ベージュのニットにデニム、ゴールドのアクセサリーを纏った真野くん。いつもは制服だから、新鮮。真野くんって、おしゃれだな。
 そんな真野くんは、緊張していた。肩で息をするくらいに。何度も深呼吸をして呼吸を整えている。でも、なかなか手の震えは止まらない。
「真野くん、大丈夫だよ。落ち着いて」
「うん」
 真野くんは少しぎこちなく返事をした。
 部活のジャージ姿の三吉くんがやってきた。肩掛けカバンを持っている。クラスのムードメーカーのような、明るくてエネルギッシュな顔立ちの三吉くん。
 三吉くんは、私の方を見て首を傾げている。
「あ、遠藤喜子と申します。真野くんの付き添いです。どうぞお気になさらず」
「そうですか。尚也、ファミレスかなんかで話さない?」
「うん。ファミレス行こう」
 真野くんはどこか不安そうだ。声が震えている。
 気まずい雰囲気の中、駅の近くのファミレスへ歩いた。

「喉乾いたー。ドリンクバー頼もう。二人は?何か頼む?」
「私もドリンクバー」
 僕も、と隣に座った真野くんが言った。
 私もなぜだか緊張する。

 三吉くんはコーラを、真野くんはオレンジジュースを、私はアイスティーを、コップに氷と共に入れた。
 誰も何も喋らない。周りでは、たくさんの話し声が聞こえるのに、ここの席だけ静か。少し気まずいような沈黙。
 真野くんがこの沈黙を破った。
「塔矢、本当にごめん。あの時、塔矢と遠出を楽しんで調子乗ってあんなこと言った。今まですごく悔やんでた。塔矢に合わせる顔なんてないと思ってた」
 真野くんは申し訳なさそうな顔をしている。
「尚也、気にすんな。あのさ、俺、確かにあの時怒った。ショックだったから。でも、尚也が怒ってる俺のこと気にしてたの知ってる。だから、あんな不機嫌になってしまって本当に申し訳ないと思っている。それに、俺は尚也とまた笑いたい。尚也のたくさんの笑顔を、引き出したい」
 三吉くんは、真野くんに笑いかけた。

 私は、三吉くんのこと、そこまで知らない。だけど、三吉くんはすごく友達思いということはわかった。
「それに、俺が休んだ次の日から尚也、学校来なくなったじゃん?俺が休んだのは、尚也が嫌になったわけじゃなくて、ただの風邪。でも、連絡できなかったのは、俺もごめん」
「塔矢は僕のこと、嫌いになってない?」
 真野くんは、瞳に涙を溜めて三吉くんに問いかけた。
「嫌いなわけない。俺、尚也が一番大切な友達だから」
 真野くんはほっとしたように息を吐いた。

 真野くんも三吉くんも顔をいっぱい使って笑顔になった。私もつられて微笑んだ。
「尚也を連れてきてくれたのって、遠藤さん?」
「はい。真野くんは三吉くんのことすごく大切に思ってます。そうじゃなきゃ、悩まないし、相談しないです」
「遠藤さん、それは内緒にしてよ。なんか恥ずかしいじゃん」
 真野くんは、少しだけ頬を赤くして私に言った。
 
 三人は笑った。三吉くんは豪快に笑う。真野くんは顔にたくさん皺を作って笑う。彼らの笑顔をいつまでも見ていたい。
 彼らの友情は羨ましいくらいに輝いている。喧嘩するほど仲が良い。良すぎるくらいに。
「ごめん。今日この後部活だから、もう行くわ」
「頑張って」
 真野くんと私は声を揃えて、三吉くんに言った。
 三吉くんは、私たちに背中を向けて、手を振ってファミレスを後にした。

「遠藤さん、本当に今日はありがとう。おかげで塔矢と仲直りできた」
「私は付き添っただけだよ。でもよかった。楽しそうな真野くんが見られて」
 真野くんは、満足げな笑顔を見せた。
 私は、その笑顔を見て、嬉しくなった。