僕はこの日、日頃の仕事の疲れとストレスを発散させるために、久々に外に散歩でアパートの近くにある満開の桜がキレイな遊歩道に来ていた。
「それにしても桜がきれいに咲いてるな」
そう独り言を呟きながら歩いていた。ふと、周りに視線を巡らせると、心地の良い風に黒く長い髪をなびかせながら片手で桜の木に触れて目を瞑っている女性が目にはいった。
 その女性はどこか儚げな雰囲気をまとっていて僕は、その女性から目が離せなくなった。
 すると、次の瞬間女性がふらついたかと思うとそのままドサっと崩れ落ちた。僕は、急いでかけより、必死に呼びかけた。
「大丈夫ですか?!声は聞こえますか!」
 しかし、その彼女からの返事はなく、ぐったりとしていた。
 急いで救急車を呼び、何度も声掛けを行い、そのうちに救急隊員が到着し、女性がストレッチャーに乗せられその際に救急隊員から、名前を聞かれ、名前を告げて、救急車が見えなくなるまで見送り、アパートに戻った。
 その1週間後、僕はまた、あの遊歩道に訪れていた。頭の中は、あのときの女性が、心配だったためにそのことで一杯になっていたのだ。
 「連絡先でも一緒に教えとけば良かったかもな」
そんなことを考えながら歩いてると後ろから
 「あの〜、スミマセン。日野さんでしょうか?」
と声をかけられた。
 僕は、思わず裏返ってしまった声で
「は、はい!」
 そう返事して、振り向くと、あのときの女性が、立っていた。
 「あっ、元気になったんですね!」
 「はい!おかげ様で。あっ、名前を言うのを遅くなりましたね。私は、白水かおると言います。よろしくね」
 「よろしく!でも、よかった〜。あの時、何度呼びかけても反応なかったからとても心配してたんだ。元気そうで良かった」
 僕は、ものすごく安堵して、深く息を吐いた。
 「ただの貧血だったそうです。あのときはありがとうございます!」
 そう言って思いっきり頭を下げていた。その瞬間、フワァと彼女のいい匂いがしてきた。そして、フワッとしてる笑顔を見せてきた。
僕はその時には完全に彼女に、惹かれていた。
 (あんないい匂いに、この笑顔とか可愛すぎるにも程があるだろが〜〜!!)
 僕はこのとき、内心でそんなことを叫んでしまっていた。
 しかし、そこで彼女に変なふうに思われたくないというブレーキがかかり平静を取り戻すことができた。
 「あっ、いや、当然のことをしたまでです」
 そう言って少し照れ笑いをした。
 すると彼女が、こんなことを言い出した。
 「あっ、そうだ!ここで会った縁というわけではないんですが、その〜、LINE交換しませんか?」
 「え?僕とですか?」
 「他に誰がいるの?面白い人だね」
そう言って、その天使のような笑顔をまた見せた。僕は、そんな彼女の笑顔が可愛すぎて直視できないままそんな僕の様子を彼女は不思議がりながら交換した。
 それからというもの、彼女とのLINEのやり取りは毎日するようになり、いつしか、日課のようになっていた。内容は、彼女の好きな漫画やアニメなどのことや、僕の仕事のぐちや、映画の話など、他愛もないことだった。このときには既に完全に彼女のことを好きになっていた。だから、毎日が楽しくなっていった。
 そんなある日、彼女と遊べることになった。僕は、待ち遠しい反面少し緊張していた。
 そして、彼女との約束の日になった。
 行き先は、彼女がよく行くというゲームセンターだった。そこで、クレーンゲームや、音ゲーなどのリズムゲームを彼女は好んでやっていた。しかも、リズムゲームに関して言えば、彼女はめちゃくちゃ上手だった。当の本人は
 「こんなの慣れだよ?」
とキョトンとしながら言っていたのだ。僕もチャレンジしていたのだが、コンボどころか譜面通りにできなかったのだ。
 そして、帰りにクレープを食べながら歩いてる僕たちは、笑い合いながら帰っていた。そんなとき、ふと彼女が、
 「こんな感じの私で幻滅したでしょ……。いつもそう、好きな人と行ったときも音ゲーしてるだけで引かれて、振られるしね。なんでかな〜……。私ってやっぱり、キモいのかな……。前の彼氏との関係の整理で来たはずなのに、なんでかな?悲しいよ……」
 彼女は、そう言いながら悔しそうに涙を流してた。
僕は、今日一日を通して、こんな彼女が好きだと思ったばっかりだったからそんなことがあったのなんでびっくりした。けど気付いたら僕の気持ちが溢れ出していた。
 「そんなの、俺がいればいいだろ……。俺はお前が好きなんだから」
 「ふぇ?」
しまった。僕は一瞬そう思った。しかし、実際に好きなことは事実。だから、もう言ってしまおうと思った。
 「今、言うことじゃないとは思ってる。けど、言いたいことがあるんだ」
 僕がそう言うと、彼女は、ビクッとしていた。僕はできるだけやさしい口調で、
 「僕は、あなたのことが好きなんです。だから君の好きなことを馬鹿にして分かれる男のことなんて忘れて、僕と付き合ってくれませんか?」
 そう告白してる僕の周りの人たちは、物珍しそうにこっちを見ていた。
彼女は不思議そうに僕の言葉を繰り返していた。
 「好き。付き合う……。好き。へ?」
「へ?じゃあないでしょ……。勇気出したのに」
彼女は、今理解したようで、僕の右手を握ってダッシュし始めた。彼女は、顔を赤くしながら走っていた。
 そして、近くの大きい公園に入って行き、中にある自動販売機でミネラルウォーターを買い半分近く一気飲みして、
「ねぇ、さっきのはどういうこと?」
 そう質問してきた。僕は、もう脈なしだと思ってた。
  「僕の本心。お前の本心を聞いてたらつい、口に出てたんだ。だから……」
  「ふぅ〜ん」
 僕は、そこで自分がした行動を振り返った。そして、同時にとてつもなく恥ずかしくなり顔が赤らんで行くのが分かった。
 「いつから、私のことが好きだったの?」
 「2回目にあったときから。あと、そのときに見せてくれた笑顔を見たときから」
 「分かった。いっとき考えさせて。あと、今日は一緒に遊んでくれてありがと」
 彼女は、そう言うとパタパタと走って帰って行った。
 僕は項垂れながら、トボトボと帰路についた。
 「はぁ、勢いで言ってしまったけどやっぱり、告白はまずかったよなぁ〜…」
 そんなことをぼやきながら歩いていた。すると彼女からLINEが来た。
『さっきの告白嬉しかったよ。恥ずかしくて言えなかったから、LINEでごめんね。付き合ってもいいよ。さっきの言葉で日野くんのこと好きになったみたいだし』
 僕は、その場に止まると、文面を何度も頭の中で考えた。そして、理解が頭に追いついた瞬間、思わず、
 「よっしゃ〜〜!!」
 そう大声を出していた。