すると、ポケットに入れっぱなしにしていたスマホに着信が入った。
 足を止めて画面を開くと、「(よし)()叔母さん」と表示されている。嫌な予感がして出ると、いつものようにハイテンションでまくしたてるように話し始めた。

『あ、梓ちゃん? 元気かしら? 実はね、お見合いの話が来ているのよ。梓ちゃんのお写真を見せたらお相手の方がぜひって』
「……叔母さん、何度も言っているけど、私はお見合いなんてしないよ」
『だってあなた、全然そういう話をしてこないじゃない。あなたも早く身をかためるべきだし、早く孫の顔を見せて欲しいのよ』
「それは私が決めることで、叔母さんが決めることじゃ……」
『いいから! (あま)()さんもきっとそう望んでいるわ。それじゃあ、後で日程送るわね』

 半ば強引に話を切り上げて通話を終わると、私は頭を掻きむしった。

 私の母親――須磨天音は私が中学生の頃に病気で亡くなった。父親はその後すぐに再婚して、二年ほど一緒に義理の母親と妹とともに過ごしたが、高校進学をきっかけに母方の叔母にあたる芳子さんに引き取られ、須磨の苗字を名乗っている。

 芳子叔母さんは昔気質の家長制度が根強いのか、働きに出る女性を「変わり者」だと言って認めてくれない。
 ひとり暮らしをするのも、半ば強引に決めてきたようなものだ。これまでも勝手にお見合いをセッティングされたことが何度かあって、そのたびに断ってきた。もちろん、彼氏がいることは伝えているが、自分の良いと思ったものを押し付けてくる。結局、私は死ぬまで叔母さんの所有物が確定している。

「もう嫌……っ!」

 呟いた途端、涙が頬を伝った。

 仕事でも恋愛でも、私は私でありたい。それでも現実逃避をしたところで、いつかは自分に返ってくる。その現実を叩きつけられたようで、何もかも嫌になる。

 私のことなんて、放っておいてくれたらよかったのに!