私、癒喜はあまり自分の事が好きではない。今年から高校へ入学して、話しかけてもらったことは何度かある。それでも、しばらく関わった後、ある日突然無視をされはじめて終わる。何度かあったため、周りではなく私がおかしいことはなんとなく理解している。それでも、どこが気に入らないのか、嫌われてしまうのかがわからないのだ。
「じゃあ、この問題を…甘露。」
やる気のない教師が、私の名を呼んだ。
「すいません。わかりません。」
私は、勉強が好きではない。素直に言ったのに、教師はため息を吐いて別の人を指名した。周りからは、クスクスと嘲笑が聞こえる。どうして。そんなことももう思わなくなってしまった。何もいらない。何も感じたくない。授業終了のチャイムが鳴り、終礼を終えて詰めていた息を吐いた。騒がしい話し声を防ぐように、両耳にイヤホンを突っ込んだ。爆音で流れる音楽に安心する。孤独と、自己嫌悪と、不安。…強くなりたい。孤独に耐えられる、独りでも生きていけるだけの強さが欲しい。独りは寂しい。けれど、それを感じることにも、もう疲れてしまった。気が付くと、踏切の前に立っていた。
『楽になりたいのなら、一歩踏み出したらいいよ。それで、君は救われる』
死に神が、私の心に囁きかける。酷く、甘美な響きを持つそれは、優しい毒のようだと頭の片隅で思った。
「逃げるの?」
澄んだ鈴の音と共に、女の人の声がした。耳からではなく、脳に直接語りかけているみたいだった。
「死にたいくらい辛いのならば、私の世界…朧杜へおいで。人の子、命を絶つ前に私の話を聞いておくれ。」
姿は見えない。けれど、体がふわりと浮く感覚がして、瞬きの間に踏切にいたはずが、美しい森の中にいた。