翌日、青王様は約束通り十時にお迎えにきてくれた。
「シャーベットとアイスはこのクーラーボックスに入れておきました。フルーツはこっちです」
「準備してくれてありがとう。懐中時計を使うときにクーラーボックスに触れていれば一緒に移動できるから」
「わかりました。では行きますね」
私たちは王城の厨房に直接移動した。
シャーベットとアイスを冷凍庫に入れ、まずは白王様と王妃様にご挨拶をするために、青王様と一緒に泉のそばの離れへ向かう。
「この泉、懐かしいです。よくここで、白龍の姿になった青王様と一緒に水浴びをしていましたね」
「そうだね。またあの頃のように水浴びするかい?」
「えっ...いえ、それはちょっと...あっ、離れは新しくなっていますね」
「わたしが王位を継承した後に父と母がゆっくり過ごせるよう建て直したんだ」
あの頃は二階建ての小さな木造の建物だったけれど、今はレンガ造りのゆったりした広さの平屋で、隣に物置に使うであろう、やはりレンガ造りの蔵が建っている。
「そろそろ行こうか。わたしが穂香と出会い京陽へ連れてきた経緯は話してある。二人とも穂香に会うのを楽しみに待っているよ」
「ちゃんと、攫ってきた、って言いましたか?」
「攫ったつもりはないけれど、穂香がそう思っているのなら申し訳なかった...」
「まぁ、あの時はいきなり連れてこられて、驚いたし困惑しましたけど...それより、なんだか緊張してきました」
「大丈夫だよ。二人とも、特に母はビックリするぐらいあの頃と変わらないから」
離れに入るなり、誰かがドドドッとすごい勢いで走ってきた。
「穂香ちゃん!待っていたのよ~」
ビックリしたぁ...王妃様、本当に変わってない...
「母上...穂香が驚いているよ」
「だって~、やっと会えたのよ。もう嬉しくて嬉しくて!」
「あ、あの、初めまして。空良さんの生まれ変わりの穂香です!」
緊張と驚きで変な挨拶をしてしまった...
「父上はいないのか?」
「なんかね、穂香さんに会うのにどの着物を着ればいいだろう、って悩んでいたわ」
青王様は、はぁ、とため息をついて「呼んでくる」と言って行ってしまった。
「穂香ちゃん、とにかく入って。話したいことがい~っぱいあるのよ」
「はい。お邪魔します」
王妃様と一緒にリビングへ入ると、青王様と白王様がソファーに座って待っていた。
「穂香さん、よく来てくれたね。空良妃はこんなにかわいらしいお嬢さんに生まれ変わったのか...よかった。本当によかった」
白王様は目を真っ赤にして今にも泣き出しそうな顔をしている。
「そうね。あんなことになってしまって...私たちは空良妃を守ってあげることができなかった。本当に申し訳なくて、せめて早く生まれ変わって幸せに暮らしていてくれたらと願っていたのよ」
空良は、遥に「人間の世界へ連れて行け」と迫られ、頑なに拒否をすると「俺の言うことが聞けないヤツはここから消えろ!」と、崖から谷底へ突き落とされてしまったのだ。きっと空良の体は今もその谷底に眠っているだろう。
「母上、せっかく穂香が来てくれたのだから、明るく楽しい話をしよう」
「そうね、ごめんなさい。穂香ちゃんは今、瑠璃と一緒にお菓子のお店をやっているのよね。そこではどんなお菓子を作っているの?」
私はラッピングをしておいたボンボンショコラを差し出しながら、
「私はショコラティエと言って、チョコレートを作るお仕事をしています。今日はボンボンショコラという、中にジャムなどが入っているチョコレートを持ってきました。お店の定番商品です。ぜひ召し上がってみてください」
「あら?これは青王がたまに持ってきてくれたものと同じね。もしかして、あれも穂香さんが作ったものだったの?」
「あれは穂香を見つけた店で、穂香が作っていたものを買ってきたんだ」
「えぇ~、穂香ちゃんが作っているって、どうしてもっと早く教えてくれなかったのよ~」
と青王様に文句を言い、すぐに四角い形でキャラメルソースが入ったボンボンショコラを持って、これが一番好きだと白王様と話し始めた。
青王様もこれが一番好きで、今も自ら買いに来ることがある。さすが親子、好みが似ているのね。
「あら?これ、いつものよりおいしい気がするわ。何が違うのかしら...」
「本当だね。まわりのチョコレートが違うのかな...」
「このチョコレートはカカオの森のカカオで作りました。私も驚いたのですが、京陽のカカオは人間の世界にある希少価値が高いカカオにとてもよく似た味で、本当においしいんです」
「あのカカオがこんなにおいしかったなんて...」
と、お二人とも驚き、「今までもったいないことをしていたね」と言いあっている。
「それと、お店で出しているものではありませんが、今日は白王様と王妃様に召し上がっていただこうと思い、もう一つおやつを用意してきました。すぐに厨房から持ってきますね」
「あらっ!楽しみだわ~。あっ、私たちのことは名前で呼んでね。もう王でも王妃でもないんだから」
「は、はいわかりました。白様、茜様、少々お待ちください」
青王様と二人で、急いで厨房へ向かった。
「今日はカカオパルプシャーベットを一番のメインにしたいので、ナタデココなしにしました。青王様も一緒に盛り付けしていただけますか?」
「わかった。わたしは穂香と自分のぶんを盛り付けるから、穂香は父と母と瑠璃のぶんを頼むよ」
「はい。あっ、青王様のぶんはシャーベット多めにしていいですよ」
青王様は、いたずらがバレた子どものような顔で耳を真っ赤にしている。
やっぱり初めからそのつもりだったんだ...こういうちょっと子どもっぽいところ、あの頃と変わらないなぁ。
青王様が一足先に盛り付けを終えたので、瑠璃を呼びに行ってもらうことにした。
その間に私も盛り付けを終わらせ、リビングへパフェを運び紅茶を淹れ、ちょうど準備が整ったところへ青王様と瑠璃がやってきた。
「うわぁ、なんですかこれ。おいしそ~!」
「ふふ、瑠璃ちゃん元気そう。明日は開店できそうね」
「はい!」
「白様、茜様、お待たせいたしました。これはカカオパルプシャーベットのパフェです。カカオパルプとは、カカオポットの中の果肉です。どうぞ召し上がってみてください」
「これもあのカカオ?早くいただきましょう!」
「では穂香さん、いただくよ」
「「「いただきます!」」」
白様たちが一斉に食べ始め、みんなの笑顔を見たところで青王様が、
「穂香、わたしたちもいただこうか」
「はい、いただきます」
みんなあっという間に食べ終え、紅茶を飲んで落ち着くと、
「あの硬い実の中にこんなにおいしいものが入ってたなんて!穂香ちゃんはすごいわぁ!ねぇ、ほかにはどんなものを作るの?まだ見たこともないようなものがいっぱいありそうね。あっ、お店にも行ってみたいわ。ねぇ青王、今度連れて行ってくれない?」
茜様は相変わらず明るくテンションが高くて、一度にいろいろな話題を投げかけてくる。その性格は、半妖であることに劣等感を抱いていた空良の心を、暖かく優しく包み込んでくれていたのだ。
「母上...ちょっと落ち着いてくれ。穂香、母上を Lupinus へ連れて行ってくれないかな?」
「もちろん大丈夫ですよ。商品が揃っている開店前の時間がいいと思います。明日、準備ができたらお迎えに来ますね」
「あら~本当に?どうしましょう!楽しみだわ~。今夜は眠れないかも!白様も一緒に行きますよね?」
「そうだね。穂香さん、二人で行っても迷惑じゃないかな?」
「迷惑だなんて、そんなことありません。ぜひお二人でいらしてください」
「穂香ちゃん、お迎え待っているわね!」
茜様は本当に楽しみで仕方がないのだろう。白様に「明日の着物は今夜中に決めておいてね」「わたしは何を着ようかしら」なんて話している。
片付けを終え、青王様と一緒に離れを出てカカオの森へ向かった。
お手伝いの妖たちにも約束通りパフェを振る舞うと、みんな「これがカカオ!?」と驚き「おいしい!」と言ってくれた。
みんなと別れ青王様と二人になると、
「穂香、今日はありがとう。二人ともずっと空良のことを悔やんでいたから、あんなにうれしそうな笑顔を見られてホッとしたよ」
「はい。喜んでいただけて私も安心しました。人間の私を受け入れてもらえるのか、実はとても不安だったんです」
「空良のときも自分は半妖だから、と言っていたね。でも父も母も差別なんてしなかっただろう。そんなことを気にするような性格じゃないから、なにも心配する必要はないよ」
「そうですね。明日はもっと喜んでいただけるよう、気合いを入れてお菓子を作りますね」
青王様は「ありがとう」と頭をなでてくれた。いつも以上に優しくゆっくりと...
今はこの手の感触が心地良いしとても安心できる。
「シャーベットとアイスはこのクーラーボックスに入れておきました。フルーツはこっちです」
「準備してくれてありがとう。懐中時計を使うときにクーラーボックスに触れていれば一緒に移動できるから」
「わかりました。では行きますね」
私たちは王城の厨房に直接移動した。
シャーベットとアイスを冷凍庫に入れ、まずは白王様と王妃様にご挨拶をするために、青王様と一緒に泉のそばの離れへ向かう。
「この泉、懐かしいです。よくここで、白龍の姿になった青王様と一緒に水浴びをしていましたね」
「そうだね。またあの頃のように水浴びするかい?」
「えっ...いえ、それはちょっと...あっ、離れは新しくなっていますね」
「わたしが王位を継承した後に父と母がゆっくり過ごせるよう建て直したんだ」
あの頃は二階建ての小さな木造の建物だったけれど、今はレンガ造りのゆったりした広さの平屋で、隣に物置に使うであろう、やはりレンガ造りの蔵が建っている。
「そろそろ行こうか。わたしが穂香と出会い京陽へ連れてきた経緯は話してある。二人とも穂香に会うのを楽しみに待っているよ」
「ちゃんと、攫ってきた、って言いましたか?」
「攫ったつもりはないけれど、穂香がそう思っているのなら申し訳なかった...」
「まぁ、あの時はいきなり連れてこられて、驚いたし困惑しましたけど...それより、なんだか緊張してきました」
「大丈夫だよ。二人とも、特に母はビックリするぐらいあの頃と変わらないから」
離れに入るなり、誰かがドドドッとすごい勢いで走ってきた。
「穂香ちゃん!待っていたのよ~」
ビックリしたぁ...王妃様、本当に変わってない...
「母上...穂香が驚いているよ」
「だって~、やっと会えたのよ。もう嬉しくて嬉しくて!」
「あ、あの、初めまして。空良さんの生まれ変わりの穂香です!」
緊張と驚きで変な挨拶をしてしまった...
「父上はいないのか?」
「なんかね、穂香さんに会うのにどの着物を着ればいいだろう、って悩んでいたわ」
青王様は、はぁ、とため息をついて「呼んでくる」と言って行ってしまった。
「穂香ちゃん、とにかく入って。話したいことがい~っぱいあるのよ」
「はい。お邪魔します」
王妃様と一緒にリビングへ入ると、青王様と白王様がソファーに座って待っていた。
「穂香さん、よく来てくれたね。空良妃はこんなにかわいらしいお嬢さんに生まれ変わったのか...よかった。本当によかった」
白王様は目を真っ赤にして今にも泣き出しそうな顔をしている。
「そうね。あんなことになってしまって...私たちは空良妃を守ってあげることができなかった。本当に申し訳なくて、せめて早く生まれ変わって幸せに暮らしていてくれたらと願っていたのよ」
空良は、遥に「人間の世界へ連れて行け」と迫られ、頑なに拒否をすると「俺の言うことが聞けないヤツはここから消えろ!」と、崖から谷底へ突き落とされてしまったのだ。きっと空良の体は今もその谷底に眠っているだろう。
「母上、せっかく穂香が来てくれたのだから、明るく楽しい話をしよう」
「そうね、ごめんなさい。穂香ちゃんは今、瑠璃と一緒にお菓子のお店をやっているのよね。そこではどんなお菓子を作っているの?」
私はラッピングをしておいたボンボンショコラを差し出しながら、
「私はショコラティエと言って、チョコレートを作るお仕事をしています。今日はボンボンショコラという、中にジャムなどが入っているチョコレートを持ってきました。お店の定番商品です。ぜひ召し上がってみてください」
「あら?これは青王がたまに持ってきてくれたものと同じね。もしかして、あれも穂香さんが作ったものだったの?」
「あれは穂香を見つけた店で、穂香が作っていたものを買ってきたんだ」
「えぇ~、穂香ちゃんが作っているって、どうしてもっと早く教えてくれなかったのよ~」
と青王様に文句を言い、すぐに四角い形でキャラメルソースが入ったボンボンショコラを持って、これが一番好きだと白王様と話し始めた。
青王様もこれが一番好きで、今も自ら買いに来ることがある。さすが親子、好みが似ているのね。
「あら?これ、いつものよりおいしい気がするわ。何が違うのかしら...」
「本当だね。まわりのチョコレートが違うのかな...」
「このチョコレートはカカオの森のカカオで作りました。私も驚いたのですが、京陽のカカオは人間の世界にある希少価値が高いカカオにとてもよく似た味で、本当においしいんです」
「あのカカオがこんなにおいしかったなんて...」
と、お二人とも驚き、「今までもったいないことをしていたね」と言いあっている。
「それと、お店で出しているものではありませんが、今日は白王様と王妃様に召し上がっていただこうと思い、もう一つおやつを用意してきました。すぐに厨房から持ってきますね」
「あらっ!楽しみだわ~。あっ、私たちのことは名前で呼んでね。もう王でも王妃でもないんだから」
「は、はいわかりました。白様、茜様、少々お待ちください」
青王様と二人で、急いで厨房へ向かった。
「今日はカカオパルプシャーベットを一番のメインにしたいので、ナタデココなしにしました。青王様も一緒に盛り付けしていただけますか?」
「わかった。わたしは穂香と自分のぶんを盛り付けるから、穂香は父と母と瑠璃のぶんを頼むよ」
「はい。あっ、青王様のぶんはシャーベット多めにしていいですよ」
青王様は、いたずらがバレた子どものような顔で耳を真っ赤にしている。
やっぱり初めからそのつもりだったんだ...こういうちょっと子どもっぽいところ、あの頃と変わらないなぁ。
青王様が一足先に盛り付けを終えたので、瑠璃を呼びに行ってもらうことにした。
その間に私も盛り付けを終わらせ、リビングへパフェを運び紅茶を淹れ、ちょうど準備が整ったところへ青王様と瑠璃がやってきた。
「うわぁ、なんですかこれ。おいしそ~!」
「ふふ、瑠璃ちゃん元気そう。明日は開店できそうね」
「はい!」
「白様、茜様、お待たせいたしました。これはカカオパルプシャーベットのパフェです。カカオパルプとは、カカオポットの中の果肉です。どうぞ召し上がってみてください」
「これもあのカカオ?早くいただきましょう!」
「では穂香さん、いただくよ」
「「「いただきます!」」」
白様たちが一斉に食べ始め、みんなの笑顔を見たところで青王様が、
「穂香、わたしたちもいただこうか」
「はい、いただきます」
みんなあっという間に食べ終え、紅茶を飲んで落ち着くと、
「あの硬い実の中にこんなにおいしいものが入ってたなんて!穂香ちゃんはすごいわぁ!ねぇ、ほかにはどんなものを作るの?まだ見たこともないようなものがいっぱいありそうね。あっ、お店にも行ってみたいわ。ねぇ青王、今度連れて行ってくれない?」
茜様は相変わらず明るくテンションが高くて、一度にいろいろな話題を投げかけてくる。その性格は、半妖であることに劣等感を抱いていた空良の心を、暖かく優しく包み込んでくれていたのだ。
「母上...ちょっと落ち着いてくれ。穂香、母上を Lupinus へ連れて行ってくれないかな?」
「もちろん大丈夫ですよ。商品が揃っている開店前の時間がいいと思います。明日、準備ができたらお迎えに来ますね」
「あら~本当に?どうしましょう!楽しみだわ~。今夜は眠れないかも!白様も一緒に行きますよね?」
「そうだね。穂香さん、二人で行っても迷惑じゃないかな?」
「迷惑だなんて、そんなことありません。ぜひお二人でいらしてください」
「穂香ちゃん、お迎え待っているわね!」
茜様は本当に楽しみで仕方がないのだろう。白様に「明日の着物は今夜中に決めておいてね」「わたしは何を着ようかしら」なんて話している。
片付けを終え、青王様と一緒に離れを出てカカオの森へ向かった。
お手伝いの妖たちにも約束通りパフェを振る舞うと、みんな「これがカカオ!?」と驚き「おいしい!」と言ってくれた。
みんなと別れ青王様と二人になると、
「穂香、今日はありがとう。二人ともずっと空良のことを悔やんでいたから、あんなにうれしそうな笑顔を見られてホッとしたよ」
「はい。喜んでいただけて私も安心しました。人間の私を受け入れてもらえるのか、実はとても不安だったんです」
「空良のときも自分は半妖だから、と言っていたね。でも父も母も差別なんてしなかっただろう。そんなことを気にするような性格じゃないから、なにも心配する必要はないよ」
「そうですね。明日はもっと喜んでいただけるよう、気合いを入れてお菓子を作りますね」
青王様は「ありがとう」と頭をなでてくれた。いつも以上に優しくゆっくりと...
今はこの手の感触が心地良いしとても安心できる。