「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」


ばたばたと忙しなく悠樹が出て行き、俺も自分の支度にとりかかる。


しんしんとした部屋の中、コートを羽織ってマフラーを巻く。

首を竦めながら玄関を出ると、外の景色が一面の銀世界であることに気づいた。


「雪……」


いつの間に降っていたのだろう。

水分の少ない雪だから、溶けることなく積もっている。

次から次へとちらほら舞う雪を見上げながら思い出すのはたったひとりだけ。

雪を見上げてはしゃぐ紗友の笑顔が脳裏に浮かぶ。

こうして折に触れて君を思い出す。


気づけば俺の指先は、胸にある羽のペンダントに触れていた。


……紗友、俺は君と生きていく。

悲しみはまだ癒えないけれど、笑顔と涙で溢れた紗友との思い出全部抱きしめて生きていくよ。

紗友はずっと心の中で生きているから。

これまでの日々が間違ってなんかいなかったとそう思えるのは、紗友のおかげだ。

紗友に出会えた俺としてこの世に生まれてよかったって、心からそう思うよ。


俺は空に向かってそっと笑いかけると、大きな一歩を踏み出した。






▫Fin