ギルドの日本支部は荒れていた。
 本部からの発表で、”情報管理部”と”スキル管理部”と”登録者管理部”だけが残されて、他が解体されることになった。主な理由は、企業からの献金を着服していた事実と、魔石の横流しの事実と、情報漏えいの事実が見つかった。特に、スキル保持者の情報や魔物の情報をプロトコル(正規の手順)以外の方法で流出させたのが問題になった。

 解体された部署を仕切っていた者たちは、多くの者が横領で当局に告発された。
 それだけではなく、ギルド本部にて査問に掛けられた。日本での法律では、”白”に出来る権力を持っていても、ギルドが存在している(日本以外の)国では有罪になる可能性があり、渡航が事実上不可能な状況になっている。
 50名もの人間が、査問に呼ばれた。ギルド日本支部の役員だけではなく、自衛官や現役の国会議員や大手マスコミの関係者が含まれていた。

 ”スライムの情報をマスコミに流した”件は、一大スキャンダルに発展した。

 最初は小さな火が点火しただけだと、考えていた。

 地方局に出入りしている。制作会社が出禁になり、廃業に追いやられた。畳み掛けるように、制作会社を仕切っていたプロデューサーの悪行が週刊誌に暴露された。これで、幕引きになると思われたが、止まらなかった。

 ギルドは絶対に必要な組織だが、営利目的ではない。営業は必要ない。企業からの協賛も必要ない。日本の税金も必要ないと、断った。

 ギルドも魔物素材や魔石を扱う財団を設立して、ギルドの運営資金の捻出を行うと発表した。国に依存しない形での運営が可能になった。日本支部の小さな問題から、世界規模の動きになった。

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 ギルド日本支部の支部長室に備え付けている電話が鳴った。スキル・登録者管理部の部長室からの内線だ。
 支部長の椅子に座っていた女性が受話器を取る。

「スキル・登録者管理部の里見部長」

『・・・。支部長』

「悪かった。茜。横領の資料はまとまったのか?期限までは、まだ時間があるが、早ければ、それだけ本部が喜ぶ」

 本来の業務とは違うが、情報管理部と一緒に、解体された営業課が行っていた内容の整理を行っている。実際には、企業から協賛金を受け取って、

『はい。概ねは・・・。まとまりました。それで、あのクズを殺しに行っていいですか?』

「どうした?殺す必要はないぞ?日本から出られなくなったからな。お仲間たちと、何やら動いているが無駄な努力だ」

『わかっていますが・・・。酷いです。協賛金にまで手を突っ込んでいました』

「金額は?」

『いま、千明がまとめていますが、多分数千万の桁ではなく、その上です』

「わかった。マスコミに発表する。情報管理部の部長に伝えてくれ、資料をまとめておいてくれ」

『わかりました。千明に殺されないように、円香さんの名前を出します』

「わかった。資料がまとまったら、送ってくれ」

『はい』

 榑谷円香は、受話器を戻して、大きく息を吐き出す。
 自衛官であり、友人の桐元孔明と上村蒼との密談を思い出す。自衛隊の腐敗に関係していた一部を粛清する。同時に、ギルドを本来の形に戻す。マスコミの一部を粛清して、ギルドに手を出せなくする。それに伴い、議員たちにも、ギルドに手を出すと火傷をすると教え込む。一度の不祥事で、ギルドをアンタッチャブルな存在にしてしまおうと考えた。

 そして悪巧みは実行された。
 実行された結果、自分たちが忙しくなったのだから、ある意味では自業自得だ。

 部下であった里見茜の友人であり、TV局に務めていた、柚木千明を引き抜いて、情報管理部の部長に抜擢した。

 さらに、ギルド日本支部や規模を縮小した。現在、兼任になっている”スキル・登録者管理部”を、2つにわける計画をしている。登録者管理部を、自衛隊の下部組織に移行する計画で進んでいる。ギルド本部からも推奨されている。登録者の個人情報は、国内で取り扱うべきだと話が進んだ。また、米軍が強く推し進めたこともあり、登録者情報は()が管理を行う。ただし、ギルドの下部組織として”登録者管理部”が設立されることに決まった。

 スキル管理部は、魔石とスキルに関するパテントの管理を行う。
 魔物と魔石とスキルは、ギルドで取り扱うことが国際ルールとなり、関連するパテントも同様に扱われる。

 ギルドの日本支部は、元々は、営業課が多くの人員を占めていた。解散に伴い、空いた人員は、各地のギルドに転属となった。ギルド日本支部も、10名程度が働くだけになり、事務所を移転した。

『支部長。自衛隊の桐元さんが、お越しです』

「わかった。会議室・・・。黒の間に通しておいてくれ」

『わかりました』

 榑谷円香は、見ていた書類にサインをした。
 ギルド本部に送る書類だ。

 端末を閉じて、黒の間に向かった。

「孔明。呼び出して、悪いな」

「いいさ。円香の話を聞く前に、俺から報告がある」

 円香は、孔明を座らせてから、カップを2つ取り出して、珈琲を入れる。

「報告?」

 孔明の正面に座りながら、持ってきた資料を孔明にわたす。

「お。これに関することだ」

 円香が持ってきたのは、登録者管理部に関することだ。

「ん?通ったのか?」

「あぁ」

「早いな。議員立法じゃ無理だろう?特措法の改定か?」

「いや”解釈”で大丈夫だと言っていた。正式には、明日の閣議で決定される。草案を渡しておく、問題があれば言ってくれと・・・」

「わかった。怖いな。いくらでも解釈が成り立ってしまう」

「そうだな。この資料はFIX版か?」

 孔明は、円香から渡された資料に目を落とす。
 そこには、魔物の出現場所が封鎖できたときの対処が書かれている。

「本部の了承は得ている。”地域の実情に合わせて、柔軟に対処せよ”と、ありがたい言葉を貰った」

 ”登録制ハンター資格精度”に関する資料だ。

「円香。でも、いいのか?」

「ん?どうせ、反対しても、流れは、”狩場”としての認識になっていくのだろう?」

「そうだな。魔石の利用は、まだ限られているが、素材の利用は始まっているからな」

「あぁ封鎖は終わったのだろう?」

「終わった。しかし・・・」

「孔明の心配は解る。わかるが、流れを止められないぞ?」

 円香の指摘は、孔明にも理解が出来る。
 世間的に、”魔物を狩る者”を”ハンター”と呼ぶようになった。

 従って、ギルドは自然と、”ハンターギルド”と呼ばれるようになる。

 魔物を狩って、素材を持ち帰れば、”金”になる。魔物は、はっきりと解る”悪”なのだ。外来種(?)で在来種を駆逐してしまう。自衛官だけでは、手に負えなくなってしまった。

 スキルを得た者たちを、”ハンター”として登録して、魔物を積極的に狩らせる場所も現れ始めた。

 日本は、武器の携帯が不可能な国だ。ナイフなどは辛うじて携帯が出来るが、他の国ほど簡単ではない。

「そうだな。ギルドとしても、自衛隊としても、狩場を解放するのはしょうがないのか・・・」

 ギルドの研究と観測の結果、魔物が産まれる場所は、3,000メートルを超える火山/休火山の火口から20キロ圏内で、人工物が少ない場所だと解った。”少ない”がどの程度なのかわか、はっきりとはしていない。自衛隊が演習を行う場所では、魔物は発見されていない。
 自衛隊は、該当する場所(狩場)を封鎖した。しかし、範囲が広く、山間部などは道を封鎖するだけになってしまった。

 ギルドが管理する形で、狩場が開放される。強力な魔物は、火口付近で産まれる。距離が離れれば、弱くなっていく。
 危険が伴う行為だが、”ハンター”たちは”狩人”と同等だとみなされた。ハンティングトロフィーを掲げる者が現れて、状況が変わった。
 ハンターは、魔物を狩る者だ。狩った魔物の素材をギルドで売ることで、金銭を得る。

「でも、よく許可が降りたな?」

「俺たちか?」

「そっちもだけど、ハンター制度だ」

「”予備役登録”が効いたみたいだな」

「そうか、国防の見地から”スキルを持つ者を、他の国に取られるわけにはいかない”だな。ギルドも同じ考えだ」

「それが、家のトップには良かったようだ。実績になる」

「訓練を受けて、許可書をだして、自衛隊の予備役になるのだよな?」

「順番は逆だ。予備役になってから、訓練を受けて、許可書が発行される」

「ハンターカードとか呼ばれているのだろう?」

「あぁプレなのに、3,000名の応募があった。上は大喜びだ」

「予備役は、給料は出ないよな?」

「給与は、ないが税金の免除がある。それに、身分証明書にもなる。訓練も無料だ。ダイエットにもなる」

「そりゃぁ人気がでるな」

「そうだな。有事の時にだけ招集がかかる予備役だ。登録のデメリットとメリットを天秤にかけているのだろう。そうだ。円香。窓口はどうする?」

「異世界物を真似するつもりだ。ギルド職員を派遣するよ。あと、掲示板は必須だし、ランキング制度を作るぞ」

「わかった。わかった」

 孔明は円香の話を聞いて、呆れた声で答えるが、他にアイディアが浮かばないのも事実だ。承認する様に、頷いた。