「私は……まだ、怖い」

膝の上で強く握りこぶしを作った。この街から出れば、また傷ついて、私は同じことを繰り返してしまうかもしれない。

「大丈夫だよ」

痛いくらいに握っていた拳の上に、彼の手が重なった。潮風は冷たいのに、りょーたの手は涙が出るほど温かい。

「俺が必ずお前のことを見つける」

「……そんなの、できっこない」

「できるよ。俺がお前のこと、どんだけ好きか知らんの?」

「どのくらい?」

「この海より、もっとでかいくらい」

私はりょーたに肩を引き寄せられた。

この海がどれほど大きいのか私には分からなくても、彼の大きさなら分かる。体が大きいぶん、心も広い。太陽みたいな人だと思っていたけれど、私にとって亮太は海のような人。 


「また瑛茉と出逢うために、俺はここから出ていくんだよ」

ここにいれば、なんのしがらみもなく穏やかに過ごせるのに、彼は時間や人間関係の縛りがある世界をまた選ぶ。

本当は亮太だって散々苦しんできたくせに、私のために一歩を踏み出そうとしている。

……バカだね、亮太。

でもそんなバカだからこそ、私は好きになったんだ。