「いいえ、滅相もございませんわ。先日、皇后さまが崩御(ほうぎょ)なさり、主上は大変心を痛めておられます。主上は亡き皇后さまの葬儀と共に、殉葬(じゅんそう)する者を選んでおられるのです。候補者が誰かご存じでございますか?」

美凰は貴妃の怒気をさらりとかわし、淡々と話を進めて行く。

「誰であろうと、私には関係ないことです」

吐き捨てる碽貴妃に向かって緩く首を振る。

「確かに貴妃さま自身には関係ないのでございますが、全くの無関係かと言われれば、そうではありません」

怪訝そうな顔を振り仰ぎ、言葉を発する。
碽貴妃、燕王は唖然とした表情で固まり、他の者たちは二人の様子を(うかが)いながら口を閉ざしている。

「嘘……嘘だわ……」

「偶然、主上が話しているところを聞いてしまったので、間違いないかと……」

「噓よ!私の公主(こうしゅ)が……盈容(えいよう)が、殉葬だなんてありえないわ!」

そう言うなり、茶杯を床に投げつける。茶杯は床に叩きつけられたのと同時に粉々に砕け散った。

「お静まりを。激しては身体に毒でございます」

「我が公主が殉葬されそうな時に、落ち着いていられるものですか!あの女、死んでもなお私を苦しめ続けるだなんて!」

盈容公主は碽貴妃の娘で、燕王の妹だ。身体の状態によって、最後の懐妊(かいにん)だろうと太医(たいい)に診断された碽貴妃が命懸けで産んだ子で、碽貴妃は盈容公主を掌中(しょうちゅう)(たま)として大事に育ててきた。

「ぐずぐずして居られないわ。盈容を早く逃がさなければ……!」

「それはなりません」