【660PV突破しました!ありがとうございます!】たたかい 番外編 〜天秤〜《たたかい 続編・其の壱》



「姉ちゃんの羽織小さくなってきちゃったな」
18歳になったハルが部屋の中でぽつりと呟いた。
《あぁ、それなら》
狼鬼が頭を上げてハルを見る。
《弘のがあったんじゃないのか?》
「お、狼鬼それ名案。ありがと」
暫くすると、ハルが綺麗な竹行李を持って戻ってきた。
行李を開けると、裏葉色の羽織が2年前と変わらない姿で現れた。
ばさりと音を立ててそれを羽織ったハルは、
「やっぱり結構でかいな」
と言って笑う。
《ハルー、何処か行くのー?》
勝が縁側からヒョッコリと顔を覗かせた。その後ろから煌も顔を出す。
千歳(ちとせ)から手紙が来たからちょっと顔出そうかなぁと思って」
《遠い...》
《ちゃんと連絡入れたんだろうな?》
「さすがに1日では行かないよ、それにちゃんと手紙も出したし。大丈夫だよ」
《じゃあ俺たちも連れてって!良いでしょ?》
「うん、良いよ」
ハルが笑顔で答えた。
ヤッター、と跳ね回る勝を見て、狼鬼が溜息をつく。
そんなにあからさまに呆れなくても、と煌は苦笑いした。

千歳が家の前でそわそわと待っていると、3頭のオオカミとハルが歩いてくるのが見えた。
「お姉さーん‼︎」
大声をあげながら走っていくと、ハルが白狐面の鼻先を此方に向けた。
「千歳!大きくなったね、久しぶり!」
「10歳になったんだよ!煌も勝も狼鬼も久しぶり!」
千歳は勝に抱きついた。
《久しぶり、元気そうだね》
オオカミ達が嬉しそうに笑った。
「もう10歳か、早いね」
ハルが感慨深げに呟く。
「お姉さんは、いま何歳?」
「私?18だよ」
「18歳かぁ。お姉さんだ」
「千歳もお姉さんじゃない?」
「へへ、やったぁ」
千歳が照れくさそうに笑った。
あ、そうそう、とハルが背中に背負っていた袋から何かを取り出した。
「頼まれてたやつ。これなんだけど、どうかな?ちょっと地味?」
ハルの手には、咲羅が着ていた薄桜の羽織があった。
「ううん、すごく綺麗!これ貰って良いの?お姉さんの妹ちゃんのやつ?」
「うん、そうだよ。貰ってくれたら嬉しいな」
ヤッター、と千歳がオオカミ達の間を跳ね回って喜んだ。
薄桜の羽織をそっと手に取ると、ゆっくりと羽織って、にこりと笑う。
「可愛い!ありがとう、お姉さん。妹ちゃんの名前、何て言うの?」
「咲羅、って言うんだ」
「咲羅ちゃんかぁ。きっとこの羽織、とっても似合うんだろうね」
「うん。すごく似合ってた。千歳も似合うよ」
ハルが嬉しそうに笑った。
「嬉しい!ありがとう」
千歳ははしゃいでぴょんと跳ねると、くるりと回って楽しげに笑った。

「ねえ、千歳」
ハルが柔らかい声で言いながら、千歳の前にしゃがみ込む。
「さっき歳の話したけどさ、私と千歳、8つも歳が違うでしょう?だから、私は千歳ほど長く生きられないと思うの」
千歳は目を瞬かせた。
それでね、お願いがあるんだけど、とハルが続ける。
「煌と勝はオオカミなんだけど、狼鬼は鬼の血筋だから、普通のオオカミより長生きなんだ。私に何かあった時は、狼鬼のこと...お願いしても良いかな?」
千歳とハルの目が合った。
千歳の目が、柔らかく微笑む。
「うん、分かった。良いよ」
ハルがほっとしたように身体の力を抜いた。
「でも」
千歳が柄にもなく真面目な顔をして言った。
「お姉さん、できるだけ長生きしてね」
「うん、分かった。頑張るね」
ハルがふふ、と笑った。
「さて、真面目な話はお終い。色々お話ししようか。千歳のこと、教えてね」
「うん!わたしも、お姉さんのこと、色々聞いても良い?」
「勿論!」
「お姉さん、羽織変わったよね。ちょっとぶかぶかだけど、新しく作ったの?」
ううん、とハルが首を横に振った。
「私の、とっても大事な人から貰ったんだよ、綺麗な色してるでしょう?」
ハルが裏葉色の羽織を優しく撫でた。
「うん、とっても素敵!」
千歳がはじけるように笑った。

燕子花の花が、2人とオオカミ達を見守るように咲いていた。