夜弦さんと言い合いになった日から一週間が経とうとしていた。
喫茶店のある小道に行かないよう、遠回りをして出社し、仕事に打ち込む日々。いつもと変わらない日常なはずなのに、あの苦しそうな顔が頭から離れることはなかった。
ずっと懸念されていたというよりも、無理やり突き放された感が拭えない。それでも、人間と暮らした時に嫌な記憶があったのは確かなのだろう。私も私で踏み込みすぎたかもしれない。
「梓、今週の金曜日に飲み会あるけど一緒にいかない?」
昼休み、同期の菜摘と昼食をとっていると、社内の飲み会に誘われた。いつもだったら行くかもしれないけど、そんな気分にもなれなかった。
「ごめん、次の日早いから」
「土曜日? どこか出かけるの?」
「……実は」
菜摘は入社当時からなんでも相談できる仲だ。もちろん、叔母のこともよく知っている。
私がお見合いの話をすると、目を丸くして声を上げた。
「ええっ⁉ あの叔母さん、本当にお見合い話を持ってきたの⁉ 勝手にセッティングもして⁉ ありえないんだけど!」
「シーッ! 声が大きいって!」
「ああ、ごめん……。でも、梓はそれでいいの? 確かに榎木のことは終わったからフリーかもしれないけどさ」
榎木くんは夜弦さんと対峙した翌日から、会社での不正が発覚して降格になった。近々、地方の営業所に飛ばされることが決定しているらしい。
それを差し引いても、私にはどうしていいかわからない。菜摘にどう説明したらいいか、言葉に詰まって目を伏せる。頭の中でぐるぐると回っているのは、夜弦さんに言われた言葉ばかりだ。
「つい最近、よく話すようになった人がいて、たまたま叔母さんからきたメールを見られたの。それでもう会わないって、怒らせちゃったのもあって」
「怒らせたって……え、なんでその人怒ったの?」
「それは……私が、叔母さんのいう通りにしないと、みたいな話をしたから……?」
「それってさ、梓の身を案じて怒ってくれたんじゃないの? しかもそれは、梓自身も自覚がある。でも叔母さんの顔を立てないとって考えすぎて、何も手に着かないって感じ?」
私が頷くと、菜摘は納得したように溜息をついた。
「私ね、ずーっと心配だったの。榎木の時だって、企画を使われても自分のせいって思ってる梓が、いつか壊れちゃうかもしれないって思った。自己評価が低い、自分の価値なんてないって思い詰めすぎてさ。でもそれに気付いてくれた人が、私以外にもできたんだね」
「え……?」
「じゃなきゃ簡単に怒らないよ。……大切に思ってくれる人がまた増えて、よかったね」
菜摘に言われてハッとした。