そういえば僕のことを”親友”と言う人が最近学校を休みがちだ。いい加減その人のことを“親友”…いやまずは”友達”と呼ぶべきだと思うが、”友達”には捨てられた経験があるため躊躇ってしまう。捨てられるのは僕が悪いのだろう。だから深入りしたくないという気持ちがある。あまり傷つけたくないのだ。僕は自分が嫌いだけど、なぜか自分を上だと感じてしまっていて、自分の中でも矛盾していて、だから傷つけてしまうのかもしれない。だから人と関わってはいけないのだ。自分のためにも。だから僕は“友達”を作ることをやめた。独りでいることを決めた。
だがその人が休んでいるのは少し気になる。“友達”と言えないなんて思いながら、実際はかなり情が湧いているらしい。僕がその人の“親友”に応えないのに常に気遣ってくれて、捨てないでくれる。いつしかその人がいない日常を考えられないようになっていたのも、その人が休んでいる時に少し安心感に欠けるのも気のせいではないだろう。
久しぶりに人を本心から心配している気がする。
それさえ偽りかもしれないがどっちでもいいだろう。今の僕は気になって心配しているのだから。
帰り道、僕はその人に、最近休みがちだが何かあったのか、体調が悪いのか、と尋ねてみた。
「体調は大丈夫だよ」
返ってきた言葉は声色も良く大丈夫そうに感じられる。が引っかかる。“体調は”ということは他が悪いのではないか。
「どうしたの?」
「大丈夫?」と聞くと「大丈夫」と答えられてしまうから、「どうしたのか」と問うと良いらしい。
その人は立ち止まり、それから地面を見つめていた。
僕は一瞬で変わった深刻そうな雰囲気に驚き、何も言うことが出来なかった。“どうしたのか”を言うべきかを悩んでいるのかもしれない。別に無理矢理聞きたいとは思わない。僕なら聞かれたくないから。けどこの人は、僕が知りたいなら、と言いたくないのに言ってしまうかもしれない。僕は催促せず、けれども自分から聞いてしまった以上下手に引けなかった。
体感的に2分経ったくらいで、気づけばその人は静かに涙を流していた。理由はわからない。言うべきか悩んでいる間に苦しくなったのだろうか。
体調が大丈夫ということは精神的なものである可能性も高いということはいえる。それで思い詰めてしまったのではないか、と考えが頭を駆け巡る。
当たり前だが、悩みを抱えているのは僕だけでは無かった。改めて気づくと同時に、今までその人の状態に気づけなかった自分が情けなくなった。目の前で静かに涙を流すその人に僕は未だどうすればいいのかわからず、ぎこちなく頭を撫でる。
その人は少し顔をあげ笑おうとした。笑おうとしながら涙を流す。そんな姿は、少しだけ僕に重なって見えた。だからこそだろう、反射的に抱きしめていたのは。
目の前でちかちかと点滅する信号は無視をして、僕はその人を壊さないようにと恐る恐る腕の中で撫でる。子をあやすようにできる限り優しく。幸い帰り道はこの時間帯に通る人が少ないので、周りを気にする必要はなかった。
7回くらい信号の色が変わった頃、ようやく落ち着いたのか、その人は顔を上げはにかんだ。
「僕の前では無理に笑わなくていいよ。”友達”でしょ?」
そう告げると、彼女は目を見開き、数回の瞬きと短い深呼吸の後、僕の袖で涙を拭いてダッシュして信号を渡り、再び深呼吸をする仕草を見せてから反対側から大きく手を振った。
「待ってるから早く来なー!」
といつもの彼女に戻って。
その笑顔はさっき泣いていたことを悟らせないほどのものだった。落ち着いたのか、笑うのが上手なのか。後者ならもっと彼女のことを気にかけよう、と考えながら僕は点滅する信号を走り抜け、一緒にいつもの道を帰る。
「初めて柳優の口から“友達”って言葉聞いた気がするなぁ」
と少し嬉しそうな彼女に僕は、“友達”って良い響きだ、と久しぶりのワードを懐かしむと同時に、“今度は捨てられなきゃ良いな”と他人事かのように考える。
いつも通りの帰り道。だけど、彼女は少しだけ何か変わって大人びたように見えた。さっきの「待ってるから早く来なー!」が不思議と頭の中で反芻した。
だがその人が休んでいるのは少し気になる。“友達”と言えないなんて思いながら、実際はかなり情が湧いているらしい。僕がその人の“親友”に応えないのに常に気遣ってくれて、捨てないでくれる。いつしかその人がいない日常を考えられないようになっていたのも、その人が休んでいる時に少し安心感に欠けるのも気のせいではないだろう。
久しぶりに人を本心から心配している気がする。
それさえ偽りかもしれないがどっちでもいいだろう。今の僕は気になって心配しているのだから。
帰り道、僕はその人に、最近休みがちだが何かあったのか、体調が悪いのか、と尋ねてみた。
「体調は大丈夫だよ」
返ってきた言葉は声色も良く大丈夫そうに感じられる。が引っかかる。“体調は”ということは他が悪いのではないか。
「どうしたの?」
「大丈夫?」と聞くと「大丈夫」と答えられてしまうから、「どうしたのか」と問うと良いらしい。
その人は立ち止まり、それから地面を見つめていた。
僕は一瞬で変わった深刻そうな雰囲気に驚き、何も言うことが出来なかった。“どうしたのか”を言うべきかを悩んでいるのかもしれない。別に無理矢理聞きたいとは思わない。僕なら聞かれたくないから。けどこの人は、僕が知りたいなら、と言いたくないのに言ってしまうかもしれない。僕は催促せず、けれども自分から聞いてしまった以上下手に引けなかった。
体感的に2分経ったくらいで、気づけばその人は静かに涙を流していた。理由はわからない。言うべきか悩んでいる間に苦しくなったのだろうか。
体調が大丈夫ということは精神的なものである可能性も高いということはいえる。それで思い詰めてしまったのではないか、と考えが頭を駆け巡る。
当たり前だが、悩みを抱えているのは僕だけでは無かった。改めて気づくと同時に、今までその人の状態に気づけなかった自分が情けなくなった。目の前で静かに涙を流すその人に僕は未だどうすればいいのかわからず、ぎこちなく頭を撫でる。
その人は少し顔をあげ笑おうとした。笑おうとしながら涙を流す。そんな姿は、少しだけ僕に重なって見えた。だからこそだろう、反射的に抱きしめていたのは。
目の前でちかちかと点滅する信号は無視をして、僕はその人を壊さないようにと恐る恐る腕の中で撫でる。子をあやすようにできる限り優しく。幸い帰り道はこの時間帯に通る人が少ないので、周りを気にする必要はなかった。
7回くらい信号の色が変わった頃、ようやく落ち着いたのか、その人は顔を上げはにかんだ。
「僕の前では無理に笑わなくていいよ。”友達”でしょ?」
そう告げると、彼女は目を見開き、数回の瞬きと短い深呼吸の後、僕の袖で涙を拭いてダッシュして信号を渡り、再び深呼吸をする仕草を見せてから反対側から大きく手を振った。
「待ってるから早く来なー!」
といつもの彼女に戻って。
その笑顔はさっき泣いていたことを悟らせないほどのものだった。落ち着いたのか、笑うのが上手なのか。後者ならもっと彼女のことを気にかけよう、と考えながら僕は点滅する信号を走り抜け、一緒にいつもの道を帰る。
「初めて柳優の口から“友達”って言葉聞いた気がするなぁ」
と少し嬉しそうな彼女に僕は、“友達”って良い響きだ、と久しぶりのワードを懐かしむと同時に、“今度は捨てられなきゃ良いな”と他人事かのように考える。
いつも通りの帰り道。だけど、彼女は少しだけ何か変わって大人びたように見えた。さっきの「待ってるから早く来なー!」が不思議と頭の中で反芻した。