そこから僕と彼女は会社の年休を取り、毎日過ごすようになった。
出かけた先々で写真も撮るようにしている。
しかし、現実はそう甘くない。
写真に映る彼女の姿が日に日に消えていくのだ。
その頃には季節は冬になっている。
「今日も楽しかったね!」
そう彼女が言い、それに僕が相槌をつく。そこで、彼女がクシャミを1つする。
「寒いのか?」
「うん、ちょっとね……」
「寒いなら言ってよ、もう」
そう言いながら、僕はコートを差し出しついでにマフラーも巻いてあげる。
「ふふっ、暖かい。あと、そうくんのいい匂いもする」
と言った彼女と笑いあってついでに写真も撮った。まだ少し、彼女が写真に写っていることに安心する。
それから2日後、彼女は完全に映らなくなり、残り3日を笑顔で終われるように、泣かないと心の中で決めた。
最初の一日目は、僕の友達を家に招いて彼女を紹介した。すると、僕の昔話を始めた。しかも黒歴史をだ!
「こいつさ、中学の時に自分の運動能力を過信しすぎてバク宙しようとして頭から落ちて、30分気絶してたんだぜ!あと……」
「あーもう!その話は忘れろと言ったよな!」
「へー、そんなことあったんだ!」
彼女はニヤニヤしながら僕の方を見てきた。
僕は恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かった。
「その表情のそうくんも可愛いよ?」
彼女はニヤニヤしながらそう言ってきた。
僕は強引に話題を変えようとする。そうこうしているうちに一日目はあっという間に過ぎる。
2日目は地元で有名な夜景スポットに向かった。彼女はすごく大はしゃぎしていて、写真に映ることはもうないが、夜景をバックに一緒に写真を撮った。
僕は今までの思い出を夜が開けるまで彼女と語り、最終日、この日がクリスマスだったこともあり、彼女が寝ている間に好きなケーキとシャンパンをプレゼントとして買いに街まで来ている。
1時間後、やっと買い物が終わり、急いで帰った。
「ただいまぁ〜!かおる」
しかし、返事が無い。
もう一度名前を呼んだが返事がない。僕はまさかと思い、靴を脱ぎ捨て居間に向かったが、そこに彼女の姿はなく、僕はさっきよりも嫌な予感がして全ての部屋を確認したが、やはりどこにもない。
一応、気の所為だと思い彼女を待った。しかし、深夜になっても彼女は帰ってこなかった。翌日、警察に相談したが、透無症だと伝えると取り合って貰えなかった。
「こんなことになるなら最後まで一緒に居るべきだった」
僕はとても後悔した。
それに、僕はあれほど泣かないと決めていたのに、いざその時になるととても辛く、悲しくなりみっともなく大声をあげて泣いてしまった。
しかし、僕にはまだ彼女の記憶があったため本当は消えてないんじゃないかと思い、先輩や彼女の友人などに聞いて回ったが、誰1人覚えている人はいなかった。
それからついには僕までもが彼女のことを忘れ始めていたのだ。僕は、彼女の事がとても好きでたまらない。だから、まだ覚えていたい。しかし、彼女の存在を非常にも忘れていってしまう。
僕は最後の抵抗とばかりに消えつつある彼女の写真を片っ端から眺めていた。
ある日、僕はついに我慢しきれず、心の底から叫んでしまっていた。
「なんで……なんで!かおるなんだよ。僕はかおるがいないとダメなんだよ!いつもあいつに幸せを貰っていた。なのに、俺は何も返せてないじゃないか!だから、もどってこいよ!かおる!」
そうった際に持っていた1枚の写真に一滴の涙が零れ落ちた。
瞬間、部屋中にふわっと心地の良い風が通り抜けた。僕は何事かと思った。
すると
「そうくん」
と、懐かしい呼ばれ方で懐かしい声が聞こえた気がした。
「今のはかおるの声か?でも、気のせいだよな……」
「気のせいではないよ。そうくん」
次はハッキリ聞こえた。僕はハッと顔を上げ振り返るとそこには存在が消失したはずの彼女がいたのだ。
僕は思わず
「幻覚?」
僕はそう言ったが、彼女は
「幻でも、幽霊でもないよ?」
僕は恐る恐る彼女に触れてみると触れることが出来た。そして、体温もしっかり感じた。
思わず僕は彼女を抱きしめていた。
「本当に、本当に良かった……」
と、僕は泣きながらそんなことを言った。
「そろそろ話してくれる?息が苦しい」
「あっ、ごめん。力思わず入ってた」
「別に大丈夫よ」
2人でまた泣きそうになりながらまた、ハグをした。