大学一年生の春、友達が出来た。慣れない大学生活が不安だったけど、毎日楽しく過ごしていた。
大学二年生の春、初めての一人暮らしを始めた。最初は戸惑うことが多かったけれど、今では人にご飯を振る舞えるほどになった。
大学三年生の春、ゼミに配属された。知らない先輩たちばかりだったから緊張しすぎて心臓が破裂するかと思った。それに、教授たちとも授業で関わるよりも近い存在になってさらに心臓が凄いことになっていた。

ドックン ドックン

自分の心臓の音が他の人にも聞こえてるんじゃないかって疑ってしまうほど緊張したまま、皆と仲良くなろうと奮闘したのを今でも覚えている。
それも、懐かしい思い出の一つ。
今は大学四年生の終わり。つい最近、卒業間近でやっと就職先が見つかった。慣れなかった経済の研究に、先輩たちとの交流だった(はず)なのに、そんな事があったことすら忘れてしまうくらい慣れてしまった。
そして今ではもう私たちが先輩たちの役割を果たして、いるのかな?
とにかく、後輩たちとも同級生の皆とも仲良くしてて、よく飲み会に行ってる。まぁ、酔い潰れて歩き方すらままならなくなってしまうのは先輩として、というより人としてどうなんだろうと思わないこともないような気がする。
それでも、楽しく充実した毎日を送れていると実感していた。
けれど、そんな日々とはもう、お別れが近づいてきている。

「——桜が」
「おい?何見てんの?」
「うひゃ!」
「笑笑、何驚いてんだよ」

驚かしてきたコイツは朝木悠真(あさぎゆうま)。一応、私の幼馴染らしい。
はぁ、心臓にわるっ……。ほんとやめて欲しいよね、驚かしてくるの。

「おい、今驚かしてきたとか思ったろ?」

私が考えてること分かるなんて……。
ひょっとして、心が読めるとか?!
というかそんなに顔に出てたかな?

「え?何のことですかねぇ?笑笑」
「あーこれ絶対分かってんな。マジで誤解すんなよ?驚かしてねぇからな?」
「はいはい、分かりましたよー」
「棒読みかよ」

なんてくだらない会話。
だけど、それもまた心地よく感じないこともない……多分だけどそんな気がする。

「で、璃奈は何見てたの?」

璃奈。
いつからかな、急に苗字から名前で呼び始めるようになった。別にそれがどうってことは無いんだけど、時々ふと思う。
咲良(さくら)
桜じゃなくて咲良。
ほんといつからだっけなぁ。

「……もうすぐ桜が咲きそうだなぁって」
「桜ってさ、璃奈の苗字と同じ読み方だよな」
「う、ん?そうだね。それが急にどうしたの?」
「だからかな、俺はなんとも思わなかったけど咲良だけに璃奈が桜に興味があるのって」
「別にそういう、わけじゃないと思うけど」
「そっか」
「うん」

苗字が桜と一緒。ドキッとした。そんなこと言われるなんて思わなかったから。

「綺麗だよな。桜って」
「急に何?」
「いやぁ、何も?ただ咲いたところを想像してただけ」
「ふーん。悠真が?珍しいことがあるもんだね笑」
「何だよそれ。酷くね?」
「えー、そう?」
「そうでしょ。……っとにかく!サクラは綺麗だから好き」
「ふーん……?」

少し引っかかるところはあったけど、追求しないでおいた。なんだか聞いたら良くない気がしたから。