喫茶店に着くと、カウンターの特等席でこまめちゃんがお出迎えしてくれた。
『やげん、あずさ、おかえり』
こまめちゃんはいつも、私がここにくると「いらっしゃい」ではなく「おかえり」と言ってくれる。ゴロゴロと喉を鳴らしながら近寄ってくるからそっと撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
「実は梓さんにお願いがあるんです」
「いいですけど、何をすれば……?」
「少し早い夕食になってしまいますけど、試食に付き合ってください」
試食?
私が首を傾げると、夜弦さんはカウンターの奥に入っていってしまった。
試食というからには、何か喫茶店の新メニューでも開発しているのだろう。こまめちゃんに聞いても首を傾げるばかりだったので、しばらく猫じゃらしで遊んでいると、カウンターの奥から香ばしい香りが漂ってきた。
そうして出てきた夜弦さんが私の前に置いたのは、ごろっとしたエビの身が溢れるほど入ったカツレツに、タルタルソースとキャベツの千切りが食パンに挟まれたサンドイッチだった。
三つに切り分けられ、崩れないようにピックで一つずつ固定されているのは、夜弦さんの気遣いなのだろう。付け合わせには、人参とピーナッツのさっぱりサラダと、ミニトマトがココット型に入っていた。
「せっかくエビをもらったので、一度やってみたかったんです。お裾分けのエビカツサンド」
「もらったって……あやかしさんと物々交換の?」
私が問うと、夜弦さんは笑みを浮かべて頷いた。よほどエビをもらえたことが嬉しかったのだろう。
「どうしても梓さんにも食べてほしくて。焼きたてですよ」
「……じゃあ、いただきます」
ピックに刺さった一切れを手に取って、零れないようにそっと抑えながら一口。
――サクッ。
「はぐぅ⁉」