本格的に夏がはじまろうとしている。


真っ青な空に真っ白い入道雲。


今の私にはあまりに似合わない季節がきたなと思わず眉をひそめる。


「なーぎ!どうかした?」

「ううん、なんもない。なんかちょっと暑くてぼーっとしちゃった」

紫音は人の変化によく気づく。

そういうところまで紫音はよくできた子だなと改めて思う。


「ごめん今日もスクールあるから先帰るね」

申し訳なさそうに私に言う。

「何がごめんなの、ほんとによく頑張ってるよ、紫音はすごいな」

自分なりに思いきりの笑顔で答えてみる。



サークルが終わった後、慌てて先に帰った紫音をぼやっとみているとみんなに肩を叩かれた。


「まじ紫音って最近ちょっと天狗じゃない?」

「いやそうなんだよねふつうに、自分は忙しい感出しすぎてるとこはある」

「いい子なんだけどね、最近ちょっと変わっちゃったよね」


重い思いに紫音への不満を軽い口調で、軽い口調だからこそ許されるだろうと話すみんなにほとほと嫌気がさす。


「あそう、ふつうに凄くない、ダンスうまいし」


そう答えてみるとまた

「もーなぎも思ってるんでしょ」

「思ってるのに言わないのは罪やって」

なんてくだらない口を叩かれる。


みんなから浮いている、そう実感するのはこういう時だ。

だからといってわたしはかつての自分が持っていたもの、そして今は失ってしまったものをまだ大切に持っている彼女を悪く言うことができない。


みんなはどんどん上手くなっていく彼女を羨む軽い気持ちでそんな言葉を発するんだろう。

でも彼女を悪く言うことは私にとってもっと重大な問題なのだ。


それは自分が唯一大切に思っている過去を否定する行為になってしまうのだから。