―――高校1年、春。
真新しい制服に身を包み、知らない顔ばかりが揃う教室。
窓から覗く外の景色には散りそびれた桜がチラホラと映る。空は雲ひとつない快晴だというのに、私の心はどんよりと曇っていた。
「えー。投票の結果、学級委員は浅野《あさの》に決まった」
上下ジャージというラフな格好で教卓の前に立つ担任は、さらりとした口調で信じられない事実を告げた。
つい数分前、その担任は学級委員を決めると言い出し、立候補する者はいないかと尋ねた。誰も手を挙げなかったので投票制にしようということになったのだけれど、まさか自分がなるだなんて、この時は思いもしていなかった。
黒板には“浅野 羽菜”という自分の名前の下に“正”が3つ記されている。つまり15票。2位の人とは10票も差がついていて、私の圧勝だ。
どうしてこんなにも自分に票が入ったのか分からない。
周りに知り合いがいなく、話す人もいないから昼休みはいつも本ばかり読んでいた。それが原因だろうか。
そんなことを考えたところでもうこの状況は覆せない。静かに腹を括ろうとする私に、担任は追い打ちをかけるような言葉を続けた。
「じゃあ他の委員はお前らで話し合って決めてくれ。書記は…そうだな、中林《なかばやし》、頼む。司会は浅野がするように」
「え、」
思わず困惑した声を零してしまった私の事なんて見えていないように、担任は「頼んだぞー」と他人任せな言葉だけを寄越す。そしてすぐさま教卓の横にある簡易的なデスクに腰を下ろして、何やら資料を広げていた。
(最悪……。)
人前に立つなんて、一番苦手なことなのに。
なかなか席から立てずにいると「あの……」控えめな声が後ろから響いた。振り返ると、そこには三つ編みに眼鏡という、なんとも真面目を描いたような女の子がいた。
「中林《なかばやし》です」
「えと…浅野です」
「書記しろって言われたから、私が黒板に書いていくね」
「あ、うん……よろしく」
スタスタと歩いて教卓の方へと向かう彼女の背中を見つめては小さく溜め息を吐き出す。重くて仕方ない腰を上げ、私も彼女の後に続いた。