離したくないと思った。

このままずっと腕の中に閉じ込めておきたいとも。


「紗友」

「うん」


俺たちは抱きしめ合った。

温度を分かち合うように。

心をそっと重ね合うように。


奇跡なんだ。

こうして紗友が目の前にいる“今”は。

お互いの目を見て、感情をのせて言葉を伝えられるこの時こそが、紗友が起こしてくれた奇跡なんだ。

俺の世界はたくさんの奇跡でありふれていた。


――明日、俺はこの手を離す。

生きるために。

君が繋いでくれた命をまっとうするために。


別れは音もたてず、もうそこまで迫っていた――。