「またお互いが大きくなったら会おうね!」
そんな儚い子供の頃の約束が果たされる日を願いながら、私は新しい門出を迎えた。

 人が行き交う駅の中を歩きながら、私は満員電車へ乗り込んだ。徒歩で通学していた中学時代とは打って変わって、毎日朝からへとへとになりながらも楽しく高校生活を楽しんでいる。
「おはよう!」
 誰もいない教室に私はいつも挨拶をする。いつものことだ。
 小学生の頃までは幼馴染の咲樹と一緒に過ごしていたけど、「妹のためだから」そう言って転校してしまい、それ以外の人と接してこなかったのもあり、孤立してしまった。
中学でも同じような感じで三年間一人で過ごしたけど、流石にいたたまれなくなって地元から遠く離れた高校へ受験することを決めた。両親は最初こそ反対したけれど、ある日突然許可してくれた。でも、条件として『毎日遅刻せずに行くこと』『一年生のうちに共台を一人でも家に連れてくること』と言われ、これが守れなかった場合は転校させると宣言されてしまった。渋々了承したのはいいものの、入学して二週間、未だに友だちができずにいることは親には内緒だ。
 今週は部活見学週間。本来なら友達と一緒に回るのだろうけど私にはそんな子がいるわけもなく、一人で気ままに回ろうと思っている。

 授業もホームルームも終わり、ついに見学しに行かなきゃいけない時間だ。今更だけど、一人で周る私は周りから見たらすごく浮くだろう。
そんな事を気にしているのも野暮になって、諦めて部活を見に行くことにした。
 美術室の前を通ったとき、ふっと足が止まった。
『そういえば、咲樹は絵を書くのが好きだって言っていたな』
そんなことを思いだしてしまった。
 目的もなく美術室の中を覗くと一人で黙々と絵を書いている女子生徒がいた。シューズの色からして三年生だろう。
ずっとその人の絵を書いている姿を見ていると、不意に彼女に視線がこちらに向き、目があった。
「うそ…」
私の口から本心が漏れた。この言葉には2つの意味を含んでいた。
 一つは髪の色や顔立ちが咲樹にそっくりだったこと。
 もう一つは、私が咲樹にプレゼントした手作りのミサンガを左腕につけていたこと。

 感動の再会、改めて言葉にするとすごいことなんだなと思った。
 あれから約一年が経った。
今日は咲樹が卒業する日。私は咲樹と別れることは悲しくて寂しかったけど、咲樹のおかげで友だちも増えたし、なにより咲樹の門出を初めて祝うことができるから笑顔でいることができた。
「ねえ、咲樹は京大にいくんだよね。」
「うん、そうだね。だからまた離れ離れになっちゃう。」
「じゃあ、私もそこに行く。そしたらまた一緒にいられるし、今度は二年間も一緒の学校に通えるんだよ?」
私の告白に驚いた咲樹は私のことを抱きしめてくれた。
「ありがとう。待ってるから、留年してでも待ってるから。」
 そう言って咲樹と私は新しい桜と共に二度目の別れを告げたのだった。