次の日も私は学校に行った。
 その日は授業参観だった。
 でも、お母さんの姿は見えなかった。
 もう慣れた。昔からだ。
 お母さんが私の学校行事に来たことはない。
 なんか理由はあるらしいが、なんでなのかは分からない。
 でも、家に帰ったらお母さんは居る。
 だから大丈夫なはずだった。

 こんなことになるまでは……

 最初はなんてことない会話だった。
「お前ん家のかーちゃんは来ないの?」
 あるクラスメイトが言った。
「うん。仕事が忙しいみたいだから。」
 ここまではいつも通り。
 でも、彼はこう続けた。
「お前、かーちゃんから愛されてないんだな。俺のかーちゃんもいつも仕事忙しいけど、今日は頑張って休み取ってきてくれたんだぜ! なんでかって聞いたら、俺の事大事な息子で愛してるからだってよ!」
「そんな事ない。お母さん私の事愛してくれてる。いつも美味しいご飯作ってくれるし!」
 お店のことは言ってない。だからたぶん大丈夫。
「ちなみにうち、ご飯屋やってるんだよ! かーちゃんのご飯はこの街でいちばん美味しいって評判なんだ! お前ん家のご飯より美味しいに決まってるさ!」
「いや、うちのお母さんの方が美味しいご飯作る。これだけは譲れない。」
「じゃあ勝負しようぜ! 明日、お弁当の日だろ? 親に唐揚げを作ってもらって、1個交換しようぜ?」
 許せなかった。お母さんのご飯をそんな言うやつは初めてだった。隠してきたけど、私の唯一誇れるものを侮辱された気分だった。
 だからだろう、私はついこんな返事をしてしまった。
「いいよ。受けて立つ。」
「じゃあ明日、楽しみにしてるぞ! 親の愛が試されるな」


 その夜、私はお母さんに明日のお弁当唐揚げがいいっておねだりした。
 正直、お弁当の中身をリクエストしたのは初めてだった。
 お母さんは少し不思議がってたけど、お肉の余りもあったからか、すぐに了承してくれた。



 次の日の朝、やっぱりいつも通りお母さんはこう言った。
「彩花。約束覚えてる? 何があっても彩花のお弁当誰にもあげたらダメだからね」
 私は今日。唐揚げをひとつあげる約束をしている。ここで頷いたら、お母さんに嘘をつくことになる。大好きなお母さんを裏切りたくない。だけど、その大好きなお母さんを侮辱する人が許せなかった。お母さんのご飯の美味しさを教えなきゃいけないと思った。
だから私は、
「うん」
 初めて嘘をついてしまった。
 そしてお母さんに抱きついた。
 いつもこんなことしないからだろうか、お母さんは驚いた顔をしていた。
「お母さん大好き。行ってきます」
「お母さんも彩花のこと大好きよ。愛してるわ。いってらっしゃい」
 そう言ってくれた。
 愛してるって言われた時、不覚にも少し泣きそうになってしまった。
 それからすぐ私は学校な向かった。


 学校に着くと、昨日の悠介はもう学校に来ていて、私の所まで来た。
「ちゃんと唐揚げ作ってもらってきたか?」
 会って、1言目がその言葉か……
 なんとも言えない気持ちが蠢いた。
「当たり前よ! お母さんは私の事愛してるんだから。」
 つい強気になったのもそのせいだろうか。
「じゃ、昼に楽しみにしてるぞ」
 そう言って、私の答える間もなく、彼は私の席のとこから去っていった。

 お母さんの愛を証明出来る。
 そう思ってたからだろうか。
 いつもの何倍もお昼までの時間が長く感じた。
 そしてやっと、お昼の時間がやってきた。

キーンコーンカーンコーン…

授業終了のチャイムが鳴ると、すぐに悠介が自分のお弁当をもって、やってきた。
「おい、唐揚げ交換だ!」
「わかってるし!」
そう言って、机の横にかけてあったお弁当を取り出し、机の上に広げた。
「どうぞ…」
私がお弁当を差し出すと、悠介は箸で唐揚げをひとつつまみ、自分のお弁当の蓋の上に乗っけた。
私も悠介の唐揚げをひとつ取り出し、同じように蓋の上に乗せた。
「ふーん、思ったより美味しそうじゃないか。」
思ったよりじゃなくて!美味しいのっ!!!
「「いただきます」」
2人分の挨拶が響く。
私たちはお互いのお母さんの唐揚げを食べた。
彼のお母さんの唐揚げは美味しかった。
もちろん、私のお母さんのほどでは無いが、
それは彼も同じことを考えていたようで、
「美味いじゃないが、もちろん俺のかーちゃんの程ではないがなっ」
って言っていた。
「それはこっちもよ、やっぱりお母さんのがいちばん美味しいでも、悠介くんのお母さんのも美味しい。」
会話はそれだけだった。
それからは2人とも黙々と自分のお弁当を食べた。
しかし、異変はすぐに起こった。
2人はほぼ同時に食べ終わった。
「ごちそうさまでした。」
ちゃんと挨拶をした。
そして悠介くんは席に戻るため立ち上がった。
その時、
バタンッ、、
倒れた…
私はびっくりして動けなかった。
周りは、突然のことにざわついていた。
悠介くんは苦しみながらこっちを向いた。
私と、目があった。
その目は、私を睨んでいた。生まれて初めてだったこんな目を向けられたのは…
私は目が離せなかった。
彼が突然話し出した。
「…な、にを、入れた…?俺が…こうなるように…唐揚げに…なんか入れたの、、だろう……?」
「何も入れてない。」
これは本当だった。
訳が分からない。
私も同じ唐揚げを食べた。
なんで私はなんもないの?悠介くんだけ?
誰かが呼んだんだろう。先生が来た。
悠介くんを連れて行った。
「何があったの?」
先生は私にそう聞いた。
私は答えなかった。その代わり、走り出した。家に向かって…
なんでかは分からない。でもお母さんの所に行かなきゃいけない気がした。
背後で先生がびっくりして固まってるのが見えた。でもお構い無しに私は走った。

しばらくすると、家が見えてきた。
家までこんなに早くついたのは、初めてだった。
そのくらい1度も止まらず走り続けた。
ガラガラッ
扉を高速で開ける。
急いで中に入った。中は静かだった。
「お母さんっ!お母さんっ!どこいるの?」
キョロキョロしながら奥に入っていくと、厨房で倒れているお母さんが見えた。
「お母さん?!どうしたの?!」
「彩花…、なんでここにいるの…?」
声にいつものハリがない…
弱々しかった。
「あの…ね、お母さんの唐揚げをクラスの子に一つだけあげちゃったの…、そしたらその子が倒れちゃって…、わけわかんなくなって、とりあえずお母さんのとこに行かなくちゃって思って…」
「そっか…やっぱりそうだったのね…」
お母さんのこんなにも悲しそうな顔は初めて見た。
その時、なぜかは分からないけど、自分が大きなことをやらかしてしまったことに気がついた。
「ごめんなさい…約束破って…」
「いいのよ彩花…お母さん彩花のこと…許すわ、、お母さんこそごめんね…これから彩花を1人にしてしまうこと……許して…」
お母さんは泣いていた。
初めて見る涙だった。
「え、、お母さん…?行かないで…置いてかないでよ…」
「ごめんね…今度、扇子の…おじちゃんか、夕子さんが…来たら、、これを…見せなさい。」
お母さんは私に紫の宝石みたいなのが付いたネックレスを渡してきた。
それはぼんやり光ってて、お母さんのオーラを抜き出してきたみたいだった。
「わかった…」
「こっち来て…」
お母さんは私の方に手を伸ばした。
私はお母さんの隣に横になり、抱きついた。
お母さんは耳元で囁いた。
「大好きだよ…彩花、愛してる…」
「お母さん、私も愛してる」
私の返事を聞くと満足したのかにっこり笑って、眠りについた。
「お母さん…?」
もう、目を覚まさなかった。
いつまでこうしていただろう。
気づいた時、お母さんの体が薄くなっていた。消えかかっていたのだ。
「やだ…どうしよう…」
そう思っていてもどうしようもなかった。



しばらくすると、富久さん…扇子のおじちゃんが来た。
真っ暗な店内を見て、何かを察していたらしい。私の様子を見てもあまり驚いていなかった。何かを知っているのだろう。
聞かなくては…私はそう思った。
「扇子のおじちゃん…これは、どういうこと…?」
「混乱してるのはよくわかる。でもまずは、何があったか話してごらん。」
「うん…」
私はこれまでのことを話した。
授業参観のところから全部。
話すことに気は進まなかったけど、話さなきゃいけない…そう感じた。
扇子のおじちゃんは私の話を静かに聞いていた。
話終わると何も言わずにこっちに来て、頭を撫でてくれた。
そして、
「辛かったな…、よく耐えたね…全部教える時がきたみたいだね…わしの話、聞いてくれるかい?」
「うん。」
それを合図に扇子のおじちゃんは話し出した。
まず、私たちが何者なのかを…
わかってるだろうけど、人間ではなかった。分かりやすく言うと、神様らしい…
そして神様は人間が住んでる世界に行けないんだと…だから、お母さんは学校行事に何も参観出来なかった。
「じゃあ、私は…?」
「彩花ちゃんはまだ神の力が目覚める前だから大丈夫だったんじゃよ」
そっか、そういう事か…
そしてなんで食べさせてあげれなかったかと言うと、神の力がかかった食べ物は人間にとって負荷がかかりすぎるかららしい…
だから神は絶対に人間に食べさせてはいけなかった。これは決まりらしい。しかし今回破ってしまった。だから、お母さんはその代償として消えてしまった。
一見、はちゃめちゃな話だが素直に受け入れてしまうあたり、私は神の子なんだと納得してしまう。
ガラガラガラッッ
カッカッカッ、、
高いヒールの足音が響く。
「ちょっとっ!どういうことなの!彩花説明しなさい!」
夕子さんだった。
怒っている…だけどそれ以上に泣くのを我慢している歪んた顔だった…
「ごめんなさい…」
どのくらいの間だったろう
その間夕子さんは私をずっと睨んでいた
怖かった…
夕日のような瞳が真っ赤に燃えていて、恐ろしく、こんなにもこの人に恐怖を感じたのは初めてだった…
だけど私は夕子さんから目が離せなかった…
それはきっと、夕子さんが本気でお母さんのことを思っていたからこそできる目であったからだ。お母さんは愛されていたんだ。
続いていた沈黙を破ったのは夕子さんだった。
「もう、いいわよ。わかってるわよ何があったかなんて…彩子はもういないんでしょ…?」
「うん…」
「うっ、ぅっ…」
夕子さんは、泣き出してしまった。
「繋ぎ屋」に再び沈黙が訪れた…
今度の沈黙を破ったのは、扇子のおじちゃんだった。
「夕子さん。悲しいのはわかる。涙が出るのもわかる。だけど、私たちにはやらなきゃいけないことがある。そうだろう?」
それを聞いてからも、しばらく俯いて黙っていたがゆっくり顔を上げたかと思うと話し出した。
「許す。もう泣かない。だからひとつだけ約束してくれ。繋ぎ屋を継ぐんだ。」
「え、?私がお母さんの店を継ぐの…?」
でも私には、料理のことが何も分からない。
レシピも何もかも
「そのペンダント。それを持っているということは、あなたはこの店の後継者であるという何よりの証拠だ。」
これが…?
「そうだ。それは、代々店主が持ってるもの。」
「でもっ、お母さんがペンダントつけてる姿なんて見たことない!」
「そりゃそうだろう。このペンダントはこの店の店主になるって決意したその時に見えなくなり、店主じゃなくなるその時に現れるんだから。」
訳が分からない。消える?そんなこと…
「ちなみにそのペンダントをつけてるものにはレシピという記憶が与えられるらしい。その記憶を上手く使いこなして、料理が作れるかは才能と努力によるらしいけど、その辺の心配はいらない。」
怖い。お母さんが大事にしてきたこのお店を私が台無しにしてしまうんじゃないか…
そう思ったら継ぐなんで簡単に言えない。
「私にできるかわかんない…」
つい、そう言ってしまった。
「できるかわかんない…?そんなこと言うんか?!彩子はお前に託したんだよこの店を!なんでするって即決できない?!彩子の店を壊したのはお前だ、彩花!そして、この店を守れるのもお前だけだ。悲しいのはわかる。みんな同じだ。だけど、決めるんだ。中途半端なことだけはしないでくれ…」
また明日来る。
そう言って夕子さんは帰って行った。
扇子のおじちゃんもよく考えてみるようにって、それだけ言って帰って行った。
私はまた1人になった…
 真っ暗な店内。
 紫の光をボワッと放つお母さんのペンダントだけが輝いていた。
「お母さん、お母さん、お母さん……」
 何度呼んだって、返事は無い
 当たり前だけど、自分のせいだけど、心が追いつかない。
 これまでお母さんが私に呼ばれて返事してくれなかったことは無かった。
 確かに、運動会とか授業参観とかお母さんは来なかった。寂しかった。
 でも違う、来なかったのではなくて、来れなかったんだ。
 勉強も教えてくれて、遊んでくれて、私の話を聞いてくれた。
 優しくて、綺麗で、でも笑った顔は可愛くて、仕事もできて、ご飯は美味しくて、お客さんにも愛される……
 完璧なお母さんだった。
 なんで私はあんなことしたんだろう。
 大好きなお母さんの約束を破った。
 私もいつかお母さんの所へ行った時、どうやったら胸張っていられるだろう。
 私はいつの間にか床に落ちていたペンダントを拾い上げた。
 そしてそれをぎゅっと握る。
 最初からわかっているはずだ。
 わたしにできることは……
「このお店を継ぐこと……」
 だよね……?お母さん。
 今日は「繋ぎ屋」は休みってことにしてある。
 だけど、今日も明日からもこのお店を楽しみに来てくれる人がいる。
 すぐには無理かもしれない。
 だけど、出来るだけ早く店を開けれるようにならなくてはいけない。
 「繋ぎ屋」のご飯を待ってる人がいる。
 お母さんが大切にしていたお客さんを今度は私が大切にしなきゃいけない。
 覚悟を決めなきゃいけない。
 私はペンダントを自分の首にかけた。
 でも、その前に私は行かなきゃいけない。彼のところに……
 私は、走り出した。
 開成堂病院に向かって…
 学校から1番近いとこ。
 そこにいるはずだ。
 悠介くんごめんね…
 巻き込んで、苦しい思いさせて、
 今、どうしてるかな…
 もう症状が治まってたらいいけど、どうなんだろう。
 早く向かわなければ……
「はぁ…はぁはぁ……」
 どれくらい走っただろう。
 着いた…
 私の目の前には真っ白な建物が立ち塞がっていた。
 白いながらモダンなデザイン。最新の医療機器を揃えているこの街1番の大きな病院。
 友達のお見舞いとかに来た記憶がある。
 ロビーみたいなところを抜け、エレベーターの前に立つ。
 どこにいるんだろう…
 私の目に小児科という文字が写った。
 きっと、そこだ。
 なんとなく分かった。
 これも神様の感というやつだろうか…?
 いや、きっとこれは違う。
 私が悠介くんの友達だからだ。
 そうに違いない。
 上矢印のボタンを押しドアが開くのを待つ。
 チャランッ…
 なんか独特な音とともにエレベーターの扉が開いた。
 中に入って、三階のボタンを押す。
 チャランッ…
 またあのチャイムが鳴ったと思うと直ぐにドアが開いた。
 エレベーターを出るとすぐ横にはナースステーションがあった。
 そこには三人の看護師さんがいて、私は一番若くて優しそうな女の人に声をかけた。
「あの、悠介くんのお見舞いに来たんですけど、お部屋はどこですか?」
「あら、悠介くんのお友達?一人?」
 そっか、私の年齢じゃ一人で来るのおかしいのか…
「えっと…お母さん今日帰ってくるの遅い日で、まだいないから一人できちゃったんです」
「そっかそっか、お母さん何時に帰ってくるの?」
「七時前くらい」
「答えてくれてありがとね。悠介くんのとこ行こっか」
「はい!」
 看護師さんはナースステーションから出てきてこっちだよと手招きしながら歩きだした。
 悠介くんの病室はすぐそこだった。
 立ち去る前、看護師さんは悠介君はだいぶ回復してるみたいだから安心してねって言ってた。
 それを聞いた私は思った以上に自分が心配して緊張していたことが分かった。
 トントントン…
 三回ドアをノックする
 はーいっていう悠介くんの声が聞こえてきた。
 よかった…
 思ったより元気そう
 私はカラカラなる引き戸を引いて中に入った。
「失礼します」
 中に入るとベッドに座っている悠介くんと目が合った。
「彩花ちゃん……? 来てくれたの?」
「うん」
「ありがとう」
 そういって悠介くんはにっこり笑った。
 やっぱりいい子だったな……
 謝らなきゃ……
 でも、なんであんなこと言ったんだろう?
「悠介くん、ごめんね。苦しかったでしょう?何か入れたとかそういうわけじゃないんだけど、私が全部悪かった」
「いいよ、僕もあんなこと言ってごめん。なんでかって言われたら答えるのすごく恥ずかしいんだけど、彩花ちゃんのことが好きだったんだ。もっと知りたかった。いつもお弁当おいしそうだなって思ってた。食べてみたいと思ったんだ。あんなやり方してごめん。これでも結構反省してる」
 びっくりだった。
 悠介くんがこんなこと考えていたなんて……
「そうだったの。話してくれてありがとう。そんなこと考えてたなんて全然わからなかった。でも、今の私は悠介くんの気持ちには答えられない。ごめん」
「そうだよね。彩花ちゃんに振られることなんてわかってたよ」
 ちがう……そうじゃなくて、
「ちがうの、」
「ちがうの?」
「私はもう悠介くんに会えない。悠介くんだけじゃなくて、誰にも会えない。お母さんの店を継ぐの。この世界の人じゃなくなる」
「え…?」
 そう言ってる間にも私の体は消えかかっていた。
 もう時間はないらしい。
「悠介くん。ありがとう。私も好きだよ、悠介くんのこと。いつの間にか好きになってたみたい。お母さんの跡を継ぐって心に決めたはずなのに……いま、自分が消えるのがこんなにも辛い。でもね、どうしようもないの。だから、もし、いつか悠介くんがあっちの世界の人に生まれたときは「繋ぎ屋」にいらっしゃい。その時は、きっと一番美味しい唐揚げを食べさせてあげる」
 頬に冷たい感覚が流れた。
 悠介くんも泣いていた。
「絶対行く。だから、待ってろ。そのお店で、約束だ」
「うん!ありがとう。約束する。じゃあまたね」
「うん。また」
 そこで私の記憶は途切れた。



 気が付いたら、店に戻ってきていた。
 周りを見渡すと見たことのないドアがあった。
 恐る恐る近づいて見ても特に変わった様子はない。
 私は、開けてみることにした。
 ぎぃ…
 ドアはきしむ音を響かせて開いた。
 ドアの先には、まるでお祭りのような光景が広がっていた。
 なにか違うのは、見た目…
 絵本とかでよくある神様や妖怪みたいな人ばかり。
「ここは…?」
「そここそがあんたの本来生きるべき世界。幽世よ」
 突如、背後から声がした。
「夕子さん!来てくれたんですね!」
「当り前よ、彩子から頼まれてたんだから!それより、覚悟決めたみたいね。」
「はい!」
「よしっ!じゃあ、今日から特訓よ!早く、店を開けなきゃ!」
「はいっ!お願いします!」
「おっ、いいとこみたいじゃの~」
 ゆっくりした足取りとともに富久さんが現れた。
「あ、扇子のおじちゃん!」
「彩花ちゃんの料理が食べられるのが楽しみじゃの」
「任せて!夕子さんと扇子のおじちゃんには、一番にごちそうする!」
 こうして、「繋ぎ屋」の店主としての新たな人生が始まった。



 そして時は過ぎ、
 彩花は一人前の店主になっていた。
「繋ぎ屋」は毎日大繁盛。
 今日の繋ぎ屋定食は唐揚げ。
「繋ぎ屋」いちばんのメニュー…
 きっと今日は大忙し。
 いつもより多めに下ごしらえを終わらせて、
 今日もお客さんが来たみたいだ。
 さあ、「繋ぎ屋」の開店だ!
「いらっしゃいませー!」
 今日も彩花の声が響いている。
 カラカラカラ…
 お客さんが来たみたいだ。
「いらっしゃいませー!」
「こんばんは」
 見たことない人だ。でも、どこかで…
「初めてですか?」
「はい。」
「そうですか。なんかどこかで会ったことある気がして…すいません思い違いだったみたいです」
「いや、多分あってると思いますよ。僕には前世の記憶があるんです。その記憶である彩花という女の子が繋ぎ屋に唐揚げを食べに来てって言ってたんです。だから、来ました。」
 え……悠介くん…?
「悠介くん…?」
「はい!」
「ほんとに…?」
「約束を守りに来た。今度はもう離さない。失いたくない。だから、僕と付き合ってください。」
「はい!」
 そしてしばらくして二人は結婚した。
 二人で続けることになった「繋ぎ屋」はこれまで以上に賑わっていた。
「繋ぎ屋」のご飯は途絶えることなく繋がれていった…

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