的確な感想とともに何かひらめいたのか、彼は残りのカヌレをきっかり三等分に切り分けると、その上に先程のパルフェを乗せた。

「ホイップクリームがないので、これで代用です。……いえ、案外こちらのほうが良いかもしれません。あなたもぜひ」
「あ、ありがとうございます」
『こまめもー!』

 せっかくなので、パルフェの乗ったカヌレを一切れもらう。
 口に入れた瞬間、衝撃が走った。しっかりとしたカヌレの食感と甘さに、控えめなパルフェが優しく包み込む。追い打ちのようにラム酒の香りが鼻を抜けたときの贅沢さ!
 罪深い、とても罪深いものを食べている気がする……!
 それは私だけではなく、彼らも同じだったようで、『もういっこ!』とこまめちゃんが目を輝かせてねだっている。

「この組み合わせは大正解ですね……って、あれ?」

 声をかけるも、黒髪の彼はフォークを持ったまま固まってしまっていた。あまりにも美味しくて、言葉を失っているのかもしれない。目の前で手を振ってみても、気付く様子はない。

「あのー……っ⁉」

 声をかけた途端、目の前で振っていた手を勢いよく掴まれた。大きくも骨ばった指でしっかり固定されると、彼は私を見て言う。

「――決めました。ここで食事をするたびに、人間の食べ物を持ってきてください」

「へ……?」
「食材調達を等価交換しているあやかしはいますが、どうしても人間の世界で買わなければならないものがあるときは俺自身が出向くことがあります。しかし、食事をしようとすると、どうしても抵抗があるんです。でもあなたがここに持ってきてくれるなら、俺は人間の食べ物を勉強できるし、あなたはここで食事ができる。いつ来てくれたってかまわない!」
「え、えっと……?」

 食への熱量が、握られた手に力がこもる。唐突なお願いで思わず「ごめんなさい」と言いそうになるのを押しとどめる。
 あまりの豹変ぶりについていけていない私に、横からこまめちゃんが耳元で教えてくれた。

『やげんはごはんもおやつもすき。だからかぬれもすき』
「そうですね。確かに俺は鬼ですが、取って食べたりはしませんので安心してください」
「は、はぁ……」
「どうしますか? あなたにとって悪い話ではないでしょう?」

 先程のパルフェの完成度といい、彼は腕がいい。カヌレとの相性が良いことにも気付いた。初めて見る食べ物を一口食べただけで目を輝かせる好奇心はとても好印象だ。
 なにより、ここに来れば美味しい料理が食べられる――これほど贅沢なことはない!

「……わ、わかりました! 今度は、ちゃんと持ってきます」

 私がそういうと、彼はぱぁと顔を明るくさせて手を緩めた。

「これからもよろしくお願いしますね。――梓さん」

 黒髪の彼改め――()(げん)さんはそう言って楽しそうに微笑んだ。