「生徒会長に選ばれた郡司沙耶さん一言どうぞ」
マイクをもらい、生徒会長に当選した日から任命される今日まで夜な夜な考えたセリフを口から出す。
「まずはみなさん、私に沢山の票をありがとうございます。みなさんから選ばれた生徒会長という責任をしっかり持ってこの高校をよりよい高校にしていきたいと思います。」
笑顔を貼り付けて。
「ありがとうございます続いて生徒会副会長の―」
私が終わった後に生徒会役員9人がそれぞれ同じような一言を並べていた。こういう場所の一言はみんな同じようなことを言っておけばいいのだ。その間私が考えていたのは今日の夕飯はなんだろうとか録画していたアニメはやく見たいなどのつまらないものだ。当たり前だ。生徒会長は初めてではない。2年の時に立候補した時にも生徒会長に選ばれたし、1年の時は学級委員長になったんだからこういう場は慣れている。慣れているを通り越して退屈だ。

「沙耶ちゃんまた生徒会長に選ばれるなんて凄いね!」
「ありがとうみんなが沢山私に票をいれてくれたおかげよ」
「そりゃそうだよ!だって沙耶ちゃんはリーダーシップもあるし、学力だって学年1位だし、運動だってできるし、顔も可愛い、性格もいいんだよ!?」
「「そりゃ誰だって投票するよね〜!」」
「ありがとうそう言われると嬉しくなっちゃう」
自分が言うのもなんだが、私は限りなく優等生だと思う。成績表もオールAである。だが、特に自慢したいというものではなく、ただの自己満でやってるものだ。勉強も、スポーツもリーダーシップもただ自分に自信が欲しかっただけだ。私は自分自身に価値を見いだせない弱い人間なのだ。

私の周りにいた人達の熱狂も落ち着いたところで私はトイレに行った。トイレに入る前にふと姿見を見るとそこには女が映っていた。当たり前だ。私なんだから。他人から見たら完全女子と認識される嫌な顔。制服だって。私の悩みは自分が女子であることだ。私は外で汗をかき過ぎるぐらい遊ぶことが好きなのに、1日を潰せるほどアニメが好きなのにいつも「女っぽくない」と言われる。女子より男子と遊ぶ方が本当は話も合うし、性格も合う。恋バナなんてしたくない。馬鹿な事で笑って女同士のいざこざなんて考えたくない。私が私なりに生きようとすると「女なんだから女っぽくしなさい」という言葉が邪魔をする。スカートを履きなさい、結婚しなさい、態度を上品にしなさい。今まで周りの人に無数に言われた言葉が頭の中で溢れだしてくる。女なんてやだ。素直に行きたい。好きなものを好きと言いたい。嫌いなものを嫌いと言いたい。大胆に生きたい。女子をやめたい。やめたいやめたいやめたいやめたいやめたい。
考えるのをやめてトイレに入った。無駄だ。こんなことを考えても何も起こりやしない。誰も私の悩みなんて分かってはくれない。そんなものだ。この世界は。

「あ郡司さん!」
数学が終わり、廊下をふらついて虚無時間を過ごしていた私に担任が声をかけてきた。なんの用事だろうか。
「同じクラスの颯太くんなんだけどネクタイが緩くなってるから注意してきてくれない?」
生徒会は学校をより良くするのが仕事だが、ネクタイごときで学校は変わらない。ネクタイ緩くなってるぐらい私はいいと思うのだが。この高校は見た目だけいい高校でありたいのだろう。ここで目の前の人に心の中の言葉を一語一句言える人間に私はなりたい。
「分かりました」
この時は程よい笑顔で言うのがポイントだ。度が過ぎる笑顔だと相手に怒っているのかと思われてしまう。

教室に戻り「颯太」を探す。確かフルネームは「蒼井颯太」私は1年、2年と同じクラスになったことがなかった。だから絡みは全くないのだが、噂で聞くとやばいヤンキーなんだとか。2年の時気に入らない3年の先輩を片っ端から片付けて行ったことが有名だ。あいつの噂は上げだしたらきりがない。いやでも噂で人を判断するのはやめよう。噂で人を判断するのは時に人を殺すことになるのだから。
…教室全体を見渡すと蒼井颯太はどこにもいない。くそ先生に頼まれた時場所を聞けばよかった。休み時間にどこにいようと勝手だが私が用事がある時はせめて教室にいてほしい。
ここで手っ取り早いのは全ての教室を回ることだ。蒼井颯太と話したことはないが、顔は覚えている。この学校は3組だけだから、×3で9組。蒼井颯太だけ確認すればいい話だが、ここに可能性は薄いが職員室、屋上、テラスも入ってくると時間内に回れない可能性が高い。そもそもこんな短時間なんて行ける場所なんて限られてる。授業を教室で真面目に受けてればの話だが。短時間で行けて人目につかない場所と言えば―
「誰だ?お前」
こっちはお前見つけるために時間使ったのに第一声がそれ?
「ただの生徒会長」
こいつの第一印象は最悪だった。