数日後、東京の自宅へ大きな段ボールの中に厳重な包装をされてギターは届いた。
 一緒に父親からの手紙も入っていた。 

「吉人、久しぶり。まだ学校には行けてないらしいな。まぁ、無理せず頑張れ。俺も昔は一時期不登校だった時があった。でも、段々と周りの友達のおかげで行きたくないという思いが無くなったんだ。
 だから、お前もがんばれ!
 追記:ギターを箱に詰める時から1弦は切れていました。俺が切ってしまった訳ではありません。」 

 手紙を読んですぐにギターの方を見てみると確かに1弦が切れてしまっている。
「あれ、ここの弦って確か……。」
 僕は高校1年生の時の記憶を呼び返す。

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「最後に演奏致します曲は私達のデビュー曲、『ラストサマースカイ』です!」
 あの時は、初めての大人数の前での公演に僕達は緊張していた。
 明梨の4カウントでスネアとフロアが豪快に叩き鳴らされる。

 前のコーナーまでに出演していた先輩たちが、お客さんを引き止めていてくれたお陰もあり、僕たちは沢山のお客さんと共にファーストライブを始められた。

 高校一年生はまだ始めたばかりということで部活のルール上、カバー曲かオリジナル曲で一曲のみトリとして演奏するという伝統がある。
 なので僕たちはオリジナル曲を作成して演奏する事にしたのだ。
 無事に演奏の終盤まで行き、最後の音を全員で一気に鳴らした後でギターの1弦が急にプツン!と切れた。

 曲が終わった後だったので良かったが演奏中だったら、今の僕みたいに確実に心が折れていただろう。
 なんとか弦の部分を抑えて写真撮影は誤魔化し、待機室へと戻る。
 綾音と明梨は軽音楽部の野外公演の片付けの担当に先輩達と駆り出されており、僕と奏は待機室の清掃の担当になっていたのだ。

 「そういえば、吉人さ写真撮影の時になんかギターの持ち方が変だったけどあれ、どうしたの?」
 二人でお菓子のゴミをまとめたり、机を元の位置に戻している時に奏が聞いてきた。
 「あー、あれ?奏には教えてあげようかな……。」

 学校学期の弦を切ってしまった事に、当時謎の責任感を持ってしまっていた僕はなるべくその事を隠そうとしていたが奏には何故か話してもいいかなという気持ちがあった。
 僕は奏は整理した机の上に座って1弦が最後に切れてしまったことを、他の誰にも聞こえないように奏に耳打ちした。

 すると奏は少しびっくりしたのか呼吸が小刻みになった後で「実は、私もなんだ……。」と耳打ちし返してきた。
 その頃はもっと音に厚みが欲しいからと言うことで、奏はギターボーカルをやっていた時期だった。
 奏は待機室へ持って帰ってきていたギターケースを持ってきて、開いている机の上に置き、チャックを開ける。

 学校楽器の白色がベースで茶色の木のような模様をした線の入っているベースで確かによく見ると1弦が切れてしまっている。
 「お揃い、だね。」気づけば口からはその言葉が出ていた。
 「お揃いって……あはは!確かにそうかもね!楽器は違っても、今だけは同じ弦が切れてるお揃いの弦楽器だね。」

 僕たちは気づけば片付けのことは忘れて、ずっと話し続けていた。
 昔のことから、軽音楽部に入ってすぐの頃のことなど沢山の事を話した。
 「やっぱり、私達何か関係性があるというか……シンクロしてることがあるよね。そう思わない?吉人。」
 「確かにそうかもね……。この楽器もそうだし、考えてることが似ている時も小さい頃はよくあったよね。」

 「そういえばそうだったね……。親同士の交流がてら、ご飯食べに行こうってなった時も行きたいところが一緒だったりしたよね。」
 奏はどこか昔を懐かしむような目で話をしている気がした。
 「最近はお揃いが少なかったけどこれでまたお揃いの思い出が増えたね。」

 奏にそう言うと奏はニコッとしながらうん!と答えてきた。
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 「そっか、また1弦が切れたのか……。」
 奏と直接話し合いをして仲直りできている訳ではない僕にとっては、少し複雑な感情だった。
 「あの時は楽器屋さんに奏と一緒にこっそり持って行ったんだっけな……。」

 実際放送されているギターを出すときに少し身震いをしてしまったが、触ることができたので前よりかはギター嫌いを克服できているのかもしれない。
 「ギターを完全に克服できたら楽器屋さんに修理に出さないとだなぁ……。」

 今はなぜかギターの弦を直す気にはなれないので僕はギターを自分用にと秀影おじさんが用意してくれた部屋の角に立てかける。
 少しだけホコリをかぶっているギターは僕を待っているかのように思えたが、「まだ、君とは分かり合えないんだ。ごめんね。」とだけ返しておく。

 「そういえば奏もよく物に対して話しかけてたよなぁ……。昔は植物にも話しかけてたっけ。」

 奏は大丈夫だったのだろうか、風邪は治ったのだろうか。一瞬だけ考えるつもりが気づけばずっとそのことばかりを考えていた。