青王様の気遣いのおかげで夜はゆっくり休めたし、何よりとても楽しい二泊三日だった。
「青王様、両親のお墓参りにいこうって言ってくれてありがとうございました。ちゃんと報告ができてよかったです」
「わたしも、穂香の両親に挨拶ができてよかったよ」

王城に帰ると、茜様を中心として、王城内が結婚の話で大騒ぎになっていた。
「おかえりなさ~い!ねぇ、結婚式のときのドレスはどんなのがいい?穂香ちゃんにはピンクが似合うと思うのよ。あっ、でもやっぱり水色もいいかな~」
「茜様、結婚式って...まだ青王様ともお話してませんし」
「穂香がよければ私は明日にでも結婚式がしたい!」
「そうよ~、善は急げって言うじゃない?早く準備しましょうよ~」
このやりとりを見ていた白様と瑠璃、それに(ほまれ)寿(ひさ)も驚きと呆れが入り交じったような顔をしているし、私ももうなんと言ったらいいかわからない。
「茜様、青王様、とりあえず落ち着いてちゃんとお話しましょう」
青王様の手を引き、みんなでリビングに移動すると、瑠璃が紅茶とアップルパイを用意してくれた。
「青王様が話しかけながら大切に育てたりんごを使いました。甘くておいしいですよ」
「瑠璃、どうして話しかけているのを知っている...」
「青王様、正直に言いますけど、青王様が植物に話しかけながらかわいがって大切に育ててること、みんな知っていますよ」
青王様は耳まで真っ赤にして「バレていたなんて...」と恥ずかしそうに頭を抱えている。
「でも、そのお陰でみんなおいしく育っているんだからいいじゃないですか」
「そうですよ。青王様の優しい人柄が出ていて、みんなが幸せになれるのだから恥ずかしいことなんてないですよ」
「そう言ってもらえるなら...」と顔を上げた青王様は「これからもおいしい果物を作るよ」とぎこちないガッツポーズをして見せた。


京陽の王族の結婚式は、関係者や付き合いのある親しい(あやかし)たちを招いて、王城で立食パーティーをする。
そして、豪華なドレスを(まと)った新婦が大きな龍の姿になった新郎の背中に乗り、京陽の街の上空を飛び回るのだ。
空良も薄い水色のドレスに身を包み、白龍の姿の青王太子の背中に(また)がり京陽中を飛び回った。
その時の幸せな気持ちを思い出していた穂香は、自分が結婚式を楽しみにし始めていることに気づいた。

「ねぇ穂香ちゃん、本当は結婚式を楽しみにしているんじゃない?」
「えっ...あの...」
「ふふふ、ほらもう正直に言っちゃいなさい」
「はい...私、青王様の髪と同じ色の...空良が着たドレスをもう一度着て結婚式したいです」
茜様は「うん」と笑顔でうなずき私の肩をポンポンとたたいてどこかへ向かって歩き出した。
「青王様...」
「穂香、今から買い物にいこう。すぐに結婚式の準備を始めるよ」
突然私の手を引き歩き出したと思ったら、王城の外へ出たところで突然止まった。
「穂香、カヌレのリングの店まで連れていってくれないか」
「は?はい、わかりました」
懐中時計を使いジュエリーショップまで移動すると、青王様はなんの迷いもなく店に入り店員さんに「これとこれ、見せてもらえるかな」と声をかけた。
「穂香、左手を出して」
「え?」
「この前来たときに、婚約と結婚のリングはこれにしようと決めていたんだ。穂香が嫌じゃなければ、だが...」
青王様が選んでいたリングは、一粒のダイヤを五本の爪で花のような形に留めてあるものと、流れるようなウェーブがポイントになったデザインのペアリングだった。
青王様は私の左手の薬指にリングをはめ「どうだろう」と少しだけ不安そうな目で見つめてくる。
「素敵です。うれしい...!」
私は涙が溢れてしまい、それ以上なにも言えなくなってしまった。そんな私の背中を青王様がそっとなでながら薬指からリングを外し店員さんに渡した。
「十日ほどで新しいものをご用意しますね」と差し出された引換票を受け取った青王様に手を引かれ、店を出た私たちはすぐに王城へ戻った。

リビングで待ち構えていた茜様は、私の手を掴むと同時に空良のドレスを広げ、
「おかえりなさ~い!ねぇ、空良妃のドレス、穂香ちゃんに合わせて少し直すわね。それと、装飾ももうちょっと豪華にしましょう。わたしに任せてもらえるかしら?」
「ありがとうございます。茜様にお任せします」
「よかったぁ。穂香ちゃんにピッタリのドレスにするからねっ!」
茜様はそう言うと私を壁際に立たせ、パパッと採寸をし、バタバタと離れに戻っていった。
「母上は相変わらず賑やかな人だな...」
「私は明るい茜様のこと、大好きですよ?」
「まぁ、あの明るさに助けられることもあるからね。穂香、これから母上のこともよろしく頼むよ」
「はい、もちろんです!」

それから青王様は瑠璃や王城内の妖たちを集め、話し合いや指示をし、結婚式は二週間後と決まった。