しょうがない。
　大抵のことはそう思うようにして生きてきた。

　小学生のときに両親が死んだことも、一緒にいたわたしだけが生き残ってしまったことも、引き取ってくれた伯母さん夫婦からお荷物だと疎まれていたことも、時々すごく吐きそうになって、夜に寝つきが悪くなったことも。
　全部、しょうがないと思うようにして生きてきた。

　中学生のときにちょっとしたいじめに遭った。
　最初は耐えていたけれどそのうち限界が訪れて、伯母さんに相談すると「それはあんたの身から出た錆だ」とはっきり言われた。

『自分の行いが報いとなって自分自身が苦しむこと。自業自得』
　辞書を引いたわたしはそこに書かれていた言葉をなぞるように何度も読みながら、なるほどと思った。

　これは全部わたしのせい、自業自得だったのだ。
　きっとわたしがなにか悪いことをして、それが巡り巡って自分に返ってきただけだったのだ、と。

　だけど、わたしは自分のどの行いが悪かったのかわからなかった。
　これからもわたしの身からは知らぬうちに錆が出てしまうかもしれない。

　そう考えると、習っていない問題がテストに出たときと同じような不安や絶望、焦燥感が胸を満たして。

　ぶ厚い辞書を閉じたとき、わたしの錆びた心もみしりと軋んだ気がした。