この村では鬼は神様の様に大切にされてきた。
 村の娘が鬼に嫁ぐとなれば、村中で宴会。
 嫁いだ娘が懐妊とくれば、また宴会。
 ……しかし、その子供が必ずしも村で歓迎されるとは限らない。
 万が一、鬼との子供に邪気が多いと判れば、殺されるだけだ。
 上手く隠す奴もいるから、厄介だ。
 青年の名は冬野雪斗。邪気の多い鬼の子供を退治する、冬野家の子だ。
(まぁ、こんな雪の日に邪気鬼子なんて出てこないよなぁ……)
 雪斗は朝から今までを振り返る。
 ・朝、日が登る前に親父に叩き起こされた。
 ・そして、朝食は軽かった。
 ・おにぎりすら持たされす、雪の中に放り出された。
「あ〜〜〜〜〜〜帰りたいぃ〜〜〜!」
 家に帰ろうとしたが、鍵が掛かっていて入れなかった。
 昼食を手に入れる為、幼馴染、春野晴の家へ向う。
(そういや春野家は、鬼の婿を貰っていたな…)
 晴は邪気鬼子ではない……筈だ。そーであれ。
(やっと着いた……って、ええ?どゆこと?)
 なんとそこには、邪気鬼子がいた。しかも
「は、晴?」
 晴だったのだ。
「…………嗚呼、雪斗……バレたか……」
「いや、バレたって……どゆことどゆこと?え、は、晴邪気鬼子だったの?!気付かなかった…」
「だって隠してたもん。……あーあ、雪斗だけは殺さない様にしてたのに……」
 そう言って晴は抜刀する。
 雪斗も抜刀した。
 先に仕掛けたのは晴。
(つ、強い……晴、昔より、ずっと、強い……)
 でもやはり、力は雪斗の方が少し強い。
 雪斗の刀が晴の刀を跳ね上げる。
「しまっ……」
「ごめん、晴!」
 ところが。
(えっ……どうして?なんか、突然胸の辺が…)
「雪斗、甘い!」
 体制を立て直した晴が襲って来た。
「わわわっ」
 間一髪避けて、刀を正眼に構える。
「……ごめんね、雪斗……死んでもらうよ!」
 重い斬撃。雪斗は辛うじて避けた。
「どうして……どうして、晴が!」
「……解らない?雪斗を殺さないと、私が殺される!」
「だから?だから……晴は僕を殺るの?」
「……勿論」
 雪斗は勝手に言っていた。
「あのね、晴。僕、晴の事が……」
「言葉が必要なの?なら、言ってあげる。」

「……私は、嫌い。私を殺せないなら、雪斗の事なんてどうでも良い。」

「…………」
 痛い。どうしてか、痛い。
 嫌い。どうでも良い。……どうして?
 酷い。悲しい。辛い。
 雪斗は、刀を振り上げた。晴に向かって、振り下ろす。
 真っ赤な、真っ赤な、紅が散った。


『さようなら、ありがとう』