「……ああ、今日もダメだった」

 まだ少し肌寒く、冷たい風が吹く四月の夜。私――()()(あずさ)は大きな溜息をついた。
 この世に生まれて二十五年、こんなに嫌な思いをしたのは初めてで、これから先の将来にも絶望が目に見えている。
 明日が土曜休みということもあり、行き交う人は皆、楽しそうに笑みを浮かべている中で、肩を落として下を向いて歩く私は悪目立ちしていた。

 特に取り柄のない私は何をするにしても不器用で、手を付けても空回りしてしまう。
 仕事では会議の時間までに必要な資料を用意できず、来客用のお茶を派手にぶちまけ、しまいには私が考えた企画が同僚の企画として発表された。
 しかもそれが付き合っている彼氏だから、余計に腹立たしい。会議後、ふたりきりになって指摘すれば、さも当然のように鼻で嗤われた。

『お前がいくら企画したところで通るわけねぇだろ。俺というブランドがあるから成立するんだ。これからも一生、企画だけ考えてくれたらいいよ。俺がそれを実現してやる』

 一気に冷めた。同僚として、良い成績を収め続けていた彼に。
 そんな彼に酔狂していた自分に。

 ――でも私自身に価値がないのは明白で、悔しくても言い返すことはできなかった。

 その後はお昼休憩を返上して無心になって仕事をした。次の会議室の準備をして、明日までにまとめる資料も全部作って、早く時間が過ぎて定時になればいい。早くオフィスから出たかった。
 資料を作りながら、お気に入りのパン屋で購入した総菜パンを一つ頬張って気を紛らわす。せっかく合間に食べようと買ったカヌレがあったことに気付いたのは、定時きっかりに上がって会社の外に出てすぐのことだった。
 どこかで食べようかと思ったけど、脳裏に浮かぶのは今日一日に起こった、自分の身に余る行動ばかり。考えたくないと思えば思うほど、嫌な場面だけを切り取って訴えかけてくる。そのたびに吐き気が催して、食べる気が失せた。

「頭をぶつけたらその部分だけ忘れさせてくれるかな」とか、「全部リセットしてくれないかな」とか都合が良いことが不意に浮かぶけど、実際は起きないとわかっていてまた溜息をついた。