真野くんが言うには、友達とのちょっとしたすれ違いが原因だそうだ。

 真野くんの友達、三吉塔矢くん。
 真野くんは、三吉くんと中学の頃から仲が良かった。
 二人は、毎日一緒に電車に乗って登校し、休み時間になればどちらかの席に出向き、昼食の時間となれば二人で屋上でお弁当を食べる。
 部活の話、テストの話、学校内で有名になっている同級生の話、観たい映画の話など。二人が話す内容は尽きない。
 テスト前になれば、一緒に勉強する。部活の試合は、応援に行く。テストが終われば、二人で遠出する。

 三吉くんは、ノリがいい。三吉くんは、真野くんを笑わせるのが好きで、得意。三吉くんは、真野くんといる時が一番楽しくて、安心する。
 真野くんは、少し人見知り。三吉くんが真野くんのバリアを打ち破ってくれたらしい。真野くんは、三吉くんといる時が一番楽しくて、心が落ち着く。
 こんな、仲の良い、良すぎるくらいの二人がすれ違った理由は、真野くんのある一言だった。

 二人で遠出した時のこと。お土産屋にて。
「塔矢ー。これ塔矢に似てる」
 真野くんが、三吉くんに見せたのは、リアルな魚のぬいぐるみ。
「なんか授業中の塔矢みたい」
 真野くんは、一人で笑った。
 三吉くんは、嬉しくなかった。
「本当だ。俺にそっくり」
 三吉くんは、少しショックを受けていた。
 真野くんは、三吉くんの様子に目もくれず、魚のぬいぐるみに「塔矢ー」と声をかけていた。
「…………」
「塔矢?どうしたんだよー。ほら、お土産選ぼう」
「ああ。そうだな」
 三吉くんは、暗い顔をしていた。
 真野くんは、三吉くんを心配していた。いつも明るくて、いつも笑っている三吉くんだから。
 その日の帰り道も三吉くんが笑うことはなかった。
 真野くんは、三吉くんが笑わなくなった理由は、自分の発言にあると考えた。すぐにでも三吉くんに謝罪をしたかった。だが、顔を合わせての謝罪をした方が気持ちが伝わるだろうと思って、翌日、駅で謝ることにした。

 翌日、いつもの時間に三吉くんが駅に来なかった。
 真野くんは、一人で学校に行った。結局、三吉くんは、この日学校を欠席した。
 三吉くんにメッセージを送ったり、電話をしたりした。しかし、三吉くんからの返信、三吉くんが電話に出ることはなかった。
 真野くんは、もし三吉くんが明日学校に来ても、合わせる顔がないと次の日から学校に行かなくなった。

 そんな時期に、私は真野くんに出会ったのだ。真野くんは、誰にも相談せず、誰にも心配かけないように、毎朝制服を着て図書館で過ごしていた。
 あれから一ヶ月。真野くんは、未だ、あの時の自分の発言を悔やんでいる。あんなふざけ方しなければ、三吉くんは傷つかなかったのにと。
 真野くんは私と同様に心に棘が刺さっていて、苦しんでいると考えると、何もせずにはいられなかった。
「ねえ、真野くん。三吉くんに会ってみたら?」
「塔矢、僕になんて会いたくないかもしれない」
「とにかく、会って言いたいこと全部伝えた方がいいよ」
 真野くんは、そうだよねとスマホを取り出して、メッセージアプリを開いた。緊張で入力する指が震えているように見える。

「遠藤さん、塔矢と会う時、同席してもらっても良いかな?遠藤さんがいると、安心する。きっとどんな結果になっても大丈夫な気がする」
 胸が張り裂けそうなくらい嬉しかった。真野くんは、私を必要としてくれてる。勘違いかもしれないけど、涙が出そうなくらい嬉しかった。
「私が真野くんと三吉くんの力になれるのなら」
 真野くんは安心したように笑顔になった。