何かが決まったあの会話の後、女性陣三人は楽しい女子会へと移っていった。
 内容は多岐にわたり、美容や流行の服などの話題から始まり、国政についての話題や貴族たちの間に流れる噂話など、本当に様々な事を話している。
 アンナ公爵夫人は、メイドさんに追加で用意してもらった紅茶やお菓子を楽しみながら、イザベラ嬢とクララ嬢に面白おかしく話をふっていた。
 俺は自身の存在を薄くし、静かに女性陣の会話を聞いていた。だが、三人の会話の中に出てきた話題の一つに、もの凄く興味を惹かれた。

「イザベラ、最近アルベルト殿下のよからぬ噂を耳にするのだけれど、学院は大丈夫なの?」

 アンナ公爵夫人が心配そうな顔をしながら質問をする。
 その質問に対して、イザベラ嬢のみならず、クララ嬢までもがうんざりしたような雰囲気になった。アンナ公爵夫人がした質問は、二人にとってあまり積極的に触れたくはない話題のようだ。

「二人ともどうしちゃったのよ?急に不機嫌になっちゃって」

 二人のあまりに不機嫌な様子に、アンナ公爵夫人に驚く。
 そんなアンナ公爵夫人に、イザベラ嬢が不機嫌さを隠さずに言う。

「お母様が聞きたいよからぬ噂についてっていうのは、アルベルト殿下が婚約者であるマルグリット様の事を放置して、ナタリー男爵令嬢に入れ込んでるって話でしょう?」
「ええ、そうよ。……貴女たちのその語るのも嫌そうな顔をするって事は、その話はある程度事実なのね?」

 クララ嬢も不機嫌さを隠しもせずに、よからぬ噂について口にする。

「アンナ様、ある程度どころかほぼ事実です。アルベルト殿下がナタリー男爵令嬢に入れ込み始めてから、マルグリット様との関係が急速に悪化し始めました。今では、ナタリー男爵令嬢と結ばれる事が出来ないのは、マルグリット様が邪魔しているからだと思っているくらいです」
「実際はどうなの?」

 クララ嬢からの驚きの情報に、アンナ公爵夫人は厳しい表情になり、クララ嬢に話しの続きを促すように聞く。

「マルグリット様は、関係が悪化する前までアルベルト殿下の事を()()()()()は好意的に見ていたようですが、()()()()()()全くといい程興味を示していませんでした。完全に、政略結婚であると割り切っていましたね。なので、ナタリー男爵令嬢との仲を邪魔しようと考えることも行動することもないかと。むしろ、マルグリット様の一つ下の妹であるローラ……様の方が、アルベルト殿下の事を男性として意識しています」
()()ローラの方が、ね。……なんでマルグリットと同じ環境で育って、あんな風になっちゃったのかしらね?」

 アンナ公爵夫人が、心底分からないといった様子で呟く。
 イザベラ嬢もクララ嬢も、アンナ公爵夫人と同じく全く理解できないといった様子だ。
 三人の話を静かに聞いていた生前オタクだった俺は、三人とは全く違う事を考えていた。
 アルベルト殿下といえば、この国の第一王子、つまりは次期国王となる王太子である。そして、今の三人の話を聞いていて、生前色々と読んだ小説の中の一つのジャンルや、それにまつわる単語が頭の中に浮かんできた。
 乙女ゲーム・悪役令嬢・婚約破棄などといった‟タグ”が、一気に頭の中を駆け巡っていく。点と点が繋がり、幾つもの線が出来上がり、もしかしてという思いがどんどん大きなっていく。

(もしかしてこの世界って、ただのファンタジー世界じゃなくて、乙女ゲームの世界なのか?)