「穂香、せっかくだから京陽に店舗を増やしたらどうだろう。新しく(あやかし)たちを雇って、もっとたくさんお菓子を作れるような体勢が整えば値段を下げることもできるし。そうすればみんなが今よりもっと気軽に食べられるようになると思うんだ」
「でも...」
「 Lupinus は今と変わらず営業して、(ふじ)の開店日を減らせば研修の時間も取れるだろう。店舗を増やすための準備期間だと伝えれば、妖たちは楽しみに待っていてくれるはずだよ」
確かに、京陽産のカカオのおいしさをもっとたくさんの妖たちに知ってもらうチャンスだし、チョコレートを食べた妖たちが笑顔になってくれるなら私もうれしい。
「わかりました。チョコレートが妖たちの手軽なおやつになるようにがんばりましょう!」
「わたしの妃は頼もしいな」と私の頭をそっとなでた。


後日、白様や茜様にも選考に参加していただいた面談や実技テストなどを経て、選び抜かれた妖たちの研修が始まった。
瑠璃はパティシエのリーダーとして、新しいパティシエ候補の妖六名を指導し、(ほまれ)寿(ひさ)もお菓子作りの研修とカカオの発酵の音を聞き分ける練習を始めた。
「どの音を聞けばいいの?うーん、難しいよぉ」
「大丈夫だよ。寿にもちゃんとわかるようになるから」
先にコツを掴んだ誉が寿を励ましつつ、仲良く練習に励んでいる。

「穂香、新しい店の場所が決まったよ。建物もそのまま使えそうだ」
「でも内装を整えないといけないのであとで見にいきましょう」
いくつかの候補の中から、青王様が立地などを考慮して選んだ三店舗を同時に開店することになった。

半年後私は、京陽の四店舗『藤中央店』『藤一番通り店』『藤三番通り店』と『藤本店』それに伏見の『Lupinus』の計五店舗を営業しつつ、王妃としての仕事もこなし、忙しくも充実した日々を送っていた。


「穂香はそろそろ子どもが欲しいと思わないかい?」
「ねぇ、そろそろ穂香妃のかわいい赤ちゃんを抱っこしたいな~」
「まだ考えられませんからっ!」
最近はしょっちゅうこんなやりとりをしている。
でも私はまだまだチョコレート作りをしていたい。
それに、もうしばらく大好きな青王様を独り占めしていたいと思うのだ。