秀快は微笑を浮かべ、張氏が如意を受け取ろうと伸ばしている手をかわし、訪れた彼女の名を呼んだ。

「美凰」

美凰は応えるように微笑んだ。
それから、碽貴妃の御前まで行き、両手を左腰にあてて軽く膝を折る万福礼(まんぷくれい)をした。

「貴妃さまと燕王殿下に拝謁(はいえつ)いたします」

「楽になさい」

「感謝いたします、貴妃さま」

碽貴妃が声をかけてはじめて、美凰は万福礼の姿勢をとく。
宮中の規則では、上位の者が許可を出すまで敬礼し続けなければならないのだ。

「徐氏、なぜ来たのかしら?今日は燕王の秀女選抜ですよ。昭儀の位の妃しか輩出(はいしゅつ)することができない徐家の娘が、この場にいるなど身分不相応ではなくて?」

徐家は明の建国を共にしてきた家柄で名家なのだが、どうやら叔母の地位の低さで(おとし)めるつもりのようだ。

「母妃、私が……」

「お黙り!私は徐氏に問うているのよ」

嫌悪感を隠そうともしない様子に、まともに話しては無駄だと悟る。
ならば、攻めるしかない。

「確かに本来ならば、私が居て良いような場所ではありません。しかし、今回、私が参りましたのは貴妃さまのお命が懸かっておられるからです」

「あら、そんなことで私を脅すつもりかしら?」