「違うよ、ハル姉」
咲羅の厳しい声に、ハルはぐったりと肩を落とした。
「いやいや咲羅、あなたの説明がよく分からないんだって。回し蹴りってどうやってやるの?」
「え、だからこう、左足で立って、腰を捻ってシュバっと...」
空を斬るような音が響いて、咲羅の鋭い蹴りが飛び出す。
「だからその、シュバの部分が分かんないの」
「見たらわかるでしょ?」
「それがわからないんですよー」
平行線の言い合いを続ける姉妹を見て、弘とオオカミ達は呆れたように溜息をついた。
「左足を軸にして、上体を後ろに傾けながら直線的に蹴る。ただ足を振り回すんじゃくて、股関節、膝、足首の順で伸ばしていく、みたいな意味かな?咲羅。」
淡々と説明する弘に、わぁ、と咲羅は声を上げた。
「すごい!弘、やったことあるの?」
「ないけど、見てたらそんな感じかなぁって」
「...恐ろしい奴がいたぞ」
「...説明の鬼...」
《鬼は俺だろう》
狼鬼が口を挟んだ。
「そうだそうだ、誰が鬼だオイ」
「「わー!鬼だー!」」
大袈裟に首を竦める姉妹を見て、弘は苦笑いした。
「じゃあ、回し蹴りってこんな感じ?」
ヒュンと音を立てて、ハルの右足が空を斬った。
「唐突に話が戻ったね...でも、そんな感じ。すごいハル姉!説明聞いた直後にそれなりに形になってる!」
へへ、とハルは照れたように笑った。
「弘の説明が上手なんだよ」
「そりゃどーも」
弘も嬉しそうに笑った。
「じゃ、ハル姉、次は飛び蹴りね。
こうやって...」
咲羅が鮮やかな蹴りを繰り出すのとほぼ同時に、ハルが「ちょっとちょっと」と降参するように両手を上げた。
「待って、待って!せめて1日回し蹴りの練習させて!」
ハルの慌てたような声を聞いて、2人とオオカミ達は楽しそうに笑った。
「じゃ、そろそろかな。今日は弘は単独任務なんだよね?」
「応」
「じゃ、ハル姉!今日は妖複数いるみたいだけど頑張ろう!よしっ、みんな頑張るぞー!」
咲羅が無邪気に言った。
「《おー!》」
3人とオオカミ達の声が揃って、鱗雲が浮かんだ空にこだました。