「美味しい! いくらでもいけちゃう!」
「それはよかった。疲れているときは甘いものが良いと聞きます。それは人間もあやかしも同じですから」
「あやかしさんも?」
「ええ。あやかしは弱肉強食の世界ですから。そもそも、ストレスのない世界なんて存在しません」

 彼の言葉に、私は不覚にも腑に落ちてしまった。

 確かに辛い、苦しいと思っている人にとってみれば、優しく生きやすい世界だろう。でもその分、誰かが負担している世界でもある。ストレスフリーな世界であるべきだと思うけど、完璧に成し遂げられる世界には到底ならない。
 私はもう一つ、パルフェを口に運んでいく。優しい甘さが包んでくれているようで、気付いたらテーブルに涙をこぼしていた。

「……っ、ごめんなさ……」

 袖口で拭っても、ポロポロとこぼれていく涙は止まらない。こまめちゃんが気になったのか、クッションから立ち上がって私のそばまで来ると、頬を小さな舌で舐めてくれた。

『だいじょう、ぶ?』
「……ふふっ。ありがとう、こまめちゃん」
『やげんのおやつ、おいしいの。げんきなるよ』

 舌足らずな言葉で懸命に伝えてくれるこまめちゃんに、ほっこりしながらも私はまたパルフェに手を伸ばす。

「本当に美味しい。私、初めてです……!」

 もう少し、もう少しだけ頑張ってみよう。
 ちゃんと自分の想いを伝えて、私のしたいことをして生きよう。
 パルフェは涙が出るほど美味しくて、少しでも自分が前を向けるようにと背中を擦ってくれているようで。生まれて初めて知った温かさだった。