「青王、ごめんなさい。穂香ちゃんの気持ちも考えないであんなことを言ってしまって」
「穂香は自分が人間であることを気にしている。半妖だった空良でさえあんなに気にしていたんだから」
「もうここへは来てくれない、なんてことないわよね...」
「どうだろうな。とりあえず穂香の様子を見てくる」
瑠璃に、事態を飲み込めないでいる誉たちに説明するよう指示し、青王は穂香のもとへ向かった。
「大丈夫かい?」
「青王様...取り乱してしまってすみませんでした」
「穂香、わたしは穂香のことをとても大切に思っている。できることならずっと抱きしめていたい。穂香が人間であることを気にしているのはわかっている。でも本当の気持ちを聞かせてほしい。どうか話してはもらえないだろうか」
青王様の綺麗な水色の瞳が、とても不安げに揺れている。
今、本当の気持ちを言ってしまったら青王様を困らせてしまう。でも、私のことを大切だと言ってくれた青王様に、その気持ちには応えられないと言ったら悲しませてしまうかもしれない。
やっと止まりかけた涙がまた流れ始めうつむく私の頭をなでながら「落ち着いてからでかまわないから」とやさしく声をかけてくれる青王様。
『穂香、大丈夫よ。この人ならあなたを絶対に大切にしてくれるわ。自分の気持ちに素直になりなさい』
顔を上げられないでいると、脳内に直接語りかけるような声が響いた。どこかで聞いたことがあるようで懐かしい、でも誰だかわからない、穏やかで澄んだ安心感のある声。
「わ、私...青王様のことが好きです。初めは空良の気持ちを思い出しているだけだと思っていました。でも、ちゃんと今の私の気持ちなんだ、って気がつきました。ただ、私は人間だから...」
「穂香、ありがとう」
私を笑顔でぎゅっと抱きしめるこの人の腕の中は、なんて暖かくて安心できる場所なんだろう。ずっと帰りたかったところへやっと帰ってこられたんだと思ったら、だけどこれで青王様を困らせてしまうかもしれないと思ったら、また涙が溢れて止まらなくなってしまった。
青王様は私が顔を上げるまで、何も言わずずっと抱きしめてくれていた。
「少し落ち着いたかい?」
「はい...あっ!」
「どうした?」
突然我に返ってしまった。ムードもなにもあったもんじゃないな...
「すみません...茜様に謝らないと。それに明日の仕込みもしないと」
青王様は驚いた顔をしながらも「母上には明日の夜にでも会いに行けばいい。わたしは穂香ともう少し話したかったが...次の休みにでもまた二人で出かけようか」と笑顔を見せてくれた。
「お出かけしたときには、私が思っていることをちゃんとお話しします」
「わかった。どこかゆっくりできるところで話そう。では、わたしは王城に戻って瑠璃を来させるよ。穂香は厨房で待っているといい」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
青王様は私の頭をポンポンとなで「おやすみ」と帰って行った。
厨房へ入るとちょうど瑠璃もやってきた。
「穂香さん、大丈夫ですか?」
「瑠璃ちゃん、びっくりさせてごめんなさい。もう大丈夫よ」
「よかった。夕食、あんまり食べてなかったからおなかすいてませんか?カレー持って来たので、よかったら仕込みの前に食べてください」
トレーに乗せたカレーとフルーツサラダをテーブルに置き、冷たい麦茶を淹れてくれた。
「ありがとう、いただくわね。瑠璃ちゃんは仕込み始めてて」
「はーい」
絶対に言ってはいけないと思っていたのに、突然降ってきた誰かの声に背中を押され勢いで言ってしまった本当の気持ち。それを聞いた青王様が笑顔を見せてくれたことで少しホッとしたけれど、やっぱりまだ不安や迷いは消えない。
「穂香さん、わたしのほうは終わりました」
「お疲れさま。こっちももう終わるから瑠璃ちゃんは戻って大丈夫よ」
「はい。お疲れさまでした」
瑠璃が戻ったあと、私は明日茜様に持って行こうと思い、たくさんのボンボンショコラを作った。ほんの少し悪戯をしかけて...
「おはようございます!」
「おはよう。二人とも、昨日はビックリさせてごめんなさい。今日も研修頑張ってね」
「はーい!」
瑠璃が、誉と寿に昨日の出来事に至るまでの経緯を説明したと言っていた。それでも今日二人はいつも通りに、何事もなかったかのように接してくれた。
「穂香さん、今日はわたしたちが冷蔵ケースのほうの品出ししますね」
「よろしくね」
今日はお客様が多くて忙しかったけれど、二人はしっかり接客ができていた。この調子なら安心して藤を任せることができそうだ。
「お疲れさま。私も王城に行く用事があるからみんなで戻りましょう」
ボンボンショコラが詰まった箱を持ち王城へ戻ると、青王様と白様、茜様が出迎えてくれた。
「白様、茜様、昨日は取り乱してしまってすみませんでした」
「穂香ちゃんは悪くないわ。わたしはあなたの気持ちも考えずに思ったことをそのまま口にしてしまった。軽率だったわ。本当にごめんなさい」
「あ、あの、もう大丈夫ですから」
深く頭を下げる茜様に恐縮してしまい、私はあたふたするばかり...
格上の人にこんな風に謝られたらどうしていいかわからない。
「えっと...ボンボンショコラを持ってきました。みんなでお茶にしませんか?」
「紅茶、淹れてきますね!」
瑠璃が厨房へ走って行く。その後ろを「お手伝いします」と寿が追いかける。
「穂香ちゃん、ありがとう。お茶の後に二人だけで少しお話できるかしら?」
「はい、大丈夫です」
「紅茶の準備ができました。ダイニングへどうぞ!」
ボンボンショコラを大皿に並べると、私はみんなに説明した。
「今日はロシアンルーレットにしました!」
みんなの頭の上に「?」が浮かんでいる。
「この中に二つだけ、唐辛子が入っているものがあります。でも人間の世界には実際に唐辛子や胡椒が入っているチョコレートが売っているので、特におかしなものではありません」
「それを選んだらアタリなのかな?それともハズレかな?」
「うーん...それは、もし白様がそれをおいしいと思ったらアタリ、まずいと思ったらハズレ、ではないでしょうか」
「なるほど。そう言われればたしかにそうだね」
青王様と瑠璃はワクワクした表情で、ほかのみんなは息をのんで慎重に選んでいる。
ちなみに私が選んでしまったらおもしろくないので、だれも気づかない程度の目印をつけてある。
それぞれ選んだボンボンショコラを持ち、一斉に一口かじる。
一つ目、二つ目はだれも唐辛子を引かなかった。そして三つ目...
口に入れしばらくすると、青王様と茜様が同時に動きを止めた。
「うっ、辛っ!ん?...でもおいしいな」
「辛いけれど、これはこれでありね!」
意外にも二人にはアタリだったようだ。
「わたしにとってはアタリなのかハズレなのか、気になる...」
「穂香さん、わたしも食べてみたいです!」
「白様、瑠璃ちゃんも、きっとそう言うと思ってちゃんと持ってきていますよ」
私は別の大皿に全部同じ形のボンボンショコラをいくつも並べ
「なにも印がないものが唐辛子、白い粒が乗っているのが胡椒、それからホワイトチョコにはワサビが入っています」
「ワサビって、あのツーンとするワサビ?」
「茜様、そのワサビです」
とにかくみんな、まずは唐辛子のものを一口。これは全員アタリだったようだ。
次に胡椒のものをかじると、誉と寿にはハズレで青王様には大アタリだった。「ピリッとしたあとにくる爽やかな感じがいい!」そうだ。
最後にワサビのもの。あまり刺激が強くないようにワサビは少なめにしてある。それにこれはホワイトチョコなので、苦みはなく甘さが強い。
「これおいしい!穂香さん、これは店にも並べませんか?」
「そうね、ワサビと唐辛子を並べてみましょうか。実は私もワサビチョコが好きなのよ」
それからしばらくわいわいとおしゃべりをしていると、茜様が私だけに見えるようにテーブルの下で廊下を指さした。
私はそっと廊下へ出て、少しすると茜様もダイニングを抜け出してきた。
「青王に見つからないように離れに行きたいのだけど」
「それなら懐中時計を使って行きましょう」
コソコソと話し、離れに移動してくると茜様のお部屋に案内された。
「二人だけで話したかったの。青王がいるとまたなにか言われるかなぁ、と思って」
「ふふ、内容によっては怒られそうですし」
「そうよね。別に悪口を言っているわけではないのにね。あっ、わたしたちがいないことに気づいたら探しに来ると思うから、伝えたかったことを先に話しちゃうわね」
椅子に座ると「お茶も出さずにごめんなさいね」と言って話し始めた。
「穂香ちゃんは、自分が人間であることを気にして本当の気持ちを言えないでいたのよね。だけどね、白様や青王は妖というより神に近い存在なのは知っているでしょ。純粋な人間である穂香ちゃんは、その神に近い青王が力を注いでいる泉の水を飲み続け、そして青王の子をおなかに宿すことで青王と同じ性質を持つ、つまり青王と同じような神に近い存在になるのよ」
「え...だったら空良は...」
「空良妃は半妖とはいえ妖の性質を持つ存在だった。自分は半妖だから青王よりはるかに寿命が短いっていつも気にしていたでしょ。だけどいくら泉の水を飲んでいても子を宿したとしても半妖であることは変わらない。だからこのことを空良妃には言わなかったの。変われるのは純粋な人間だけなのよ。わたしだって青王を産んでも妖であることに変わりはない。いつかは白様を一人にしてしまうときが来るわ」
「そんな...」
「そんな顔しないで。まだまだずっと先のことなんだから。それより、穂香ちゃんの悩みはこれで解消されたかしら?」
「えっと...」
なんて言えばいいのかわからない。私が青王様の子を宿すとか、神に近い存在になるとか、ちょっと想像が追いつかない。
でも青王様は子どもが欲しいといつも言っていた。空良はその願いを叶えることができなかったけど、もし私がそれを叶えられれば青王様にとても喜んでもらえるだろう。
青王様には笑顔でいてほしい。ずっと幸せでいてほしい。
「青王様もそのことは知っているんですよね?」
「もちろん。でも、穂香ちゃんの気持ちがはっきりわからないから、伝えることができずにいるみたい」
「そうですか。茜様、ありがとうございました。私、青王様に自分の気持ちをしっかり伝えます」
茜様は笑顔でうなずき「王城まで歩いて戻りましょう。なにか言われたら、星を眺めていたことにすればいいわ」そう言いながら離れを出る。今夜は満天の星だ。
「穂香は自分が人間であることを気にしている。半妖だった空良でさえあんなに気にしていたんだから」
「もうここへは来てくれない、なんてことないわよね...」
「どうだろうな。とりあえず穂香の様子を見てくる」
瑠璃に、事態を飲み込めないでいる誉たちに説明するよう指示し、青王は穂香のもとへ向かった。
「大丈夫かい?」
「青王様...取り乱してしまってすみませんでした」
「穂香、わたしは穂香のことをとても大切に思っている。できることならずっと抱きしめていたい。穂香が人間であることを気にしているのはわかっている。でも本当の気持ちを聞かせてほしい。どうか話してはもらえないだろうか」
青王様の綺麗な水色の瞳が、とても不安げに揺れている。
今、本当の気持ちを言ってしまったら青王様を困らせてしまう。でも、私のことを大切だと言ってくれた青王様に、その気持ちには応えられないと言ったら悲しませてしまうかもしれない。
やっと止まりかけた涙がまた流れ始めうつむく私の頭をなでながら「落ち着いてからでかまわないから」とやさしく声をかけてくれる青王様。
『穂香、大丈夫よ。この人ならあなたを絶対に大切にしてくれるわ。自分の気持ちに素直になりなさい』
顔を上げられないでいると、脳内に直接語りかけるような声が響いた。どこかで聞いたことがあるようで懐かしい、でも誰だかわからない、穏やかで澄んだ安心感のある声。
「わ、私...青王様のことが好きです。初めは空良の気持ちを思い出しているだけだと思っていました。でも、ちゃんと今の私の気持ちなんだ、って気がつきました。ただ、私は人間だから...」
「穂香、ありがとう」
私を笑顔でぎゅっと抱きしめるこの人の腕の中は、なんて暖かくて安心できる場所なんだろう。ずっと帰りたかったところへやっと帰ってこられたんだと思ったら、だけどこれで青王様を困らせてしまうかもしれないと思ったら、また涙が溢れて止まらなくなってしまった。
青王様は私が顔を上げるまで、何も言わずずっと抱きしめてくれていた。
「少し落ち着いたかい?」
「はい...あっ!」
「どうした?」
突然我に返ってしまった。ムードもなにもあったもんじゃないな...
「すみません...茜様に謝らないと。それに明日の仕込みもしないと」
青王様は驚いた顔をしながらも「母上には明日の夜にでも会いに行けばいい。わたしは穂香ともう少し話したかったが...次の休みにでもまた二人で出かけようか」と笑顔を見せてくれた。
「お出かけしたときには、私が思っていることをちゃんとお話しします」
「わかった。どこかゆっくりできるところで話そう。では、わたしは王城に戻って瑠璃を来させるよ。穂香は厨房で待っているといい」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
青王様は私の頭をポンポンとなで「おやすみ」と帰って行った。
厨房へ入るとちょうど瑠璃もやってきた。
「穂香さん、大丈夫ですか?」
「瑠璃ちゃん、びっくりさせてごめんなさい。もう大丈夫よ」
「よかった。夕食、あんまり食べてなかったからおなかすいてませんか?カレー持って来たので、よかったら仕込みの前に食べてください」
トレーに乗せたカレーとフルーツサラダをテーブルに置き、冷たい麦茶を淹れてくれた。
「ありがとう、いただくわね。瑠璃ちゃんは仕込み始めてて」
「はーい」
絶対に言ってはいけないと思っていたのに、突然降ってきた誰かの声に背中を押され勢いで言ってしまった本当の気持ち。それを聞いた青王様が笑顔を見せてくれたことで少しホッとしたけれど、やっぱりまだ不安や迷いは消えない。
「穂香さん、わたしのほうは終わりました」
「お疲れさま。こっちももう終わるから瑠璃ちゃんは戻って大丈夫よ」
「はい。お疲れさまでした」
瑠璃が戻ったあと、私は明日茜様に持って行こうと思い、たくさんのボンボンショコラを作った。ほんの少し悪戯をしかけて...
「おはようございます!」
「おはよう。二人とも、昨日はビックリさせてごめんなさい。今日も研修頑張ってね」
「はーい!」
瑠璃が、誉と寿に昨日の出来事に至るまでの経緯を説明したと言っていた。それでも今日二人はいつも通りに、何事もなかったかのように接してくれた。
「穂香さん、今日はわたしたちが冷蔵ケースのほうの品出ししますね」
「よろしくね」
今日はお客様が多くて忙しかったけれど、二人はしっかり接客ができていた。この調子なら安心して藤を任せることができそうだ。
「お疲れさま。私も王城に行く用事があるからみんなで戻りましょう」
ボンボンショコラが詰まった箱を持ち王城へ戻ると、青王様と白様、茜様が出迎えてくれた。
「白様、茜様、昨日は取り乱してしまってすみませんでした」
「穂香ちゃんは悪くないわ。わたしはあなたの気持ちも考えずに思ったことをそのまま口にしてしまった。軽率だったわ。本当にごめんなさい」
「あ、あの、もう大丈夫ですから」
深く頭を下げる茜様に恐縮してしまい、私はあたふたするばかり...
格上の人にこんな風に謝られたらどうしていいかわからない。
「えっと...ボンボンショコラを持ってきました。みんなでお茶にしませんか?」
「紅茶、淹れてきますね!」
瑠璃が厨房へ走って行く。その後ろを「お手伝いします」と寿が追いかける。
「穂香ちゃん、ありがとう。お茶の後に二人だけで少しお話できるかしら?」
「はい、大丈夫です」
「紅茶の準備ができました。ダイニングへどうぞ!」
ボンボンショコラを大皿に並べると、私はみんなに説明した。
「今日はロシアンルーレットにしました!」
みんなの頭の上に「?」が浮かんでいる。
「この中に二つだけ、唐辛子が入っているものがあります。でも人間の世界には実際に唐辛子や胡椒が入っているチョコレートが売っているので、特におかしなものではありません」
「それを選んだらアタリなのかな?それともハズレかな?」
「うーん...それは、もし白様がそれをおいしいと思ったらアタリ、まずいと思ったらハズレ、ではないでしょうか」
「なるほど。そう言われればたしかにそうだね」
青王様と瑠璃はワクワクした表情で、ほかのみんなは息をのんで慎重に選んでいる。
ちなみに私が選んでしまったらおもしろくないので、だれも気づかない程度の目印をつけてある。
それぞれ選んだボンボンショコラを持ち、一斉に一口かじる。
一つ目、二つ目はだれも唐辛子を引かなかった。そして三つ目...
口に入れしばらくすると、青王様と茜様が同時に動きを止めた。
「うっ、辛っ!ん?...でもおいしいな」
「辛いけれど、これはこれでありね!」
意外にも二人にはアタリだったようだ。
「わたしにとってはアタリなのかハズレなのか、気になる...」
「穂香さん、わたしも食べてみたいです!」
「白様、瑠璃ちゃんも、きっとそう言うと思ってちゃんと持ってきていますよ」
私は別の大皿に全部同じ形のボンボンショコラをいくつも並べ
「なにも印がないものが唐辛子、白い粒が乗っているのが胡椒、それからホワイトチョコにはワサビが入っています」
「ワサビって、あのツーンとするワサビ?」
「茜様、そのワサビです」
とにかくみんな、まずは唐辛子のものを一口。これは全員アタリだったようだ。
次に胡椒のものをかじると、誉と寿にはハズレで青王様には大アタリだった。「ピリッとしたあとにくる爽やかな感じがいい!」そうだ。
最後にワサビのもの。あまり刺激が強くないようにワサビは少なめにしてある。それにこれはホワイトチョコなので、苦みはなく甘さが強い。
「これおいしい!穂香さん、これは店にも並べませんか?」
「そうね、ワサビと唐辛子を並べてみましょうか。実は私もワサビチョコが好きなのよ」
それからしばらくわいわいとおしゃべりをしていると、茜様が私だけに見えるようにテーブルの下で廊下を指さした。
私はそっと廊下へ出て、少しすると茜様もダイニングを抜け出してきた。
「青王に見つからないように離れに行きたいのだけど」
「それなら懐中時計を使って行きましょう」
コソコソと話し、離れに移動してくると茜様のお部屋に案内された。
「二人だけで話したかったの。青王がいるとまたなにか言われるかなぁ、と思って」
「ふふ、内容によっては怒られそうですし」
「そうよね。別に悪口を言っているわけではないのにね。あっ、わたしたちがいないことに気づいたら探しに来ると思うから、伝えたかったことを先に話しちゃうわね」
椅子に座ると「お茶も出さずにごめんなさいね」と言って話し始めた。
「穂香ちゃんは、自分が人間であることを気にして本当の気持ちを言えないでいたのよね。だけどね、白様や青王は妖というより神に近い存在なのは知っているでしょ。純粋な人間である穂香ちゃんは、その神に近い青王が力を注いでいる泉の水を飲み続け、そして青王の子をおなかに宿すことで青王と同じ性質を持つ、つまり青王と同じような神に近い存在になるのよ」
「え...だったら空良は...」
「空良妃は半妖とはいえ妖の性質を持つ存在だった。自分は半妖だから青王よりはるかに寿命が短いっていつも気にしていたでしょ。だけどいくら泉の水を飲んでいても子を宿したとしても半妖であることは変わらない。だからこのことを空良妃には言わなかったの。変われるのは純粋な人間だけなのよ。わたしだって青王を産んでも妖であることに変わりはない。いつかは白様を一人にしてしまうときが来るわ」
「そんな...」
「そんな顔しないで。まだまだずっと先のことなんだから。それより、穂香ちゃんの悩みはこれで解消されたかしら?」
「えっと...」
なんて言えばいいのかわからない。私が青王様の子を宿すとか、神に近い存在になるとか、ちょっと想像が追いつかない。
でも青王様は子どもが欲しいといつも言っていた。空良はその願いを叶えることができなかったけど、もし私がそれを叶えられれば青王様にとても喜んでもらえるだろう。
青王様には笑顔でいてほしい。ずっと幸せでいてほしい。
「青王様もそのことは知っているんですよね?」
「もちろん。でも、穂香ちゃんの気持ちがはっきりわからないから、伝えることができずにいるみたい」
「そうですか。茜様、ありがとうございました。私、青王様に自分の気持ちをしっかり伝えます」
茜様は笑顔でうなずき「王城まで歩いて戻りましょう。なにか言われたら、星を眺めていたことにすればいいわ」そう言いながら離れを出る。今夜は満天の星だ。