ライが、モモンガちゃんに触れます。
「ライ?」
「うん。大丈夫」
ライが。大丈夫だと言っているので、モモンガちゃんとのパスが繋がったのでしょう。
強制はしたくないのですが、最悪は強制的にスキルを付与させることも出来そうです。
「え?なにが?え?」
「真子さん。治療の方法を説明します」
外に居るライが。孔明さんを抑えておく必要がなくなったと報告を上げてきます。
結界の必要もないですし、外に居るライに結界を解除してもらいます。
ついでに、円香さんと茜さんを呼んできてもらいます。
孔明さんだけに見てもらうよりは、茜さんや円香さんにも見てもらったほうが安心です。
「え?治療?本当に?」
見た感じでは、デイジーの方が酷いので大丈夫だと思います。
「はい。本当です。孔明さんには説明をしていますが、最終の確認として、真子さんに説明をします。そのうえで、真子さんが決めてください」
「わからないけど・・・。わかった。貴子さん」
「うーん。できれば、”ちゃん”がいいです。真子さんは、年上ですよね?」
「え?あっうん。制服?が、どこの高校か解らないけど、制服を着る年齢じゃないよ?」
「それなら、真子さんの方が、年上です。私は、今年で16歳でした。スライムの年齢では1歳にも満たないのですが・・・。人間では、16歳まで年齢を重ねました」
「そう・・・。ご家族は?」
「両親と妹は、12歳の時に、魔物を追いかけていたと主張しているハンターが運転する車に跳ねられました。妹を庇った両親は即死でした。妹は十日後に苦しみながら死にました。握られた手の感触は魔物になった今でも覚えています」
「え?」
「真子さん知っていますか?魔物を追っていたと言えば、事故を起こして、人を跳ねて殺して逃げても罪には問われないのですよ。不思議ですよね?」
「なっ!?」
「祖父は、同じ年に・・・。裏山で見つかった魔物を駆除しにきたと言っている自衛隊が撃った弾に当たって死にました。即死でした」
「・・・」
「裏山は私の家が所有している。所謂、所有地です。魔物の駆除依頼は出していませんでした。近所の人も魔物を見ていないと言っていました。不思議ですよね。自衛隊が、勝手に私有地に入って、勝手に誤射して、庭で祖母の好きな花を植えていただけの人間を殺すのですよ?」
「・・・」
「祖母は、祖父が死んだショックで寝込んで、そのまま病院で死にました」
「・・・」
「祖母が倒れた時にも誰も見舞に来てくれません。家は呪われているらしいです」
「あ・・・」
「兄は、両親の事故の抗議に出かけて、帰ってきませんでした。翌朝、警察から病院に呼ばれました。面会したのは、白い布を被せられていた兄でした」
「貴子さ・・・。貴子ちゃん。その、ごめんなさい」
「いいですよ。調べれば解ることです。兄以外は、事故です。兄も、警察からは翌日には”事故”だと言われましたから、兄も事故だったのでしょう。顔に殴られた跡があって、服が破れて、身体中に痣のような物があっても事故だったのでしょう」
「貴子ちゃん?」
「大丈夫ですよ。私には、家族が出来ました。人ではありませんが、私と同じように、スライムになってしまった者たちの集合体であるライだけではなく、人から虐待を受けたり、殺されかけたり、搾取されるだけの者たちでしたが、力を得た者たちです。私の頼もしくも優しい家族です」
「・・・」
ダメですね。
家族の事を聞かれると、熱くなってしまいます。おばあちゃんからも注意されていたのに、これでは八つ当たりです。
「ごめんなさい。それで、治療ですが」
「え?」
「え?」
何に驚いているのでしょうか?
真子さんの治療を行うために来たのです、治療の説明をしなければ先に進めません。
布団で隠していますが、意味はありません。
茜さんが孔明さんから聞いた話を思い出します。
右足の膝から下が欠損。
左足は足首から先が動かない。
左手の中指と薬指と小指が全損。人差し指が第一関節から先が欠損。
傷跡は、腕と顔と肩にある。傷跡は、右側かな?髪の毛で隠している。
「お兄ちゃん」
孔明さんが、真子さんの横に腰を降ろします。
モモンガちゃんはおとなしくなっています。
「真子さん。モモンガちゃんの名前は?」
孔明さんが話をしようとしますが、目で制します。
必要なことではないのですが、必要なことだと意識させます。
「モモ」
「モモちゃんは、魔物になってもらいます」
「え?」
「モモちゃんには、2つのスキルを覚えてもらいます。”再生”と”治療”です。ライが調べたのですが、モモちゃんは欠損も治療が必要な状態ではないので、スキルの定着は可能です。適性も、合っています。必要なら、他のスキルも与えられますが・・・。今は、二つのスキルを覚えてもらいます」
「え?え?魔物?」
「真子さんには、モモちゃんと契約を結んでもらいます。既に、パスが出来ているようなので、名前を呼ぶだけで、モモちゃんが受け入れてくれると思います」
「パス?契約?お兄ちゃん?」
不安そうな表情で、孔明さんを見ます。
孔明さんは、私を見てきますが、これ以上の説明は難しいうえに、面倒です。
孔明さんも解っているのでしょう。真子さんの手を握るだけに留めます。
「モモちゃんが真子さんを受け入れれば、モモちゃんは真子さんの眷属です」
「眷属?」
「私とライの関係です」
「え?」
「私とライは、眷属という繋がりを持っています。そして、ライは私に”命”を預けてくれています」
「え?」「は?」「ん?クロトたちも?」
「そうです。茜さんの所に居るクロトちゃんたちも、茜さんに”命”を預けています。だから、スキルが共有されています」
「え?なに?本当?」
「はい。あっ、今は、真子さんの治療ですね。それで、モモちゃんには、ライが確認をしましたが、真子さんに全てを委ねると言っています」
「え?モモ?本当?」
”ククク。プクプク!”
「ライ」
「うん。”一緒に居たい。楽しい。優しい。嬉しい”。魔物になって、真子さんの眷属になって、意識がはっきりしたら、もっと言っている事がわかると思う」
ライのセリフに、茜さんが頷いている。
クロトちゃんたちとの会話が出来るのは、茜さんが実感しているのでしょう。
「モモ・・・」
「私は、”魂の共有”と呼んでいますが、眷属化が出来たら、スキルが真子さんと共有されます」
「貴子嬢。少しだけ質問をしていいか?」
「はい。なんでしょうか?」
「”魂の共有”でスキルが共有されると説明を受けたが、真子が”再生”や”治療”に適性が無ければどうなる?」
「うーん。孔明さん。真子さんは、スキルを持っていませんよね?」
真子さんも、孔明さんも頷いています。
円香さんを見てしまいましたが、円香さんなら、スキルを持っているかどうかの判断が出来るのはスキル構成から解っています。
「茜さんに説明をした水見式は、スキルを得てからしかできません」
「そうだな」
孔明さんが肯定してくれます。茜さんも、円香さんも頷いています。
良かったです。私の意図が解ってくれているようです。
「ライなら、水見式と同じことが出来ます。スキルを持っていない人や動物に・・・」
「え?」
「もっと、汎用的に出来るようにならないか考えているのですが、なかなか難しくて・・・。今日は、ライが、真子さんを見ますか?それとも、モモちゃんとの共有ができないときに改めて・・・」
「見てください!」
今まで黙っていた真子さんが、布団をどかして、傷ついた身体を晒して、声を張り上げます。
何か、心境の変化が有ったのでしょう。
「はい。わかりました。ライ。お願い」
「うん」
「真子お姉ちゃん。両手で手を触って」
ライは両手を差し出します。
真子さんは、傷ついた手でライの右手を触って、右手でライの左手をしっかりと握った。
「適性は、放出が一番だよ。あと、変異と助勢かな。強化は、ほぼ適性がないみたい」
「貴子嬢?」
「ライ。レベルは?」
「放出は、レベル5以上。変異と助勢はレベル4」
「レベル3以上なら、”再生”と”治療”は取得が出来ます」
「貴子さん。横からすまない。レベルというのは?」
「あっごめんなさい。私たちがわかりやすいように、取得できるスキルをレベルで分けて管理しているのです。適性に合わせてレベルで考えるとわかりやすいので・・・。そうですよね。ギルドの言い方があるのですよね。茜さんに後で教えてもらいます。今は、このまま進めさせてください」
「あぁ。茜。後は頼む」
茜さんが首を激しく横に振っています。
これから、ギルドと歩調を合わせるのなら、ギルドで使っている用語に合わせる必要があると思っています。いろいろ大変だな。
真子さんの適性なら、”聖”も使えそうだ。ライに準備をお願いしよう。
強化の適性がないと、戦えない。いざという時に困らないように、”結界”も覚えてもらおうかな?
よくわからないけど・・・。
この家は・・・。
言葉は、茜さんが教えてくれるようです。良かったです。
茜さんは優しいから、お姉ちゃんみたいで頼ってしまいます。
「真子さん。話がごちゃごちゃしてごめんなさい」
「いいよ。私は、何をしたらいいの?どうしたら・・・」
真子さんが、布団から出ている手や足を見ます。
足は、欠損の状態がはっきりとわかります。指は、解らないように、ギプスのような物が付いていますが、見れば義指だとわかります。
「最初に伝える事があります」
「はい」
まっすぐに私を射抜くような視線で見てきます。
「モモちゃんと契約すると、モモちゃんの寿命が、真子さんの寿命と同期します」
「え?」「え?」
茜さんも驚いています。
説明をしたと思うけど、しなかったかな?
「モモちゃんは、真子さんが死ぬときに、消えてなくなります」
「え?なんで?」
「私も解りません。魔物として産まれてきた場合には、ドロップや遺体が残ることがありますが、動物が魔物になってしまった場合には、何も残しません」
時間が経過して、魔物として過ごす時間が増えてきたら変わる可能性もありますが、今は”消えてしまう”現象しか確認が出来ていません。
「真子さんは、強化系の適性が皆無なので、”魔物鑑定”と”魔物支配”のスキルは付かないと思います。その代わりに、”魔物同調”のスキルが芽生える可能性があります」
「貴子嬢」「あっ質問は、後でお願いします。話が進まないので・・・」
孔明さんの心配はわかります。
でも、最後まで一気に説明をさせてほしい。
「すまない。続けてくれ」
「ありがとうございます」
孔明さんと円香さんに頭を下げます。
「真子さん?」
「なんでもない・・・。です」
モモちゃんが、いつものポジションなのでしょう。真子さんの肩に座っています。
「スキルは、実際に芽生えてから説明します」
「はい」
「ありがとうございます。モモちゃんにスキルが馴染めば、次はスキルが共有されます。これは、モモちゃんが拒否も出来ますが、拒否はしないようにお願いします」
「え?あっ・・・。はい」
「”再生”と”治療”ですが、簡単に説明をします」
「お願いします」
「”再生”には、アクティブとパッシブがあります。あっこれも、私たちが呼んでいるだけで、ギルドでは違う言い方があるかもしれません」
「はい」
「”再生”のアクティブ・スキルは、そのまま”再生”です。過去に遡って、身体を治していきます」
「え?」
「時間的には解りません。3日ほど前の欠損では、ほぼ瞬時に治りました」
「え?」「は?」「ほぉ・・・」
「真子さんの場合には、時間がかかるかもしれません。それは、ごめんなさい」
「・・・。治る?本当に?」
「はい。治ります。足が生えて、指が生えます」
「貴子嬢。なにか、代償はあるのか?」
「そうですね。魔力と呼べばいいのか?私は、マソと呼んでいますが、スキルを使う時の根源の力が必要です。真子さんの場合には、モモちゃんからもマソの共有を受けるので、マソが無くなるまでは再生が行われます」
「貴子さん。マソが無くなった場合と、再生を途中で止めることはできるのか?」
「マソが無くなった場合には、私の家族たちは、気絶しました。半日から長い子でも1日くらいで復活しました。死ぬようなことはないです。真子さんのマソ量がどの程度になるかで、起きるまでの時間は変ってきます。マソ量はスキルを取得するまでわかりません。ごめんなさい」
「ありがとう」
「再生を止めることは可能です。真子さんが思い描く、最良の場所で再生は止まります」
「・・・。ねぇ貴子ちゃん。再生があると、老化しないってこと?」
「わかりません。”再生”はクールタイムが長いので、老化はすると思います」
あれ?
茜さんが少しだけ残念な表情をします。老化したくないのなら?別の方法がある。でも、そうなると・・・。
「貴子ちゃん。”治療”は?」
「そうでした。”治療”は、痛みを快楽に変えます。それと、内臓や血管の損傷を治します」
「え?」「ほぉ・・・」
「”再生”だけだと、傷や欠損は治りますが、血が通わない臓器は腐ってしまいます。あっ私は、実感していないので解らないのですが、家族が言うには毛並みや皮膚にも”治療”は効果があるようです」
「髪の毛?」「それは・・・。また」「ははは」
「あと、真子さんには、”再生”と”治療”をごまかすために、スキルが芽生えたあとで、”聖”のスキルを覚えてもらいます。もしかしたら、自然に芽生える可能性もあります。これは、実際にスキルを得なければわかりません」
「”聖”?」
「はい。ゲームで言えば、ヒールとか、毒消しとか、癒しの魔法が使えるスキルです」
「・・・。お兄ちゃん?」
「信じられない話だろう?でも、本当のことだ。一部は検証が終わっている。円香」
「真子。本当だ。真子は、私のスキルを知っているよな?」
真子さんが頷いている。
茜さんは、知らないようだ。少しだけ動揺が見られる。
「貴子ちゃん。治療をお願いします」
「あっ。その前に、デメリットの説明をします」
「え?デメリット?」
「はい。”再生”と”治療”のスキルには、デメリットはありません。あるかもしれませんが、把握が出来ていません。これが、デメリットの一つ目です」
「それは、そうですよね。わかります」
「ありがとうございます。次のデメリットですが、真子さんのマソ量がわからないので、一度に回復できる部分が偏ってしまうかもしれません。私とライが持っている結晶を使う事が出来ますが、それでもデメリットがあります」
「・・・」
「まず、マソ量が足りない時には、再生は途中で止まります」
「はい」
「止った場合には、マソが回復してクールタイムが終わってからです。クールタイムは、治った怪我をおった現在までの日数の数倍だと予測されています。なので、真子さんの場合には、一気に回復する必要があります」
時間に依存するのは解っているのですが、検証が出来ていない項目です。
真子さんの場合には、クールタイムは5年の数倍。倍としても、10年は必要です。スキルを剥がしてもう一度つければ復活する可能性がありますが、検証が出来ていない項目です。どこかで試してみたいと思っています。
「日数の数倍?それは・・・。はい。納得ができます」
「ありがとうございます。結晶を使うことになるのですが、どの程度の結晶が必要になるのか解らないので、何とも言えませんが、マソの総量が増えて、新しいスキルが芽生える可能性があります」
「はい」
「デメリットは新しいスキルが芽生える事です」
「え?」
「魔物にしか芽生えないスキルが芽生えてしまうと、真子さんは”魔物”と同等になってしまいます」
最大のデメリットが、魔物化です。
スサノちゃんとクシナちゃんが、これに該当します。眷属になる前に、魔物しか芽生えなかったスキルが芽生えてしまって、魔物になってしまっていました。話を聞いていると、クロトちゃんとラキシちゃんとアトスちゃんも同じです。
真子さんは考え込んでしまいました。
当然ですよね。
「あっでも、魔物になったとしても、”結界”のスキルを覚えれば、殆どのことが解決します」
「貴子ちゃん。魔物になった場合に、姿はどうなるの?角とか生えるの?可愛い羽なら嬉しいな」
「見た目は変わらないと思います。これも、検証が出来ていないので・・・。ごめんなさい」
「貴子ちゃん見たいにスライムになるの?」
「スライムやゴブリンやコボルトと言った魔物にはならないと思います。家の家族ですが、魔物になった場合でも、元々の姿が変わった子は、居ません。草木から、エントやドリュアスになった子たちは居ますが、本体は草木のままです。エントやドリュアスは自分が望む分体を作り出すスキルを持っています」
「見た目は変らないの?」
「いきなり、魔物みたいな見た目にはならないと思います」
「え?それでは、デメリットは無いのと同じなのでは?」
「いえ。”結界”をうまく使わないと、街中で”センサー”に引っかかる可能性があります。あと、死んだときに何も残りません。いきなり、服だけが残ります」
「あっ・・・。でも・・・」
孔明さんを見ますが、家族に何も残せないのは辛い事です。
でも、年齢から考えると、先に寿命を迎えるのは孔明さんです。真子さんが気にしても・・・。
「あっ最後のデメリットですが・・・」
「あっ最後のデメリットですが・・・」
「え?はい」
真子さんが、姿勢を正して私を見てきます。
「”再生”のスキルが発動している状態で、快楽が身体を襲います」
「え?」
「本来、”再生”は、記憶を再生するので、痛みも再生されます」
「・・・」
「”治療”のスキルは、治療中の痛みを快楽に変えます」
「え?」
「これは、私が試せなかったので、デイジーに聞いた話です」
「治療中?」
「この辺りが微妙なのです。痛みが必ず快楽に変わるわけではないようです。スキルで与えられた痛みが、快楽に変るようなのです」
「・・・。それが、デメリット?」
「はい」
私が孔明さんを見ると、円香さんが私が懸念していることが解ったようです。嬉しいです。
「孔明!茜。リビングに戻るぞ!貴子さん。真子が、治療を受け入れた場合には、どのくらいの時間が必要だ?」
「わかりませんが、概算で良ければ・・・」
「概算で構わない」
「予測では、5ー6時間程度、8時間はかからないと思います。あっ。”再生”のスキルが芽生えてからなので、モモちゃんから考えると、60分くらいの誤差は出ます」
「貴子さんがついていてくれるか?」
「真子さんが、私で良いと言ってくれたら、結晶の提供もありますので、”再生”が終わるまでは、居たいと思います」
「孔明。いいよな?」
「あぁ貴子嬢。ライ殿。お願いする」
「貴子さん。あと、音を遮断する結界をお願いしたい」
「わかりました」
円香さんが、茜さんと孔明さんを連れて、リビングに移動します。
ライには、スライムになってもらいます。
少しだけ恥ずかしい話をしなければならないのです。
「真子さん。恥ずかしいことを聞きますが許してください」
「はい?」
「真子さん。男性との経験は?」
私の言っている意味が解ったのでしょう。徐々に顔を赤くして、真っ赤になった状態で首を横に振ります。
「一人では?」
真っ赤な状態から、さらに赤くなって、あわあわして、恥ずかしそうにしてから、首を縦に振ります。
モモちゃんで顔を隠すようにしているのが、可愛いです。
「ありがとうございます」
「・・・。いえ」
「それで、快楽が身体を数時間に渡って襲い続けます。真子さんが、快楽を感じた時に、どうなってしまうのか解らないので、孔明さんには部屋を出て行ってもらいました」
「あっ・・・」
「最大のデメリットです」
解ってもらえたようです。
恥ずかしそうにしながら考えていました。覚悟が決まったのでしょう。真子さんは、私をまっすぐに見てきます。
「貴子ちゃん。治療をお願いします」
「はい。ライ。モモちゃんにも確認して」
「うん!」
ライがモモちゃんと話を始めます。
説明が長くなりそうです。
「貴子ちゃん。あのね」
「はい?」
「私、気持ちよくなると・・・。その・・・」
恥ずかしい話のようです。
私も経験がないので解らないのです。
「私も経験がないので解らないので、はっきりと聞きます」
「・・・。うん」
「タオルが必要ですか?」
「・・・。うん。あのね。いま、私、こんな・・・。状態でしょ?」
欠損している方の腕と足を上げて見せてくれました。
「お兄ちゃんには黙って居て欲しいけど・・・」
「大丈夫です。絶対にしゃべりません」
「ありがとう。あのね。私、おむつ・・・。履いているの」
「そうですか・・・。合理的ですね」
「え?あっ。うん。だから、タオルは・・・。ないけど、おむつのままなら・・・」
「そうですか?おむつを交換しながらにしますか?」
「え?」
「妹が生きている時に、おむつを交換していましたし、おばあちゃんが倒れた時にも、病院でおむつの交換を看護師さんに教えてもらったので、出来ます」
「お願いしていい?汚いかもしれないけど・・・」
「大丈夫です。気にしないでください。あっ。孔明さんに内緒だとしたら、大量の使用済みのおむつができると大変ですね」
「・・・。うん。でも、しょうがないよね。その時には、お兄ちゃんに正直に話すよ」
「大丈夫です。ライ!まだ、アイテム袋ある?」
「うん!あっモモは、大丈夫だよ。真子さんと一緒に居られるのなら、何でもOKだって」
「わかった」
ライから、アイテム袋を受け取ります。
アイテムボックスよりも、容量は小さいのですが、持ち運ぶのならアイテム袋の方が便利です。時間停止もつけています。
「真子さん。これに、真子さんが汚したおむつやタオルを入れます」
「え?小さいのに入るの?」
「はい。あとで、真子さん専用にしますが、今は私も使えるようになっています。ゲームとかのアイテムボックスはわかります?」
「うん」
「あれだと思ってください。中に手を入れると、中に入っている物が頭の中に浮かびます。取り出したい物を考えると、取り出せます。入れるのは、袋の入口の大きさまでなので、タオルやおむつなら入ります。あとは、どこかに捨ててください。時間停止もついているので、中に入れておけば、匂いが漏れることは無いので、安心してください。このアイテム袋は、真子さんにプレゼントします」
「え?え?よく解らないけど、わかった。私は、他には何をしたらいい?」
「はい。指にはめている義指や、義足の接合器具や、怪我を隠している物を外してください。難しければ、ライが手伝います。あと、汚れると困る物は脱いでくれると嬉しいです。かなりの汗が出ると思います。水分補給が必要になりますが、何かありますか?無ければ、孔明さんに買ってきてもらおうかと思います」
「そうか・・・。汗も・・・。全裸でいい?恥ずかしいけど・・・。貴子ちゃんならいいかな・・・」
「ライ。結界は、外から見えないようにして」
「わかった」
ライが結界の属性を変更します。
「これで、外からは見えません。安心してください。でも、私とライには見えてしまうのは、ごめんなさい。マナの量が減ってきたら、結晶を追加しなければならないです。結晶は、体内に入れないとダメだと思うので、乱暴にしてしまうかもしれません。先に、謝っておきます。それと、おむつやタオルの交換をしなければならないので・・・」
「うん。わかっている。恥ずかしいけど・・・。あんまりじっくりは見ないでね?」
「そうだ!私も一緒に全裸になってもいいですよ?スライムの姿なので、全裸に価値があるとは思えませんが?」
「え?いいよ。その方が恥ずかしい」
「そうですか?私の身体を見て、あの部分を見て欲しかったけど・・・。自分では、よくわからないから・・・」
「あっ・・・。でも、それは恥ずかしいかな」
「わかりました。諦めます。ライ。最初は、任せていい?」
「うん」
「真子さん。治療を始めます。まずは、真子さんには全裸になって、タオルの上に寝てもらいます。替えのタオルとか、孔明さんに聞けばわかりますか?」
「うん。脱衣所にタオルがあるよ」
「わかりました」
真子さんが服を脱ぐのを手伝って欲しいというので、手伝います。
おむつは、パンツ型のおむつなので、履いていた物を脱いでもらって、新しいおむつを下に敷きました。履いてもらってもいいのですが、新しいおむつにかえるのが面倒なので、真子さんと話をして決めました。
真子さんが、汚れを気にされたので、ライに”浄化”と”洗浄”のスキルを使って真子さんの身体を綺麗にしました。気にするほど汚れていなかったのですが、気になったようです。あとは、事故にあってから、ムダ毛の処理をしていないから恥ずかしいと言い出しました。前向きな気持ちになってくれたようで嬉しいです。でも、さすがに私がムダ毛の処理をするのは違うと思いますし、恥ずかしさの限界を越えてしまいそうなので、治ってから自分でして下さいと言ったら、笑いながら”そうだよね”と言ってくれました。
初めて、真子さんの笑顔を見た気がします。
真子さんは、全裸になって横になってもらいます。綺麗な身体です。私よりも少しだけ大きなおっぱいです。大丈夫です。私は、スライムなので大きさは自由自在です。もしかしたら、再生で小さくなってしまうかもしれません。デメリットの一つとして伝えた方がいいかもしれません。
ライが、モモちゃんにスキルの取得を教えています。
「真子さん」
「はい」
「一つ、デメリットになる可能性がある事に気が付きました」
「え?」
「再生は、簡単に言えば、身体を元に戻すスキルです」
「はい」
「事故から、おっぱいの大きさが変っていたら、元のサイズになってしまいます」
「・・・。え?あっ!大丈夫。元々、このサイズだよ。ブラのサイズもBカップのままだし・・・。あ!お腹のお肉が減る?」
「あっ・・・。減ります。多分、大きなデメリットですね」
「そうだね。迷ってしまう位のデメリットだ!どうしよう!?お腹の肉が減ったら嫌だな!!」
二人で笑い合います。
大丈夫なようです。
モモも順調な様子です。
もう少しだけかかりそうなので、その間に、飲み物とタイルの準備を行います。
やっと治療が始められます。
ライがモモちゃんにスキルを取得させている間に、結界から出て、リビングに向かいます。
茜さんが私に気が付いてくれました。
「貴子ちゃん?どうしたの?何か、問題?」
「貴子嬢。真子は?」
「大丈夫です。デメリットの説明が終わって、真子さんの治療が始まった所です。それで、孔明さんに、お願いがあります」
「なんでも言ってくれ」
「この辺りの地理に詳しくないので解らないのですが、スポーツドリンクを買ってきて欲しいのです」
「わかった。真子が飲むのか?」
「はい。治療時に汗とかで水分が出てしまう可能性が高いこともあり、補給の為に、飲み物が欲しいのです」
「貴子さん。飲み物だけでいいのか?食べ物は?」
「食べられる状況になれるとは思えませんが、治療が終わった時に、食べられる物は有ったほうがいいかと思います」
「わかった。孔明。スーパーがあるだろう?私を連れていけ」
「円香を?」
「そうだ。茜では、料理は不可能だ」
「え?」
茜さんを見ると、恥ずかしそうに視線をそらしました。本当に、料理ができないのかな?
料理が出来そうな雰囲気があるのに・・・。そして、円香さんが・・・。料理ができる?不思議な感じがします。
円香さんは、立ち上がって、冷蔵庫をのぞいています。
何もないと言っているので、本当に食料が無いのでしょう。考えてみると、真子さんの部屋には、菓子パンの袋やお菓子の袋がありました。食器が使われた形跡がないので、食事は・・・。
「孔明。行くぞ、あと、ゼリーとか、流動食に近い物も買って来よう」
「あっ!円香さん。孔明さん。私たちの食料もお願いします!勝手にお寿司を取ったら怒りますよね?」
「怒らないが、美味しくないぞ?」
「それなら、ピザにします」
「わかった。何か買ってくる。孔明の財布からでいいな」
「あぁ。貴子嬢はどうする?何か必要か?」
「私は・・・。そうですね。何かあれば摘みます。今は、好き嫌いは無いので、何でも大丈夫です。お肉があると嬉しいです」
「わかった。丁度、富士宮には、美味しい肉の店がある。高級肉を買い占めて来る」
「ははは。お願いします」
円香さんが孔明と買い物に行ってくれるようです。
結界が有効な間に、車につけられている盗聴器を探すようです。信頼できる車の整備工場があるそうなので、買い物が終わったら、孔明さんは車を整備工場に持っていくようです。円香さんが、私を見ながら言ってくれたので、真子さんから距離を開けてくれたようです。
確かに、食事の補助は私だけでは難しい可能性があります。でも、全裸の状態の真子さんと孔明さんは会わないほうがいいでしょう。なんとかしましょう。頑張ってみます。
茜さんだけが残りましたが、今は話をしている時では無いでしょう。
脱衣所にあるというタオルを・・・。ん?
そうか、おむつもタオルも・・・。
ライに、真子さんを飲み込んで貰えば、中で何を出しても大丈夫です。
でも、ライは大丈夫だとしても、真子さんが恥ずかしさを越えてしまいそうですね。辞めておきましょう。ライの中で大量の汗や涎や排泄をしたとわかったら、真子さんが恥ずかしさで死んでしまうかもしれません。
「茜さん。真子さんの部屋に戻ります」
「うん!わかった。何か、注意することはある?」
「結界で、中が見えないようにしているので、何かあるときには、私かライが連絡に来ます」
「わかった。結界がある限りは大丈夫だと話しておくね」
「ありがとうございます」
「いいよ。貴子ちゃんも無理はしないでね」
「はい。ありがとうございます」
茜さんは、私をしっかり見て、無理をしないように言ってくれました。
嬉しいです。
私を見てくれる人です。
茜さんは、私が動き出したのを見て、視線をパソコンに戻します。
何か資料を作っているのでしょうか?
何か、私が手伝えることがあれば、いいのに・・・。無理ですよね。高校も卒業していない人間に手伝えることは無いのでしょう。
部屋に戻ると、モモちゃんが少しだけ苦しんでいます。
身体が魔物に変っているので、当然の反応です。
真子さんが、モモちゃんを抱きしめています。
モモちゃんも大丈夫だというように、真子さんの手を舐めます。
私が来てから2分くらいして、モモちゃんがぐったりしています。
「貴子ちゃん?」
「大丈夫です。真子さん。モモちゃんを呼んでください。あっ。すぐに呼ばないで、ライ。お願い」
ライが、優しく、モモちゃんを真子さんから離します。
すぐに始まるとは思えないのですが、始まってしまうと、モモちゃんを傷つける可能性があります。
「!!」
真子さんとモモちゃんにはしっかりとした絆があるようです。
眷属になる前にもはっきりとした絆が・・・。
「真子さん。モモちゃんに、真子さんの全ての感情をぶつけるように、呼んであげてください」
「わかった。モモ。モモ。大好き!これからも一緒に居ようね。ずぅーと一緒だよ。私の、私の友達で、大切な大切な・・・。モモ!」
モモちゃんがライの手の上で立ち上がります。
解っているのでしょう。パスがしっかりと繋がって・・・。いきなり、モモちゃんが光りだします。
こんなことは初めてです。
モモちゃんは最初から真子さんに全てを与えるつもりなのですね。
「ライ!」
「うん」
介入させてもらいます。
モモちゃんは、真子さんを助けたい。でも、真子さんは、モモちゃんの犠牲の上に治りたいとは思っていない。
凄くいい関係です。
だから、私も全力で支援します。
真子さんを見ます。
”再生”が始まります。
汗が吹き出します。
悶え始めます。凄いです。腰が浮いて・・・。絶頂を迎えます。
おむつとタオルを交換します。
既に、2回目です。
まずは、指が復活します。
モモちゃんが激しく暴れますが、ライがしっかりと抑えています。
「ライ。結晶をお願い」
「うん」
口だけでは間に合いません。
ごめんなさい。恥ずかしいとは思うけど、許してください。
指で広げて結晶を押し込みます。悶えが、激しくなります。声も凄いです。ライに、腕を肩と腰を抑えてもらいます。
マソが復活したのか、少しだけ落ち着きます。
足の復活は、まだ始まりません。
指が先なのでしょう。
手は殆どが治っています。内部の再生がおこなわれているのでしょうか?
「ライ。結晶を、お願い!間に合わなければ、効率は悪いけど、モモちゃんにも協力をお願いして!」
「うん」
モモちゃんは、真子さんの状態が解るのでしょう。
自分のマソを渡そうとしています。全部を渡してしまうと、モモちゃんが気絶してしまいます。そうなると、再生の時間が伸びてしまいます。真子さんの負担が大きくなります。モモちゃんにも頑張ってもらうしかありません。
昔の欠損を治すのには時間が必要なのですね。そして、それだけ大変なのですね。これは、”治療”がない状態で”再生”を行ったらどうなるのか・・・。
ゴルフボールくらいの結晶を口に2つともう一つの場所に5つ。モモちゃんに、親指サイズの結晶を20個。
時間は?
既に2時間が経過しています。既に、数えるのが面倒になるくらいの絶頂を迎えています。
一度、リビングに戻って、飲み物を貰ってきましょう。
「ライ。お願い。結晶は、暫くは大丈夫だと思うけど、見えなくなったら、口に入れてあげて」
「わかった」
真子さんは恥ずかしがると思うけど、結晶を押し込む都合上。足を閉じないようにしている。本当に、ごめんなさい。
リビングに戻ると、円香さんと孔明さんが言い争いをしています。
茜さんは、リビングのテーブルではなくてソファーに移動していました。
「あっ貴子ちゃん。こっちこっち」
茜さんに呼ばれてソファーに移動します。
「どうしたのですか?」
「ん?あぁあの二人?」
「はい」
「円香さんが、孔明さんのカードを使って、凄く沢山のお肉を買ったらしくて、その言い争い」
「え?大丈夫なのですか?」
「大丈夫だと思うよ。どうせ、孔明さんが折れることになって終わりだよ」
「そうなのですか?」
「うん。それよりも、真子ちゃんは?」
「そうでした。ゼリーと飲み物を持っていきます」
「そっちの袋に入っているよ」
「わかりました」
中身を見ると、飲むゼリーが二つとスポーツドリンクの500mlが2本入っています。
よく見ると、袋が10袋あります。中身は同じように仕分けされています。
袋を持って、部屋に戻ります。
三つもあれば足りるかな?
真子さんの快楽の波が少しだけ落ち着いたようです。
「たか・・・こちゃん」
「はい」
身体を起こしてくれました。
自分の手を見て、涙を流しています。
指が無かった手にゼリーを渡します。
まだ力が入らないのでしょう。でも、自分の手でしっかりと触れたので、嬉しいのでしょう。手で顔を覆って、涙を流しています。
足の復活はもう少し後になりそうです。
今は、顔や腕や肩の傷が盛り上がって治っていくようです。
再生の速度がゆっくりになっているのは、スキルの調整が出来るようになったからなのでしょうか?
あとで、真子さんに話を聞きたいです。パッシブスキルの制御ができた例はありません。もしかしたら、何か方法があるのかもしれません。
興味深いです。
「たかこちゃん。ゼリー。まだある?」
お腹が空いているのでしょう。
「あります。蓋を開けますね」
「ありがとう。うで・・・。だるい・・・。たべさせて」
腕には力が入るようですが、だるいのは収まっていないようです。
「わかりました」
真子さんの口元にゼリーを持っていきます。
全裸で汗だくなので疲れているのでしょう。傷の修復にも、快楽があるのでしょう。我慢している様子です。
「たかこちゃん。ひどいよ」
「え?」
何か私・・・。酷い事をしたのでしょうか?
「ゆび・・・。いれた?はじめて・・・。なのに・・・。すこ・・・し、いた・・・かった」
え?
あぁそういうことですか・・・。
「わたしは、魔物なので、ノーカンです」
「えぇ・・・。あんなゆびでひろげておくまでゆびを・・・。はずかしかった」
たしかに、私が人間だった時に、同じようにされたら恥ずかしかったでしょう。
謝るのがいいでしょう。
”すごく綺麗でした”は、言わないほうがいいでしょうね。
「はい。ごめんなさい。方法が、なかったので・・・」
「ううん。いいの。でも・・・」
「はい?」
真子さんが、弱弱しい手つきで、手招きをします。
私の耳元で、すごいことを言い出します。快楽が、頭を支配してしまっているのでしょうか?
多分、そうなのでしょう。
そうでなければ、そんな発想にはならないと思います。
「本気ですか?」
「・・・。うん」
「いいのですか?」
「うん。たかこちゃんがいい」
「えぇ・・・」
「ダメ?」
「ダメではないですけど・・・。私も、男の子は怖いですし、好きでは無かったので・・・。どちらかといえば、女の子の方が・・・」
「ね。それなら、いいよね?」
嬉しそうにしないで欲しいです。
本当に、なんで、そんな発想になるのかわかりません。でも、少しだけ、本当に少しだけ興味があります。形が解らないので、調べなければなりませんが、何とかなるでしょう。
真子さんが腕を抱えるようにします。
次の快楽の波が来たのでしょうか?
快楽が落ち着いた時には忘れていて欲しいです。覚えていても恥ずかしくなって、忘れたフリをすることを望みましょう。多分、真子さんの望みは叶えてあげられるでしょう。でも、なんか違うと思えてしまいます。
でも、本当に、少しだけ、頭の片隅に、”あり”だと思ったのは内緒です。茜さんも・・・。とか、考えたのは、本当に内緒です。
真子さんが、また快楽に支配され始めます。
結局、ゼリーを4つとスポーツドリンクを2リットル近く摂取しました。汚れたタオルは既に10枚を軽く超えています。
おむつの隠し場所は聞いています。数は大丈夫でしょう。おむつよりも、汗が凄いです。タオルの替えが心配です。
タオルが先に無くなりそうなので、補充を行いました。
茜さんなら、離れた場所でも話ができるので、茜さんに部屋の前まで来てもらって、タオルを洗ってもらうことにしました。
洗濯機は乾燥もついているタイプなので、大丈夫でしょう。茜さんは、気が付いているようですが、何も聞いてきません。大人の女性なのでしょう。頼りになるお姉さんです。
新しいタオルを持ってきてもらいます。
足の再生が始まりました。
快楽は、指以上です。
そして、マソの量も桁違いに必要です。
戸惑っているわけにはいきません。
消費が激しいです。
もしかしたら、再生する質量に比例してマソが必要なのかもしれない。
そうなると、10個や20個ではすまない可能性が出てきます。
入れた瞬間に消費されていきます。
横に置いておくだけではダメなようです。体内に入れる必要があるようです。本当かな?デイジーの時には、食べさせるだけで大丈夫だった。やはり、質量の問題か?気楽に検証ができないのは残念ですが気になります。
口の奥に入れると、喉に詰まってせき込んでしまうようで、口には1個か2個が限界です。
指で奥に押し込んで、快楽に襲われるのでしょう。
すんなりと入ります。諦めたのか、足を閉じなくなっています。どんどん、入れていきます。
足に近いからなのでしょうか?口よりも吸収が早いように感じます。
一時間が経過したくらいで、真子さんは肩で息をし始めます。
足を見ると、殆ど再生が完了しています。
もう少しなのでしょう。
全裸の真子さんを見下ろす形になってしまいますが、身長は私よりも少しだけ低い感じです。
肌が凄く綺麗。
高校生の時に、事故にあったと聞いているから、身体は高校生の時の状態かな?
髪も長く伸びています。寝ている時には、短く適当に切った感じでしたが、長い髪の毛が凄く似合います。
「はぁはぁ・・・。たかこちゃん」
「はい」
「こ、わ、い。だき・・・し・・めて」
「え?」
「あせ・・・すご・・・い。でも・・・。だ、きしめて、おねが、い。ふく、せいふ・・・く、よご・・・したら、ご、めん。でも・・・」
「わかりました」
汗で、私の制服が汚れるのを気にされているのでしょうか?
優しい人です。
私は、真子さんの前で制服を脱いで下着を脱ぎます。
全裸になって、真子さんの前に立ちます。
「これなら大丈夫ですか?」
「う、ん!たか、こちゃん!」
真子さんを抱きしめます。
汗を気にしていますが、凄くいい匂いです。
お互いに全裸です。
真子さんは私を強く抱きしめます。
真子さんは柔らかいです。
頭が”ぽぉー”とします。
抱きしめていると、私の小さなおっぱいに顔をうずめた真子さんから寝息が聞こえ始めます。
スライムに戻って、真子さんの腕から逃げます。
危うくキスをされてしまいそうでした。嫌では無いのですが、しっかり意識があるときにして欲しいです。
汗を綺麗にしてから、制服姿に戻ります。
真子さんを観察します。
足の再生は続けられています。寝ている状態でも、快楽を感じているのでしょうか?再生がゆっくりになって、快楽が少ないのでしょうか?
「ライ。見ていて」
「うん」
おむつを始末します。
もうあとはタオルだけで大丈夫でしょう。
アイテム袋に収納します。
ついでに、登録も行っておきましょう。
うん。出来た。
茜さんを呼んで、汚れたタオルを持って部屋を出ます。
「貴子ちゃん?」
「無事に終わりそうです。今は、寝ています。あと、1-2時間で起きると思います」
「わかった。よかったね」
「はい!」
「タオル。預かるよ」
「お願いします」
茜さんにタオルを預けて、リビングに戻ります。
口喧嘩は終わっているようです。
「貴子嬢。真子は?」
「今は、寝ていますが、足の再生を確認しました。あと1-2時間で起きると思います」
「そうか・・・。よかった」
「貴子嬢。それで?」
「まだ、最終的な判断では無いのですが、真子さんには私が知っている限りの魔物特有のスキルはついていません」
「そうか・・・」
孔明さんが”ほっ”とした表情をしてくれます。
「スキルは、”再生”と”治療”と”魔物同調”と”災眼”と”聖”と”結界”です。定着には時間が必要なので、もしかしたらスキルは増える可能性があります」
スキルの説明は必要が無いようです。
「・・・。”災眼”とは?」
違いました。
円香さんが”災眼”を聞きました。確かに、”破眼”の持ち主としては気になるのでしょう。
「円香さんの破眼の下位互換で、魔物に関する災いが見えます。簡単に言えば、魔物が発生する予兆が見えます」
「は?」「なに?円香!」
「貴子さん。私のスキルでは、魔物の発生予兆はわからない。そもそも、予兆があるのか?」
「ありますよ?あっこの話も、茜さんにすればいいですか?」
「そうだな。貴子さん。お願いできるか?」
「はい!あっ魔眼シリーズで、あと患眼というのがあるので、茜さんに覚えてもらっていいですか?真子さんが取得した”聖”との相性がいい魔眼シリーズです」
「お願いする」「円香さん!」
「茜。諦めろ。今更、スキルの一つや二つ・・・。増えても大丈夫だろう?」
「うぅぅそうですが・・・」
茜さんが頭を抱えだしますが、諦めてもらいます。
でも、真子さんの治療が成功してよかった。
本当に・・・。
円香に、真子の部屋から連れ出された。
茜嬢は理由を察しているようだが、俺には解らない。解らないが、治療に必要な事なのだろう。
10分くらい経っただろうか、貴子嬢が真子の部屋から出てきた。
そして、治療で大量に水分が出てしまう可能性があるから、水分補給用の飲み物を買ってきて欲しいと言われた。
茜嬢が、自分たちの食事も欲しいと言ってきたが、長丁場になると考えれば、当然だ。
貴子嬢は肉がいいと言ったので、肉を買いに行く。あとは、飲むゼリーも買ってくる。治療中の真子が食べられるのなら、食べさせたい。
車は、ギルドから乗ってきた車しかない。貴子嬢が言うには、結界が貼られているので、大丈夫だと言っていた。
今は、真子の部屋と家にも結界が貼られているようだ。
俺と円香と茜嬢と貴子嬢とライ殿だけが出入りできるようだ。凄いスキルだ。
車に乗り込む。円香が助手席だ。この感じは久しぶりだ。
「孔明」
「なんだ」
「私は、まだお前を許していない」
「当然だ。それで?」
「カードを出せ?」
「・・・。あぁ」
「違う。ギルドカードは、お前が持つ物だ。それを返されても困る」
「え?」
「違う。クレジットカードだ。デビットの奴でいい。20万くらい入っているだろう?」
「そりゃぁあるが・・・。円香?」
「あぁ主殿・・・。いや、貴子さんには今まで散々驚かされていたから、この辺りで大人の力を見せつけようと思う」
「わかった」
まずは、スポーツドリンクや飲むゼリーを買うために、イオンモールに向かう。人が多い所の方が、尾行が居ても巻きやすい。それに、もう治療が始まっているから、尾行をつけられても大丈夫だ。あの家にある盗聴器類は見つけたはずだ。盗聴器は4つだ。リビングに3つと玄関に一つ。真子の部屋は、茜嬢が調べたが無かった。真子の部屋に無かったのはよかった。
イオンでは、スポーツドリンクと飲むゼリーの他に円香が料理で使う調味料や野菜類を購入した。
他にも、茜嬢に連絡をして家にない物を購入した。それだけで8万円近い出費だ。完全に、関係ないと思われるような物まで購入していたが、きにしないようにする。余ったり、使わなかったり、必要が無かったものはギルドに持っていけばいいと思う事にした。
「そうだ。孔明。引っ越しはどうする?」
「引っ越し?」
「必要だろう?ギルドの周りの家は抑えてある」
「必要か?」
「孔明。お前・・・。真子が治るのだぞ?指が欠損して、片足が無かったのだぞ?それも、あの主殿のことだ、やりすぎる可能性がある。スキルも想定以上になる状況を想定しておけ、いいか、間違いなく、頭を抱えるぞ!私は、魔物同調と聞いた時に、眩暈がしたぞ」
確かに、考えていなかった。
真子も、動けるようになったら、学校にも行きたいと言い出すかもしれない。
「そうだな。ギルドの近くなら・・・。一軒家を買うか?」
「そうしろ。きっと、主殿のことだ。真子が一人で居ると言えば、真子に新しい眷属を紹介して、家の守りを完璧にしてくれるぞ」
円香は笑い出すが、笑い事ではない。
既に、”再生”や”治療”という未知のスキルが芽生える。そのうえ、”聖”だと!?貴子嬢に聞いて、スキルを隠蔽する方法を聞かなければ、真子が研究所に攫われてしまう。そうでなくても、目立つのは決定事項だ。
ギルド・・・。ワイズマンにどこまで報告するのか?
「円香・・・。”魔物同調”は、どんなスキルだと考えた?」
「あぁ・・・。覚えているか?」
「何を?」
「主殿が、ギルドに初めてコンタクトしてきたときの事を・・・」
スライムの大量発生の現場だ。
覚えている。
「そうか、あの時か・・・」
「確実ではないが、多分あれば”魔物同調”だと思っている。意識を別の魔物と同調させる。考えれば、恐ろしいな」
「そうだな。でも、有効なスキルだ」
「あぁいっそのこと、情報と交換で、主殿に私たちにも相性がいい眷属を都合してもらうか?」
「俺もそれを考えた。だが難しいぞ?」
「ん?」
「蒼は大丈夫だろうけど、円香は動物に恐れられているぞ?俺もどちらかといえば嫌われる」
俺の話を聞いて、円香が噴き出した。
”確かに”と言って笑い出した。
こんなに、すっきりとした気持ちで、円香と話すのは久しぶりだ。茜嬢と貴子嬢に感謝しなければならないな。円香にも・・・。
「円香?」
「なんだ?」
「好きに買っていいと言ったが、”やりすぎ”という言葉を知っているか?」
「そんな都合がいい言葉は忘れた」
「思い出せ」
「面倒だ。それに、お前、手足の欠損を治す医者への心付けに、この程度の出費で済ますつもりなのか?」
それを言われると辛いが、意味が違うと考えて反論をする。
円香は、肉屋を梯子して、10万円分の肉を購入している。車の中で待たされたので、嫌な予感がしていたのだが、手遅れだ。
言い争いになったが・・・。
懐かしい感じがする。
家に戻ってきた。
気が付いた範囲で尾行は居なかった。
「なぁ円香?」
「なんだ」
「尾行が家の周りに居なかったのは?」
「多分、”何か”したのだろう」
「そうだよな」
「何も言わないと思うから、知らないフリをしておけよ」
「わかっている。そうだ。円香、俺は知り合いの整備工場に車を持っていく、くっついている物を外してもらう」
「そうだな。奴らが本気になるかもしれないから、考えることが増えそうだな」
「すまん」
「なに、いいさ。どうせ、将来的に”こう”なることは解っていた。奴らが、自分たちが”正義”だと思っている限りは、ギルド組織とは相容れない。私の弟の件もある。奴らの好きにはさせない」
「そうだな」
「お前がギルド側の鎖に繋がれたのは大きい」
俺と蒼の古巣が蠢動し始めたら厄介だ。
背広組の連中なら、ある程度の旨味を見せれば交渉が可能だが、脳筋な上に”正義”という御旗を振り始めている。ギルドが邪魔なのは解るが、排除は不可能だと考えれば解る。奴らは、”正義”に酔ってしまっている。一部の奴らだが、声が大きいのが問題だ。
「孔明。先に戻る」
「わかった。何かあれば連絡をくれ」
「わかった。でも、私が連絡するよりも早く、連絡が来ると思うけどな・・・」
円香は、車を降りて上を見る。
確かに、車での尾行はなかった。車ではない。別の者が俺たちを見守っていた。上空からだ。
最初は、気のせいだと思ったが、猛禽類がそんなに都合よく居るわけがない。
落ち着いたら、貴子嬢に指摘をしておいた方がいいかもしれない。
馴染みの整備工場に車を持ち込んで調べてもらった。
どうせ、マニュアル通りの場所に仕掛けられているのだろう。予想通りの場所に一つ仕掛けられていた。もう一つは、マニュアルにない場所だ。民間か?機材を使って調べてもらったが、他にはなさそうだ。
「おい。孔明」
「なんだ?」
「この車はどうなっている?」
「ん?整備はしているぞ?」
「蒼がやったのだろう。それはわかる。それよりも、これだ」
盗聴器を探す機材を取り出して、車に盗聴器に近づけると、反応がある。当然だ。
そして、車の中に盗聴器を置いて・・・。車から離れた場所でも短距離なら反応がある。しかし・・・。
「気にするな」
「”気にするな”か?久しぶりに聞いたな」
「悪い」
「いいさ。売りに出るのか?」
「民生にはならない」
正確には、貴子嬢以外には作ることができないのだが、そんな説明は必要がないだろう。
「そうか、残念だ」
裏の仕事だろう。
「今度、引っ越しをすることになりそうだ」
「そうなのか?」
「静岡市内に、引っ越しを考えている」
「そうか・・・。俺も、そろそろ考えるか?」
「来るのなら、円香を紹介するぞ?」
「嫁さんに相談をしてみる」
「お前さんが来てくれるのなら助かる」
「わかった。何か、奥歯にものが挟まった言い方なのが気になるが、考えよう」
車についていた盗聴器と発信機を受け取って、整備工場を出る。
元自衛隊の研究所所属で、スキルの有無を判断する道具を開発したが、組織に馴染めなくて、辞表を上司に叩きつけた。そんな奴だが、信頼はできる。
以前から、ギルドに誘っていたが、首を縦に振らなかった奴がどんな心境の変化なのか?
事情があるだろうが、ギルドの協力者に非常識というべき存在が居る。彼女とのコラボが実現したら、ブレイクスルーになるかもしれない。
オークションの準備もしなければならないが、茜嬢がなんとかするだろう。
ネットに強い奴も必要になりそうだな。
ギルドに残った千明は、蒼を問い詰めていた。
「蒼さん!」
二人だけ残されたのが、気に入らなかったのではない。
自分だけ事情を知らないのが気に入らないのだ。
「だから、孔明には、妹が居て、怪我をしていて、それで・・・。あぁ面倒だ!」
蒼は、真子にも会って話をしたこともある。
事情も理解している。真子が治るとも思っていないが、孔明がなんとかして治そうと足掻いている状況も理解している。
「あぁ説明を放棄した!普通の怪我なら、スライムさんが一緒に行く必要はないですよね?茜も一緒なのは何故?私だけ知らされていない!?」
千明も遠慮が無くなっている。
通常の怪我なら、ポーションの作り方が判明している状況だ。すぐに治す必要が無ければ、実験をしてからでも十分なはずだ。
それに、(千明視点では)スライムを呼び出して一緒に行く必要は皆無だ。
「俺から聞いたというなよ?」
千明の猛攻に蒼が折れた形になる。
それに、孔明もギルド内に隠しておく必要性を感じていない。
「うん!(でも、私が知っていたら、情報の出元は蒼さんだと解ると思うけど?いいかぁ!)」
千明は、思っていた以上に酷い話にドン引きしていた。
「え?孔明さん!最初から、現場の人ではなかったの?」
「そうだ。奴は、真子の怪我を治すために・・・。研究所の所長の座を蹴って、現場に配置替えを希望した」
「・・・。でも、欠損を治すようなスキルやポーションは、世間では見つかっていませんよね?」
「あぁ孔明も解っている。だからこそ、可能性がある現場に配置換えを志願した」
「ん?今の言い方だと、志願はしたけど、認められなかった?」
「ん?あぁ認められたけど、孔明が望んだ状況ではなかった」
蒼は、自衛隊の隊員に課せられている条約を説明した。
簡単に言えば、自衛隊の隊員が作戦行動中に得た物は、国家に帰属する。そのために、孔明が真子に使おうとしたら、真子の状態を登録して”実験”としてアイテムを使用するしかない。孔明は、”万が一”に縋った。
「へぇ・・・。今回は、茜が持ってきたレポートを使って、試してみるのね」
「そうだな。それで、茜がスライム殿に連絡をしたのだろう。何か、別のアプローチがあるのだろうけど・・・」
「うん。きっと、聞かないほうがいい方法だよ」
千明は、それだけ言って手元に視線を向ける。
「その水見式だけでも大きく世界が動くぞ?」
「そうなの?だって、スキルを持っている人しか使えないのでしょう」
「そうだな。それでも、自分の特性がわかれば、スキルが狙えるかもしれない。多分、スライム殿はスキルを取得する方法も判明しているように思える」
「え?」
「それだけ・・・。まぁいい」
蒼は、千明の頭に手を置いてごまかすように手を動かす。
千明も、ごまかされていることには気が付いているが、蒼が何を心配しているのか解っているので、これ以上は突っ込まないようにした。
「ねぇ真子さんの事故って偶然?」
「ん?急にどうした?」
「あっ。真子さんの事故って偶然?確か、孔明さんは、ご両親も事故で亡くしているよね?」
「あぁ両親は、ひき逃げだな。犯人は、結局見つかっていない。真子の事故も、不審な点が多かったが、事故で処理されている」
「え?それって・・・。私と一緒?」
「ん?なんだ?」
「私の両親も、事故で・・・。話したよね?それで、結局、犯人というか、事故を起こした人は捕まったけど、おかしいの・・・」
「どういうことだ?話せよ?」
「うん。あのね」
千明の両親は、記者をしていた。新聞社ではないが、官僚の不正を追いかけていて、事故にあった。
よくある信号無視の車に突っ込まれた。突っ込んだ奴は、現場に車を乗り捨てて逃げた。ひき逃げ事件として捜査された。3日後に、男が派出所に出頭して、ひき逃げを告白した。
「何がおかしい?」
「出頭した人は、20代の男性で、大学を卒業したばかりで、地方に就職していて、事故を起こした東京には住んでいなかったの」
「それで?」
「パパとママは、国産の軽を使っていたの・・・。小回りが・・・。とか、言ってね」
「あぁ」
「その大学を卒業したばかりの男は、メルセデスベンツC200セダンの新車なの・・・」
「ん?」
「それで、私も前の職場に入ってから調べたの・・・。そうしたら、その人・・・。大学を企業系の奨学金を受けていて、その企業がパパとママが調べていた官僚と深く関わっていて・・・」
「え?」
「事故を起こした男の人は、免許を持っていなくて・・・。あと・・・。事故の時の車の写真」
千明は、スマホに保存してある写真を蒼に見せた。表示されているのは、事故現場の写真だ。一台は激しく損傷している。道路にはブレーキ痕は見られない。弁護士が警察から証拠写真として預かったのを撮影した物だ。最初は、証拠というよりも、両親の最後を残しておきたかった。左ハンドルのC200が軽に正面から突っ込んでいる。左ドアが開け広げられている。
「・・・」
蒼は写真を見て、不思議に思ったが、エアバッグが作動していない。C200クラスの車なら、正面から衝突しているのなら、エアバッグは作動する。座席が後ろ過ぎる。ハンドルが右に切られている。この手の事故は何度も見ているが、正面衝突の場合にはぶつかる瞬間に回避行動を取る場合が多い。しかし、まるでぶつけに行っているように見える。
千明が次の写真を見せる。
「それで、これが事故を起こした男の人」
大学時代の写真だろうか?大学名が書かれた門の前での写真だ。門の高さは不明だが、他に写っている物から考えると、身長が150cmに満たないと思われる男性がぎこちない笑顔を向けている写真だ。
「千明。これ・・・」
「ね。おかしいでしょ。私も、最初は気が付かなかったけど・・・。座席が後ろ過ぎるよね?あと、この男の人。奨学金以外にも、借金があったみたい。そんな人が、C200のセダンを買う?あっC200は1年落ち程度で、新車だったみたいよ?」
「わかった。千明は、調べたいか?」
蒼は、スマホを千明に返して、千明をまっすぐに見る。
「え?そりゃぁ・・・。調べたいけど・・・。真実なんて求めていない。パパとママがなんで殺されたのか知りたい」
今まで堪えていたのか、心の棘だったのか、千明にも解らない。
蒼に言われて、何が知りたいのかを初めて口にした。そして、涙が流れ出したのに、自分が驚いてしまっている。
蒼は、慌ててよれよれのハンカチを取り出して、千明に渡す。
笑い顔でハンカチを受け取って涙を拭いた。
「孔明と円香に相談しよう」
蒼の言葉は、ギルドの力を使おうと言っている。
「え?いいの?」
千明が躊躇するのも当然だが、蒼は大丈夫だと思っている。
「あぁ茜も巻き込めたらラッキーだな。あと、出来たら貴子殿も巻き込めたら、最高だな」
「え?なんで?茜は解るけど、スライムさんは関係がないよね?」
「そうだな。関係ないが、持っているスキルは、相手が国家に近い位置に居る連中なら、餌にもなるし、武器にもなる」
「え?なんで?」
「千明。ご両親の話は、皆に話していいか?」
「・・・。うん。私も、真子さんの話を聞いちゃったから・・・」
千明は、蒼が話を変えたことから、スライムに対する話は聞かない事にした。
確かに、スライムが味方になってくれるのなら、心強いとは思うが、”怖い”感情が皆無ではない。自分の直感を信じるのなら、スライムには深入りしないほうがいいと思える。
しかし、ギルドの職員としては、深入りしないという選択肢は既に選べない。
”みゃぁみゃぁ”
「そうね。もう手遅れだね。アトスが居るのよね」
アトスから教わった、魔力を糸状にして、放出する方法が出来てしまっている。
便利だと思えるから”質が悪い”と思っている。
本当に、主殿。貴子ちゃんには、いい加減にして欲しいと伝えたい。
問題の本筋は、貴子ちゃんが”よくわかっていない”ことです。これは、ギルドが持っている。世間に公表している常識を覚えてもらえばいいと思っています。
でも・・・。本当に数時間で・・・。”困った”が溜まってしまいました。
まとめておかないと、後で困るのは私です。間違いなく、円香さんは、私に”丸投げ”してきます。
貴子ちゃんと一緒に居られるのは嬉しいのですが・・・。貴子ちゃん。本当に、ギルドに属してくれないかな?
まず、問題になりそうなのは、動物の魔物化の話です。
持ってきた端末を使って直接アクセスすることは出来ますが、孔明さんの家からのアクセスは憚られます。聞いておけばよかった。円香さんと買い物に出かけてしまった。多分、買い物が終わったら口喧嘩を始めるでしょう。ソファーに避難しておきましょう。
VPNを使って、ギルドではなく、私のパソコンに接続をしてから、ワイズマンに問い合わせをしました。
やはり、動物の魔物化は世界中で発生している事象ですが、原因は研究中となっています。
条件付けが難しくなってしまっているようです。実験のデータを取り寄せたのですが、これでは魔物になる条件を満たしても、先に進めない状況です。
貴子ちゃんの言葉を全面的に信じれば、その実験では”魔物にされてしまった動物”です。眷属化の話が出てきていないのも、当然の話です。
動物を実験動物として見ています。研究者としては正しいのでしょう。それでは、”絆”を作ることは出来ません。ワイズマンは、高機能なAIですが、心の機微には疎いのでしょう。各国のギルドが追試した結果では、”問題個所はない”と評価されていました。
さて、貴子ちゃんの情報の公開がどんどん難しいミッションになってきます。
千明と蒼さんが行っている”水見式”の試験は、想像通りです。あとは、貴子ちゃん・・・。ライが真子さんに行った”水見式”の方法が確立できれば、魔物化とひっくるめて報告ができます。多分。
貴子ちゃんの会社の名前も考えないと・・・。
元の名前でもいいとは思うけど、貴子ちゃんを現すような可愛い会社名がいいよね。”テン〇スト”とか貴子ちゃんは言っていたけど、それは却下した。スライムで”テ〇ペスト”はダメだと思う。
いい名前が思い浮かばないから、保留しているけど、報告書を上げる前には名前を確定しないと・・・。
元の会社名は、オリジナルパイン合同会社
悪くはないけど、オリジナル=原/パイン=松。松原をひっくり返した会社名だと教えてもらった。そして、パインには”思い焦がれる”という意味もある。原=オリジナルなのは少し・・・。いや、強引な気がしますが、貴子ちゃんのパパさんが決めたことなので、口をつぐみます。
パパさんとママさんと妹さんの事故を担当した弁護士さんが、会社を貴子ちゃんの名義に書き換えてくれていたので、綺麗にするのには困りませんでした。弁護士さんには、貴子ちゃんを交えて会う予定にしました。
貴子ちゃんは、スライムになってから、日付や曜日の感覚が鈍くなってしまっているようなので、スケジュール管理も誰かが行わなければならないようです。貴子ちゃんに”ライ”や”ユグド”のような存在を産み出してもらって、秘書になって欲しいと伝えないと、私の業務がパンクします。
魔石を磨く方法は、貴子ちゃんに聞いたけど、難しい。魔石の確保から行う必要がある。本当に、どれだけの魔物を倒したら、あんな数の魔石を・・・。考えないようにしていたことですが、貴子ちゃんが所有する裏山が”山”の全てではない。山梨側にも神奈川にも山は存在している。貴子ちゃんに頼っていてはダメ。貴子ちゃんの家族は、貴子ちゃんを守るための行動が最優先なのでしょう。今は、方向が人類のためになっているけど、方向が少しでも違えば敵対してしまいます。敵対した時に、滅びるのは”人類”です。残るのは、魔物になってしまった動物と、魔物にならなかった動物です。原始的な世界に見えますが、動物から見れば幸せなのかもしれない。
多分、ギルドが魔物素材のオークションを開催したら、素材の出元を探る人たちが出てくる。
貴子ちゃんは、守る必要があります。
探った奴らが、貴子ちゃんの家族に反撃されて、殺されるのは自業自得です。実行を指示した奴らが死ぬだけなら、私はなんとも思いません。
貴子ちゃんの家族が”人は敵”と認識してしまうのは困ります。別に、私や私の周りの人が助かるのならいいのだけど、貴子ちゃんが気にしそうで嫌だ。貴子ちゃんの家族は”人”を排除することに抵抗がないように感じます。
スキルの熟練度やスキルのレベル?
あれは、私の手に余ります。
千明と蒼さんに丸投げの予定です。円香さんと孔明さんは、真子さんの治療に関して・・・。後始末で大変なことになるでしょう。
これは確定している未来です。
あと・・・。貴子ちゃんのパパさんとママさんの話を聞いてしまった。胸が締め付けられる。貴子ちゃんが、どこか壊れた笑顔をしていると思ったら、スライムになってしまったからでは無かったようです。どこか、私と似ていると思ったのも間違いでは無かったようです。
もしかしたら、スキルの熟練度とスキルのレベルは、私が調べた方がいいかもしれない。貴子ちゃんが持っている情報をまとめなければならない。特に、スキル関係は貴子ちゃんが世界で一番進んでいる。
スキルの情報は、まとめてギルドで公開してもいいかもしれない。追試は難しいけど、”鑑定石”を高機能にできないか確認して、スキルレベルが表示できるようになれば、追試は各国のギルドで行える。よね?
貴子ちゃんのパパさんとママさんと妹さんとお兄さんとおじいちゃんの話は、私が調べるよりも、千明と蒼さんが調べた方が早い。貴子ちゃんが望むのなら
ギルドの情報網を使って調べる。罪を問うのは難しいけど、罰を与える事はできる。社会的な罰だけではなく、貴子ちゃんの家族による罰なら・・・。その場合には、司法に身を委ねた方が幸せだと思うのでしょう。でも、私には関係がない事です。知らない人の自業自得よりも、貴子ちゃんの笑顔の方が大事です。そして、貴子ちゃんの家族の気持ちを優先します。
そうだ!
ユグドが来ているという話も有ったけど、ギルドへの報告は必要ないよね?
忘れていたいけど、考えないと・・・。
貴子ちゃんが、私が”魔人化”する可能性があると言っていたけど、気にしない事にしておこう。
”魔人化”したら、寿命とかどうなるのだろう?
”魔人化”したら、貴子ちゃんに責任を取ってもらうとして、眷属にしてもらおうかな?
あれ?そうしたら、寿命は?困らないけど、困りそうだな。
世界最年長者の記録を塗り替えてしまう。
どうしよう?
今、考えてもしょうがないですよね。”魔人化”してから、成長がどうなるのか?寿命がどうなるのか?結果が出るのは、数十年後です。私は今の姿で固定されるのなら・・・。もう少し、若い方が嬉しいかな?
でも、今なら貴子ちゃんとライと並んだら、姉妹や姉弟に見えるかな?
それは、それで”あり”です。初めて真子さんを見ましたが、真子さんも一緒ならもっと嬉しい。私の好みの女の子です。
部屋の中は、荒れては居ませんでしたが、綺麗な状況でも無かったです。
生活が、ベッドの上に固定されている弊害だとは思います。
あと、円香さんから部屋を確認して欲しいと言われて、確認をしました。
盗聴器は仕掛けられていませんでした。
部屋ではない場所で、録音ができるタイプの盗聴器を見つけました。電波を出さないので、見つけにくいのですが・・・。
スキルのおかげなのか、平行作業が捗ります。
盗聴器の音声を確認していますが、孔明さん案件でしょうか?
気が重いのですが、いい加減にはっきりさせておいた方がいい時期です。
円香さんに相談することは決まっていますが、今回のことを考えると、孔明さんも巻き込んだ方がいいかも・・・。
後で知られると、貴子ちゃんと真子さんの心証がわるくなってしまいます。
パパは自業自得かもしれないけど、ママとお兄ちゃんは・・・。
私が、日本という国を見限ることを決めた時の話を・・・。
男だけ45人が乗った改造されたワンボックスの中は指令室になっている。監視している者たちからの情報が集まってきている。
暫く、動きを見せていなかったターゲットが、動きが活発になってきている。
指令室には、上層部からの指示が出ている。ターゲットが何かを発見したと思われる動きが伝えられている。
ターゲットが、海外のギルドカードに紐付けされた企業に送金していることが掴んでいる。
ターゲットを監視しているのは、自分たちの組織だけではない。民間や別の組織が監視しているのが解っている。
それらの組織を出し抜く為にも、ターゲットの近くである程度の権限を持った者が最前線に出てきている。
上司の不在だった3日間の報告を、行う準備中に、ターゲットが動きを見せた。報告は、順次行うことになり、監視を優先した。
「C/Dは、Bの部屋の前で待機」
監視対象は、現在は5名。
「Sは?」
敵対組織の一つにスパイとして送り込まれているターゲットは、監視対象の中でも上位に入っている。
「動きはありません」
「SとAとBが、Bの部屋に移動」
「出たのか?」
「はい」
「Bの部屋は?」
聞かれた男は、首を横に振る。
「収音は?」
同じように、首を横に振る。
個人の部屋に、仕掛けを行う時間はない。ターゲットも愚かではない。自分たちが監視されているのはわかっている。部屋の盗聴対策はしっかりと行われていた。
「わかった。Bは、由比に向ったのだよな?」
「はい」
上司の言葉を肯定する。
既に第一報の報告は上げられている。報告の準備と今後の対策を検討しなければならない状況になっていた。
「状況は?」
「駅でロスト」
「は?ターゲットは、素人だぞ?」
「ホームを降りて、改札を出たところまで、確認が出来ています」
「誰と会ったのかも解らないのか?」
「不明」
尾行していた者の発見場所の報告も行う。
尾行を行っていた者は、ホームにあるベンチに座っていた。尾行を行っていた者を監視していた者も同じ場所に座っていた。拘束はされていない。薬物も出てこなかった。しかし、3人は監視対象がホームに降りたところまでは覚えていたのだが、自分たちがホームにあるベンチに座っていた事を覚えていなかった。記憶を無くしていたのは、数分だと思われるが、その間に何があったのかはっきりとしていない。
もちろん、持っていたカメラにも何も映っていない。
他の組織の人間も同じように、ホームで発見されている。小さな寂れた港町にある駅の為、ベンチの数は少ない。階段の途中で見つかった組織もある。当日の駅が混乱したのは当然なことだ。
幸いなことに身分証と思われる物は所持していたために、大事になるまえに騒動はおさまった。
「収音は?」
「ファンブル」
「電波は拾えないのか?」
「Bの部屋からは、電波は出ていません」
「昨日までは、WIFIが拾えたな?Bの部屋も?」
4日前までは各部屋に設置されているWIFIの監視が成功していることを把握していた。
今日になって失敗したのが解らない。
「はい。WIFIを切ったのでは?」
「推測ではなく、実際に中の様子を知りたい。ベランダ側は?」
「あの建物は、窓からの盗聴は不可能です」
「・・・。近づけると思うか?」
「ご命令なら」
「実行しろ」
監視している現場にいる。一人の男が、名乗り出た。
マンションに向かう最中に、ターゲットを監視している別の組織と遭遇して、マンションに立ち入るのを回避した。
自分たちの組織なら、警察に通報されても大丈夫だとは思っているが、例外はどこにでもある。
「え?消えた?」
「どうした?報告せよ」
「はっ」
男は、見たままを報告した。
別の組織の人間が、マンションに侵入した。ポスティングの格好をしているので、住宅街では目立たない。それでいて、人目に触れた時に記憶に残りにくい。持っているポスティング材が派手であれば、そちらだけが記憶に残る。
ポスティングを行っていた者が、ターゲットの人間たちが入っていた部屋の壁に機材を近づけた。
機材だけではなく、消えていなくなった。神隠しにでもあったかのようだ。
「・・・。撤収」
現場に、”撤収”を伝える。
「はっ」
現場からの報告を受けて、ワンボックスのなかにある仮の作戦本部では、撤収を決めた。
未知ほど恐ろしい事はない。その未知を大量に抱え込んでいる可能性が高いターゲットの監視は必須な事だ。
外に出ていた男が、監視場所に戻る。
監視の現場には、現場で撮影した内容が転送されてきている。
指示を出すために必要な情報が常に、指令室には届いている。
ターゲットになっている5名が部屋に入ってから、かなりの時間が経過している。
全員が部屋から出てきた。
二人は、そのまま別の部屋に移動を開始した。
「どこに行くのかね?」
軽口を叩いているが、臨時の作戦室からの指示が入る。
「確認せよ」
「乗ったのは、男1女2。不明1」
「ほぉ・・・。新しいメンバーか?」
不明の1名が何時からターゲットの部屋に入ったのか判明していないことも、報告されるが、些細な情報だと無視される結果になった。
「不明」
「撮影は?」
「・・・。ファンブル」
「は?失敗?」
「いえ、正確には・・・」
男は、現場から送られてきた写真を上位者が使っている端末に送信する。
「は?なんだ?これは?「どういうことだ?」
「不明」
男たちは、共有された画像と動画を確認する。
何度、見ても状況は変わらない。
未確認の女は、動画にも写真にも映っていない。
確かに、存在していたのだが、存在が無かったことになっている。
「ターゲットは、光学迷彩でも開発したのか?」
「不明」
「機材のチェックを行うように伝えろ」
「はっ」
男は、イライラしていた。
動き出したのは嬉しいのだが、不気味な雰囲気が拭えなくなってきている。
「A/B/Sを確認。新しいターゲットを、Fと呼称」
「追跡を開始します」
「Fを検索」
「該当なし。中尉」
「なんだ?」
「Fは見ました。情報が何もありません」
「どういうことだ?」
「Fは、女ですか、男ですか?子供ですか?大人ですか?顔は?髪の毛の色は?歩行は?何も、情報がありません。見ましたが、認識されていないかのように、思い出せません。中尉も見ましたよね?」
中尉は、言われて初めて、思い出そうとしたが、思い出せない状況に背筋が寒くなる思いがした。
慌てて、動画を巻き戻して見たが、人が居るのはわかるが、何か訳の分からない物が写っているだけだ。
「なんだ?これは・・・」
「追跡部隊から通信」
「どうした!」
「対象をロストしました」
「何?見失ったのか?発信機は?」
「ロスト」
「・・・。どういうことだ?対象が、発信機を破壊したのか?」
「いえ、移動中に・・・」
「なに?発信機が壊れたのか?」
「不明」
「ロストした場所は?」
端末に、情報が表示される。
「目的地は・・・。Sの実家か?」
「おそらくは」
「追跡班を回せ」
「はっ」
追跡をしていた者たちが、配置に着いた。
「ロスト」
「何?」
「中尉。追跡班の信号をロスト」
「ロスト?何を?」
「全部の信号をロスト」
「生存は?」
「不明」
「映像は?」
「出します」
再生された動画は、”信じられない”状況になっている。
監視していた者たちが乗っていた車の中にあるカメラの映像が、突然消えて、信号が無くなった。
追跡班が、”どこ”に居て、”どんな”状況になっているのか不明な状況だ。
カメラには、”何も”異常を閉める状況が撮影されていなかった。全部のカメラからの映像が同時に途切れている。追跡班は2台で行っていて、別々の場所に存在していた。それでも、同時に信号がロストした。
映像から解るのは、追跡班が追跡中に突然消えてなくなったことだけだ。それも、同時刻に・・・。
「監視カメラはないのか?」
「ありません」
「2台はどこに?」
「不明」
「信号は?」
「ロスト」
「どういうことだ・・・」
指令室の中は、沈黙だけが支配していた。
「撤退する」
中尉の言葉が、指令室に木霊する。
指令室になっていたワンボックスは、上空を見ていなかった。
上空には、ムクドリとスズメがワンボックスを監視するように飛んでいた。