ギルドで認識されていますか?動物が魔物化して、眷属にした時に、同種族は”族”扱いになって、一つの名前を共有するみたいなのですよね」

 ダメでした。
 一切、理解が出来ません。

”にゃにゃ”
”ニャウニャニャ”

「あっ。そうです。そんな感じです」

 え?
 主殿は、クロトとラキシと会話が成立するようです。会話ができる事もびっくりですが、クロトとラキシの説明もびっくりです。

 クロトとラキシの話が本当だとしたら、主殿が言っている”(ぞく)”は”(うじ)”に近い感じがします。クロトとラキシは鑑定で確認ができるようなので、確認してみると、クロトとラキシが言っている通りになっています。
 そもそも、”里見(私の苗字)”はどこでスキルが知ったのか疑問があります。結婚して苗字が変わったら?いろいろ不思議です。
 私の眷属になって、すぐには”氏”はなかった。無かったはずです。しかし、確認すると確かに”氏”と呼べる物が存在しています。

「それは、認識のタイミングだと思います」

「え?」

「ごめんなさい。声に出ていたので・・・」

 恥ずかしいミスです。
 頭で考えていた事を口に出していたようです。

「あっ。こちらこそ・・・。それで、”認識のタイミング”とは?」

「”シュレーディンガーの猫”と言えばわかりますか?詳しくは・・・」

 もちろん、”シュレーディンガーの猫”は知っています。
 そうですか、この手の話は孔明さんに渡して終わりにしましょう。私には、荷が勝ちすぎです。

 でも、主殿の説明でなんとなく概要がわかりました。
 言語化する能力が私には不足しているようですので、理解した内容は心に留めて、事象だけを円香さんと孔明さんに報告すればいいでしょう。主殿の説明もできるだけ思えておいて、補足で伝えれば大丈夫です。大丈夫だといいな。

 ふぅ・・・。
 精神的に疲れました。まだ、家についていないのですよ?

「どうしました?」

「え?また、声が出ていましたか?」

 主殿は、申し訳なさそうな表情で頷いてくれました。
 治さないとダメですね。

「少し先に、休憩できる場所があります。そこで、奥の手を使いますか?」

 どうしましょう。
 興味があります。

「お願いします」

 主殿が嬉しそうな表情で、手を上げます。
 どこに居たのでしょうか?アオサギ?

 大きめの鳥が飛び立ちます。
 うん。後悔しています。

「少しだけ待ってください。迎えが来ます」

「迎えですか?」

「はい!」

 主殿の言葉から、10分くらい待つかと思ったのですが、実際には待ったのは2-3分でした。

 しかし・・・。

 リヤカーを大きい狸が曳いている。やっぱり、ダメだった。よく見ると、狸だけではない。ハクビシンとアライグマ?ダメだ。常識が崩れる。馬車が、あったのは解っている。狸車やハクビシン車やアライグマ車は、存在してはダメです。
 それに、上空を見ると、浅間神社に来ていた鳥がいる。他にも、複数の鳥が・・・。

「・・・。主殿。犬は居ないのですか?」

「うーん」

「え?」

「犬は、眷属にはならないのですよね?」

「え?」

「まだ、私たちも検証が終わっていないので、解らないのですが・・・。あっ!そうですよね。ギルドで、検証を行ってくれれば!」

 ダメです。ダメです。
 絶対に、ダメです。

「茜さん!」

「はい」

 諦めます。

「犬や馬など、主人と認めている者がいる動物や、人に恨みを持っている動物が、魔物になった時に、眷属にならずに、人を襲うようなのです。天使湖にも、犬が大量に居たのですが、あのあたりで捨て犬や多頭飼育崩壊を起こした場所とか無いですか?」

 はい。
 円香さん案件です。調べるのは私だとは思いますが、千明の方が適任かな?

「すぐには解らないので、調べてみます」

「お願いします」

「そうだ。リヤカーを曳いているのが、ギブソン。元は狸なのですが、眷属になって進化しました。巨大化というスキルを持っていて、実際には4-5メートルまで大きくなれます。ハクビシンのノックは、まだ進化は出来ていないのですが、複数のスキルを持っています。アライグマはもちろん」

「ラスカル?」

「はい。アライグマと言えば、ラスカルです!」

 主殿も、あのアニメを知っているようです。
 世代では、父親世代でも違うだろうとは思いますが、有名なアニメですし、知っているのでしょう。

「ラスカルは、2段階の進化が終了して、スキルは・・・。え?あっ。ごめんなさい。ラスカルのスキルは、2つだと思っていたのですが、最近、2つ増えて4つらしいです」

 あぁスキルは簡単には増えないという常識が通用しないようです。
 そもそも、スキルは増える物なのでしょうか?

 主殿がリヤカーに乗り込みます。
 私も、リヤカーに乗ります。複数の座布団があるのは、座っていいのでしょう。立っている状態では危ないのでしょう。ここからは、急な上り坂です。

 もうクロトとラキシを出しても大丈夫だと判断して、二匹を出します。

「キャリーケース。預かりましょうか?」

「はい」

 リヤカーに置くのかと思ったら、主殿がキャリーケースを触ると、虚空に吸い込まれるようにキャリーケースが消えました。
 これが、アイテムボックス?欲しいです。凄く欲しいスキルです。

 リヤカーは、スムーズに進みます。
 狸とハクビシンとアライグマで大丈夫かと思っていましたが、問題はないようです。

 私と主殿の体重が軽いからだと思う事にします。

 リヤカーに揺られて10分くらいでしょうか?
 主殿が上空に飛んでいるアオサギに合図を送ると、目の前に家が現れます。

 確かに、不自然に認識ができない場所があったのですが、その場所が主殿の家の用です。

「やっぱり、不自然でしたか?」

「え?」

「それほど驚いていなかったので、家の位置が解っているのかと思いました」

 正直に答えた方がいいでしょう。

「はい。なぜか、認識ができない場所があったので、不自然に思えました」

「ありがとうございます。やはり、スキルを持っている人には解ってしまうのですね」

 あっ
 また・・・。です。

 記憶力を求められているように思えてきます。

「主殿?」

「はい?」

「スマホでメモを作成していいですか?」

「いいですよ?」

 不思議そうな表情をしないで欲しい。

 主殿の許可も貰ったので、しっかりとメモをして・・・。円香さんのお土産にします。

 でも、まだ家に着いただけですよね?

「お邪魔します」

「はい。スリッパをどうぞ」

 主殿の家は、外から見た時と印象が全く違った。
 周りに民家が無いのも不思議です。

「ありがとうございます。聞いていいですか?」

「なんでしょうか?」

「主殿の家の周りには、民家がないようですが・・・」

「あぁ・・・」

「あっ言い難いようなら・・・」

「別に、隠していないですし、調べたら解ってしまう事ですので・・・」

 驚愕です。
 聞いた、自分を褒めてあげたい。主殿のご両親と住んでいた家だということだ。これで、主殿の素性が解る。円香さんからの宿題の一つが解決した瞬間だ。それだけではなく、裏山ともう一つ向こうの山も主殿の土地だと笑っていた。
 何も資源にもならない山だけど、新幹線のトンネルが通っているだけで鉄塔もないから、固定資産税はJRから入ってくる利用料で賄えてしまうようだ。そして、二つの山とプラスαは、人が殆ど踏み入れない場所になっている。
 主殿は、裏山を利用して、動物(家族)たちの楽園を作った。魔物になってしまった動物を保護している。

 そして、主殿が持ち込む素材の出所がはっきりとわかった。

 裏山には、ゴブリンやオークだけではなく、オーガまで居たらしい。
 家族で協力して討伐したと笑っていたが、オーガ種を討伐できる者は限られている。それこそ、世界のトップだけだ。自衛隊が完全武装でも討伐できるのか不安になるレベルの魔物が、町の近くにある山に湧いていたのか?

「あっ安心してください」

「え?」

「静岡側の山は、監視しています」

「監視?」

「はい。後で、紹介しますが、フェズやアイズやドーンたちが交代で、近隣の山を見て回っています」

「近隣の山?」

「そうですね。安倍川までと富士川の間で北は、県境までです」

「何故?県境?」

「え?魔物は、県境を理解しているのか、越えてきませんよ?」

 新しい情報が、出てきます。
 良かったです。レコーダーで録音しています。聞き逃しがあっても大丈夫です。
 一応、メモもします。できる社会人だと主殿に見せる為です。

「それは・・・」

「あっ」

「どうしました?」

「海は、魔物が比較的自由に移動します。魔物が、川は越えないので、忘れていました」

「海?海?え?え?」

「はい。海にも、魔物は居ますよ?見つかっていますよね?」

 落ち着こう。
 海の魔物は、ギルドでも議論はされています。
 ”存在している”と言われていましたが、実際に海に居る魔物が確認されたことはありません。

 3,000メートル級の火山で魔物が産まれる。これは、不文律です。

「いえ・・・。初耳です」

「え?!本当ですか?海の方が、魔物が多いですよ?討伐していると思っていた・・・。茜さん。先に、少しだけ家族と話をしていいですか?もちろん、茜さんにも助言を頂きたいので、参加して欲しいのですが・・・」

 断れない。
 断りたいけど、断れない。

 主殿があざとく上目遣いで見上げてきました。凄く可愛いです。

「わかりました」

「良かったです。裏庭に移動します。あっ大丈夫です。縁側がありますので、そこで座って話が出来ます」

 主殿は、私を縁側に案内してくれました。
 凄く安心できる庭です。昔ながらの日本の裏庭の雰囲気です。少し・・・。本当に、少しだけ、存在してはダメな生き物が見えますが、私には見えません。

 ネコはいいです。家でネコを飼っている人は多いでしょう。猛禽類を飼っている人も居ます。でも、数がおかしい。
 鷲?鷹?梟?()()が喧嘩もしないで並んで待機しています。

 何故、蛇の上に蜂が止まっているの?蜂のサイズもおかしいよね?ミツバチ?別の蜂になっているよね?

 鳥の種類は解らないけど、数えるのも面倒に思えるくらいの数が居ます。
 狸とハクビシンとアライグマが一緒に水を飲んでいる。その隣で、栗鼠が丸まっている。可愛いから許します。

 鳥の上に蜘蛛が乗っているのも納得ができない。蜥蜴も居ますが、数がおかしい。蝙蝠も居ますが、まだ昼間です自重してください。

 ふぅ・・・。
 落ち着こう。

 水槽を見ないようにしていましたが、自己主張が激しい子が居ます。
 それも、二匹。

 あれは、鮎ですよね?もう一種類は解らないけど、川魚なのは間違いない。なぜ、川魚が泳いでいる池に、ウツボとタコが居る?
 タコは、1万歩くらい譲って我慢が出来ますが、ウツボはダメです。

「新種のウツボですか?」

 ダメです。
 私の言葉が解るようです。ウツボが水面から首を出して、横に首を振っています。

 ギフトの恩恵だと思ったのですが、違うようですね。他のスキルが反応しません。

「茜さん。どうぞ」

 主殿が差し出してくれたコップを受け取ります。
 しっかりと冷えていて美味しそうです。凄く甘そうな匂いがします。

「あっ甘い物は大丈夫ですか?」

「好物です」

 食い気味に言ってしまった。

「良かったです。パルたちが作った蜂蜜と蜜柑を使ったジュースです。美味しいですよ」

「パルさん?」

 あぁ・・・。蜂さんの名前なのですね。
 私の言葉で、蛇の上で休んでいた大きな蜂が飛びあがって挨拶してくれました。会釈をして返します。挨拶は大事です。

「ごめんなさい。今、ライが売りたい物をまとめているので、先に海の話をしていいですか?」

「はい」

 突っ込んだら負け。
 深く聞いたら後悔する。

「オクト。ノッグ。海の魔物は野放しみたいだけど、大丈夫?」

「あの、主殿?海に魔物が居るのは確定なのですか?」

「あっ簡単に説明しますね」

 辞めておけばよかった。私の好奇心が・・・。

 でも、これも聞いておいて良かったのかもしれない。
 聞かなければ、問題になっていた可能性があった。

 海に魔物は居るけど、地上に居るようなゴブリンやオークやオーガではないようだ。
 問題は、主殿も認識はしていないけど、ドラゴン種が居る可能性が示唆されたことだ。やっぱり聞かなければよかった。

 今まで長いあいだ議論して、無駄な資料を大量に作らせた、自称有識者たちを殴りたい。主殿をアドバイザーに迎えたい。
 主殿の説は、目から鱗・・・。どころではない。海底火山。3,000メートル級の海底火山が存在している。

 その周辺で魔物が産まれて、移動を行う。
 海には国境があるが、曖昧な部分も多い。地上と違って、県境はなかったと思う。あるかもしれないけど・・・。そういうのは、偉い人が考えればいい。今は、天使湖のような事が発生しないように・・・。無理でも、あの悲劇は繰り返してはダメだ。

 主殿は、タコのオクトさんとウツボのノッグさんと話をしている。
 地上と同じように、海の中の警戒網を構築できないか考えてくれるようだ。

「なぜ?」

「え?」

 あっ
 声に出てしまった。

「主殿は、そこまで魔物の討伐を考えるのですか?」

「うーん。たいした理由は無いのですが、私は、誰かが得たスキルで魔物(スライム)にされました」

 そう言って、人間の姿からスライムの姿に変わります。
 知っていても驚く光景です。

 そして、池の近くから、跳ねながら移動して、縁側に登ってから人の姿に戻りました。服はどうなるのかと思ったら、服もしっかり着ています。

「・・・」

 主殿がどんな気持ちなのか解らない。
 でも、スライムにされて、人として得られるはずだった()を諦めなければならないのは悔しいはずです。

 ”わかる”なんて軽い言葉は、口が裂けても吐けない。

「茜さん」

「はい」

「人がスキルを得るのは、魔物を倒した時ですよね?」

「基本はそうですね」

「それは、間違っているのですが・・・。今は、魔物を倒すことで、スキルを得られると考えている人が殆どです」

 え?
 あっ。私の様なパターンもあるのか?

「・・・。はい」

「私は、最初に私を魔物(スライム)にした化け物が許せない。次に、そんな愚か者にスキルを与えた魔物が許せない」

「え?」

「だから、もう人がスキルを得るような状態にならないように、私が、私の家族が、魔物を駆逐する。人に戻る方法があるか解らないですけど・・・。可能性の話として、方法があると考えれば・・・。魔物を倒し続けて、新しい知見を得るか、新しいスキルを探すしかないですよね?」

「・・・」

 主殿の考えは解りました
 でも、私に同じ事ができるのか?

 目の前に居る魔物(スライム)になってしまった少女は、心まで魔物に化け物に愚か者になっていない。

 私に、私たちに、”何が”できるか解らないけど、この少女の手助けをしてあげよう。

 一筋の涙が頬を濡らすのが解って、慌てて拭きとった。
 主殿は、私の動作を見て、可愛く笑いかけてくれた。

 主殿は、小さな声で、”ありがとう”と言ってくれた。

 その心遣いが嬉しい。そして、主殿が言っているように、スキルを持って、心が化け物に変わってしまった人は、沢山・・・。哀しい事ですが、事実です。ワイズマンに聞かなくても、ギルドの公式資料に書かれています。

 筋力アップのスキルを得た者が、恋人を殴り殺したなんて話は、それこそ両手両足の数でも足りない数があります。

 研究員の中には、スキルは人の精神を変質させると訴える者も居ますが、確固たる証拠が提示できない状況です。

「茜さん?」

「はへ?」

 なんか変な声になってしまいましたが、大丈夫です。大丈夫です。
 主殿が笑いそうになっているのをごまかしているように見えますが、大丈夫です。

「パルたちが作った蜂蜜ですが売れますか?」

「え?」

「ライがまとめていますが、食料とかは、食品衛生法みたいな奴があって面倒ですよね?」

「そうですね。魔物由来の物なら、ギルドが申請を肩代わりしますよ?」

「本当ですか!」

 そんなに嬉しいのでしょうか?

「はい」

「よかった。パルたちが増えちゃって、蜂蜜の処理に困っていたのですよね。捨てるのは・・・」

「蜂蜜は、先ほどのジュースに入っていた?」

「そうです。現物を持ってきましょうか?」

「お願いします」

 これは、凄い荷物になりそうです。
 孔明さんが帰ってきていたら、車が入って来られる場所まで迎えに来てもらわないと・・・。

「パロット!」

”くにゃ!”

 クロトとラキシと遊んでいたネコさんが鳴きました。
 ”パロット”というのが名前なのでしょう。

 あの遊びも見てはダメな事の一つです。
 某巨人を駆逐するのが目的のアニメで描かれていた立体機動を・・・。ネコが出来るのですね。クロトは、いつの間にか糸が使えるのですね。帰ったら、アトスにも教えてあげる?
 是非、教えてあげてください。千明も頭を抱えて苦しめばいい。

 クロトとラキシがいうには、私にもできるようです。一緒に練習をしようと誘われましたが、まだ人間を辞めるつもりはない。でも、楽しそうでは・・・。ダメです。ここで、頷いたら、なし崩し的にいろいろ教えられるに決まっています。

 主殿が、パロット---主殿から、主殿の家族は呼び捨てにして欲しいと言われた。そして、種族名とか意味が解らないことを教えられましたが、今は関係がないと思っています---に、何やら指示を出しています。不穏な言葉も聞こえてきましたが、気のせいです。絶対に、気のせいです。
 そして、主殿。そんな爆弾を渡さないでください。
 確かに、本当なら欲しいですよ。是非、欲しいですよ。絶対に、欲しいですよ。お借りするだけでも・・・。

「ナップ!グラッド!パロットの補助をお願い。あと、蔵にライが居るから連れてきて!」

 蔵?
 確かに、家の雰囲気から蔵が有っても不思議ではない。

「主殿。蔵とは?」

「腐らない素材とか、遊びで作った物とか・・・。あとは、魔物(スライム)になって使わなくなった物だけど、捨てるには・・・。と、いう物が置いてあるだけですよ?」

「そうなのですね。遊びで作ったとは?魔石を使った物ですか?」

「あ!それを聞きたかった事です!」

「え?」

 また、嫌な予感がします。

 主殿の質問は、意味が解らなかった。
 魔力を抜いた魔石?魔物からドロップする物と、魔物を倒す時に抜き取る物?

 違いがあるとは聞いたことがない。
 そもそも、違うの?

「ギルドでは、魔石は魔石です」

「あっそれだと・・・」

 主殿は黙って、考え始めてしまった。

 クロトとラキシが主殿の眷属と模擬戦のような事を始めています。

 うーん。
 模擬戦と言われた。それに、結界が張られているから大丈夫と言われても、ギルドで公開されている戦闘映像よりも派手だ。
 クロトとラキシから、私も加わるように言われたけど、無理。秒で死ぬ。大丈夫だと言われたけど・・・。攻撃ができるスキルがあれば違うかな?

「茜さん。これを見てください」

 どこから取り出したのか、解らないけど、5つの魔石だ。

「魔石ですよね?」

「こっちの3つは魔石です」

「え?主殿?」

 どうみても同じ物だ。大きさが違うだけで、魔石です。

「こっちの2つは、魔核です」

「魔核?」

「えぇ便宜的に付けた名前なのですが、魔物から抜き取った魔物の核です」

「・・・」

「そして、魔核には、スキルが付いています」

「え?」

「こっちの魔核には、スキルが付いています。こっちの魔核は、力が抜けてしまってスキルが発動しません」

「そうなのですか?」

「はい。魔核には、魔力の補充が出来ないので、使い道は限定されます」

 主殿が何を言っているのか・・・。まったく理解が出来ません。

「・・・。はい」

 ひとまず、頷いておきましょう。
 検証ができないのも事実ですし、ギルドで考える事で、ギルドの1職員が抱え込むような内容ではない。

「”鑑定石”で見てもらえば解りますよ?作りましょうか?」

 私が、生返事をしているのが解ったのでしょうか?
 ”鑑定石”を”作る”と言い出した。これは、聞かなかったことにします。

「いえ。大丈夫です」

「わかりました。それで、魔物がドロップする魔石ですが、属性が付いています」

「属性ですか?」

「はい。呼び方は、勝手に呼んでいるだけです。ギルドの呼び名があれば教えてください。それで・・・。色違いの魔物とか居ますよね?」

「変異種や上位種ですか?」

「そういうのですね。多分、それだと思います。私たちは、色違いと言っていますが、色違いからドロップする魔石は、浄化しないと効率が悪すぎて・・・」

「浄化?」

「はい。勝手に”浄化”と呼んでいるだけで、ギルドで同様の処理をしていると思うので、教えて欲しいです。あっギルドに渡した物は、浄化しているので大丈夫です。浄化しないと、元になった魔物が使えるスキルしか入れられないの・・・。効率が悪いですよね」

 いろいろダメな情報です。
 落ち着きましょう。

「主殿。他の二つの魔石は?」

「そうでした。3つともゴブリンの魔石なのですが、一つが色違いの魔石で、一つが弱いゴブリンの魔石で、もう一つは、弱いゴブリンの魔石を10個・・・。だと思いますが、合体させた物です。ゴブリンの魔石でも、10個くらい合体させると、いろいろなスキルの付与が出来て便利です」

「合体?」

「やって見せた方が早いですね。ゴブリンの魔石が手元にはないので、オークの魔石でやりますが・・・」

 主殿を制止しようと思った時には、既に遅かった。
 どこから取り出したのか、ゴブリンの魔石よりも大きな魔石を取り出しています。考えてはダメです。深く考えません。

 簡単に説明してくれました。聞きたくなかったです。
 一つは、裏山に居たオークで、標準体だと教えられました。そして、色違いと主殿が表現したオークの魔石が4個。

 オークの変異(上位)種の魔石は、一つはまだ”浄化”が終わっていないそうです。現在、主殿の家族(眷属)がスキルの調査をしているようなのです。ギルドの研究所・・・。必要ないですよね?主殿に任せた方がいいような気がしてきた。

 主殿は、魔石を持って魔力をぶつけます。
 そうすると、二つだった魔石が合体した。溶け合っているようです。体積は解らないのですが、二つ分の体積だと思います。多少の違いがあっても、誤差の範囲でしょう。同じように、主殿が魔石を合体させます。

「主殿?」

「なんでしょうか?」

「魔石の形は変えられるのでしょうか?」

「変えられますよ?魔力が必要ですが・・・。あっでも、茜さんやクロトちゃんとラキシちゃんならできると思います」

「え?」

「形が変えられると、道具を作るときに便利ですよ」

 それから、主殿が魔石を変える方法を教えてくれた。
 確かに、簡単に出来た。出来てしまった。でも、ギルドでは無理だろうと思う。

 ギルドに戻ってから検証しなければならない事が増えた。
 考えなければならない事がある。主殿は、自分の出した情報は公開してもよいと言われていますが、ギルドとして混乱する可能性がある為に、情報の価値と影響を考える必要がありそうです。
 難しい事なので、円香さんと孔明さんに丸投げしましょう。

 もう疲れました。本当に、疲れました。これで、本題に入っていないのですから、拷問です。

 でも、主殿の呟きを聞いてしまったら、”帰りたい”とは言えない。もっと言えば、私も主殿ともっと話をしていた。内容が心臓と胃に悪いのは諦めます。あとで、ギルドのメンバーを道連れにします。確定した未来です。しっかりと報告するまでが、私の仕事です。

「茜さん?大丈夫ですか?」

「なんでもないです」

「それなら良かったです。魔石の変形は慣れないと疲れますよね。あっ!でも、茜さんは、クロトちゃんとラキシちゃんが居るから大丈夫なのでしょうね」

「え?クロトとラキシ?」

「はい。眷属は、主と魔力を共有するので、クロトちゃんとラキシちゃんは魔力が多いので、疲れないと思います」

「魔力?多い?」

「はい」

 そうか・・・。魔力の共有?
 わからない。わからないけど、大丈夫。

「スキルの恩恵もあると思うのですが?」

「え?」

「茜さんは、スキルが増えたと思うのですが・・・」

 主殿が教えてくれました。
 確かに、スキルが増えたのですが、”眷属”との繋がりを維持する為のスキルだけだと思う。千明にも確認をしないとダメだけど・・・。

「増えては・・・。あっ!」

 そうだ。
 クロトとラキシが、糸を使っていた。私も、”できるようになる”と言っていた。

「ん?」

「いえ、クロトとラキシが、糸を出して立体駆動をやっていたので・・・。あのスキルが私にも使えるようになると・・・」

「あぁ・・・。そうですね。あれは、”糸”ではないのです」

「え?」

”にゃ”

 クロトが肯定している。主殿の言っているのが正しい?
 ”糸”でないのなら?

「あれは、スキルではなく、魔力を糸状にして使っているので・・・。スキルでは無いのです。スキルを持っている人なら誰でもできると思いますよ?」

 またダメな情報です。
 糸が魔力だとしても、魔力を見えるようにして、クロトとラキシの体重を支えるくらいに強固にする?糸の方が、某アメコミを思い出して納得ができる。

「できるのですか?」

「はい」

 いい笑顔で言い切られてしまった。

「ギルドで、クロトとラキシに教えてもらいながら検証をしてみます」

「はい!楽しいですよ!それに、楽が出来ます!」

 主殿の”楽しい”が解らないのですが、スキルを使わない方法で魔力を使うのですか?

 主殿が見本というか、”ずぼら”な人間向けの使い方を教えてくれました。
 確かに、これは便利です。覚えたくなってしまいます。クロトとラキシが、私にもできると言っているので、大丈夫なのでしょう。立体駆動にもちょっと興味がありますが、主殿のように、その場から動かないで遠くの物を手元に引き寄せる技術は”私の”夢です。片づけも立たなくても出来るのですよ?
 炬燵に入ったまま・・・。

「そうだ。茜さん」

 あっ。これは、またダメな情報だ。

「なんでしょうか?」

「もうすぐ、売りたい物をまとめたパロットが戻ってきますが、その前に教えて欲しいのですが・・・」

 やっぱり、ダメな奴でした。

 スキルを融合する?
 主殿が試してくれました。

 確かに、有効です。
 でも、ギルドで認識している人でもスキルは”ダブル”はごく少数で、”トリプル”は公式には10人も居ません。

「そうなのですか?強化系が多いのですか?」

「え?強化系?」

「あっ勝手に呼んでいるだけなので、違う呼び名があれば教えてください。肉体を強化したり、早く移動したり、視力を強化したりするのを強化系と呼んでいます。攻撃を加えるスキルは放出系と呼んでいます」

 ちょっと待って欲しい。
 認識しているスキルの数では、世界でトップクラス。もしかしたら、ワイズマンを越えている可能性もある。

「主殿。ちなみに、話せないのなら、いいのですが・・・。強化系とか放出系とか、どんなスキルがあるのですか?」

「ちょっと、私では把握が出来ていないので・・・。あとで、ライが来た時にでも・・・。あっ!そうだ!茜さんは、属性は何が得意なのですか?」

 こう爆弾を放り込まれると清々しい気持ちになってくるから不思議です。
 属性?水とか土とか?
 取得したスキルで違うのではないの?

 もしかして、ギルドだけではなく、いろいろな人たちが勘違いをしているの?

「主殿。ギルドでは、”属性”は、土属性とか水属性とか攻撃が・・・。主殿の言葉では、多分違いますよね?私の属性と言われても・・・」

「そうなのですね。また、私の勘違いですね。ごめんなさい」

「違います。違います。ギルドの認識と主殿の認識が違うだけで、どちらが間違っているとか・・・。なので、主殿が呼んでいる。”属性”を教えてください」

 泣きそうな主殿の表情から、必死に言い訳を伝えてしまった。
 事実、ギルドよりも、主殿の考えのほうが、正しいように感じています。”すんなり”信じられるのが正しい感情なのです。偉そう書かれた論文よりも、主殿の話は、実際に目の前で行われていて、検証された結果です。
 正直、一つの情報だけでも発表が怖いです。

 でも、中途半端に知って、後で後悔はしたくない。

「ありがとうございます。話さないと解らないですね。私たちが、属性と呼んでいるのは・・・」

 既に、後悔の気持ちが勝ちそうです。
 これで、物品の相談をしなければならないの?

 少しだけ落ち着こう。

 お茶が美味しい。
 お茶を入れたのが蜘蛛とハクビシンでなければ、驚かなかったのですが・・・。そして、パルたちが集めた蜂蜜で作ったと言われたクッキーもすごく美味しい。もしかして、この蜂蜜も”世”に出してはダメな物?大丈夫。大丈夫。見た目は蜂蜜。味は(よくわからないが)最高級と同じだ。だから、大丈夫。

 私が考え出すと、主殿は立ち上がって、奥に移動しました。
 考える時間をくれたのでしょうか?

 属性が合わなければスキルが覚えられない?
 もしかして、魔物を倒しても必ずスキルが獲られないのは、それが原因?

 基本属性は、「強化・助勢・放出・変異・特異」の5つに分類していた。
 強化は、自らを強化する系統
 助勢は、仲間を強化する系統(弱体もできるらしい。強化を剥がすこともできるらしい)
 放出は、補助属性を付与して放出する系統
 変異は、物質を変える系統
 特異は、固有で取得するスキル

 テイムに関するスキルは、特異に分類していた。
 強化/助勢/放出/変異は、それぞれに補助属性があり、私たちが属性と呼んでいる「水・風・土・火」だと言われました。他にも、聖や闇があるらしいです。お腹が痛くなりそうです。

 主殿がいうには、私と千明は、テイムが成立しているので、特異系ではないかと言われた。
 蒼さんは、間違いなく強化系だろう。
 円香さんは、微妙だけど変異系か特異系かと思う。主殿の説明では、強化系の可能性もある。
 孔明さんは、助勢系だと思う。

 合わないと、スキルを獲られないのは、検証が必要だがギルドとしたら有益な情報だ。
 そして、主殿の話では、魔物を倒した事で、スキルを獲られなくても、スキルが得られる土台が出来ている。その土台の上に、適合している属性と補助属性を得られる訓練を行えば、スキルが芽生えると言われた。
 ギルドにも、これに近い状況は報告されている。
 ”魔物を倒したがスキルが芽生えなかった”という()()を言っている人たちが居た。その人たちの中で、一定数の人にスキルが芽生えているのが確認された。ギルドでは、”確認を間違えていたのでは?”と考えられていたが、違ったようだ。検証が必要な情報だけど、その検証を主殿が行うのではなく、ギルドで行えばいい。その為のギルドだ。
 補助属性には上位属性があると言われた。

 もう、師匠でいいですよね?

「茜さん」

 お盆に新しい飲み物とお菓子を持ってきてくれた。

 あと、メモ用紙?ノート?

「はい」

「これ、私がスキルや属性を調べる時に使ったノートです。あまり綺麗ではないので恥ずかしいのですが、持っていきますか?」

「いいのですか?」

「はい。私が疑問に思った事や、調べて解らなかった事をまとめただけなので、ギルドならもっといろいろ知っていると思うので、必要ないかも・・・」

 そんなことは、絶対にない!
 大きな声で、主殿に賛辞の言葉を贈りたい。

「あっパロットたちの準備が終わったようです。え?うん。わかった」

「??」

「あの・・・。茜さん。ライとパロットが、実際に茜さんに見せた方がいいだろうというので、ご足労をおかけしますが、蔵まで一緒に・・・」

「もちろん、いいですよ。私も興味があります!」

 あぁ興味はあるけど・・・。
 円香さんの困った顔が見られそうです。すごく、すごく、すごく、楽しみです。

 はぁ・・・・。
 ギルドに帰りたくないな。絶対に、質問攻めに合う。