一口、たった一口を食べただけで、私は目をカッと見開き、言葉にならない声を上げた。
 覗き込んで見てきたこまめちゃんがびっくりして飛び上がり、夜弦さんの後ろに隠れてしまう。

「ご、ごめんなさい……!」
「いえ……俺もびっくりしましたが、その反応はどういう……」
「一口に来る感動がすさまじかった反応です! めっちゃ美味しい……!」

 音が聞こえるほどの完璧な焼き加減だけじゃない。噛むたびにプリッとしたエビの身が飛び出してきて、噛めば噛むほど甘味と肉々しい食感が増していく。そこにキャベツの千切りのシャキシャキした食感がとても合う。
 それだけではない。間に挟まっていた二種類のソースも、主役かと疑うほど活躍している。

「このタルタルソース、すごく香ばしいですけど、もしかして一緒に焼いたんですか?」
「そこに気付きましたか。さすが梓さんですね」

 関心した様子で驚く夜弦さん。

「人間の世界でもしていることだと思いますが、飲食店は皆、スムーズに料理を提供するためにある程度仕込みをします。特に俺の場合は一人ですから、事前にエビカツも仕込んでおきました」

 用意しておいたエビカツをある程度温めたら、タルタルを乗せて一緒にオーブンに入れて仕上げているらしい。こうすることでマヨネーズ多めのタルタルソースは香ばしく焼き色を付け、余計な油を落としているという。
 どちらも高カロリーだという事実はわかっていても内緒の話。美味しいものの組み合わせは、どうやったってカロリーが高くなってしまうものなのだ。

 中まで温まっていることを確認して、あえて耳を残したままの食パンと細く千切りしたキャベツの上に、タルタルの面を下にして乗せる。エビカツの表面に自家製の濃厚ソースをかけて、さらにキャベツと食パンでサンド。これが美味しくないわけがない。

「ソースは長野県のソースカツ丼に使用されているものを研究して作りました。我ながら良い出来です」
「それってレシピを教えてもらえたり……」
「もちろん、教えません」

 人差し指を口元に持ってくると、いたずらっぽく笑って断られてしまった。
 タルタルソースにも負けない濃厚ソース。しいて言えば、和風っぽいというか。ぜひこれでカツ丼も食べてみたいけれど、喫茶店では難しいだろうか。

「あの、カツサンドとか検討してたりします?」
「上質な肉と物々交換ができたら、ですね。今度交渉してみましょう」

 俺も楽しみなんです。そう言って笑う彼は無邪気だ。
 ああ、またここに来る理由ができてしまった……!
 付け合わせのサラダもシャキシャキで、さっぱりしていてちょうど良い。味だけじゃなく、音や食感、見た目すべてが理想のワンプレートだ。