「...俺は」
弘の声が震えた。
「もう、誰も、居なくなってほしくない」
「うん」
ハルが悲しそうに笑った。
「私もだよ」
ハルが続ける。
「だから、狼鬼と先生に協力してもらったの。相談しなくて、ごめんね」
「なんで相談してくれなかったんだよ?」
弘が少し刺々しい声で訊いた。
「...止められるだろうなって思って」
居心地の悪い沈黙が流れていく。
《...ハル》
鉛のように重たい空気に耐えかねたように狼鬼がハルを見た。
《いま俺ここに必要?》
「必要だよ」
《役割は?》
「この重ーい暗ーい居心地悪ーい空気をどうにかして明るくする役割」
《暗ーい重ーい居心地悪ーい空気を俺だけで元に戻せと?》
「狼鬼違うよ、重ーい暗ーい居心地悪ーい空気だよ」
《あーはいはい、その重ーい暗ーい居心地悪ーい空気をなんとかしろと言うんだな、うん、無理だよ》
弘が堪えきれずに笑った。
「2人とも何やってんの?」
「この重ーい暗ーい居心地悪ーい空気をどうしようかねっていう相談」
「相談だったんだ、俺は落語かと思ったよ」
《落語は1人でやるだろう》
「確かに」
ハルが楽しそうに笑った。
笑い声を立てながら、畳にごろりと寝転ぶ。弘もハルを真似て横になった。
「ハル」
「ん?」
ハルが息を弾ませながら弘を見る。
「もし俺より先に逝ったら殺すからな」
「そのお言葉、そっくりそのままお返ししますよ」
悪戯っぽく笑ったハルを見て、弘も少し呆れたように笑った。