「バッカじゃないの? 藤白、あんた鈍くさすぎでしょ」
へらりと答えたわたしにそう吐き捨てたのは、さっきから枝毛をむしっていた瑠衣ちゃんだった。どうでもいいような顔をしているけれど声のトーンはいつもより低い。やっぱり、ナナちゃんがわたしに話しかけたことが面白くなかったんだ。
「ちょっと瑠衣ってば。なんで機嫌悪いの? あまり、怖がってるじゃん」
「は? あんた、あたしのことが怖いわけ?」
「う、ううん。怖くないよ……全然、怖くない」
嘘。こんなふうに凄まれて怖くないほうがどうかしている。だけど正直に答えたら、明日からわたしの居場所はなくなるに違いない。
わたしだってわかっている。
瑠衣ちゃんとナナちゃんとつるんでいることが、自分の身の丈に合っていないことくらい。
入学して間もない頃の、自己紹介が終わったあとの休み時間。
自分から誰かに話しかけることもできず、俯いて座っていたわたしに声をかけてくれたのがナナちゃんたちだった。
――あまりって名前、変わってるね。
――ナナ。あっちで話そうよ。
――ちょっと待って。……ねえ、あまり。
気乗りしていない様子の瑠衣ちゃんの手を振り払って、ナナちゃんはわたしの目を見てはっきりと言った。
友だちになろうよ、と。
地味でなんの取り柄もないわたしは、友だちの作り方すらろくに知らなかった。だから、向こうから手を差し伸べてくれたことにひたすら感謝して、こくこくと頷いた。
こうして、わたしはナナちゃんたちの友だちになってしまった。
彼女のいうその”友だち”がなにを意味しているのかも知らずに、馬鹿なわたしは、高校で初めてできたふたりの友だちにへたくそな笑顔を浮かべた。
――話しかけてくれて、ありがとう。