「いやぁ、やっぱいっぱい練習すると疲れるねぇ……!」
 明梨は珍しく練習中に疲れを感じているようだ。
 「今日は流石にやるけど明日は休みにしたいなぁ。指が疲れたよ……。」
 綾音も長時間の練習に疲れてきているようでベースを置いてその場に座り込んでいる。

 「じゃあ、明日だけはオフにしてここの近くの川沿いでみんなでバーベキューでもする?」
 奏の提案に全員が賛成し、それぞれで材料を持ち寄る形になった。
 僕は帰って早速、秀影おじさんに事情を説明して野菜を持っていく事にした。
 翌日、僕は自転車に野菜を大量に詰めた段ボールを乗せて河原へと向かう。

 「おーい、吉人!遅いぞー!」
 河原では既に惇が持ってきてくれたバーベキューコンロをセットしている明梨がいた。
 「あれ、惇は?」
 「買い物に行くってバスに乗って行ったよ。だから今こうやってあたしが用意とかしてるってわけ。」

 明梨は手際良くコンロに火をつけると、全員分の椅子などを用意し始める。
 僕は惇が用意して行ってくれた小型テーブルの上で野菜を適当な大きさに切って串に刺していく。
 「はぁ、やっと着いた。ごめん、遅くなっちゃった!」
 串に刺す作業を続けていると保冷バッグを持った綾音がこちらに向けて手を振っている。

 綾音は家の近くに川があることもあり、魚などを色々と持ってきてくれたようだ。
 「あとは奏が来るのと惇が帰ってくるのを待つだけだね。」
 その後、惇はすぐにソーセージやら色々な物を買って帰ってきた数分後に奏のお待たせ!という声がした。

 奏は白いワンピースで身を包んでおり、手には沢山の花火の入った袋を持っている。
 「ごめん!服選びに時間かかっちゃって。花火を買う時間とか考えてなかった……。」
 奏は急いで河原まで降りてきて花火の入った袋を安全なところに置き、バーベキューが始まった。
 「では、あと数日、頑張りましょう!かんぱーい!」
 こう言う時の盛り上げ役の明梨のかんぱいの号令で各々紙コップをぶつけ合う。

 そのあとは全員で色々な串を焼いては食べての繰り返しだった。
 「いやー、たまにはこうやってゆっくり休むのもいいっすね……。」
 「あと少しで日が暮れるみたいだし、そしたら私の持ってきた花火しよう。」
 バーベキューも終わり、全員で一息ついているうちに日は段々と落ちていく。
 数十分経つと周りはもう暗くなってきていて、花火をするには十分な暗さになった。

 バーベキューコンロの薄明かりを頼りに奏が花火を開封していき、全員に配ってくれている。
 他の人に花火を均等に配り終え、残りを僕に渡しに来た奏は花火を渡した後で、すれ違いざまに(ささやいて)きた。
 「この花火が終わったら、少しだけいきたいところがあるんだけど……。いい?」
 僕はみんなにバレないように小さく頷くと、奏は少しだけ笑って返事を受け取ってくれた。

 花火が始まると、まずは全員で激しい花火に一気に火をつける。
 「花火アートにしてやる!」
 「明梨!周りに気をつけてやってね?」
 明梨が花火の尾を使って流れ星のようにしているのを綾音が後ろで見張っている。
 「花火とか久しぶりっすよ……。吉人さんも久しぶりっすか?」
 「数年前に従兄弟(いとこ)とやった時以来かな。まぁまぁ久しぶりだね。」
 「吉人、従兄弟いたんだ!?」

 僕と奏、そして惇はふざけている明梨とそれを止めようとしている綾音とは別に川の真横で静かに線香花火をしていた。
 「あー!落ちちゃったっすよ……。」
 真っ先に惇の線香花火の火球が川の水の中に落ちる。
 「よし、吉人。勝負しよう?どっちが長く続くか。」
 「いいぞ、望むところだ!」

 お互いになるべく手を振るわせないように固定した体制で線香花火をキープし続けていたが、数秒後に僕の方の火球が川の中に落ちていった。
 「やった。私の勝ち。」
 奏はまだ火球の残っている線香花火を持ちながらにっこり笑っていた。
 「奏、その笑顔は反則だ……。」
 おそらく奏は狙ってはいないのだが、花火との相乗効果で奏の笑顔は僕の脳天を破壊するレベルの美しさを放っている。

 「ん?なんか言った?」
 しかも当の本人は線香花火をキープすることに夢中だったようで聞いていなかったようだ。
 「いいや、なんでもない。」
 僕はとりあえず何事もなかったかのように、はぐらかしておいた。
 その後、花火も終わり、各々の荷物を持って別れた後で奏はさっきの約束の所に連れていくと言って自転車を押している僕の少し前を歩いている。

 「奏、こっちの方向って……。」
 向かっているのは村役場から少し離れた丘の方面だった。
 「そう、あの公園だよ。夜は夜景が綺麗だし、吉人にも見せたくてさ。」
 ぐるぐると上へ向かっている道路を二人で登っていく。

 「やっと着いたね……。」
 「流石に歩いて上がるのは無謀だろ……。下に自転車置いてバスでもよかったんじゃないか?」
 「そんなことないよ。ほら、こっちこっち。」
 奏は展望用のスペースの前で僕に手招きをしている。

 「ほら、こんなに綺麗な夜景なんだよ?苦労して登った方が綺麗に見えるんじゃない?」
 確かに、奏に言われて見た光景は普通の夜景とは違って綺麗に見える気がした。