朧杜。私が創った世界は今日も美しい。創った世界は酷く静かで、居心地がいい。私、あやめは俗に言う鬼だ。妖の中でもトップの力を持ち、忌み嫌われている。この『緋色の瞳』は忌の象徴だ。私たちが何もしなくても、人は私たちのせいにする。そういうことが嫌で、私は有り余る力でこの世界を創った。ここでの出来事は、全て幻となる。だから、安心していられる。
人は酷く身勝手だと、この杜に案内した人を見て思う。無責任に『何とかなる』だとか『人は痛みの数だけ強くなれる』だとか言う人間があまりにも多くて。それを信じて自分が崩れたとしてもそれらを言った人たちは知らんふり。見ないふり。だから自ら命を絶つ人が減らない。ここに来た人たちは大抵『応え』を望んでいる。『生きていていいのか』『消えるべき存在なのか』『自分が悪いのか』『集団になじめないことはおかしなことなのか』『死にたいと思ってはいけないのか』そんな他人にはできないような問いかけを自分に投げつけている。応えのない問いかけを、精神を削るだけの問いかけをして自分を無意識のうちに追い詰める。一種の自傷行為のように。自分は追い詰めていることに気付いていないから、物理的な自傷行為よりもたちが悪い。そうやって、死に神が生まれる。本人が気付かない希死念慮が、死に神を生むのだ。