大学を卒業してからは毎日が忙しくて、今日も朝から仕事でバタバタしていた。小一時間ほど残業をした後、帰り道を歩いていると、後ろから私の横を誰かが通り過ぎ、目の前が急に暗くなった。

「り、な?」

見知らぬ相手だと思っていた人が本当は昔からよく知っている悠真だった。このことに気付いて

「うん……久しぶり」
「久しぶり!」

もう何年も会っていなかったからか、挨拶を交わしただけで私たちの間には気まずい沈黙が流れた。そして、この空気を変えようと思い、口を開く。

『……あのさ』

お互いの声がハモり、再び気まずくなるけれど、これではいけないと思って会話を再開しようとする。

「璃奈からいいよ」
「いやいや、悠真から」

ここから謎の押し付け合いが始まり、しばし時間が流れる。

「璃奈から」
「悠真から!」
「……分かった。あのさ……最近どう?」
「最近?忙しいよ」
「だよね」
「悠真は?」
「俺?忙しいよ」
「だよね……」
『・・・』
「ねぇ……璃奈は今元気?」
「っ……。ん?」

ふいに投げかけられた言葉に戸惑う。元気なら元気と言えばいいのに、何故か声が出ず、聞き返してしまった。

「そのまんまだよ。元気?」

もう一度質問されて考える。
私は……元気、だよね……?
でも何でだろう。心の中でどこか違うと叫んでいる自分がいるのは。本当はもしかして……。そんなこと、はない……はずなのに……断言できない。
まだ私は何も変わっていない?……いや、少しは変われてるはずなんだ。じゃあ、何がこんなに苦しいの?
目元に少しずつ涙がにじみ出てくる。

「……璃奈?」

つぅと一筋の涙が零れ落ちる。

「ねぇ、悠真……分かんないよ。私、分かんない。何なんだろう。モヤモヤする」
「璃奈……」

一瞬悩んでから口を開こうとしていたけれど、これ以上言葉が紡がれることはなかった。
突然泣き始めた私に驚きながらも、背中をさすって、ただただ見守ってくれていた。
これ以降、やり取りを少しずつするようになり、気まずかった関係も再開する前——大学の頃——のような関係に戻りつつあった。それと同時に、わざと見ないように、目をそらし続け、忘れたふりをしていたことが私の心の中に渦巻き始めていた。