藤を誉と寿の二人だけに任せられるようになったので、翌日は久しぶりに瑠璃と一緒に Lupinus の店番をしていた。すると「ハイカカオチョコってありますか?」「ハイカカオチョコ五袋ください」と朝からハイカカオチョコを求めるお客様が列を作っている。
「どうしてこんなに?」
「最近はチョコレートを話題にした番組とか見てませんけど...」
あたふたしているところへ常連のお客様がやってきて教えてくれた。
「 SNS で見たのよ。ほらこの書き込み見て」
目の前に差し出された画面には『毎日少しずつハイカカオチョコを食べてたら肌荒れが気にならなくなったよ〜。それにおなかの調子もいいみたい。伏見稲荷近くの Lupinus っていうお店のチョコがおいしくてお気に入り!』と、チョコレートの写真付きの記事が表示されていた。
「なるほど...」
しかもすごい数のいいねと『今日買いにいこうかな』『仕事帰りでも残ってるかなぁ』などたくさんのコメントがついている。たぶん、少なくてもこれから数日間はハイカカオチョコを求めるお客様が増えるだろう。
けれど今朝コンチングを終えたチョコレートの分でカカオ豆の在庫はなくなっている。予定よりもたくさんのチョコレートを作るとなると、少しでも早く次のコンチングを始める必要がある。
「瑠璃ちゃん、ちょっとカカオの森へいってくるわ。すぐに戻るから」
私はいそいで保存してあるカカオ豆を持ってきて焙炒を始めた。
「穂香さん、ハイカカオチョコがあと五袋しかありません。どうしますか?」
「すぐに作るわ。でも固まるまでは少し時間が必要...あっ!茜様を呼んできてもらえる?」
「わかりました!いってきます」
茜様の力を借りれば、あっという間に固めることができる。型にチョコレートを流し入れ準備をしているところへ茜様と一緒に瑠璃が戻ってきた。
「茜様、すみません...」
「いいのよ。穂香ちゃんのためだもの~。あ、これを固めればいいのね」
茜様は「いつも食べているぐらいの固さでいいのよね」と言って、低すぎない温度で丁寧に冷やしていった。できあがったチョコのラッピングを瑠璃に任せ接客をしていると、残っていたハイカカオチョコもすぐに売り切れてしまい、もうすぐできると伝えると店内で待つと言うお客様が続出した。
「いらっしゃい...ませ」
え...どうして?青王様が術をかけて、この人はもうここへ来られないようにしてくれたはずなのに。
「 SNS で見たんだけど、ハイカカオチョコはあるかな?」
「えっ...と、まもなくお出しできますので少々お待ちいただけますか」
「それじゃほかのお菓子を見ながら待たせてもらうよ」
厨房では心配そうな顔の瑠璃と不安そうな顔の茜様がこちらの様子をうかがっている。
二人に「大丈夫です」と声をかけると、瑠璃は「もうここには入れないはずなのに。でもなんかこの前と様子が違うような...とりあえず青王様を呼んできます」と王城へ戻っていった。
「穂香ちゃん、はいこれ。ラッピング終わった分ね。わたしもお店のほうにいきましょうか?」
「ありがとうございます。一人で大丈夫です。危ないと思ったらすぐに逃げて来ますから」
たくさんのチョコレートが乗ったトレーを茜様から受け取り「おまたせしました」と、できあがりを待っていたお客様に渡していく。
「穂香さん、交代しますね」
青王様を連れて戻ってきた瑠璃が交代してくれたので、私は追加のチョコレートを作りに厨房へ。
「青王様、商品がまだ足りなそうなんです。私はもう少し作るので瑠璃ちゃんとオーナーの様子を見ていてください」
青王様は小さくうなずき店のほうを覗いている。
「茜様、もう少しお手伝いお願いできますか?」
「もちろんよ~。どうせならわたしもここで働かせてもらおうかしら」
「そんなことしたら私が白様に怒られちゃいます」
「怒ったりしないわよ。あっ、今はチョコレート作らないとね」
私たちはおしゃべりをやめハイカカオチョコを作り続けた。
「すみません、もう少しお待ちいただけますか?」
「だったら先にこのキャラメルクリームのボンボンショコラを一つもらおうかな。ちょっと味見してみたくて」
「はい、かしこまりました」
瑠璃がボンボンショコラを一粒小さな透明の袋に入れると、オーナーは「封はしなくていいよ。今すぐ外で食べちゃうから」と袋を受け取り、店の前でチョコレートを頬張った。
「おまたせしてすみませんでした」
店内で待っていた二名のお客様が店を出るのと入れ替えに、オーナーがゆっくり戻ってきた。
瑠璃は、指先の震えを必死に抑える私をかばうように前に出る。青王様も厨房の中で、何かあったらすぐに出てこられるよう構えているようだ。
「とてもおいしいチョコレートだった。それに、キャラメルクリームはなんだか懐かしい感じがしたんだ。ハイカカオチョコのほかに、ボンボンショコラを全種類一つずつもらおうかな」
「はい、すぐご用意しますね」
瑠璃が目で合図をしてきたので、私は恐々とレジの前に立ち会計をした。
「今度はケーキを買いにくるよ」
「はい、お待ちしています。ありがとうございました」
オーナーが出ていくと私は体の力が抜けてしまい、倒れそうになったところを青王様が支えてくれた。
それでもなんとか追加のチョコレートを作り閉店までがんばると、片付けもそこそこに王城へ向かった。
「茜様、閉店までお手伝いさせてしまってすみませんでした」
「いいのよ~。わたしは穂香ちゃんとチョコレート作りができてうれしかったわ。さあ、夕食の準備を始めましょう」
「はい。今日は残りの芋煮にカレールウを入れるだけなので、あとはご飯を炊いてサラダを作るだけですね」
誉たちも戻ってきて、みんなでわいわいと夕食を食べる。二キロ分のお米を炊いたのに、七人であっという間に平らげてしまった。
「おいしかった~。また作ってください!」
「わたしはずっと芋煮と芋煮カレーの繰り返しでもいいな」
「青王ったら子どもみたいなことを言って。せっかく料理上手の穂香ちゃんがいるんだから、ほかにもおいしいお料理をたくさん食べさせてもらいましょうよ。ね、穂香ちゃん?」
「はい、いろいろ作りますから茜様も青王様もお手伝いしてくださいね」
「もちろん」とうなずいてくれた茜様。青王様は「わたしと穂香の二人だけで作ってもいいんだよ?」なんて言っている。
「あらあら、ふふふ。穂香ちゃん、子どもみたいで大変だと思うけれど青王をよろしくね」
みんなが青王様と私を交互に見ている。は、恥ずかしい...
片付けを瑠璃に任せて、青王様と一緒に家に戻ってきた。
「どうしてオーナーが店に入れたんでしょうか。それにペンダントも反応しませんでしたし」
「以前とは態度が全然違って穏やかな雰囲気だったから、ペンダントが危険だと判断しなかったんだろう。それに、穂香のことを認識していないようだったからあの男にかけた術は効いていると思う。きっとペンダントと同じように建物にかけた結界の術があの男を危険人物だと判断しなかったんだろう」
私のことを思い出さず、ただ普通に買い物をして帰ってくれるならかまわない。でも、もしまた罵声を浴びせられたら、と思うと不安でしかたない。
「できれば結界を強化したいところだが、そうするとほかの客にも影響するかもしれないから...今後またあの男が店に来たら今日のようにすぐに呼びに来ればいい。もし瑠璃がいなくても、穂香だって一瞬で私のところに来られるだろう」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
青王様は「穂香はわたしが絶対に守るから」と、私の頭をやさしくなでた。
「私、明日は早朝からやることがあるのでそろそろ休みますね」
「早朝から?」
「はい、今コンチング中なんですけど、それが終わるのが明け方ぐらいなんです。終わったらすぐに作業したいので」
ん?なんだか期待に満ちた目をしている気がする...
「あの...お手伝いしたいっていう顔してますね」
青王様はうんうんと大きくうなずいている。
「やっぱり...うーん、では瑠璃ちゃんが来るまでお手伝いしてください。朝五時ごろに来てくださいね」
「わかった。おやすみ」
やさしく口づけをすると、スキップでもしそうな勢いでうれしそうに戻っていった。
「どうしてこんなに?」
「最近はチョコレートを話題にした番組とか見てませんけど...」
あたふたしているところへ常連のお客様がやってきて教えてくれた。
「 SNS で見たのよ。ほらこの書き込み見て」
目の前に差し出された画面には『毎日少しずつハイカカオチョコを食べてたら肌荒れが気にならなくなったよ〜。それにおなかの調子もいいみたい。伏見稲荷近くの Lupinus っていうお店のチョコがおいしくてお気に入り!』と、チョコレートの写真付きの記事が表示されていた。
「なるほど...」
しかもすごい数のいいねと『今日買いにいこうかな』『仕事帰りでも残ってるかなぁ』などたくさんのコメントがついている。たぶん、少なくてもこれから数日間はハイカカオチョコを求めるお客様が増えるだろう。
けれど今朝コンチングを終えたチョコレートの分でカカオ豆の在庫はなくなっている。予定よりもたくさんのチョコレートを作るとなると、少しでも早く次のコンチングを始める必要がある。
「瑠璃ちゃん、ちょっとカカオの森へいってくるわ。すぐに戻るから」
私はいそいで保存してあるカカオ豆を持ってきて焙炒を始めた。
「穂香さん、ハイカカオチョコがあと五袋しかありません。どうしますか?」
「すぐに作るわ。でも固まるまでは少し時間が必要...あっ!茜様を呼んできてもらえる?」
「わかりました!いってきます」
茜様の力を借りれば、あっという間に固めることができる。型にチョコレートを流し入れ準備をしているところへ茜様と一緒に瑠璃が戻ってきた。
「茜様、すみません...」
「いいのよ。穂香ちゃんのためだもの~。あ、これを固めればいいのね」
茜様は「いつも食べているぐらいの固さでいいのよね」と言って、低すぎない温度で丁寧に冷やしていった。できあがったチョコのラッピングを瑠璃に任せ接客をしていると、残っていたハイカカオチョコもすぐに売り切れてしまい、もうすぐできると伝えると店内で待つと言うお客様が続出した。
「いらっしゃい...ませ」
え...どうして?青王様が術をかけて、この人はもうここへ来られないようにしてくれたはずなのに。
「 SNS で見たんだけど、ハイカカオチョコはあるかな?」
「えっ...と、まもなくお出しできますので少々お待ちいただけますか」
「それじゃほかのお菓子を見ながら待たせてもらうよ」
厨房では心配そうな顔の瑠璃と不安そうな顔の茜様がこちらの様子をうかがっている。
二人に「大丈夫です」と声をかけると、瑠璃は「もうここには入れないはずなのに。でもなんかこの前と様子が違うような...とりあえず青王様を呼んできます」と王城へ戻っていった。
「穂香ちゃん、はいこれ。ラッピング終わった分ね。わたしもお店のほうにいきましょうか?」
「ありがとうございます。一人で大丈夫です。危ないと思ったらすぐに逃げて来ますから」
たくさんのチョコレートが乗ったトレーを茜様から受け取り「おまたせしました」と、できあがりを待っていたお客様に渡していく。
「穂香さん、交代しますね」
青王様を連れて戻ってきた瑠璃が交代してくれたので、私は追加のチョコレートを作りに厨房へ。
「青王様、商品がまだ足りなそうなんです。私はもう少し作るので瑠璃ちゃんとオーナーの様子を見ていてください」
青王様は小さくうなずき店のほうを覗いている。
「茜様、もう少しお手伝いお願いできますか?」
「もちろんよ~。どうせならわたしもここで働かせてもらおうかしら」
「そんなことしたら私が白様に怒られちゃいます」
「怒ったりしないわよ。あっ、今はチョコレート作らないとね」
私たちはおしゃべりをやめハイカカオチョコを作り続けた。
「すみません、もう少しお待ちいただけますか?」
「だったら先にこのキャラメルクリームのボンボンショコラを一つもらおうかな。ちょっと味見してみたくて」
「はい、かしこまりました」
瑠璃がボンボンショコラを一粒小さな透明の袋に入れると、オーナーは「封はしなくていいよ。今すぐ外で食べちゃうから」と袋を受け取り、店の前でチョコレートを頬張った。
「おまたせしてすみませんでした」
店内で待っていた二名のお客様が店を出るのと入れ替えに、オーナーがゆっくり戻ってきた。
瑠璃は、指先の震えを必死に抑える私をかばうように前に出る。青王様も厨房の中で、何かあったらすぐに出てこられるよう構えているようだ。
「とてもおいしいチョコレートだった。それに、キャラメルクリームはなんだか懐かしい感じがしたんだ。ハイカカオチョコのほかに、ボンボンショコラを全種類一つずつもらおうかな」
「はい、すぐご用意しますね」
瑠璃が目で合図をしてきたので、私は恐々とレジの前に立ち会計をした。
「今度はケーキを買いにくるよ」
「はい、お待ちしています。ありがとうございました」
オーナーが出ていくと私は体の力が抜けてしまい、倒れそうになったところを青王様が支えてくれた。
それでもなんとか追加のチョコレートを作り閉店までがんばると、片付けもそこそこに王城へ向かった。
「茜様、閉店までお手伝いさせてしまってすみませんでした」
「いいのよ~。わたしは穂香ちゃんとチョコレート作りができてうれしかったわ。さあ、夕食の準備を始めましょう」
「はい。今日は残りの芋煮にカレールウを入れるだけなので、あとはご飯を炊いてサラダを作るだけですね」
誉たちも戻ってきて、みんなでわいわいと夕食を食べる。二キロ分のお米を炊いたのに、七人であっという間に平らげてしまった。
「おいしかった~。また作ってください!」
「わたしはずっと芋煮と芋煮カレーの繰り返しでもいいな」
「青王ったら子どもみたいなことを言って。せっかく料理上手の穂香ちゃんがいるんだから、ほかにもおいしいお料理をたくさん食べさせてもらいましょうよ。ね、穂香ちゃん?」
「はい、いろいろ作りますから茜様も青王様もお手伝いしてくださいね」
「もちろん」とうなずいてくれた茜様。青王様は「わたしと穂香の二人だけで作ってもいいんだよ?」なんて言っている。
「あらあら、ふふふ。穂香ちゃん、子どもみたいで大変だと思うけれど青王をよろしくね」
みんなが青王様と私を交互に見ている。は、恥ずかしい...
片付けを瑠璃に任せて、青王様と一緒に家に戻ってきた。
「どうしてオーナーが店に入れたんでしょうか。それにペンダントも反応しませんでしたし」
「以前とは態度が全然違って穏やかな雰囲気だったから、ペンダントが危険だと判断しなかったんだろう。それに、穂香のことを認識していないようだったからあの男にかけた術は効いていると思う。きっとペンダントと同じように建物にかけた結界の術があの男を危険人物だと判断しなかったんだろう」
私のことを思い出さず、ただ普通に買い物をして帰ってくれるならかまわない。でも、もしまた罵声を浴びせられたら、と思うと不安でしかたない。
「できれば結界を強化したいところだが、そうするとほかの客にも影響するかもしれないから...今後またあの男が店に来たら今日のようにすぐに呼びに来ればいい。もし瑠璃がいなくても、穂香だって一瞬で私のところに来られるだろう」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
青王様は「穂香はわたしが絶対に守るから」と、私の頭をやさしくなでた。
「私、明日は早朝からやることがあるのでそろそろ休みますね」
「早朝から?」
「はい、今コンチング中なんですけど、それが終わるのが明け方ぐらいなんです。終わったらすぐに作業したいので」
ん?なんだか期待に満ちた目をしている気がする...
「あの...お手伝いしたいっていう顔してますね」
青王様はうんうんと大きくうなずいている。
「やっぱり...うーん、では瑠璃ちゃんが来るまでお手伝いしてください。朝五時ごろに来てくださいね」
「わかった。おやすみ」
やさしく口づけをすると、スキップでもしそうな勢いでうれしそうに戻っていった。