スキルが芽生えたので復讐したいと思います~ スライムにされてしまいました。意外と快適です。困らないので、困っています ~


 俺は、上村蒼。元自衛官だ。

 今は、紆余曲折あってギルドに世話になっている。

 蒼という名前から、女性だと勘違いされることもあるが、れっきとした男だ。

 自衛藍では、魔物の出現が確認されてから新設された混成部隊の分隊の隊長を務めていた。
 魔物の駆除が主な任務だった。人の領域に出てきてしまった魔物は、警察が駆除するが、人里に降りてくる前に駆除するのが任務だった。

 前の職場も居心地は良かったが、ギルドの居心地も悪くない。任務が仕事になったが、大きな違いはない。

 魔物の駆除よりも、情報収集や情報の整理が多くなっている。
 しかし、自衛隊に居た時よりも、情報の最先端にいる感じがしている。

 自衛隊が遅れているとは思わないが、対魔物に関しては、ギルドの方が一日の長がある。各国での対応を含めて参考になる情報が多い。自衛隊に居る時に、この情報があれば防げた損失があるかもしれない。
 上司にあたる円香に頼んで、自衛隊にも情報を流せるようにした。
 自衛隊の上層部は絶対に嫌がるだろうが、現場の人間たちは喜ぶだろう。現場でこそ生きて来る情報だ。

 ギルドも、大きな変革が行われた。不正の温床だった部署は閉鎖され、円香がトップになった。上層部の更迭には孔明も暗躍したと聞いた。

 実際に、パートで来ているメンバーを除けば、日本ギルド本部は、5名で運営を行っている。常任の人数では、世界でも小さなギルドだ。
 少ないとは思うが、多くいても不正が産まれるだけだ。それに、業務も多くはない。

 違うな。多くはなかった。

 天使湖での魔物氾濫から始まった一連の流れで、俺たちギルドは、一人の少女と出会った。
 人と言っていいのかわからないが。スライムにされてしまった少女だ。女子高校生と言っている。

 問題は、その少女がもたらした情報だ。
 茜が少女の家に赴いたのは、少女が売りたいと言っていた魔物の素材を受け取るためだ。それと、少女が茜を介して渡してきた、”鑑定”ができる魔石の買い取りを含めた清算のためだ。

 円香も、孔明も、俺も、後悔した。
 茜を一人で行かしたことではない。少女をギルドに呼ばなかったことを後悔した。

 少女の所から戻ってきた茜は、明らかに変っていた。
 上手く言えないが、自衛隊に居た時に、海外から招いた講師に雰囲気が似ていた。今、考えれば、あれは持っているスキルが影響しているのだろう。もう一つ、俺の横で確認を行っている千明も雰囲気が一気に変わった。
 茜には、俺では勝てそうにない。近接戦闘で、スキルを使わなければ、簡単に俺が勝てるだろうが、”なんでもあり”の戦いになったら、俺は瞬殺されてしまうだろう。

 少女が持ってきた情報を精査するのが、俺と千明に回された仕事だ。

「蒼さん?」

「あぁすまん。それで?」

「残念ながら・・・」

 千明は、そういいながら、指から魔力で作られた糸を出した。

「何か、スキルが必要なのか?」

 俺には、魔石の生成は出来たのだが、魔力を放出することが出来ない。

「うーん。茜に聞かないと・・・。鑑定石を借りてくればよかった?」

 千明の眷属になっている猫が足下に来て、鳴いている。
 不思議なことに、俺や円香や孔明には、猫の鳴き声にしか聞こえないが、茜や千明には、意思が乗っていて会話が成立する。

「アトスは、何を言っていた?」

「放出系のスキルが必要みたい。アトスが放出系のスキルを持っているから・・・。蒼さんは、放出系の適性は低かったですよね?」

「そうだな」

 自衛隊の研究所に持ち込むためのレポートを書いている情報だが、これも少女が持ってきた。
 有名なマンガの様に、”水見式”ができる。

 内容は、書き出しておかなければ忘れてしまう。

 強化は、自らを強化する系統
 助勢は、仲間を強化する系統(弱体もできるらしい。強化を剥がすこともできるらしい)
 放出は、補助属性を付与して放出する系統
 変異は、物質を変える系統
 特異は、固有で取得するスキル

 スキルを持っていない人間が行える可能性を、少女が示唆していた。
 ギルドのメンバーは全員がスキルを持っていて、試すことができない。自衛隊の研究所には、スキルを保持していない者も在籍している。
 魔石を浸してできた水を使って、魔石を持って水見式を行う方法だ。少女の家に居る動物では出来たようだ。

「千明。水見式は、報告をあげるのだよな?」

「円香さんにあげて、登録はそれから決めるのではなかった?よく覚えていない。魔石の生成と、水見式と、魔糸と、あとは・・・」

「ライの身元調査だけど・・・」

「それは、警察に行かないとダメでしょう?」

「公開されている行方不明者リストにはなさそうだな」

「似たような男の子と女の子の姉弟は居ません。心中まで広げますか?」

「そうだな。公開されている情報だけ集めてくれ」

「はい」

 千明が、茜から送られてきた画像を見ている。
 スライムになってしまった少女と、ライを写した画像だ。もちろん、本人たちの許可は貰っている。

 発行したギルドカードと紐付ける情報として、少女の写真が必要だった。

 処理は既に終わっている。カードの処理も終わっているので、渡せる状況にはなっている。

「ねぇ蒼さん」

「どうした?」

「このアイテムボックス・・・。貰っていいの?」

「正確には、ギルドの所有になって、各自に貸し出している。ギルドを辞める時には、返却しなければならない」

「うん。解っているけど・・・。これだけでも、世界が変るよ?」

「そうだな」

 苦笑で済ませられるような話ではない。
 夢物語だった。容積以上の物を入れる事ができる箱や、ポーションも少女はギルドにもたらした。

 ポーションは、茜と一緒に検証を行う予定になっている。
 茜たちが少女と話をしている間に、アイテムボックスの検証を行っている。

 目の前にあるのは、千明に割り当てられたアイテムボックスだ。
 中身もまだ入っているが、余裕があるのか、千明の私物を入れられる。

 そして、このアイテムボックスの優れている所は、利用者登録ができることだ。登録と削除が行える。

 千明だけを、利用者に設定している時には、俺は箱を開けられるが、中身を取り出すことができなかった。
 そして、箱ごと持ち去ろうとしても、重くて持ち上げる事ができなかった。

 どうやら、利用者登録を行っていない物が持ち上げると、中身の重量がそのまま感じるようだ。利用者登録を行っている千明が持とうとすれば、箱だけの重さに感じるようだ。
 物流の問題が一気に解決してしまいそうだ。

 箱の中身を、俺が預かっているアイテムボックスの中に移し替えてから、持ち上げようとしたら、今度は箱の重さよりも、少しだけ重いと感じる程度だった。その為に、箱の中身で重さが変わると判断した。
 時間停止はなかった。
 どうやら、茜が確保したアイテムボックスは時間の流れがゆっくりになっているようだ。その代わりに、容量は俺たちが預かっている物の1/10程度らしい。

 千明がまとめたアイテムボックスの報告書を読んでいると、千明が少女の画像を食い入るように見ている。

「どうした?知り合いか?」

 制服姿の少女は、女子高校生らしさと、何か解らない雰囲気を併せ持っている。スライムの特性なのか、肌が綺麗だと、茜からレポートが入ってくる。必要ないレポートだ。

「知り合いではないけど、凄く可愛いよね?」

「そうだな」

 千明の方が、可愛いと思うが、いうと間違いなく叩かれる。
 だから黙って肯定した。

「あのね」

「ん?」

「主殿。大丈夫かな?」

「ん?大丈夫だろう。俺と孔明と円香が真剣に立ち会っても勝てるとは思えない。多分、自衛隊の全兵力でもダメだろう?」

「あぁ・・。違う。違う」

「ん?何を心配している?あの少女を心配することがあるのか?」

「うーん。まぁ蒼さんならいいかな?」

 俺ならというのは・・・。
 何時からなのか、俺たちも解らないが、最近は、千明は俺の部屋で寝起きしている。まぁそういうことだ。

「ん?なんだ?気になる言い方だな」

「うん。あのね。黙っていて欲しいのだけど・・・」

「あぁ。わかった」

「茜だけど・・・」

「ん?」

「茜ね。男性よりも、女性が好きで、恋愛対象は、女性なの」

「・・・。ん?」

「それでね。円香さんみたいなタイプも好きだけど、可愛くて守ってあげたくなるような年下の可愛い女の子が大好きで、大好物で、性的な意味でも・・・」

「え?」

「主殿。茜の理想を詰め込んだ女の子なの?これで、メガネをかけていたら完璧って感じ・・・」

「へぇ・・・。まぁなんとかなると思うぞ?」

 それ以上に何も言えない。
 そうなのか?
 うーん。深く考えてもしょうがない。少女の無事を祈ろう。

 ライと一緒にギルド職員の茜さんのご自宅に行くことになった。
 友達ではないけど、知り合いのおうちを訪ねるなんて、小学生以来で緊張します。

 勢いで言ってしまいましたが迷惑じゃなかったのでしょうか?
 茜さんの声が、歓迎しているようにも聞こえたので、大丈夫だと思う事にします。

 手土産と、治療に必要な準備をしましょう。

「ライ。アイテムボックスを作って、時間停止でいいかな?」

「うん。わかった」

 私のスキルの一つ。”記憶保持”が実は、アイテムボックスに付与できることがわかりました。
 時間停止とは違うとは思いますが、中に入れた物が劣化しないことが解っています。検証中ですが、ギルドで聞いてみればわかるでしょう。ギルドの献策で出てこないスキルが多すぎるのは、理由はわかりませんが隠しているのだと思います。私が持っているスキルの殆どが、検索しても情報が出てきません。

 魔石と結晶は、買い取りに回したので、今回は違う物にしよう。

 パロットが足下に来て、お土産の提案をしてくれました。
 ポーションの材料にもなるし丁度いいかもしれません。それに、茜さんの所の”聖樹”に与えれば・・・。

 エントやドリュアスたちが自分たちになっている果実を大量に持ってきてくれました。
 あと、パルが配下の者たちに命令を出して、蜂蜜とロイヤルゼリーを持ってきてくれました。オクトやカラントからは、真珠を渡されましたが、お土産に宝飾品は相応しくないでしょう。今回は見送ります。

「お姉ちゃん。話を聞いた感じでは、ポーションではダメだと思う」

「そうね。”再生”と”治癒”かな?」

「うん。あと”鑑定”を持っていけばいいと思う」

「”鑑定”?」

「うん。”鑑定”があれば、問題があれば自分で治せるでしょ?」

 ライの言っていることは理解ができる。
 でも、”人”にできるとは思えない。これは、ライが意識を持ったのが、”スライム”になってからだということに関係している。ライの提案を受け入れる形で、”鑑定”を持っていくけど・・・。
 茜さんに使ってもらった方がいいと思う。

 私のことを信用してくれるか解らないから、ギルドのメンバーが”鑑定”を覚えている方がいいと思う。
 鑑定を付与した魔石では、調べられることに限界がある。茜さんたちも詳しく解ったほうがいいと思うし、ギルドの職員さんだから、知識もわたしよりも持っているでしょう。

「そうだね。ライ。”鑑定”の準備をお願い。出来たら二つ。あと、”聖”をお願い」

「”聖”では、治らないよ?」

「そうだね。でも、ちょっと考えがあるの」

「わかった。”再生”のレベルは?」

「うーん。デイジーの時は?」

「最低レベルで作ったよ?」

「中級でいいかな?オークじゃ磨いたら足りないよね?」

「うん。オークの色違いかな?」

「それで、お願い。”聖”は最高レベルでお願い」

 磨いた魔石なら、適性がなくても強制的に覚えさせられる。成長は見込めないけど、成長は考えなくていいよね。
 治療を受ける人が、再生への適性がなかった時には、強制しなきゃならない。それが少しだけ難しいかな?

「わかった」

 ライが準備をしている間に、私は着替えをする。
 知り合いの家に着て行けるような服は持っていない。スライムになってから、身体のサイズが自由に出来るのが嬉しい。慎ましかった胸のサイズが変えられる。意識をしていないとダメなので、あまり意味がないけど・・・。
 前のサイズのままなので、服を新調しなくてもよかったのは嬉しかった。

 もしかしたら、初めて会う人もいるかもしれないから・・・。
 迷ったけど、無難に制服を選択した。私の身分は、スライムだけど、元女子高校生だ。学校は辞めてしまったけど・・・。どこかの夜学にでも入ろうかな?
 仕事をしなければならないから・・・。高校は卒業しておけばよかった。
 試したけど、結界を纏っていれば、スキルの有無のチェックにも、魔物チェックにも引っかからなかったから、学校に通えたよね。復学とか出来るのかな?

「お姉ちゃん?」

「ライ。準備は終わった?」

「うん。でも・・・」

「どうしたの?」

「キングとクイーンとテネシーとクーラーとピコンとグレナデンとフェズたちと、ダークたちと、アイズたちと、ドーンたちと、フリップたちと、ジャックたちと、デックたちと、キールたちと、キルシュたちと、グラッドたちと、ナップたちと、パルとパルの眷属が、一緒に行くと言って・・・」

「うん。無理だね」

「そういったけど・・・」

「私も、こっちに残るのだけど」

「言ったけど・・・」

「飛べる子たちには、途中まで護衛をお願いして、背中に乗れる子だけは着いて来てもらうのは?」

「わかった。カーディナルとアドニスだけなのが不満みたい」

「ギルドの上空で待機出来るのは、フェズとアイズとドーンかな?近くにある浅間神社なら、フリップやジャックが居ても大丈夫かな?」

「わかった。待機させるね」

「お願い」

 準備はよかったけど、ギルドに向かうメンバーで揉めるとは思わなかった。

 分体を作って意識を移動させる。スキルも最低限で十分だろう。
 正直に言えば、”魔物支配”があれば困ることはなさそうだ。ライが居れば、ライの中に潜り込めば、”核”として保存されるのは解っている。

 今回の治療でも、魔物支配が有効だと思う。

 ギルドに向かう。
 私がカーディナルに乗って、ライがアドニスに乗る。

 ユグドちゃんに誘導をしてもらいながら、空の旅を楽しんでいる。
 風向きから、浅間神社を迂回するようにした。皆は、浅間神社で待っていてくれるようだ。ギルドの周りの警戒も行ってくれる。街中に魔物が現れることはないけど、魔物が現れそうな場所は意外と多い。広い庭があるような場所でも、魔物の素が発生している場面も見ている。霧散しているので、魔物には鳴らなかったけど、警戒をしておいた方がいいだろう。治療が終わったら、魔物の素の事も聞いてみよう。

 ユグドちゃんが見えてきた。

『ライ!玄関に回ると伝えて』

『はい』

 ライは、スライムの時には丁寧な言葉になる。
 よくわからないけど、そういう物だと思っている。人の姿の時とは、主人格が違うとか言っていた。

 うーん。
 茜さんのスキルの数から考えると、魔人?になってしまっていないかな?

 そういえば、クシナ?スサノ?のどちらかは、”再生”と”治癒”を持たせたよね?
 大丈夫だよね。多分。

 それに、多分・・・。
 今更だよね。クロトちゃんとラキシちゃんだけでも十分だよね。魔人になってしまう?

 玄関に回った。
 どこが、茜さんの家なのか迷ったけど、すぐに解った。
 そうか、ユグドちゃんが成長して、茜さんの部屋を守っているのだね。

 そうだ、これからの事を考えれば・・・。
 あっ!

「ライ」

 クシナちゃんとスサノちゃんのスキル構成を忘れていた。
 保護した時には、誰かの眷属にするとは考えていなかった・・・。二人だけでも、大丈夫なように、攻性スキルを持たせて、お互いにカバーが出来るようなスキル構成にしたのは覚えている。

「なに?」

「そういえば、茜さんの所に行った二人のどちらかが、”結界”を持たせたよね?」

「うん。スサノが”再生”と”治癒”と”拘束”と各種攻性スキルで、クシナが”結界”と”平行思考”と各種攻性スキルを持っているよ?」

 だよね。そんな記憶がある。
 カーディナルやアドニスは敵わないけど、私の家族の中でもトップクラスの攻撃力だったはずだ。オークの色違いなら、単独で撃破できると思う。二人で連携しながら挑めば、オーガの色違いや、ミノタウロスの色違いでも対応ができると思う。

 茜さんの護衛が出来たと思えばいいのかな?
 自衛隊とかには、もっと強い人が居るだろうけど、街中で暴れる程度の人や魔物なら大丈夫になったと安心しよう。

「そうだよね。やっちゃったかな?」

「え?」

「茜さんの眷属になっているから、茜さんが使えるスキルは芽生えるよね?」

「うん。別に、困らないよね?」

 そうだよね。
 それに、数日で芽生えるようなスキルは、攻性スキルくらいだけど、家に来た時の茜さんの状況では、放出には適性は低そうだから大丈夫だよね。助勢と強化は普通くらいだから、結界と拘束は芽生えるかな?特異は”人”だと低いのかな?よくわからないけど・・・。”平行思考”は強化だから、芽生える可能性が高いかな?”再生”と”治癒”は、助勢だから芽生えるよね。

 スキルを剥がす実験をやろうかな?
 魔物の確保を考えよう。

 茜さんの家のチャイムを押した。
 今になって私の格好がおかしくないか気になって・・・。緊張してきた。大丈夫かな?

 桐元孔明(よしあき)さんの妹さんが、スキル利用者になりそうです。真子さんと呼んでいいのかわかりませんが、皆さんが”真子さん”と呼んでいるので、私も真子さんと呼ばせてもらいます。
 それから、孔明(よしあき)さんのことも、桐元さんではなく、孔明(よしあき)さんと呼んだ方がよさそうです。

 真子さんは、孔明さんのご実家にいらっしゃるとのことでした。
 ご実家は、富士宮にあるらしい。移動は、迷いましたが、孔明さんの運転する車に便乗させていただくことにしました。茜さんと円香さんも一緒です。心配性の家族が上空を飛んでいますが大丈夫でしょう。

 ギルドの周りには魔物の気配はありませんでした。
 移動中に、魔物を見つけて、キングたちが対処をしています。茜さんの眷属になったスサノちゃんとクシナちゃんも駆除に参加してくれています。ユグドちゃんは、分体を作り出して、スサノちゃんとクシナちゃんの上から支援をおこなっていました。ライがこっそりと教えた方法です。
 ユグドちゃんもライと似たようなスキルを得ていて、ユグドちゃん同士での物資の移送ができるようになっているようです。
 残念なことに、本体から分体に送ることができなくて、分体から本体にしか送ることしかできません。今回は、キングたちもユグドちゃんたちへのご祝儀のつもりなのでしょう。魔物の素材を譲っています。

 ライとユグドちゃんの間で、縄張りも決めたようです。
 ユグドちゃんがそれほど広い範囲を担当するのは難しいと言っていたので、興津川を境にする案ではなく、巴川を境にする案で落ち着きました。もちろん、キングたちも広域のパトロールは続けますが、巴川を越えた場所で魔物を発見した場合には、ユグドちゃんたちに連絡を入れます。対応は、ユグドちゃんたちに一任されることに決まりました。

 ライとユグドちゃんが話し合って決めた内容です。
 茜さんには、ユグドちゃんが説明をすることになったので、今は黙っていることにします。

 久しぶりに、車に乗ったけど、運転免許が欲しいな。
 あと2年くらいで免許が取れる年齢に、戸籍上はなるから、免許は取ろうかな?車は必要ないけど、免許があるといろいろ便利だよね。身分証明にもなる。ギルドカードがあるから大丈夫だけど・・・。公的な身分証は有ったほうがよさそうだ。
 車も買おうと思えば変えるだけのお金が手に入った。
 あまりにも大きすぎる金額で、よくわからない。
 まずは、家の周りの土地や山を買おうかな?
 買えるだけ買っておいた方がいいよね?特に、裏山に繋がる場所はできるだけ買っておきたい。皆が安心して過ごせる場所を確保しておきたい。

 そうだ。
 街中にも家を買っておこうかな?私の連絡先とか、有ったほうが便利だよね?
 今の家でもいいけど、あそこは内緒にしておきたい。

 いい考えかもしれない。
 茜さんに相談しよう。

 茜さんは優しい。
 私が緊張しないように手を握ってくれている。凄く安心できる。お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しい。

 静岡市内から、バイパスに入って、富士川を渡る。
 そこから、富士宮に向かう。1時間30分くらいかかると言われた。私は大丈夫だけど、途中でトイレと食事の為に、道の駅富士に寄った。

 茜さんとおふくろ食堂に入った。
 削りたて鰹節がかかった”しらす茶漬け”を頼んだ。茜さんは、私に好き嫌いを聞いてきた。桜エビが好きではないと聞いて、鮭茶漬けを頼んだ。初めて、食事をシェアして食べた。凄く美味しかった。茜さんが、鮭茶漬けを私に食べさせてくれた時には恥ずかしかったけど、遠慮しないでと言われて、”あーん”状態で食べさせてもらった。嬉しかった。もちろん、私もお返しにしらす茶漬けを食べてもらった。茜さんも美味しいと言ってくれた。
 それから、IDEBOKでクレープを食べた。ホイップクリームハニーを頼んだ。茜さんはホイップクリームカスタードを頼んで、これも一緒に食べた。

 私は、トイレの必要がないので、車に戻ると、ライが周りの状況を教えてくれた。
 やはり、富士山が近い場所なのか、魔物の素が有ったらしく、テネシーたちが散らしてくれていた。スサノちゃんとクシナちゃんにも魔物の素を見分ける方法を教えたいというので許可をだした。必要なら、スキルを与えるようにも伝えておいた。

 道の駅富士で、孔明さんがご自宅に連絡を入れたようだ。
 真子さんはご自宅に居るようだ。ご両親は、既に他界しているらしく、お手伝いさんが家に来てくれているらしい。

 孔明さんが言葉を濁すので、円香さんの補足で判明したのですが、他にも何か事情があるようですが、私には関係ない事です。”嘘”ではないです。本当の事を言っているか解らないのですが、私を騙そうとしているとは思えません。ライのスキルにも反応がないので大丈夫でしょう。

 車は、富士宮に向かっている。はずだ。でも、私が知っている道とは違います。富士宮ではなく、大回りで三島や沼津に抜ける道に向っている。
 そして、不自然に道を変えている。

『おねえちゃん』

『ライ?』

『うん。なんか同じ車が何度か後ろに来ているけど、対処した方がいい?』

『ちょっと待って、聞いてみる』

『うん。車を調べてみる』

『お願い』

 尾行かな?
 そういえば、道の駅富士で嫌な視線を感じた。私ではなく、茜さんを見ていたから気にしなかったけど、もしかしたらギルドに敵対している人たち?でも、なんのために?

「円香さん。お聞きしたいことがあるのですが?」

「なんでしょうか?」

「この車、尾行されています?」

「・・・。孔明!」

「どうして、それを貴子嬢が知ったのか・・・。間違いなく、2台に尾行されている」

「尾行か?」

「あぁギルドを出る時からついていた。道の駅で巻けるかと思ったがダメだったようだ」

 それで、道の駅に入るときに急に曲がったのですね。

「あっそれで、ライたちが対処をすると言っていますが、対処させますか?」

「お姉ちゃん。あのね。この車から、電波が8つ出ているけど、合っている?」

「8つ?」

「うん。ユグドにも協力してもらったから間違いはないと思うよ」

「え?ユグド?!」

「うん。携帯電話?みたいな奴が、6個と、よくわからない奴が2つ」

「孔明!?」

「携帯電話は、俺と円香が二つだ。茜嬢が一つで、貴子嬢も持っているよな?」

「はい」

「残りの二つは、盗聴と位置情報か?」

「多分な」

「ライ。車を結界で隔離できる?」

「できるよ?やっていい?」

「ユグドちゃんにも協力してもらって」

「わかった」

 ライが結界を発動した。
 ユグドちゃんにも補助をお願いしたのは、今後の為だ。移動体への結界には、少しだけコツが必要だ。産まれたばかりのユグドちゃんには難しいだろうけど、今後の事を考えれば必要なことだ。

 ギルドは、いろんな組織から狙われているのかな?

 結界を展開したことを伝えた。
 孔明さんが試しに、何度か道を変えた。孔明さんも確認をしてくれたようだ。後ろから追ってきた車がはぐれて見えなくなった。

 結界は、暫く維持することに決まった。後ろをつけていた車は全部で3台だったらしい。ドーンとアイズとフェズが分担して、車を尾行している。
 円香さんがライの負担を気にしていたけど、負担に感じるようなことでもないので、大丈夫だと伝えてある。

 孔明さんは、何度か道を変えたが、30分くらいしてから、進路を富士宮に変えた。
 途中で一度だけ停まって、自宅に電話を入れた。

 家は真子さんだけになっているようだ。
 よくわからないが、真子さんだけの状況になっているのに安心している様子だった。

 30分後に、ちょっとだけ古ぼけた感じがするマンションに到着した。
 最初に、顔見知りだという円香さんが部屋に向った。

 10分くらいして戻ってきてから、私たちも孔明さんのご自宅に向かうことになった。

 桐元家は、マンションでした。真子さんが部屋に引き籠っていることや、孔明さんが帰ってきて寝るだけの部屋があれば十分なので、戸建てでは無いようです。

「円香。茜嬢。適当に座ってくれ、貴子嬢。さっそくだけど、頼めるか?」

 私とライは、孔明さんについて行きます。

「真子」

 ドアの前で、ノックをしてから、話しかけます。
 部屋からの返事がない。真子さんが居るのは、ライの使っているスキルで解っている。真子さんとモモンガが居る。

「真子。今日は、お前を」「お兄ちゃん。もう・・・。いい。私の為に、お兄ちゃんが傷つかなくて・・・。私は、もう・・・」

 真子さんの拒絶とも取れる発言に、孔明さんが慌てだします。

「真子!違う!話を、話を聞いてくれ!」

 孔明さんが、ドアを叩きます。
 逆効果です。真子さんは、話を聞いて欲しいだけだと思います。そして、孔明さんが無理をしていると思っているのです。

 それに、真子さんの態度が気に入らない。違うかな?恵まれていると気が付いているのに、自分”だけ”が不幸だと思っている。

 ドアを叩いている孔明さんの手を止めさせて、ドアのノブに手をかけていた。

「お姉ちゃん」

 ライの声が聞こえましたが、身体が先に動いてしまいました。

「貴子嬢?」

 孔明さんは驚いた表情をしていますが、私を止めないようです。
 真子さんは確かに”不幸”でしょう。でも、それでもなんとかしようと無理をしてくれる”家族”がいるのです。何も出来ない。治らない可能性が高いと思えても、”家族”を蔑ろにするのは違います。

「孔明さん。私に話をさせてください」

 ノブに手をかけて、回します。
 やはり、鍵はかけられていません。真子さんは、自分が何を望んでいるのか解らなくなってしまっているのでしょう。

 毎日の様に繰り返されている”大丈夫。俺が何とかする”この言葉は”呪い”になってしまっているのです。家族を信じたい。でも、その家族は疲れ切っている。家族だから解るのでしょう。
 家族を無くしてしまった私には解る。新しい家族を迎えられた私だから、家族を求める気持ちも解る。
 そして、身体を損傷して人間でなくなってしまった感覚に捕らわれているのでしょう。自分が、人として欠陥だと”呪い”のように思えてしまっている。価値なぞ、生きているだけで、側に居るだけで十分なのに、自分には価値がないと、家族の重荷になっているのだと、”呪い”にかかったように考えてしまっている。もしかしたら、誰かが囁いているのかもしれない。

「貴子嬢。何を」

 ライが、孔明さんを抑えてくれます。
 力だけなら、孔明さんの方が強いでしょう。

「ライ。結界をお願い。それから、一緒に来て」

 ライは、私の言っている意味が解ったのでしょう。

「うん」

 ライの結界が発動します。ライの分体が、私の肩に乗るのがわかります。結界の外に居るライは孔明さんを抑えています。

 部屋は綺麗に片付いています。
 ベッドの上に、女性が居ます。真子さんなのでしょう。布団で身体を隠しています。義足らしき物もありますが、使っている様子はありません。

 モモンガが本能なのでしょうか?私たちを見て威嚇を始めます。
 真子さんを守ろうとしています。これなら、大丈夫でしょう。

「初めまして、桐元真子さん。私は、松原貴子です。貴子と呼んでください」

 まずは自己紹介です。
 アニメで見た、スカートを摘まんで頭を下げる奴をやってみました。練習しておいてよかったです。

 真子さんは、意味が解らないという表情をしていますが、その反応が見たかったので良かったです。
 心は死んでいないようです。まだ、生きたいと思っているのでしょう。

「何?貴方は?」

「貴子です」

 もう一度、名前を伝えます。
 自己紹介をしたので、名前で呼んで欲しいと思っています。

「お兄ちゃん?!」

 ドアには、ライに抑えられている孔明さんが居ます。
 心配そうにしています。何かを言っていますが、声は聞こえません。

「無駄です。この部屋は結界で囲んでいます」

 何もない所を叩いている孔明さんを呼びますが、無駄です。
 向こうからの声が聞こえないように、こちらからの声も聞こえません。

「結界?」

 真子さんくらいの年齢なら、アニメを見るでしょう。
 結界と言えば、解ってくれると思っています。

「はい。外の音が聞こえないようにしています。中の音や声も外に漏れないようになっています」

 簡単に説明をします。
 真子さんは、”嘘”と小さく聞こえないくらいの声量で呟きますが、私には聞こえてしまいます。

「え?貴方は?」

 まだ、私の名前を呼んでくれません。
 悲しいです。

「貴子です。真子さん」

 もう一度、名前で呼んで欲しいと伝えます。

「貴子さん?」

 やっと、名前を呼んでくれました。

「そうです。真子さんの治療を、お兄さんの孔明さんに依頼されました」

 やっと、本題を切り出せます。

「え?治療?無理・・・」

 そう思われてもしょうがありません。
 でも、見たところでは、治療は出来そうです。

「無理ではありません。必要なことは、真子さんの覚悟です」

 必要なことを真子さんに伝えます。
 方法は、あとで説明すればいいのですが、その前に”覚悟”が必要です。100%の成功率ではありません。

「覚悟?何?」

「はい」

 そこで、ライが真子さんの前に移動します。

「スライム?」

 逃げようとしますが、後ろは壁です。

「大丈夫です。ライは、私の家族です」

「家族?」

「そうです。真子さんにとっての孔明さんのような存在です」

「え?」

 私は、スライムの姿に戻ります。
 本来は、スライムなのです。

 真子さんの驚愕が伝わってきます。そして、モモンガの警戒がマックス状態です。真子さんがいなければ襲ってきたことでしょう。今は、私と真子さんの間に入って、威嚇の状態です。

 スライムから女子高校生の姿に戻ります。
 話が出来ないですからね。

 カミングアウトの時間です。

「私は、元人間の魔物(スライム)です。高校生でしたが、いきなり魔物(スライム)になってしまいました。元々家族は居なかったので、哀しんでくれる人も居ませんでした。一人で寝て、一人で起きて、一人で学校に通う普通の高校生でしたが、魔物(スライム)にされて、日常生活も全てが壊れてしまいました」

 真子さんが何を考えているのかわかります。自分よりも、”不幸”な人が居ると認めたくないのでしょう。だから、カミングアウトです。

「え?」

 パニックになっているようです。
 当然です。いきなり、初めて会う人がスライムになって、”元人間”ですと告白しているのです。訳が解らないと思います。その点だけは、謝罪しなければならないのでしょう。

「真子さん。スライムには、いろいろとスキルがあります」

「スキル?」

「スキルはご存じですよね?」

 真子さんは頷いてくれます。

「説明を続けます。特定のスキルを得るのは難しいです。これは知っていますよね?」

 真子さんの部屋には、スキルを得るための本が置かれています。
 最初は、身体を治せるスキルがないか調べたのでしょう。でも、調べれば、調べるほど、絶望する情報しか出てこなかったはずです。私も同じです。ギルドが秘匿しているのか?国が秘匿しているのか?軍が秘匿しているのか?
 スキルに関する情報は、想像以上に少ない現状があります。

「はい。身体を治せるスキルがあれば、お兄ちゃんに頼らなくても、ポーションも見つかっていなくて・・・」

「そうです。誰かが秘密にしているのかわかりません。それは、今は置いておきましょう。私は、魔物(スライム)になってスキルを得ました」

「え?」

「私が、今から話す方法は、100%の保証がありません。いろいろ実験を行っていますが、それでも成功率は95%程度です。残り5%はどうなるかわかりません」

「・・・。治るの?私の身体が?」

「その為に、私とライが来ました」

「本当に?」

「はい。お二人の覚悟が聞きたいです。まずは、方法を説明します。そのうえで、お二人の覚悟を聞かせてください」

「二人?」

「はい。お二人です。ライ。お願い」

「うん!」

 ライが、人間の姿に変ります。
 外に居るライがスライムの姿に戻ります。

 ライがモモンガに近づきます。
 威嚇は続いていますが、ライに敵意がないことが解るのでしょう。徐々に治まってきます。

 ライが、モモンガちゃんに触れます。

「ライ?」

「うん。大丈夫」

 ライが。大丈夫だと言っているので、モモンガちゃんとのパスが繋がったのでしょう。
 強制はしたくないのですが、最悪は強制的にスキルを付与させることも出来そうです。

「え?なにが?え?」

「真子さん。治療の方法を説明します」

 外に居るライが。孔明さんを抑えておく必要がなくなったと報告を上げてきます。
 結界の必要もないですし、外に居るライに結界を解除してもらいます。

 ついでに、円香さんと茜さんを呼んできてもらいます。

 孔明さんだけに見てもらうよりは、茜さんや円香さんにも見てもらったほうが安心です。

「え?治療?本当に?」

 見た感じでは、デイジーの方が酷いので大丈夫だと思います。

「はい。本当です。孔明さんには説明をしていますが、最終の確認として、真子さんに説明をします。そのうえで、真子さんが決めてください」

「わからないけど・・・。わかった。貴子さん」

「うーん。できれば、”ちゃん”がいいです。真子さんは、年上ですよね?」

「え?あっうん。制服?が、どこの高校か解らないけど、制服を着る年齢じゃないよ?」

「それなら、真子さんの方が、年上です。私は、今年で16歳でした。スライムの年齢では1歳にも満たないのですが・・・。人間では、16歳まで年齢を重ねました」

「そう・・・。ご家族は?」

「両親と妹は、12歳の時に、魔物を追いかけていたと主張しているハンターが運転する車に跳ねられました。妹を庇った両親は即死でした。妹は十日後に苦しみながら死にました。握られた手の感触は魔物(スライム)になった今でも覚えています」

「え?」

「真子さん知っていますか?魔物を追っていたと言えば、事故を起こして、人を跳ねて殺して逃げても罪には問われないのですよ。不思議ですよね?」

「なっ!?」

「祖父は、同じ年に・・・。裏山で見つかった魔物を駆除しにきたと言っている自衛隊が撃った弾に当たって死にました。即死でした」

「・・・」

「裏山は私の家が所有している。所謂、所有地です。魔物の駆除依頼は出していませんでした。近所の人も魔物を見ていないと言っていました。不思議ですよね。自衛隊が、勝手に私有地に入って、勝手に誤射して、庭で祖母の好きな花を植えていただけの人間を殺すのですよ?」

「・・・」

「祖母は、祖父が死んだショックで寝込んで、そのまま病院で死にました」

「・・・」

「祖母が倒れた時にも誰も見舞に来てくれません。家は呪われているらしいです」

「あ・・・」

「兄は、両親の事故の抗議に出かけて、帰ってきませんでした。翌朝、警察から病院に呼ばれました。面会したのは、白い布を被せられていた兄でした」

「貴子さ・・・。貴子ちゃん。その、ごめんなさい」

「いいですよ。調べれば解ることです。兄以外は、事故です。兄も、警察からは翌日には”事故”だと言われましたから、兄も事故だったのでしょう。顔に殴られた跡があって、服が破れて、身体中に痣のような物があっても事故だったのでしょう」

「貴子ちゃん?」

「大丈夫ですよ。私には、家族が出来ました。人ではありませんが、私と同じように、スライムになってしまった者たちの集合体であるライだけではなく、人から虐待を受けたり、殺されかけたり、搾取されるだけの者たちでしたが、力を得た者たちです。私の頼もしくも優しい家族です」

「・・・」

 ダメですね。
 家族の事を聞かれると、熱くなってしまいます。おばあちゃんからも注意されていたのに、これでは八つ当たりです。

「ごめんなさい。それで、治療ですが」

「え?」

「え?」

 何に驚いているのでしょうか?
 真子さんの治療を行うために来たのです、治療の説明をしなければ先に進めません。

 布団で隠していますが、意味はありません。
 茜さんが孔明さんから聞いた話を思い出します。

 右足の膝から下が欠損。
 左足は足首から先が動かない。
 左手の中指と薬指と小指が全損。人差し指が第一関節から先が欠損。
 傷跡は、腕と顔と肩にある。傷跡は、右側かな?髪の毛で隠している。

「お兄ちゃん」

 孔明さんが、真子さんの横に腰を降ろします。
 モモンガちゃんはおとなしくなっています。

「真子さん。モモンガちゃんの名前は?」

 孔明さんが話をしようとしますが、目で制します。
 必要なことではないのですが、必要なことだと意識させます。

「モモ」

「モモちゃんは、魔物になってもらいます」

「え?」

「モモちゃんには、2つのスキルを覚えてもらいます。”再生”と”治療”です。ライが調べたのですが、モモちゃんは欠損も治療が必要な状態ではないので、スキルの定着は可能です。適性も、合っています。必要なら、他のスキルも与えられますが・・・。今は、二つのスキルを覚えてもらいます」

「え?え?魔物?」

「真子さんには、モモちゃんと契約を結んでもらいます。既に、パスが出来ているようなので、名前を呼ぶだけで、モモちゃんが受け入れてくれると思います」

「パス?契約?お兄ちゃん?」

 不安そうな表情で、孔明さんを見ます。
 孔明さんは、私を見てきますが、これ以上の説明は難しいうえに、面倒です。

 孔明さんも解っているのでしょう。真子さんの手を握るだけに留めます。

「モモちゃんが真子さんを受け入れれば、モモちゃんは真子さんの眷属です」

「眷属?」

「私とライの関係です」

「え?」

「私とライは、眷属という繋がりを持っています。そして、ライは私に”命”を預けてくれています」

「え?」「は?」「ん?クロトたちも?」

「そうです。茜さんの所に居るクロトちゃんたちも、茜さんに”命”を預けています。だから、スキルが共有されています」

「え?なに?本当?」

「はい。あっ、今は、真子さんの治療ですね。それで、モモちゃんには、ライが確認をしましたが、真子さんに全てを委ねると言っています」

「え?モモ?本当?」

”ククク。プクプク!”

「ライ」

「うん。”一緒に居たい。楽しい。優しい。嬉しい”。魔物になって、真子さんの眷属になって、意識がはっきりしたら、もっと言っている事がわかると思う」

 ライのセリフに、茜さんが頷いている。
 クロトちゃんたちとの会話が出来るのは、茜さんが実感しているのでしょう。

「モモ・・・」

「私は、”魂の共有”と呼んでいますが、眷属化が出来たら、スキルが真子さんと共有されます」

「貴子嬢。少しだけ質問をしていいか?」

「はい。なんでしょうか?」

「”魂の共有”でスキルが共有されると説明を受けたが、真子が”再生”や”治療”に適性が無ければどうなる?」

「うーん。孔明さん。真子さんは、スキルを持っていませんよね?」

 真子さんも、孔明さんも頷いています。
 円香さんを見てしまいましたが、円香さんなら、スキルを持っているかどうかの判断が出来るのはスキル構成から解っています。

「茜さんに説明をした水見式は、スキルを得てからしかできません」

「そうだな」

 孔明さんが肯定してくれます。茜さんも、円香さんも頷いています。
 良かったです。私の意図が解ってくれているようです。

「ライなら、水見式と同じことが出来ます。スキルを持っていない人や動物に・・・」

「え?」

「もっと、汎用的に出来るようにならないか考えているのですが、なかなか難しくて・・・。今日は、ライが、真子さんを見ますか?それとも、モモちゃんとの共有ができないときに改めて・・・」

「見てください!」

 今まで黙っていた真子さんが、布団をどかして、傷ついた身体を晒して、声を張り上げます。
 何か、心境の変化が有ったのでしょう。

「はい。わかりました。ライ。お願い」

「うん」

「真子お姉ちゃん。両手で手を触って」

 ライは両手を差し出します。
 真子さんは、傷ついた手でライの右手を触って、右手でライの左手をしっかりと握った。

「適性は、放出が一番だよ。あと、変異と助勢かな。強化は、ほぼ適性がないみたい」

「貴子嬢?」

「ライ。レベルは?」

「放出は、レベル5以上。変異と助勢はレベル4」

「レベル3以上なら、”再生”と”治療”は取得が出来ます」

「貴子さん。横からすまない。レベルというのは?」

「あっごめんなさい。私たちがわかりやすいように、取得できるスキルをレベルで分けて管理しているのです。適性に合わせてレベルで考えるとわかりやすいので・・・。そうですよね。ギルドの言い方があるのですよね。茜さんに後で教えてもらいます。今は、このまま進めさせてください」

「あぁ。茜。後は頼む」

 茜さんが首を激しく横に振っています。
 これから、ギルドと歩調を合わせるのなら、ギルドで使っている用語に合わせる必要があると思っています。いろいろ大変だな。

 真子さんの適性なら、”聖”も使えそうだ。ライに準備をお願いしよう。
 強化の適性がないと、戦えない。いざという時に困らないように、”結界”も覚えてもらおうかな?

 よくわからないけど・・・。
 この家は・・・。

 言葉は、茜さんが教えてくれるようです。良かったです。
 茜さんは優しいから、お姉ちゃんみたいで頼ってしまいます。

「真子さん。話がごちゃごちゃしてごめんなさい」

「いいよ。私は、何をしたらいいの?どうしたら・・・」

 真子さんが、布団から出ている手や足を見ます。
 足は、欠損の状態がはっきりとわかります。指は、解らないように、ギプスのような物が付いていますが、見れば義指だとわかります。

「最初に伝える事があります」

「はい」

 まっすぐに私を射抜くような視線で見てきます。

「モモちゃんと契約すると、モモちゃんの寿命が、真子さんの寿命と同期します」

「え?」「え?」

 茜さんも驚いています。
 説明をしたと思うけど、しなかったかな?

「モモちゃんは、真子さんが死ぬときに、消えてなくなります」

「え?なんで?」

「私も解りません。魔物として産まれてきた場合には、ドロップや遺体が残ることがありますが、動物が魔物になってしまった場合には、何も残しません」

 時間が経過して、魔物として過ごす時間が増えてきたら変わる可能性もありますが、今は”消えてしまう”現象しか確認が出来ていません。

「真子さんは、強化系の適性が皆無なので、”魔物鑑定”と”魔物支配”のスキルは付かないと思います。その代わりに、”魔物同調”のスキルが芽生える可能性があります」

「貴子嬢」「あっ質問は、後でお願いします。話が進まないので・・・」

 孔明さんの心配はわかります。
 でも、最後まで一気に説明をさせてほしい。

「すまない。続けてくれ」

「ありがとうございます」

 孔明さんと円香さんに頭を下げます。

「真子さん?」

「なんでもない・・・。です」

 モモちゃんが、いつものポジションなのでしょう。真子さんの肩に座っています。

「スキルは、実際に芽生えてから説明します」

「はい」

「ありがとうございます。モモちゃんにスキルが馴染めば、次はスキルが共有されます。これは、モモちゃんが拒否も出来ますが、拒否はしないようにお願いします」

「え?あっ・・・。はい」

「”再生”と”治療”ですが、簡単に説明をします」

「お願いします」

「”再生”には、アクティブとパッシブがあります。あっこれも、私たちが呼んでいるだけで、ギルドでは違う言い方があるかもしれません」

「はい」

「”再生”のアクティブ・スキルは、そのまま”再生”です。過去に遡って、身体を治していきます」

「え?」

「時間的には解りません。3日ほど前の欠損では、ほぼ瞬時に治りました」

「え?」「は?」「ほぉ・・・」

「真子さんの場合には、時間がかかるかもしれません。それは、ごめんなさい」

「・・・。治る?本当に?」

「はい。治ります。足が生えて、指が生えます」

「貴子嬢。なにか、代償はあるのか?」

「そうですね。魔力と呼べばいいのか?私は、マソと呼んでいますが、スキルを使う時の根源の力が必要です。真子さんの場合には、モモちゃんからもマソの共有を受けるので、マソが無くなるまでは再生が行われます」

「貴子さん。マソが無くなった場合と、再生を途中で止めることはできるのか?」

「マソが無くなった場合には、私の家族たちは、気絶しました。半日から長い子でも1日くらいで復活しました。死ぬようなことはないです。真子さんのマソ量がどの程度になるかで、起きるまでの時間は変ってきます。マソ量はスキルを取得するまでわかりません。ごめんなさい」

「ありがとう」

「再生を止めることは可能です。真子さんが思い描く、最良の場所で再生は止まります」

「・・・。ねぇ貴子ちゃん。再生があると、老化しないってこと?」

「わかりません。”再生”はクールタイムが長いので、老化はすると思います」

 あれ?
 茜さんが少しだけ残念な表情をします。老化したくないのなら?別の方法がある。でも、そうなると・・・。

「貴子ちゃん。”治療”は?」

「そうでした。”治療”は、痛みを快楽に変えます。それと、内臓や血管の損傷を治します」

「え?」「ほぉ・・・」

「”再生”だけだと、傷や欠損は治りますが、血が通わない臓器は腐ってしまいます。あっ私は、実感していないので解らないのですが、家族が言うには毛並みや皮膚にも”治療”は効果があるようです」

「髪の毛?」「それは・・・。また」「ははは」

「あと、真子さんには、”再生”と”治療”をごまかすために、スキルが芽生えたあとで、”聖”のスキルを覚えてもらいます。もしかしたら、自然に芽生える可能性もあります。これは、実際にスキルを得なければわかりません」

「”聖”?」

「はい。ゲームで言えば、ヒールとか、毒消しとか、癒しの魔法が使えるスキルです」

「・・・。お兄ちゃん?」

「信じられない話だろう?でも、本当のことだ。一部は検証が終わっている。円香」

「真子。本当だ。真子は、私のスキルを知っているよな?」

 真子さんが頷いている。
 茜さんは、知らないようだ。少しだけ動揺が見られる。

「貴子ちゃん。治療をお願いします」

「あっ。その前に、デメリットの説明をします」

「え?デメリット?」

「はい。”再生”と”治療”のスキルには、デメリットはありません。あるかもしれませんが、把握が出来ていません。これが、デメリットの一つ目です」

「それは、そうですよね。わかります」

「ありがとうございます。次のデメリットですが、真子さんのマソ量がわからないので、一度に回復できる部分が偏ってしまうかもしれません。私とライが持っている結晶を使う事が出来ますが、それでもデメリットがあります」

「・・・」

「まず、マソ量が足りない時には、再生は途中で止まります」

「はい」

「止った場合には、マソが回復してクールタイムが終わってからです。クールタイムは、治った怪我をおった現在までの日数の数倍だと予測されています。なので、真子さんの場合には、一気に回復する必要があります」

 時間に依存するのは解っているのですが、検証が出来ていない項目です。
 真子さんの場合には、クールタイムは5年の数倍。倍としても、10年は必要です。スキルを剥がしてもう一度つければ復活する可能性がありますが、検証が出来ていない項目です。どこかで試してみたいと思っています。

「日数の数倍?それは・・・。はい。納得ができます」

「ありがとうございます。結晶を使うことになるのですが、どの程度の結晶が必要になるのか解らないので、何とも言えませんが、マソの総量が増えて、新しいスキルが芽生える可能性があります」

「はい」

「デメリットは新しいスキルが芽生える事です」

「え?」

「魔物にしか芽生えないスキルが芽生えてしまうと、真子さんは”魔物”と同等になってしまいます」

 最大のデメリットが、魔物化です。
 スサノちゃんとクシナちゃんが、これに該当します。眷属になる前に、魔物しか芽生えなかったスキルが芽生えてしまって、魔物になってしまっていました。話を聞いていると、クロトちゃんとラキシちゃんとアトスちゃんも同じです。

 真子さんは考え込んでしまいました。
 当然ですよね。

「あっでも、魔物になったとしても、”結界”のスキルを覚えれば、殆どのことが解決します」

「貴子ちゃん。魔物になった場合に、姿はどうなるの?角とか生えるの?可愛い羽なら嬉しいな」

「見た目は変わらないと思います。これも、検証が出来ていないので・・・。ごめんなさい」

「貴子ちゃん見たいにスライムになるの?」

「スライムやゴブリンやコボルトと言った魔物にはならないと思います。家の家族ですが、魔物になった場合でも、元々の姿が変わった子は、居ません。草木から、エントやドリュアスになった子たちは居ますが、本体は草木のままです。エントやドリュアスは自分が望む分体を作り出すスキルを持っています」

「見た目は変らないの?」

「いきなり、魔物みたいな見た目にはならないと思います」

「え?それでは、デメリットは無いのと同じなのでは?」

「いえ。”結界”をうまく使わないと、街中で”センサー”に引っかかる可能性があります。あと、死んだときに何も残りません。いきなり、服だけが残ります」

「あっ・・・。でも・・・」

 孔明さんを見ますが、家族に何も残せないのは辛い事です。
 でも、年齢から考えると、先に寿命を迎えるのは孔明さんです。真子さんが気にしても・・・。

「あっ最後のデメリットですが・・・」

「あっ最後のデメリットですが・・・」

「え?はい」

 真子さんが、姿勢を正して私を見てきます。

「”再生”のスキルが発動している状態で、快楽が身体を襲います」

「え?」

「本来、”再生”は、記憶を再生するので、痛みも再生されます」

「・・・」

「”治療”のスキルは、治療中の痛みを快楽に変えます」

「え?」

「これは、私が試せなかったので、デイジーに聞いた話です」

「治療中?」

「この辺りが微妙なのです。痛みが必ず快楽に変わるわけではないようです。スキルで与えられた痛みが、快楽に変るようなのです」

「・・・。それが、デメリット?」

「はい」

 私が孔明さんを見ると、円香さんが私が懸念していることが解ったようです。嬉しいです。

「孔明!茜。リビングに戻るぞ!貴子さん。真子が、治療を受け入れた場合には、どのくらいの時間が必要だ?」

「わかりませんが、概算で良ければ・・・」

「概算で構わない」

「予測では、5ー6時間程度、8時間はかからないと思います。あっ。”再生”のスキルが芽生えてからなので、モモちゃんから考えると、60分くらいの誤差は出ます」

「貴子さんがついていてくれるか?」

「真子さんが、私で良いと言ってくれたら、結晶の提供もありますので、”再生”が終わるまでは、居たいと思います」

「孔明。いいよな?」

「あぁ貴子嬢。ライ殿。お願いする」

「貴子さん。あと、音を遮断する結界をお願いしたい」

「わかりました」

 円香さんが、茜さんと孔明さんを連れて、リビングに移動します。
 ライには、スライムになってもらいます。

 少しだけ恥ずかしい話をしなければならないのです。

「真子さん。恥ずかしいことを聞きますが許してください」

「はい?」

「真子さん。男性との経験は?」

 私の言っている意味が解ったのでしょう。徐々に顔を赤くして、真っ赤になった状態で首を横に振ります。

「一人では?」

 真っ赤な状態から、さらに赤くなって、あわあわして、恥ずかしそうにしてから、首を縦に振ります。
 モモちゃんで顔を隠すようにしているのが、可愛いです。

「ありがとうございます」

「・・・。いえ」

「それで、快楽が身体を数時間に渡って襲い続けます。真子さんが、快楽を感じた時に、どうなってしまうのか解らないので、孔明さんには部屋を出て行ってもらいました」

「あっ・・・」

「最大のデメリットです」

 解ってもらえたようです。
 恥ずかしそうにしながら考えていました。覚悟が決まったのでしょう。真子さんは、私をまっすぐに見てきます。

「貴子ちゃん。治療をお願いします」

「はい。ライ。モモちゃんにも確認して」

「うん!」

 ライがモモちゃんと話を始めます。
 説明が長くなりそうです。

「貴子ちゃん。あのね」

「はい?」

「私、気持ちよくなると・・・。その・・・」

 恥ずかしい話のようです。
 私も経験がないので解らないのです。

「私も経験がないので解らないので、はっきりと聞きます」

「・・・。うん」

「タオルが必要ですか?」

「・・・。うん。あのね。いま、私、こんな・・・。状態でしょ?」

 欠損している方の腕と足を上げて見せてくれました。

「お兄ちゃんには黙って居て欲しいけど・・・」

「大丈夫です。絶対にしゃべりません」

「ありがとう。あのね。私、おむつ・・・。履いているの」

「そうですか・・・。合理的ですね」

「え?あっ。うん。だから、タオルは・・・。ないけど、おむつのままなら・・・」

「そうですか?おむつを交換しながらにしますか?」

「え?」

「妹が生きている時に、おむつを交換していましたし、おばあちゃんが倒れた時にも、病院でおむつの交換を看護師さんに教えてもらったので、出来ます」

「お願いしていい?汚いかもしれないけど・・・」

「大丈夫です。気にしないでください。あっ。孔明さんに内緒だとしたら、大量の使用済みのおむつができると大変ですね」

「・・・。うん。でも、しょうがないよね。その時には、お兄ちゃんに正直に話すよ」

「大丈夫です。ライ!まだ、アイテム袋ある?」

「うん!あっモモは、大丈夫だよ。真子さんと一緒に居られるのなら、何でもOKだって」

「わかった」

 ライから、アイテム袋を受け取ります。
 アイテムボックスよりも、容量は小さいのですが、持ち運ぶのならアイテム袋の方が便利です。時間停止もつけています。

「真子さん。これに、真子さんが汚したおむつやタオルを入れます」

「え?小さいのに入るの?」

「はい。あとで、真子さん専用にしますが、今は私も使えるようになっています。ゲームとかのアイテムボックスはわかります?」

「うん」

「あれだと思ってください。中に手を入れると、中に入っている物が頭の中に浮かびます。取り出したい物を考えると、取り出せます。入れるのは、袋の入口の大きさまでなので、タオルやおむつなら入ります。あとは、どこかに捨ててください。時間停止もついているので、中に入れておけば、匂いが漏れることは無いので、安心してください。このアイテム袋は、真子さんにプレゼントします」

「え?え?よく解らないけど、わかった。私は、他には何をしたらいい?」

「はい。指にはめている義指や、義足の接合器具や、怪我を隠している物を外してください。難しければ、ライが手伝います。あと、汚れると困る物は脱いでくれると嬉しいです。かなりの汗が出ると思います。水分補給が必要になりますが、何かありますか?無ければ、孔明さんに買ってきてもらおうかと思います」

「そうか・・・。汗も・・・。全裸でいい?恥ずかしいけど・・・。貴子ちゃんならいいかな・・・」

「ライ。結界は、外から見えないようにして」

「わかった」

 ライが結界の属性を変更します。

「これで、外からは見えません。安心してください。でも、私とライには見えてしまうのは、ごめんなさい。マナの量が減ってきたら、結晶を追加しなければならないです。結晶は、体内に入れないとダメだと思うので、乱暴にしてしまうかもしれません。先に、謝っておきます。それと、おむつやタオルの交換をしなければならないので・・・」

「うん。わかっている。恥ずかしいけど・・・。あんまりじっくりは見ないでね?」

「そうだ!私も一緒に全裸になってもいいですよ?スライムの姿なので、全裸に価値があるとは思えませんが?」

「え?いいよ。その方が恥ずかしい」

「そうですか?私の身体を見て、あの部分を見て欲しかったけど・・・。自分では、よくわからないから・・・」

「あっ・・・。でも、それは恥ずかしいかな」

「わかりました。諦めます。ライ。最初は、任せていい?」

「うん」

「真子さん。治療を始めます。まずは、真子さんには全裸になって、タオルの上に寝てもらいます。替えのタオルとか、孔明さんに聞けばわかりますか?」

「うん。脱衣所にタオルがあるよ」

「わかりました」

 真子さんが服を脱ぐのを手伝って欲しいというので、手伝います。
 おむつは、パンツ型のおむつなので、履いていた物を脱いでもらって、新しいおむつを下に敷きました。履いてもらってもいいのですが、新しいおむつにかえるのが面倒なので、真子さんと話をして決めました。
 真子さんが、汚れを気にされたので、ライに”浄化”と”洗浄”のスキルを使って真子さんの身体を綺麗にしました。気にするほど汚れていなかったのですが、気になったようです。あとは、事故にあってから、ムダ毛の処理をしていないから恥ずかしいと言い出しました。前向きな気持ちになってくれたようで嬉しいです。でも、さすがに私がムダ毛の処理をするのは違うと思いますし、恥ずかしさの限界を越えてしまいそうなので、治ってから自分でして下さいと言ったら、笑いながら”そうだよね”と言ってくれました。
 初めて、真子さんの笑顔を見た気がします。

 真子さんは、全裸になって横になってもらいます。綺麗な身体です。私よりも少しだけ大きなおっぱいです。大丈夫です。私は、スライムなので大きさは自由自在です。もしかしたら、再生で小さくなってしまうかもしれません。デメリットの一つとして伝えた方がいいかもしれません。

 ライが、モモちゃんにスキルの取得を教えています。

「真子さん」

「はい」

「一つ、デメリットになる可能性がある事に気が付きました」

「え?」

「再生は、簡単に言えば、身体を元に戻すスキルです」

「はい」

「事故から、おっぱいの大きさが変っていたら、元のサイズになってしまいます」

「・・・。え?あっ!大丈夫。元々、このサイズだよ。ブラのサイズもBカップのままだし・・・。あ!お腹のお肉が減る?」

「あっ・・・。減ります。多分、大きなデメリットですね」

「そうだね。迷ってしまう位のデメリットだ!どうしよう!?お腹の肉が減ったら嫌だな!!」

 二人で笑い合います。
 大丈夫なようです。

 モモも順調な様子です。
 もう少しだけかかりそうなので、その間に、飲み物とタイルの準備を行います。

 やっと治療が始められます。

 ライがモモちゃんにスキルを取得させている間に、結界から出て、リビングに向かいます。

 茜さんが私に気が付いてくれました。

「貴子ちゃん?どうしたの?何か、問題?」

「貴子嬢。真子は?」

「大丈夫です。デメリットの説明が終わって、真子さんの治療が始まった所です。それで、孔明さんに、お願いがあります」

「なんでも言ってくれ」

「この辺りの地理に詳しくないので解らないのですが、スポーツドリンクを買ってきて欲しいのです」

「わかった。真子が飲むのか?」

「はい。治療時に汗とかで水分が出てしまう可能性が高いこともあり、補給の為に、飲み物が欲しいのです」

「貴子さん。飲み物だけでいいのか?食べ物は?」

「食べられる状況になれるとは思えませんが、治療が終わった時に、食べられる物は有ったほうがいいかと思います」

「わかった。孔明。スーパーがあるだろう?私を連れていけ」

「円香を?」

「そうだ。茜では、料理は不可能だ」

「え?」

 茜さんを見ると、恥ずかしそうに視線をそらしました。本当に、料理ができないのかな?
 料理が出来そうな雰囲気があるのに・・・。そして、円香さんが・・・。料理ができる?不思議な感じがします。

 円香さんは、立ち上がって、冷蔵庫をのぞいています。
 何もないと言っているので、本当に食料が無いのでしょう。考えてみると、真子さんの部屋には、菓子パンの袋やお菓子の袋がありました。食器が使われた形跡がないので、食事は・・・。

「孔明。行くぞ、あと、ゼリーとか、流動食に近い物も買って来よう」

「あっ!円香さん。孔明さん。私たちの食料もお願いします!勝手にお寿司を取ったら怒りますよね?」

「怒らないが、美味しくないぞ?」

「それなら、ピザにします」

「わかった。何か買ってくる。孔明の財布からでいいな」

「あぁ。貴子嬢はどうする?何か必要か?」

「私は・・・。そうですね。何かあれば摘みます。今は、好き嫌いは無いので、何でも大丈夫です。お肉があると嬉しいです」

「わかった。丁度、富士宮には、美味しい肉の店がある。高級肉を買い占めて来る」

「ははは。お願いします」

 円香さんが孔明と買い物に行ってくれるようです。
 結界が有効な間に、車につけられている盗聴器を探すようです。信頼できる車の整備工場があるそうなので、買い物が終わったら、孔明さんは車を整備工場に持っていくようです。円香さんが、私を見ながら言ってくれたので、真子さんから距離を開けてくれたようです。
 確かに、食事の補助は私だけでは難しい可能性があります。でも、全裸の状態の真子さんと孔明さんは会わないほうがいいでしょう。なんとかしましょう。頑張ってみます。

 茜さんだけが残りましたが、今は話をしている時では無いでしょう。

 脱衣所にあるというタオルを・・・。ん?

 そうか、おむつもタオルも・・・。

 ライに、真子さんを飲み込んで貰えば、中で何を出しても大丈夫です。
 でも、ライは大丈夫だとしても、真子さんが恥ずかしさを越えてしまいそうですね。辞めておきましょう。ライの中で大量の汗や涎や排泄をしたとわかったら、真子さんが恥ずかしさで死んでしまうかもしれません。

「茜さん。真子さんの部屋に戻ります」

「うん!わかった。何か、注意することはある?」

「結界で、中が見えないようにしているので、何かあるときには、私かライが連絡に来ます」

「わかった。結界がある限りは大丈夫だと話しておくね」

「ありがとうございます」

「いいよ。貴子ちゃんも無理はしないでね」

「はい。ありがとうございます」

 茜さんは、私をしっかり見て、無理をしないように言ってくれました。
 嬉しいです。

 私を見てくれる人です。

 茜さんは、私が動き出したのを見て、視線をパソコンに戻します。
 何か資料を作っているのでしょうか?
 何か、私が手伝えることがあれば、いいのに・・・。無理ですよね。高校も卒業していない人間に手伝えることは無いのでしょう。

 部屋に戻ると、モモちゃんが少しだけ苦しんでいます。
 身体が魔物に変っているので、当然の反応です。

 真子さんが、モモちゃんを抱きしめています。
 モモちゃんも大丈夫だというように、真子さんの手を舐めます。

 私が来てから2分くらいして、モモちゃんがぐったりしています。

「貴子ちゃん?」

「大丈夫です。真子さん。モモちゃんを呼んでください。あっ。すぐに呼ばないで、ライ。お願い」

 ライが、優しく、モモちゃんを真子さんから離します。
 すぐに始まるとは思えないのですが、始まってしまうと、モモちゃんを傷つける可能性があります。

「!!」

 真子さんとモモちゃんにはしっかりとした絆があるようです。
 眷属になる前にもはっきりとした絆が・・・。

「真子さん。モモちゃんに、真子さんの全ての感情をぶつけるように、呼んであげてください」

「わかった。モモ。モモ。大好き!これからも一緒に居ようね。ずぅーと一緒だよ。私の、私の友達で、大切な大切な・・・。モモ!」

 モモちゃんがライの手の上で立ち上がります。
 解っているのでしょう。パスがしっかりと繋がって・・・。いきなり、モモちゃんが光りだします。
 こんなことは初めてです。

 モモちゃんは最初から真子さんに全てを与えるつもりなのですね。

「ライ!」

「うん」

 介入させてもらいます。
 モモちゃんは、真子さんを助けたい。でも、真子さんは、モモちゃんの犠牲の上に治りたいとは思っていない。

 凄くいい関係です。
 だから、私も全力で支援します。

 真子さんを見ます。
 ”再生”が始まります。

 汗が吹き出します。
 悶え始めます。凄いです。腰が浮いて・・・。絶頂を迎えます。

 おむつとタオルを交換します。

 既に、2回目です。
 まずは、指が復活します。

 モモちゃんが激しく暴れますが、ライがしっかりと抑えています。

「ライ。結晶をお願い」

「うん」

 口だけでは間に合いません。
 ごめんなさい。恥ずかしいとは思うけど、許してください。
 指で広げて結晶を押し込みます。悶えが、激しくなります。声も凄いです。ライに、腕を肩と腰を抑えてもらいます。

 マソが復活したのか、少しだけ落ち着きます。
 足の復活は、まだ始まりません。

 指が先なのでしょう。
 手は殆どが治っています。内部の再生がおこなわれているのでしょうか?

「ライ。結晶を、お願い!間に合わなければ、効率は悪いけど、モモちゃんにも協力をお願いして!」

「うん」

 モモちゃんは、真子さんの状態が解るのでしょう。
 自分のマソを渡そうとしています。全部を渡してしまうと、モモちゃんが気絶してしまいます。そうなると、再生の時間が伸びてしまいます。真子さんの負担が大きくなります。モモちゃんにも頑張ってもらうしかありません。

 昔の欠損を治すのには時間が必要なのですね。そして、それだけ大変なのですね。これは、”治療”がない状態で”再生”を行ったらどうなるのか・・・。
 ゴルフボールくらいの結晶を口に2つともう一つの場所に5つ。モモちゃんに、親指サイズの結晶を20個。

 時間は?

 既に2時間が経過しています。既に、数えるのが面倒になるくらいの絶頂を迎えています。

 一度、リビングに戻って、飲み物を貰ってきましょう。

「ライ。お願い。結晶は、暫くは大丈夫だと思うけど、見えなくなったら、口に入れてあげて」

「わかった」

 真子さんは恥ずかしがると思うけど、結晶を押し込む都合上。足を閉じないようにしている。本当に、ごめんなさい。

 リビングに戻ると、円香さんと孔明さんが言い争いをしています。
 茜さんは、リビングのテーブルではなくてソファーに移動していました。

「あっ貴子ちゃん。こっちこっち」

 茜さんに呼ばれてソファーに移動します。

「どうしたのですか?」

「ん?あぁあの二人?」

「はい」

「円香さんが、孔明さんのカードを使って、凄く沢山のお肉を買ったらしくて、その言い争い」

「え?大丈夫なのですか?」

「大丈夫だと思うよ。どうせ、孔明さんが折れることになって終わりだよ」

「そうなのですか?」

「うん。それよりも、真子ちゃんは?」

「そうでした。ゼリーと飲み物を持っていきます」

「そっちの袋に入っているよ」

「わかりました」

 中身を見ると、飲むゼリーが二つとスポーツドリンクの500mlが2本入っています。
 よく見ると、袋が10袋あります。中身は同じように仕分けされています。

 袋を持って、部屋に戻ります。
 三つもあれば足りるかな?

 真子さんの快楽の波が少しだけ落ち着いたようです。

「たか・・・こちゃん」

「はい」

 身体を起こしてくれました。
 自分の手を見て、涙を流しています。

 指が無かった手にゼリーを渡します。
 まだ力が入らないのでしょう。でも、自分の手でしっかりと触れたので、嬉しいのでしょう。手で顔を覆って、涙を流しています。

 足の復活はもう少し後になりそうです。

 今は、顔や腕や肩の傷が盛り上がって治っていくようです。
 再生の速度がゆっくりになっているのは、スキルの調整が出来るようになったからなのでしょうか?
 あとで、真子さんに話を聞きたいです。パッシブスキルの制御ができた例はありません。もしかしたら、何か方法があるのかもしれません。

 興味深いです。

「たかこちゃん。ゼリー。まだある?」

 お腹が空いているのでしょう。

「あります。蓋を開けますね」

「ありがとう。うで・・・。だるい・・・。たべさせて」

 腕には力が入るようですが、だるいのは収まっていないようです。

「わかりました」

 真子さんの口元にゼリーを持っていきます。
 全裸で汗だくなので疲れているのでしょう。傷の修復にも、快楽があるのでしょう。我慢している様子です。

「たかこちゃん。ひどいよ」

「え?」

 何か私・・・。酷い事をしたのでしょうか?

「ゆび・・・。いれた?はじめて・・・。なのに・・・。すこ・・・し、いた・・・かった」

 え?
 あぁそういうことですか・・・。

「わたしは、魔物なので、ノーカンです」

「えぇ・・・。あんなゆびでひろげておくまでゆびを・・・。はずかしかった」

 たしかに、私が人間だった時に、同じようにされたら恥ずかしかったでしょう。
 謝るのがいいでしょう。
 ”すごく綺麗でした”は、言わないほうがいいでしょうね。

「はい。ごめんなさい。方法が、なかったので・・・」

「ううん。いいの。でも・・・」

「はい?」

 真子さんが、弱弱しい手つきで、手招きをします。
 私の耳元で、すごいことを言い出します。快楽が、頭を支配してしまっているのでしょうか?
 多分、そうなのでしょう。
 そうでなければ、そんな発想にはならないと思います。

「本気ですか?」

「・・・。うん」

「いいのですか?」

「うん。たかこちゃんがいい」

「えぇ・・・」

「ダメ?」

「ダメではないですけど・・・。私も、男の子は怖いですし、好きでは無かったので・・・。どちらかといえば、女の子の方が・・・」

「ね。それなら、いいよね?」

 嬉しそうにしないで欲しいです。
 本当に、なんで、そんな発想になるのかわかりません。でも、少しだけ、本当に少しだけ興味があります。形が解らないので、調べなければなりませんが、何とかなるでしょう。

 真子さんが腕を抱えるようにします。

 次の快楽の波が来たのでしょうか?
 快楽が落ち着いた時には忘れていて欲しいです。覚えていても恥ずかしくなって、忘れたフリをすることを望みましょう。多分、真子さんの望みは叶えてあげられるでしょう。でも、なんか違うと思えてしまいます。

 でも、本当に、少しだけ、頭の片隅に、”あり”だと思ったのは内緒です。茜さんも・・・。とか、考えたのは、本当に内緒です。

 真子さんが、また快楽に支配され始めます。

 結局、ゼリーを4つとスポーツドリンクを2リットル近く摂取しました。汚れたタオルは既に10枚を軽く超えています。
 おむつの隠し場所は聞いています。数は大丈夫でしょう。おむつよりも、汗が凄いです。タオルの替えが心配です。

 タオルが先に無くなりそうなので、補充を行いました。

 茜さんなら、離れた場所でも話ができるので、茜さんに部屋の前まで来てもらって、タオルを洗ってもらうことにしました。
 洗濯機は乾燥もついているタイプなので、大丈夫でしょう。茜さんは、気が付いているようですが、何も聞いてきません。大人の女性なのでしょう。頼りになるお姉さんです。

 新しいタオルを持ってきてもらいます。

 足の再生が始まりました。
 快楽は、指以上です。

 そして、マソの量も桁違いに必要です。
 戸惑っているわけにはいきません。

 消費が激しいです。
 もしかしたら、再生する質量に比例してマソが必要なのかもしれない。

 そうなると、10個や20個ではすまない可能性が出てきます。

 入れた瞬間に消費されていきます。
 横に置いておくだけではダメなようです。体内に入れる必要があるようです。本当かな?デイジーの時には、食べさせるだけで大丈夫だった。やはり、質量の問題か?気楽に検証ができないのは残念ですが気になります。
 口の奥に入れると、喉に詰まってせき込んでしまうようで、口には1個か2個が限界です。

 指で奥に押し込んで、快楽に襲われるのでしょう。
 すんなりと入ります。諦めたのか、足を閉じなくなっています。どんどん、入れていきます。
 足に近いからなのでしょうか?口よりも吸収が早いように感じます。

 一時間が経過したくらいで、真子さんは肩で息をし始めます。

 足を見ると、殆ど再生が完了しています。
 もう少しなのでしょう。

 全裸の真子さんを見下ろす形になってしまいますが、身長は私よりも少しだけ低い感じです。
 肌が凄く綺麗。

 高校生の時に、事故にあったと聞いているから、身体は高校生の時の状態かな?
 髪も長く伸びています。寝ている時には、短く適当に切った感じでしたが、長い髪の毛が凄く似合います。

「はぁはぁ・・・。たかこちゃん」

「はい」

「こ、わ、い。だき・・・し・・めて」

「え?」

「あせ・・・すご・・・い。でも・・・。だ、きしめて、おねが、い。ふく、せいふ・・・く、よご・・・したら、ご、めん。でも・・・」

「わかりました」

 汗で、私の制服が汚れるのを気にされているのでしょうか?
 優しい人です。

 私は、真子さんの前で制服を脱いで下着を脱ぎます。

 全裸になって、真子さんの前に立ちます。

「これなら大丈夫ですか?」

「う、ん!たか、こちゃん!」

 真子さんを抱きしめます。
 汗を気にしていますが、凄くいい匂いです。

 お互いに全裸です。
 真子さんは私を強く抱きしめます。

 真子さんは柔らかいです。
 頭が”ぽぉー”とします。

 抱きしめていると、私の小さなおっぱいに顔をうずめた真子さんから寝息が聞こえ始めます。

 スライムに戻って、真子さんの腕から逃げます。
 危うくキスをされてしまいそうでした。嫌では無いのですが、しっかり意識があるときにして欲しいです。

 汗を綺麗にしてから、制服姿に戻ります。

 真子さんを観察します。
 足の再生は続けられています。寝ている状態でも、快楽を感じているのでしょうか?再生がゆっくりになって、快楽が少ないのでしょうか?

「ライ。見ていて」

「うん」

 おむつを始末します。
 もうあとはタオルだけで大丈夫でしょう。

 アイテム袋に収納します。
 ついでに、登録も行っておきましょう。

 うん。出来た。

 茜さんを呼んで、汚れたタオルを持って部屋を出ます。

「貴子ちゃん?」

「無事に終わりそうです。今は、寝ています。あと、1-2時間で起きると思います」

「わかった。よかったね」

「はい!」

「タオル。預かるよ」

「お願いします」

 茜さんにタオルを預けて、リビングに戻ります。
 口喧嘩は終わっているようです。

「貴子嬢。真子は?」

「今は、寝ていますが、足の再生を確認しました。あと1-2時間で起きると思います」

「そうか・・・。よかった」

「貴子嬢。それで?」

「まだ、最終的な判断では無いのですが、真子さんには私が知っている限りの魔物特有のスキルはついていません」

「そうか・・・」

 孔明さんが”ほっ”とした表情をしてくれます。

「スキルは、”再生”と”治療”と”魔物同調”と”災眼”と”聖”と”結界”です。定着には時間が必要なので、もしかしたらスキルは増える可能性があります」

 スキルの説明は必要が無いようです。

「・・・。”災眼”とは?」

 違いました。
 円香さんが”災眼”を聞きました。確かに、”破眼”の持ち主としては気になるのでしょう。

「円香さんの破眼の下位互換で、魔物に関する災いが見えます。簡単に言えば、魔物が発生する予兆が見えます」

「は?」「なに?円香!」

「貴子さん。私のスキルでは、魔物の発生予兆はわからない。そもそも、予兆があるのか?」

「ありますよ?あっこの話も、茜さんにすればいいですか?」

「そうだな。貴子さん。お願いできるか?」

「はい!あっ魔眼シリーズで、あと患眼というのがあるので、茜さんに覚えてもらっていいですか?真子さんが取得した”聖”との相性がいい魔眼シリーズです」

「お願いする」「円香さん!」

「茜。諦めろ。今更、スキルの一つや二つ・・・。増えても大丈夫だろう?」

「うぅぅそうですが・・・」

 茜さんが頭を抱えだしますが、諦めてもらいます。

 でも、真子さんの治療が成功してよかった。
 本当に・・・。