「大丈夫?」
 優しく聞いてくれたけど、喋る気力も残っていなかった私は、持っていたメモ帳にこう書いた。

 私だけが悪者にされて、一対一で一方的に責められた。
 このまま早退して、もう学校に来たくない。
 でも、逃げたくない。
 もう大丈夫。

 と。
 本当は心の中で誰かに助けを求めていたのかもしれない。
 涼晴くんに「一緒に逃げよう」と言ってほしかったのかもしれない。
 それでも、あの時逃げてしまった私にはこうする方法しか残っていなかった。
 逃げたくない。
 だけど。
 誰の目にも映らない場所へ。
 誰の声も聞こえない場所へ。
 分かってる、結局私はいつも逃げてるって。
 今は、今だけは、もう。
 耐えられない。
 「ちょっと、トイレ行ってくるね。」
 そう言って私は逃げた。
 私ができることはそれだけだった。