小鳩黒猫は、大学に進学して一年も経たないうちに結婚した。
 恋愛婚でも見合い婚でもない。親戚に手頃なアルバイトがあると騙されて連れてこられた先は、裕福を超えて富豪に近い三兄弟の邸宅。隠し切れないほど膨れ上がった借金の為、生きた質を寄越せと迫られて選ばれたのだった。
 黒猫(という名の質草)は借金が一銭残らず完済されるまで黒狼家の預かりとなった。綺麗な服とアクセサリー。美味しい食事とおやつ。豊富な娯楽。お見合い避けにしても、厚遇過ぎないかと別の意味で慄いた。電話は使えず、ネットは閲覧のみで家族への連絡は文通。逃亡防止かもしれないが致し方ない。使用人がいるので家事もしんどくない。もし彼らの事情で黒猫と縁を切る際は借金は帳消しの上、手切れ金を出すと契約書に書いてあった。
 長男は口も態度も悪いが嫌われてはいないんだろうなと思えたし(構い方が動物カフェの犬猫と同等だったが)、優美な顔立ちの次男に着せ替え人形にされるのも悪くない。中高から先輩後輩の付き合いである三男は昔と変わらず優しくてガッチリ餌付けされた。
 多夫一妻って素晴らしい。そう思っていた。