七月になったある日。
その日も私は彼女に振り回されて、ぐったりとしていた。気ままな彼女につきっきりでいるからだ。とにかく、メニューだけでも覚えてほしかった。
上がりのタイムカードをスキャンしたとき、吉岡店長に声をかけられた。
「浜田君。ちょっと会議室まで来てくれ」
私は不安になった。
どうして、わざわざ会議室に呼ばれたのだろう。業務の打ち合わせは、いつも事務所で済ましているのに。
私は緊張した。何か大切な話かもしれない。
「まあ、ここに座り」
私は吉岡店長と机をはさんで座った。
やりにくいと思った。目の前に苦手な上司がいる。しかも、妙に上機嫌な吉岡店長の顔だった。
私は警戒心を強めた。
「どや。莉乃ちゃんは頑張ってるか」
「いいえ、林さんは頑張っていません」
率直に答えた。
「こら、あかんやないか」
吉岡店長は私を叱るのだ。
「こら。あの子は『林さん』やないで。『莉乃ちゃん』って呼ばなあかん」
これでは話にならないと、私は黙ってしまった。
突然、吉岡店長が私を見て「へへっ、へへっ」と笑った。
私は慄いた。吉岡店長は良くないことを考えているようだ。
吉岡店長は身を乗り出すようにして話し始めた。
「ところで、浜田君は知ってんか」
「えっ、何をですか」と私は聞き返した。
「蒔田君が正社員の試験に合格したで」
私はぼう然とした。
「浜田君、やられたな」
吉岡店長は気の毒そうに私を見つめた。
「あの子に仕事を教えたんは浜田君なんや。手取り足取り教えてたって、ここに来たときに副店長から聞いたで」
そう。愛ちゃんに一から仕事を教えたのは私。
「それがやな、蒔田君は浜田君を堂々と出し抜きよったわ。おとなしい振りしとるが、ほんまの蒔田君は要領のええ子やってんな」
返事が出来ないでいる私に、吉岡店長は畳みかけるように聞いてくる。
「怖い話やで。君らはめっちゃ仲良うしてたけど、それ、上昇志向が強い蒔田君に利用されてたってことや。チャンスが来たら、恩人の浜田君をポイしよったわ」
私の頭は真っ白になっていた。
吉岡店長は「はあああ」と溜め息をついた。
「蒔田君は恩知らずやな。恩人の君を利用した狡い子なんや」
「ひとを利用するなんてこと、愛ちゃんは絶対にしません」
そう言いたかったけど、私は口ごもってしまった。
愛ちゃんが正社員になったという話が本当なのなら、やはり私は裏切られたのかもしれない。正社員になりたいことも、それが実現したことも、私には一切話してくれなかったから。私達は毎日のようにメールを交換していたのに。
「えらいことやな。浜田君、気をしっかり持ちや」
吉岡店長はうんうんと頷きながら私を慰めるのだった。
その日も私は彼女に振り回されて、ぐったりとしていた。気ままな彼女につきっきりでいるからだ。とにかく、メニューだけでも覚えてほしかった。
上がりのタイムカードをスキャンしたとき、吉岡店長に声をかけられた。
「浜田君。ちょっと会議室まで来てくれ」
私は不安になった。
どうして、わざわざ会議室に呼ばれたのだろう。業務の打ち合わせは、いつも事務所で済ましているのに。
私は緊張した。何か大切な話かもしれない。
「まあ、ここに座り」
私は吉岡店長と机をはさんで座った。
やりにくいと思った。目の前に苦手な上司がいる。しかも、妙に上機嫌な吉岡店長の顔だった。
私は警戒心を強めた。
「どや。莉乃ちゃんは頑張ってるか」
「いいえ、林さんは頑張っていません」
率直に答えた。
「こら、あかんやないか」
吉岡店長は私を叱るのだ。
「こら。あの子は『林さん』やないで。『莉乃ちゃん』って呼ばなあかん」
これでは話にならないと、私は黙ってしまった。
突然、吉岡店長が私を見て「へへっ、へへっ」と笑った。
私は慄いた。吉岡店長は良くないことを考えているようだ。
吉岡店長は身を乗り出すようにして話し始めた。
「ところで、浜田君は知ってんか」
「えっ、何をですか」と私は聞き返した。
「蒔田君が正社員の試験に合格したで」
私はぼう然とした。
「浜田君、やられたな」
吉岡店長は気の毒そうに私を見つめた。
「あの子に仕事を教えたんは浜田君なんや。手取り足取り教えてたって、ここに来たときに副店長から聞いたで」
そう。愛ちゃんに一から仕事を教えたのは私。
「それがやな、蒔田君は浜田君を堂々と出し抜きよったわ。おとなしい振りしとるが、ほんまの蒔田君は要領のええ子やってんな」
返事が出来ないでいる私に、吉岡店長は畳みかけるように聞いてくる。
「怖い話やで。君らはめっちゃ仲良うしてたけど、それ、上昇志向が強い蒔田君に利用されてたってことや。チャンスが来たら、恩人の浜田君をポイしよったわ」
私の頭は真っ白になっていた。
吉岡店長は「はあああ」と溜め息をついた。
「蒔田君は恩知らずやな。恩人の君を利用した狡い子なんや」
「ひとを利用するなんてこと、愛ちゃんは絶対にしません」
そう言いたかったけど、私は口ごもってしまった。
愛ちゃんが正社員になったという話が本当なのなら、やはり私は裏切られたのかもしれない。正社員になりたいことも、それが実現したことも、私には一切話してくれなかったから。私達は毎日のようにメールを交換していたのに。
「えらいことやな。浜田君、気をしっかり持ちや」
吉岡店長はうんうんと頷きながら私を慰めるのだった。
