開戦?
バチョウもカンウも連合国の背後に回っている。見つかったら、見つかったで、突撃を許可していた。わざと見つかるような愚かな行為はしなかった。しかし、連合国は、進軍するときに斥候を放たないのか?
確かに距離を開けていたが、苦もなく迂回が成功した。
うーん。
次に造る施設?アトラクションは、レベルを落としたほうがいいのか?こいつらだけが愚か者だと思いたい。アトラクションを楽しんでもらえる程度には知恵を持っていると嬉しい。
行軍が遅かった理由が、心の底からくだらないと言える理由だった。
”奴隷の男女で楽しんでいたから・・・”
本当に、大人の遠足だとでもいうのだろうか?
やっと、砦を造成していた場所まで行軍してきた連合国の寄せ集め部隊は、森の手前に掲げられた、首を見て唖然としている。
首の数は、100を少しだけ超える数だ。エルプレ国とヴァコン国の者たちだと解っている。情報を抜き取ったが、重要な情報を持っているものは、居なかった。総大将が、デュ・ボアというエルプレの騎士で序列1位らしいことはわかった。
個の力は強いだろうが、指揮官としては2流以下なのかもしれない。統制もなにもできていない。各国が、好き勝手に陣を構築している。メアの予想が当たっている。もっとも、攻められる魔王陣営としては嬉しいのだけど、歯ごたえがなさすぎる。砦を造成するための物資は、先に運ばせていたために、俺たちが既に奪っている。
森に入ろうとする連中は、モミジとナツメとカエデに率いられた元奴隷たちが対応している。
”獅子に率いられた羊の群れは、羊に率いられた獅子の群れを駆逐する”を、実際に見せられるとは思っていなかった。
森の中という特殊な環境で、敵兵の到着を待ち受けている者たちは、罠を使っている。しかし訓練を受けている、騎士を1,000人以上は捕らえている。こちらの兵数は、100名前後だ。その上、騎士を相手にして死者を出さずに撃退・捕縛をしている。
内部分裂もひどくなってきているので、暗くなったら、バチョウとカンウに突撃の信号を上げる。
今回、捕らえた奴隷で解放した者たちも、戦闘に加わりたいと言ってきたらしいが却下した。
彼らの気持ちは解るので、叶えてやりたいが、体力がない上に装備品も揃えられない。死んで欲しくないと説得した。後方に下がらせないで、新たに捕らえた奴隷兵たちへの対応を頼んだ。
さて・・・。
「ルブラン」
「はい。信号弾をあげます」
わかりやすいように、信号弾を使うことにしている。
今日は、会議室に使っている場所だ。
大型モニターに、状況を表示している。
会議室には、セバスとナツメとカエデとメアが居る。ヒアは、部隊を率いているモミジの副官として帯同している。聞こえてきた噂では、カンウかバチョウが、ヒアに”メアに戦っている姿を見せろ”と言ったようだ。
セバスが、スイッチを操作する。
罠が発動して、信号弾が上がる。いわゆる、花火だ。
セバスとメアと、モニターを見つめる。
カンウとバチョウは、背後に出たと報告が入る。
カンウとバチョウが先頭で、突撃が開始される。
合図を出してから、20分。
「来ました」
セバスが、モニターを拡大表示する。
カンウとバチョウが嬉しそうな表情で駆け上がってくる。無双という言葉がこれほど似合う二人は居ないだろう。敵はなるべく殺すなと命令しているために、血みどろの状態ではないが、相手は無傷ではないだろう。
カンウが使っている武器は、三国志演義にかかれていた”青龍偃月刀”を模写した物だ。カンウも気に入って使っている。バチョウの武器は、錦双轟雷を模写したものだ。スキルまで付けているので、カンウの武器よりも強力な物になっている。
二人の持つ武器は、敵の血で汚れている。
そのまま、森の近くまで駆け寄ってくる、カンウとバチョウは、森の直前で左右に分かれる。
正面には、隠れていたモミジが率いる部隊が展開を終えている。
絶妙なタイミングで、スキルを発動する。
カンウとバチョウの部隊を追ってきた者たちを、戦闘が出来ない状態にしていく。
その間に、展開を終えたカンウとバチョウの部隊が、左右から再突入を開始する。同時、中央に開いた場所に、モミジの部隊が圧力を強めていく。
今は、戦闘中だ。
奴隷兵たちも、ひとまず戦闘が出来ない状態にする。
「ルブラン。ヒアに伝令。奴隷たちの確保」
新しく承認した作戦だ。
ヒアからの提案を受けて、元奴隷で編成された部隊だ。戦場が落ち着いたら、突入して元奴隷4人で1人を確保して後方に居る。衛生兵に輸送する。衛生兵は、問題がない奴隷を解放する権限を持っている。問題がある奴隷や奴隷ではない者は、後日、魔王城の地下で”お話”を聞くことにした。
戦場は、もう事後処理に入っている。
”烏合の衆”という言葉が正しい。敵の本陣だと思える所にいた偉そうな奴らを捕らえたと報告が来たのは、1時間後だった。
「バチョウ。偉そうにしているのは何人だ?」
『はっ!ヒアから報告させます。ヒア!』
画面に、ヒアが出てくる。
参軍はしているが、前線に出ていいとは言っていない。それなのに、前線指揮官の所に、ヒアが居るのは問題だ。
『魔王様。ヒアです』
「報告の前に、ヒア。森で、奴隷兵の確保と、後方への輸送任務についていたお前が前線に居る理由を聞きたい」
『・・・。それは・・・』
『魔王様。バチョウです』
「どうした?」
『ヒアには、非はありません』
「どういうことだ?」
『最高責任者の1人が、奴隷の格好をして逃げ出したのを見つけたのがヒアです。そのために、ヒアに報告を頼もうと考えました』
「ほぉ・・・。ヒア。そのときの様子を説明せよ」
『はい!私・・・。自分は、皆と一緒に、拘束されている奴隷兵を確保して、後方に送っていました。4人で1人を抱えるようにしました』
指示を守っていたのだな。
「それで?」
『森の近くに展開していた奴隷兵の搬送を終了させて、中央部分に向かいました』
「そうだな。中央から外側に向けていったのだな」
『はい。そこで、奇妙な集団が捕らえられていました』
「奇妙?」
ヒアの説明は、そこから実際にヒアが感じた内容をまとめたものだが、判断は”バチョウ”や”カンウ”では難しかったと思えた。
奴隷の格好をしているが、肌が綺麗で、履物が綺麗だった。
ヒアは、その一段に違和感を覚えて、移送を中止して、帯同していた拷問官を呼び出して、その一段を調べさせた。拷問をするのではなく、スキルでの検査を命じたところ、その一段は討伐部隊をまとめている者たちだった。
ヒアは、すぐにモミジに連絡を取り、首脳陣を引き渡した。
「よくやった!ヒア」
「ルブラン。撤退の合図を!戦場に残っているものたちは、カンウとバチョウの部隊が捕縛しろ。逃げる者は、逃してしまえ。奴隷兵で帰順する者は、調査後に解放すると伝えろ」
『逃してよいのですか?』
「構わない。魔王軍の恐ろしさを宣伝させろ!」
『『はっ!』』
俺の命令を受けて、皆が動き出す。
これで、連合国からの侵略は、しばらくの間は大丈夫だろう。
「ルブラン!」
「はっ」
「ギルドに連絡して、ボイドを呼び出せ。確認したいことがある」
「かしこまりました」
戦闘で、気になったことがある。
連合国の一部だけが、スキルを使用していた。その一部は、奴隷兵以外はスキルを利用していたが、他の部隊ではスキルを利用する者は、3割り程度に思えた。ギルドが絡んでいるとは思えないが、なにかしらの情報を持っている可能性が高い。
連合国が一枚岩でないのはよく解った。ギルドだけを狙い撃ちをして、潰すことができるかもしれないが、俺たちから攻め込むのは、魔王城の主としてはあああ様式美として美しくない。
やはり、魔王は魔王城で待っているのが様式美としても正しい。